特集 2016年2月22日

鳩1羽を日本酒1升で煮るとうまい味噌が出来る

江戸時代の珍味「魚鳥味噌」。鳩を使った味噌を作りました。驚くうまさです。
江戸時代の珍味「魚鳥味噌」。鳩を使った味噌を作りました。驚くうまさです。
江戸時代の料理に魚鳥味噌(ぎょちょうみそ)というものがあります。鳩や鮒などを日本酒1升で数日煮込み、更に醤油で煮込んで作る料理です。

鳩1羽を日本酒1升で煮て作る味噌。不味くなる要素は無く、きっとうまいに違いない。ということで実際に作ってみました。

驚くうまさでした。
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

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> 個人サイト 酒と醸し料理 BY 工業製造業系ライター 馬場吉成 website

料理山海郷という本に出てきます

魚鳥味噌は1749年(寛延2)に刊行された「料理山海郷」という本に出てきます。
現代語訳版の料理山海郷。スイカで作るシロップ「西瓜糖</a>」などもこの本に出てきます。
現代語訳版の料理山海郷。スイカで作るシロップ「西瓜糖」などもこの本に出てきます。
「料理山海郷」には日本全国の様々な美味や珍味など、230の料理が紹介されています。
今回は鳩で作ったので鳥味噌になります。
今回は鳩で作ったので鳥味噌になります。
紹介されていると言っても魚鳥味噌の記述はわずか3行ほど。
古い料理本の記述は分量や作り方などかなりザックリとしかでてこない。餃子の時も</a>そうだった。
古い料理本の記述は分量や作り方などかなりザックリとしかでてこない。餃子の時もそうだった。
具体的な作り方に関しては「白味噌を酒で溶き、鳥の毛を取って丸のままを入れて連日煮る。綿のようになったところで、それをたたき、醤油でまた煮る。分量は、鳩1羽に酒1升。」としか書かれていません。
「料理山海郷」にはこんな料理も出てくる。茹でた玉子の黄身を果物のビワに見立ててビワの葉と一緒に盛っただけのもの。それ料理か?
「料理山海郷」にはこんな料理も出てくる。茹でた玉子の黄身を果物のビワに見立ててビワの葉と一緒に盛っただけのもの。それ料理か?
今のような計量スプーンや計量カップなんて物が広く使われるようになったのは昭和に入ってから。古い料理書は多くの場合分量や作り方など大雑把です。

細かい点は想像で作るとして、とにかくやってみます。

鳩は割と簡単に手に入る

まずは材料の調達です。
丸のままの鳥なんてニワトリでもほぼ買わない。
丸のままの鳥なんてニワトリでもほぼ買わない。
鳩1羽はフランス料理の食材を扱う店でアッサリ買えました。フランス産の食用鳩肉1羽分。
鳩肉、西京白みそ、日本酒。白みそはこの味噌でいいのかは怪しいが、とにかくこれで作る。
鳩肉、西京白みそ、日本酒。白みそはこの味噌でいいのかは怪しいが、とにかくこれで作る。
あとは白みそと日本酒。白みそは西京みそを。日本酒は1升も使うので低価格のパックの物を使用しています。
  原材料は米と麹と水だけなのですが、純米酒と言えないのには理由があります。
原材料は米と麹と水だけなのですが、純米酒と言えないのには理由があります。
ちなみに、この日本酒。「米だけ酒」と書かれ、原材料も米と麹と水だけ。醸造用アルコールは入っていません。しかし、この日本酒は純米酒とは名乗れません。
こういう商品名の日本酒の場合、必ずパッケージのどこかに純米酒の規格を満たしていないことを8ポイント以上の文字で表記するルールがあります。
こういう商品名の日本酒の場合、必ずパッケージのどこかに純米酒の規格を満たしていないことを8ポイント以上の文字で表記するルールがあります。
純米酒や吟醸酒などの日本酒は特定名称酒といわれ、名乗る為には3等以上の米を使用するとか、麹使用割合が15%以上など明確な基準があります。

特定名称酒は全国で生産される日本酒の3割ほどしかなく、残りは普通酒と言われる日本酒となります。

それぞれの味の特徴に関しては、例えば麹の使用量が減ると味がライトになるなど色々あるのですが、書き始めるとそれだけで1冊本が出来そうな話になるのでここでは省略します。

断熱調理鍋で何日も

では調理に入ります。
飲まないのに日本酒1升消費する。恐ろしい料理だ。
飲まないのに日本酒1升消費する。恐ろしい料理だ。
まず1升(1.8リットル)の酒をボールに量り、そこへ白みそを入れて溶かします。白みそは大サジに山盛りで6杯ほど入れてみました。
これだけだとただの鳩の味噌煮だな。
これだけだとただの鳩の味噌煮だな。
続いて白みそを溶かした日本酒と鳩1羽を鍋に入れ、綿のようになるまで数日煮る工程。

恐らく、綿のようにというのは、手で引っ張れば簡単にちぎれるぐらいに柔らかくなるまで煮ることではないかと思われます。
これを使うと長時間の煮込みが簡単に出来ます。
これを使うと長時間の煮込みが簡単に出来ます。
鍋に張り付いて何日も煮るのは大変なので、今回は断熱調理鍋をつかいました。加熱した鍋を専用の保温容器に入れると70度程度を保って煮続ける調理器具です。これがあると煮崩れすることなく、柔らかい煮物が出来ます。
再加熱を繰り返し、3日で白かった煮汁が茶色く変化。
再加熱を繰り返し、3日で白かった煮汁が茶色く変化。
この断熱調理鍋を使い、半日に1回ほど再加熱して煮ること3日。かなり柔らかく煮えたので鍋から取り出します。
箸で簡単に崩れるほど柔らかく煮える。
箸で簡単に崩れるほど柔らかく煮える。
簡単にほぐれるほど柔らかく煮えました。骨を取り除きます。
鳩は細く小さい骨が多かった。
鳩は細く小さい骨が多かった。
鳩1羽からこのぐらいの肉がとれました。作り方には骨を外すとは書かれておらず、たたくとしか書かれていません。しかし、骨ごと細かくすると食感が極めて悪くなることが予想されるので肉だけを使います。
マグロのフレークみたいな感じになる。
マグロのフレークみたいな感じになる。
肉はフードプロセッサーで細かくしました。この時点で食べてみると、臭みはなくほんのり味噌味。ちょっとボヤけた味でイマイチです。
普通の醤油で味付け。
普通の醤油で味付け。
ここから更に醤油で煮て味を決めていきます。醤油は途中で味をみつつ、最終的に大サジ5杯ほど使用。
煮汁も使います。
煮汁も使います。
醤油だけだと煮るには水分が少ない感じだったので、鳩の煮汁もお玉で2杯ほど使ってみました。
煮るというより煎るに近いか。
煮るというより煎るに近いか。
あとは時々軽くまぜながら汁気が少なくなるまで加熱していきます。

そして鳩の魚鳥味噌が出来ました。

鳩味噌うまい!

見た目は味噌というより佃煮。味の方はただの佃煮とは違った。
見た目は味噌というより佃煮。味の方はただの佃煮とは違った。
こちらが出来上がった鳩の魚鳥味噌。早速食べてみます。
なんだ、このうまさ!
なんだ、このうまさ!
鳩の魚鳥味噌。凄くうまいです。

少しクセのある鳩肉の味に味噌や醤油の風味が加わり、噛むほどに旨味が溢れてくる。鳩肉、味噌、醤油など様々な食材の旨味が合わさって出てきます。食感はホロホロと崩れ、程よい噛み応えが細く長く続きます。

ご飯に、酒に。何にでも合いそうな味。これはいい!
日本酒投入。酒は青森県十和田市の鳩正宗。
日本酒投入。酒は青森県十和田市の鳩正宗。
今回は鳩の魚鳥味噌でしたが、普通の鶏肉でもかなり美味しい物は出来そうです。ただ、魚に関しては鮒などがいいとされているので、クセの強い食材の方がこの料理には合うのかもしれません。
酒が進む味だ!
酒が進む味だ!
魚鳥味噌。かなり手間はかかりますが作る価値アリです。興味ある方は試してみてください。

実際はもっと違う味だったかもしれない

探り、探り作った魚鳥味噌。予想以上にいい味でした。また作ってみたいです。今回は煮る時に酒1升として現在流通している通常の日本酒。清酒を使用しました。

しかし、現在のような透明感のある清酒が出来るのは、江戸時代になってから。江戸初期や中期以降など諸説ありますが、それまではどちらかというとミリンに近い甘く褐色の日本酒が普通だったと言われています。今回の本に書かれた酒がどんな酒か定かではありませんが、そういう日本酒を使った場合今回とは違った味になっていたでしょう。

とりあえず、今回出来た物がうまかったので良しとします。そして、また作ってみたいと書きましたが、買った鳩肉は2000円近く。更に酒1升に、味噌やら醤油やら。価格的な問題で次また作るか要検討です。
200g入りの瓶に1本半ほどしか出来ませんでした。瓶ごとよく湯煎して保存用にしたので日持ちはすると思うが、無くなったらどうするかな。
200g入りの瓶に1本半ほどしか出来ませんでした。瓶ごとよく湯煎して保存用にしたので日持ちはすると思うが、無くなったらどうするかな。
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