特集 2016年1月29日

文字で説明された地図で道祖神を探す

道祖神を探します!
道祖神を探します!
探偵、それは数少ない手がかりから、事件の真相に迫る職業だ。探偵の仕事と言えば、殺人事件を思い浮かべるが違う。猫探し、人探しなど、殺人事件以外の調査もするのである。今回は道祖神探しだ。

道祖神とは、路傍の神。集落の境や辻に置かれた神である。松尾芭蕉の「おくのほそみち」には旅に誘う神として登場している。そんな道祖神を探そうと思う。道祖神探偵である。
1985年福岡生まれ。思い立ったが吉日で行動しています。地味なファッションと言われることが多いので、派手なメガネを買おうと思っています。(動画インタビュー)

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> 個人サイト Web独り者 彼女がいる風の地主恵亮

素敵な出会い

一軒の古めかしい古本屋に入った。入り口のドアは、今では当たり前となった自動ドアではなく、時代を感じる引き戸であった。中に入ると一生をかけても読みきれない量の本が並ぶ。私は誘われるかのように一冊の本を手に取った。それが「神奈川の道祖神」だった。
この本を買いました!
この本を買いました!
カッコよく、一冊の本を手に取った、と書いたが正しくは上下巻だったので、二冊の本だった。この本は昭和54年に出版された、タイトル通り神奈川の道祖神を紹介した本だ。読んでみるとやっぱりタイトル通り、神奈川の道祖神が紹介されていた。
昭和54年に出版された本です
昭和54年に出版された本です
本には地図はなく、文字のみでその道祖神がどこにあるかを書いている。それは例えば、「南下橋の一つ上の橋が柄沢橋で、これを渡り左に登ると左側の一段高くなった平地に道祖神がある」という感じだ。文字の地図なのだ。そんな文字を頼りに道祖神を探そうと思う。
ということで、横浜に来ました!
ということで、横浜に来ました!

表谷町の道祖神

この本には神奈川全土の道祖神が紹介されている。だからこその上下巻だとは思うが、それを全て回りきるのは、きっと元気でやんちゃなアフガン・ハウンドくらいなので、私は横浜を中心に道祖神を巡ってみようと思う。
まずはこれに行きます!
まずはこれに行きます!
菊名駅近くの「表谷の道祖神」に行く。本には「駅近くの表谷の路傍にある小さな仮屋の中に双体道祖神が奉納されている」とある。ヒントがあるようでない。表谷という地名以外は具体的なことが書いていないのだ。
菊名駅に来ました!
菊名駅に来ました!
表谷の方に歩きます
表谷の方に歩きます
菊名駅は乗り換えで何度も来たことがあるが、降りたのは初めてだ。しかし、道祖神探偵の勘が、道祖神はこちらだと囁いている。私ほどになると道祖神の匂いを嗅ぎつけることができるのだ。私は道祖神に愛された男なのだ。
聞きました
聞きました
自信満々に歩いてはみたが、全然、道祖神を見つけることができず、人に聞いて場所を探った。だって、本の情報だけでは全然わからないのだ。ただヒントはある。道祖神は街の境や辻にあるのだ。場所を聞いたので間違いないのだ。
ありました!
ありました!
これが現在の道祖神
これが現在の道祖神
ちなみに昔の道祖神
ちなみに昔の道祖神
探していた道祖神を見つけることができた。ただなんというか、本の写真と比べると、違う気がする。全くの別物な気すらする。新しい雰囲気があるのだ。道祖神が新しくなるパターンは考えていなかった。ただ話を聞けば、「変わってないよ」とのこと。
聞き込んだけど、昔からこうらしい
聞き込んだけど、昔からこうらしい

篠原西の道祖神

先の道祖神は写真と違うが、聞き込みによると変わっていないらしい。そういうこともあるのだ。深追いはしないのだ。道祖神がある、それでいいじゃない。ということで、次は、篠原西の道祖神である。
これです!
これです!
本には「坂を登って篠原神社に行く。この社の西側の谷戸に双体道祖神が奉納されている」らしい。社はいいとして、谷戸は広い。もはや「どこに住んでいるの?」「東京」みたいな状態だ。東京も港区と江戸川区では全然違う。そういうことなのだ。
篠原神社に来ました
篠原神社に来ました
西側を目指します!
西側を目指します!
本には社の西側の谷戸は都市化の波が来ているとあったけれど、まさにそうで綺麗な家々が並んでいた。道祖神がそぐわない感じだ。むしろスニッカーズを勢いよくかじるボブ的な感じが似合う。
聞き込みました!
聞き込みました!
ヒントがなさすぎて聞いて回ったら、「あれかな」くらいの話を聞くことができた。道祖神はもう日常に入り込みすぎていて、意識しないのかもしれない。そう、道祖神は身を隠すのがうまいのだ。
ありました!
ありました!
ちなみに昔の道祖神
ちなみに昔の道祖神
ほぼ当時のままだ。本では美しい、立派な道祖神とベタ褒めである。変化といえば、道祖神手前の石の配置が変わったこと。五輪塔の一部の石と、穴が3つあいた石。穴3つの方は花立てに使うのだろう、と書かれているが、いまは瓶だ。21世紀は瓶なのだ。
なんか褒められた!
なんか褒められた!

富士塚の道祖神

先の道祖神を見ていたら、道行く方に声をかけられ、昔からあるわね、道祖神を巡っているの、偉いわね、と褒めていただいた。道祖神は褒められるのだ。ということで、意気揚々と次である。
富士塚の道祖神
富士塚の道祖神
本には「篠原神社から坊海道という坂道を下った左側」と書いてある。今までと比べればなかなかに具体的な気がするが、「坊海道」という坂道がない。坂道はあるが、話を聞けばどうも名前が違う。
話を聞いた
話を聞いた
「坊海道」という坂道は聞いたことがないらしく、おそらくこれと思われる坂道は「富士塚通りと言うそうだ。確かに坂道にはそう書いてあった。名前が変わったのかもしれない。取り合えず、下ってみようではないか。
富士塚通りを下り、
富士塚通りを下り、
当然ないので探し回り、
当然ないので探し回り、
ありました!
ありました!
富士塚通りを下っても左側に道祖神はなかった。場所が変わったのかもしれない。あるいは、左側はもっと広い範囲を指していて、下ったらどこかで左に曲がればあるかもよ、とのことかもしれない。そう思い適当に左に曲がっていたら偶然あった。
これが富士塚の道祖神です!
これが富士塚の道祖神です!
当時の道祖神
当時の道祖神
本の頃と比べると背景が変わっている。周りを見れば新築の綺麗な家が並んでいるので、どんどんと街並みが変わっているのだろう。そんな変わりゆく街並みで、道祖神を残すのが、素晴らしい。見つけた瞬間の喜びは、生き別れの兄弟に出会えたほどのものだった。
いいね!
いいね!

最後の道祖神

今まで3つの道祖神を探した。この地域ではスタンダードな道祖神である。男女ともに手を合わせ正面を向いている。男女ともに身長も同じくらい。最後は変わり種を探してみたい、ということで、菅田町の道祖神を探すことにした。
これが菅田町の道祖神
これが菅田町の道祖神
本によれば、「菅田の交差点から鴨居方向に通じる県道に面して」その道祖神はあるそうだ。今回はどうやら道沿いにありそうな感じだ。左側などは広範囲を指すが、面してはその道沿いという意味なのではないだろうか、きっと。
ということで、菅田の交差点にきました
ということで、菅田の交差点にきました
鴨居方面に通じる道を歩きます
鴨居方面に通じる道を歩きます
住宅街や工場があるのがわかる。本には10年前なら旧道に沿って農家が点々としていたが、工場や鉄筋のアパート、住宅街になっているとある。きっといま私が見ている風景と変わらない風景が本の時代にはあったのだろう。これはありそうな気配だ。
ありました!
ありました!
本にある道祖神
本にある道祖神
綺麗な屋根の下にその道祖神はあった。これの何が変わり種の道祖神か分かるだろうか。女性が着物で口元を隠しているのだ。羞恥の情が醸し出されているそうだ。この道祖神は女性が施主で、女性が願掛けをして寄進したもの。これも大変珍しいポイントだ。
可愛らしいね!
可愛らしいね!
大切にされている!
大切にされている!
ということで、数少ないヒントから道祖神を無事に探し出すことができた。道祖神を見つけたからと言って、何かが起きるわけではない。嬉しいだけだ。本に載っているやつだ! と有名人にあった時と同じ興奮とでも言えばいいのだろうか。今後も、道祖神探偵として、路傍の石を見つけていこうと思う。
俺たちの戦いはこれからだ!
俺たちの戦いはこれからだ!

道祖神が来る

2015年の年末あたりから、道祖神や石仏などのブームが私に来ている。本を買いあさっては見とれて、「いいね!」とサムズアップを勝手にしている。今回も、載せた物以外にも探しているのだけれど、スタンダードなものが多い。もっと変わり種をみたい。そういう意味では私はミーハーなのかもしれない。
やはり大切にされているのが分かる!
やはり大切にされているのが分かる!

道祖神探偵地主に会いに、イベントへ

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虚偽のリア充
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