特集 2015年12月17日

まぶしすぎるデコチャリ青春記

血と汗と体力、そしてアイデアで作られた小さなエレクトリカル空間
血と汗と体力、そしてアイデアで作られた小さなエレクトリカル空間
デコチャリ。「デコレーション」と、自転車の俗称「チャリンコ」からなる合成語ということになっている。デコトラの子分と言ったほうが伝わりやすいか。

わたしはそれを見たかった。ただならぬキョーミというほどではないけれど、1度くらいはこの目で見てみたいな~そう思っていた。

先輩であるデコトラへの羨望のまなざし。創意工夫の結晶。足で漕ぐという哀愁。そしてきっと、その主はヤンキー兄ちゃんであろう。ああ、いとおしい要素がたくさんつまっているではないか。

歪んだ色メガネを持つわたしに、なんとその機会が巡ってきたのでありました。
イカとタコが大好きで、食べたり被ったり本まで出版しました。
でもサイコーに好きなのはアワビだったりします。世間に対する謙虚です。

前の記事:本物? 天才高校生の作るジオラマがすごい。

> 個人サイト Weekly Teinou 蜂 Woman

デコチャリとの出会い

それはほかでもない、デイリーポータルZでもおなじみ書き出し小説大賞の常連TOKUNAGAさんが情報源だった。Twitter上でとある動画を紹介されたのである。
デコチャリが颯爽と走っている。目立つ! 目立ちすぎる……! 動画でもこのカンドー。実際目撃したら、口をあんぐり開けたまま放心状態になるか、走って追いかけるかのどちらかだ。
「おおっ!いいっすねー。取材したいな~」と呟いたところ、デコチャリ所有者のご本人からリプライを頂いたのだ。
「取材ならいつでもいいですよ~」
棚からぼたもち、Twitterからデコチャリ。略します、「ツイデコ」です。逃すわけないだろう。

黄金にかがやく織田信長が出迎えてくれた。岐阜駅前。

実は色々といわくつきの信長像だが、ここはひとまず、デコといい、キンピカといい、とかくハデ好きな岐阜県民と理解することにしよう。
実は色々といわくつきの信長像だが、ここはひとまず、デコといい、キンピカといい、とかくハデ好きな岐阜県民と理解することにしよう。
寄り駅。車で迎えにきて下さったのはデコチャリ所有者の小坂くんとお父さま。事前になんの情報も得てなかったので、わたしはスポーツマンのような容姿におどろいていた。想像とのギャップがはげしすぎる!
車中で彼が16才の高校二年生だということも知る。以前も17才を取材したが、今の高校生はなんて熱いんだ。

当時のわたしはどうやって授業や部活をさぼるか、そればかり考えていたというのに……。
ヤ、ヤンキーでもなんでもない。好青年きわまりない小坂くん。しかもバスケット部で県内ベスト8という実績も持つ。想像とはいえ大変失礼なことをしてしまった。
ヤ、ヤンキーでもなんでもない。好青年きわまりない小坂くん。しかもバスケット部で県内ベスト8という実績も持つ。想像とはいえ大変失礼なことをしてしまった。
小坂くんの名刺には、「全国デコチャリ青年団・会長補佐」とあった。世の中は、まだまだ知らないことだらけである。

ではごらんいただこう。精魂込めて作りあげた、まさに愛車「風神丸」のご登場だ。
ピッカピカ! 長さ2m40cm、幅1m10cmの大迫力だ。車高が低く、段差には細心の注意が必要である。車庫前から道路まで運ぶのにも、実はそうとうな体力が必要なことがわかった。
ピッカピカ! 長さ2m40cm、幅1m10cmの大迫力だ。車高が低く、段差には細心の注意が必要である。車庫前から道路まで運ぶのにも、実はそうとうな体力が必要なことがわかった。
おおーーっ! 思わず声が出た。なにしろわたしはデコチャリ初見。動画ではエレクトリカルに輝いていたが、その全貌は見えてこなかった。ひとめで「手入れが行き届いている」とわかる。熱意そのものが伝わってくる。
フロントには沢山の機器搭載。どのスイッチがどのライトにつながっているか全て把握していて、音楽に合わせて点灯させるのだ。
フロントには沢山の機器搭載。どのスイッチがどのライトにつながっているか全て把握していて、音楽に合わせて点灯させるのだ。
見えないところも気を配る。配線コードも色を統一し、どの線なのかわかるようにきちんと表記、整理されていた。
見えないところも気を配る。配線コードも色を統一し、どの線なのかわかるようにきちんと表記、整理されていた。
バックカメラも搭載。天敵はなんといっても雨だそうだ。取材日、晴れて良かった……。
バックカメラも搭載。天敵はなんといっても雨だそうだ。取材日、晴れて良かった……。
毎日手入れに余念がない。これはハンダゴテで火傷した痕。日常茶飯事とのこと。
毎日手入れに余念がない。これはハンダゴテで火傷した痕。日常茶飯事とのこと。

レトロ、モダン……奥深いデコトラの世界があくまでも手本

――作り始めたのはいつくらいからですか?

「中1です。でもデコトラに興味を持ったのは物心ついたときからですね。父に、デコトラの集会によく連れて行ってもらっていたので憧れてました」

――じゃあ免許を取ったらデコトラに移行するんでしょうか。

「はい。今はあくまでも手本にしてるので、限りなく近く作ってるんです。免許取ったらまず2tトラックを趣味にしたいですね。


デコトラの世界も、『一番星(トラック野郎)』などのレトロから、いわゆるガンダム系のモダンまで色々あるんですが、僕の場合はレトロモダン。だから電球とLED両方使ってるんです」
たしかにナンバープレート! 縦にまっすぐ伸びた二本の円柱は、マニ割りというトラックのマフラー音を出す排気管をマネているという。すべて設計図から起こす、独学だ。真後ろから見ても、きちんと整備されているのがわかる。授業と部活のあと、毎日深夜まで調整を怠らない成果だろう。
たしかにナンバープレート! 縦にまっすぐ伸びた二本の円柱は、マニ割りというトラックのマフラー音を出す排気管をマネているという。すべて設計図から起こす、独学だ。真後ろから見ても、きちんと整備されているのがわかる。授業と部活のあと、毎日深夜まで調整を怠らない成果だろう。
次のページは、デコチャリの真骨頂が発揮される夜の部、そしてまさかの夢のコラボ!
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日が暮れる前にちょっと試乗! 結果にガク然とする

『美人限定VIP 送迎車輌』にもかかわらず、「あのーちょっと乗らせてもらってもいいですか?」厚かましく催促。うわー気分いいなあ~。
『美人限定VIP 送迎車輌』にもかかわらず、「あのーちょっと乗らせてもらってもいいですか?」厚かましく催促。うわー気分いいなあ~。
ビクともしない! 笑っちゃうほどまったく漕げない! しかもお二人に支えてもらわなければ傾いて車輌を傷つけてしまう。『美人……』の壁は厚かった。
ビクともしない! 笑っちゃうほどまったく漕げない! しかもお二人に支えてもらわなければ傾いて車輌を傷つけてしまう。『美人……』の壁は厚かった。
いやはや本当に1cm たりとも動かない。甘く見すぎていたぞ、デコチャリを……。総重量は計ったことがないのでわからないそうだ。

――あービックリしたー。すごいですね……。最長でどれくらい走ったことあります?

「9kmで往復18km ですね。大汗かいて途中で着替えましたけど」

「日頃運動やってない人にはムリだよー」とお父さま。デコチャリにこれほどの体力・筋力が必要だとは……。

デコチャリの神髄ここにあり! エレクトリカル空間

昼間もiPhoneをつなげてトラック野郎のテーマソング「一番☆ブルース」を聴かせてもらったが、もう日が暮れてきた。全てのスイッチを把握し、音楽に合わせて電気を操作するという小坂くんならではのエレクトリカルデコチャリをぜひ見せてほしいと申し出た。

これだ。
スゴい! スゴい! はっきり言って、ディ○ニーランドのパレードよりもはるかに興奮した。

好きなことやらせてもらってるのだから家族に迷惑はかけたくない

――警察に呼び止められたりって経験はあります?

「一度だけ、騒音で注意を受けたことはありましたね。ふつうは家の周りやイベントだけで、ほとんど国道では鳴らさないんですけど、たまたま……」

お母さまとも話す機会があった。

――いいですね、息子さん、熱中できるものがあって。好きなものってそうカンタンに見つけられないですよね。

「そうですねー。親に金銭的負担もぜんぜんかけないし、好きにやらせてます」

費用はすべて、通常のこづかいやヤフオクで転売した収益で賄っているという。
昼もピッカピカだが、夜もピッカピカなのだ。そして、質問するたびに熱く解説してくれる小坂くんも、わたしから見ればまぶしくてしかたがない。ピッカピカに輝いている。
昼もピッカピカだが、夜もピッカピカなのだ。そして、質問するたびに熱く解説してくれる小坂くんも、わたしから見ればまぶしくてしかたがない。ピッカピカに輝いている。

夢は次世代へ。デコトラ胎教が彼をつくりあげた?

――ところで、お父さまがよく集会に参加されていたそうですが、やはりデコトラを?

お父さまは、デコトラへの夢はあったものの、ご両親(小坂くんのおじいさま、おばあさま)から危険だと猛反対され断念したそうだ。しかし集会などには必ず顔を出し、仲間を作っていった。

「息子がお腹にいた時から、集会には連れて行ってたんじゃないかな」

うわー。デコトラ胎教だぁーー!

では、息子さんがお父さまの夢を叶えたカタチですね。

「そうだね」お二人は少し照れくさそうに笑っていた。

「すべて理解ある両親のおかげだと思ってます。とくに父の影響は大きいかな」
今回の取材をとても歓迎してくださったお父さま。デコトラの知識も豊富だ。熱く語る小坂くんから少し離れたところで、写真を撮る姿が見える。
今回の取材をとても歓迎してくださったお父さま。デコトラの知識も豊富だ。熱く語る小坂くんから少し離れたところで、写真を撮る姿が見える。

まさかの、エレクトリカルな夢の競演!

「会わせたい人がいるんだけど、少し家にあがって待っててくれるかな」
お茶をごちそうになり、しばし歓談しているとお父さまのケイタイが鳴った。

「きたきた。ちょっと外に出てみて」

姿は見えないが、はるか遠くからかすかに重く響くエンジン音。覚えたての言葉、マフラー音だ。そうだ、デコトラだ!
桃姫号。荷台のスプレーアートや内装など、すべてをアンパンマンで統一していることから通称アンパンマン号と呼ばれている。『アンパンマン デコトラ』で検索すると、サジェストで『岐阜』と出るほどの有名デコトラだ。
桃姫号。荷台のスプレーアートや内装など、すべてをアンパンマンで統一していることから通称アンパンマン号と呼ばれている。『アンパンマン デコトラ』で検索すると、サジェストで『岐阜』と出るほどの有名デコトラだ。
バーベキューの帰りに、わざわざお寄りいただいたのは全国哥麿会の奥田さん。とても穏やかなお人柄で、アンパンマンを選んだのも大人から子供までみんな知っているという理由から。小坂くんのお父さま曰く、この世界では知らない人がいないそうだ。

では、夢のコラボをごらんいただきたい。
まさに目標に向かって走った風神丸。周囲が暗いせいだろうか、点滅する電飾を見ながら「これ、現実か?」と思うほどだった。
デコチャリからデコトラへ。いずれは小坂青年も、少年たちの憧れの存在になるんだろう。
デコチャリからデコトラへ。いずれは小坂青年も、少年たちの憧れの存在になるんだろう。

……というか、すでになっていた

桃姫号オーナー奥田さんの息子さん(小4)は、デコトラそっちのけで小坂くんの『風神丸』に夢中である。いろんな角度から何枚も写真を撮っていた。
まずは自分の出来ることからその先の夢へ。こうしてみんな大きな夢を実現させていくのか! 知らなかったー! 早く教えてよー!
流れのままに生きてきたわたしが今さら知ってももう遅いですよね……。
流れのままに生きてきたわたしが今さら知ってももう遅いですよね……。
短いスパンで二人の高校生を取材したが、両者に共通することは、かなり具体的な夢を持っていること。そしてそれは必ず実現するであろうということだ。
彼らがまぶしいのはあたりまえであった。

小坂くんTwitter(@dekotoraboy)
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