特集 2015年11月8日

書き出し小説大賞・第85回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


前の記事:書き出し小説大賞・第84回秀作発表

> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表第85回目である。

さてこのたび、書き出し小説の姉妹メルマガ「文芸ヌー」が創刊となった。現在、主な執筆者は書き出し小説の常連作家たちだが、今後は広くみなさまにも参加いただき素人文学のさらなる発展を目指していきたい。ご興味のある方は是非、以下のリンクからご登録ください。無料です!

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それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

デジャヴは模試会場で起こる。
ひるがえる
ちくわ部とちくわぶ部は犬猿の仲である。
目黒鸞
手裏剣やまきびしが冷たくて肌に貼りつくようだ。冬だ。
紀野珍
肉まんを食べたあとの缶コーヒー、その後に吸う一本。誰もが眉をひそめる冬の味がした。
哲ロマ
娘が4万円の革ジャンを試着している。
山本ゆうご
テナント募集のフロアに、今日も日差しが降り注いでいる。
ヘリコプター
三角コーナーに卵の殻がずっとある。
もんぜん
全社員に告ぐ!本社はこれより最終合併形態へ入る!
TOKUNAGA
それはかつて権力の象徴だった。今では電子機器の梱包資材として使われている。
suzukishika
小川を挟んでスカウトされた。
おかめちゃん
金曜の終電で疲れて眠る紗知子の姿に、山田は仏を見た。
ウチボリ
彼を傷つけないためについた嘘は彼の作品になり、子供達に読まれる絵本になった。
トミ子
家を飛び出した兄の代わりにジェネリックお兄さんがやってきた。
もんぜん
「地獄にも、せめて四季があればいいな」と思いながら、私の意識は薄れていった。
くのゐち
白い手のひらが、さよなら、と、夜に咲いた。
xissa
冬毛が全て抜けると、ケルベロスは急に大人しくなった。
prefab
トロッコに乗りこんだ我々は、勢い余って世界34周目に突入した。
「お父さん、そこ、ロケットの発射台!」その直後、父は種子島の空高く舞い上がっていった。
morin
母の形見のリッケンバッカーは三弦のチューニングがいつも甘い。
ら+
埋められてさみしい。
TOKUNAGA
書き出し小説と自由律俳句の違いについて訊ねられることがある。以前にも書いたが書き出し小説は基本フィクションであるだけ、またより制約がないぶん自由律よりさらに自由な短文表現だと言える。ただ秀逸な書き出し小説の中には、ほぼ自由律といっていい作品は多い。
TOKUNAGA氏の「埋められて~」もんぜん氏「三角コーナー~」はまさに自由律俳句としても成立するだろう。これが山本ゆうご氏の「娘が4万円の~」おかめちゃんの「小川を挟んで~」となると多少ズレてくる。ここから立ち上がるペーソスやシュールさは私たちがイメージする自由律から若干はみだしている気がする。これがさらにくだけてくると書き出し小説の領域と言えるのではないだろうか。今回はヘリコプター氏の「テナント募集~」ひるがえる氏「デジャブは~」など自由律と書き出しにまたがる作品に秀作が多かった。しかし自由律だけではない。書き出し小説には詩、コピー、ギャグ、ツイッターのつぶやきなど、あらゆる言葉とテキストの要素がミックスされる。新しい表現はそんな過程から生まれてくる。

つづいては規定部門、今回のモチーフは「芋」であった。書き出しの芋煮会にようこそ!

規定部門・モチーフ「芋」

帰宅するとジャガイモが排水口から芽を出していた。
ポパイ
治りかけの口内炎を、芋けんぴが斬った。
まじいい
彼は、芋ケンピよりも堅実で、フライドポテトよりも軽薄だった。
ねもっ血風クン
号外を読み、包まれた芋を食った。
TOKUNAGA
「死んでやる!」そう言うと彼は大量の芽の出たジャガイモを食べ始めた。
あだんそん
ホイルを開けると、芋はすでに盗まれていた。
大伴
「芋って、何芋!」と返す店主の声には、怒気というより敵意が含まれていた。
紀野珍
誰かが忘れた焼き芋がポストの上で冷えていく。
Mch
アイダホ産、アイダホ産、ひとつ飛ばして、アイダホ産。
ベランダ
片手に焼き芋を持たせると、どんな歴史上の偉人も親しみが湧く。
morin
「ユア・マジェスティ、貴女様はクイーンであらせられますぞ。たとえ芋であろうと。」「……男爵」
よしおう
ヨウ素液まみれの男爵がみるみる青ざめていった。
ビールおかわり
バーテンが出した焼酎グラスには、スライスしたメークインが挿してあった。
東ことり
実家から送られてきたダンボールの中には、セーターに包まれた芋が入っていた。
ポパイ
なんでも好きなものいいということにしたら、娘の誕生日は焼き芋になった。
山本ゆうご
どうしようもなく花のないヤツだったけど、煮っ転がしたくなる魅力だけは持っていた。
たこフェリー
長尺のドラムソロが終わり、ようやく耳馴染みのある「いしやーきいもー」のメロディーが聴こえてきた。
哲ロマ
地底人の鎖骨には小さなじゃがいもが乗っている。
ヘリコプター
ポテチの妖精がとまるたび、肩に油染みが増えていく。
大伴
「そういえばあの人、ふかし芋好きだったわね」と言いながら、父は喪中ハガキの宛名書きの内職をしている。
taishow
しなびた芋版で年賀状の返信を作成している。
xissa
芋の写真を撮り続けて25年になるが、飽きない。
プレミアムバザー高田
さむい、あったかい、そして、さみしい。
いつかの母
採用作を通読し、あらためて芋の多様性、そして安定感に気づいた、芋は種類が豊富なだけでなく、加工によってさまざまな食品になる。まじい氏、ねもっ血風くんの芋ケンピ作品。芋はときに凶器となる。よしおう氏「ユア・マジェスティ~」芋の意外に高貴な品種名に着目した秀作。ビールおかわり氏「ヨウ素液まみれ~」は懐かしの実験と芋の擬人化を合わせ技で決めた見事な一本。東ことり氏「バーテンが~」イモ焼酎のおしゃれな飲み方として実際試してみたくなる。いいアイデアをありがとう!山本ゆうご氏は得意の娘ネタでとても可愛らしい作品となった。ヘリコプター氏「地底人の鎖骨~」これまで誰もイメージしなかったであろうビジュアルの創出。こういう作品に出会えると選者冥利に尽きる。xissa氏「しなびた芋版~」芋版ネタは他にもあったが、これほどリアリティを感じる作品はなかった。ちなみに私も小学生の頃、うまく彫れた芋版を大切にしまったことがある。後にふと思い出し取り出した芋の断面にはびっしりカビの生えていた。いつか母氏「さむい~」たしかに芋は見た目のユーモラスさと甘さの裏にかすかなセンチメンタルを宿している。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
女子力
ここ数年知らないうちに定着した感のある「女子力」、しかし実際その定義はあいまいである。ほかにも「○○女子」「女子会」など、女子にまつわる言葉は多い。モチーフは敢えて「女子力」としたが、作品は女子にまつわるものならなんでもオッケー。単なる女性とは違う「女子」の価値観、感性をあぶり出して欲しい。女性が考える女子、男が考える女子、そこに現れるであろうズレも面白いと思う。従来にはない女子のイメージをつくるのもいいだろう。

締め切りは11月20日、発表は22日を予定している。下記の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択し応募頂きたい。力作待ってます!
最終選考通過者
ボーフラ/ocamo/うにねこ/小夜子/真夏の入道雲/青井/学ラン魂/松っこ/しーなねこ/井沢/義ん母/ミスノン/狐日和/加藤/博多まいかむ/柴咲ハコ/
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