特集 2016年3月5日

背もたれ型ベンチはおしりにフィットする

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「横浜市営地下鉄の弘明寺駅を利用していた当時、弘明寺駅ホームに、段違いの鉄棒のようなものがありました。ベンチのようですが、別にベンチも設置されています。その当時蒔田駅にもあったと思います。」という投稿がねこぼくさんからはまれぽ.com編集部へとどいた。

調査してみたら「弘明寺駅にある二段鉄棒の正体は背を持たれるように腰をかける『背もたれサポーター』で、現在設置されているのは弘明寺駅のみ。」ということがわかった。

(はまれぽ.com 亀井 亜衣子
はまれぽ.comは横浜のキニナル情報が見つかるwebマガジンです。毎日更新の新着記事ではユーザーさんから投稿されたキニナル疑問を解決。はまれぽが体を張って徹底調査します。

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駅のホームで電車を待っているとき、はまれぽ読者のみなさんはどのようなスタイルで待っているだろうか。携帯片手に、壁に寄りかかりながら、ベンチに座って。あるいは、待つのは嫌という人も中にはいるかもしれない。

横浜市営地下鉄ブルーライン弘明寺駅には、電車待つために使われそうなベンチのようなものが設置してあるというキニナル投稿。
ベンチ? 鉄棒? 物干し竿?
ベンチ? 鉄棒? 物干し竿?
座るにしても、少し腰かける位置が高いようにも見えるし、そもそも座るものかどうかも分からない。まずは現地に向かう前に正しい使い方・名称を横浜市交通局に問い合わせてみることに。
横浜市交通局総務課の瀬藤悦弘(せとう・よしひろ)さんによると
横浜市交通局総務課の瀬藤悦弘(せとう・よしひろ)さんによると
「これは『背もたれサポーター』といいます。ベンチと同様に腰かけてご使用いただけます」とご回答いただいた。キニナル投稿では市営地下鉄蒔田駅にもあるということだったが、現在は弘明寺駅しか現存していないという。

背もたれサポーターは市営地下鉄の駅のホームのみに設置されており、駅以外で使用されているところを見たことがないと続け、「ホーム幅員(ふくいん)を大きく確保することを目的に、通常のベンチより省スペースで設置できる背もたれ型ベンチを採用しました。しかし、1972(昭和47)年の開業時の設置のため資料が存在せず金額などは不明となります」と教えてくださった。

残念ながら開業時の資料はなく、当時勤めていた人も退職されていたりと情報は乏しいということだ。そこで、インターネットや雑誌などで調査を進めたところ、ある人物のデザインだということが判明した。
柳工業デザイン研究会(柳工業デザイン研究会HPより)
柳工業デザイン研究会(柳工業デザイン研究会HPより)
背もたれサポーターをデザインした柳宗理(やなぎ・そうり)氏は、1915(大正4)年6月29日に東京で生まれ、東京美術学校(現:東京芸術大学)を卒業。金沢美術工芸大学工業デザイン科の教授を務め、後進の指導にも尽力した。

鍋、カトラリーをはじめ、東京オリンピックの聖火コンテナ、札幌冬季オリンピックの聖火台やトーチなどをデザインした日本を代表するインダストリアルデザイナー(工業製品のデザイナー)である。紫綬褒章(しじゅほうしょう)、文化功労章を受章。2011(平成23)年に肺炎で没する。

そこで柳工業デザイン研究会に問い合せて、柳氏のデザインかどうかを確かめることに。ご対応くださった藤田氏に弘明寺駅にある背もたれサポーターと、調査中に発見した柳氏のデザインと思われる黄色いベンチの写真を見ていただいた。
弘明寺駅にあるベンチ
弘明寺駅にあるベンチ
「弘明寺駅にある背もたれサポーター、黄色いベンチともに間違いなく柳デザインのプロダクトでございます」

本当に柳宗理デザインだったとは!

「柳宗理は横浜市営地下鉄開業時に設備デザインを担当しておりました。その中には、黄色いベンチ、背もたれサポーター、水飲み場、水汲み場、プラットホームの消火栓、既に変わっていますが券売機やキオスクなどもありました」
柳氏デザインの券売機やキオスク、見てみたかった…(写真はイメージ)
柳氏デザインの券売機やキオスク、見てみたかった…(写真はイメージ)
横浜市営地下鉄のデザインを担当する前には…
1970(昭和45)年に野毛山動物園歩道橋(フリー画像より)
1970(昭和45)年に野毛山動物園歩道橋(フリー画像より)
看板2種のデザインを担当(フリー画像より)
看板2種のデザインを担当(フリー画像より)
看板2種のデザインを担当(フリー画像より)
「あまり知られていませんが、桜木町にある大岡川人道橋も柳宗理のデザインです」
なんと!
なんと!
日本が誇るデザイナーの作品を普通に利用できて、目に触れることができるとは。こういうプロダクトをさらっと街中に取り入れるって、横浜らしい感じもする。どうしよう、うらやましいよ横浜市民。

それでは、現地を訪れてみよう!
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わくわくを胸に、現地に!

弘明寺駅到着
弘明寺駅到着
ありました
ありました
いつも利用するというお勤め帰りの男性
いつも利用するというお勤め帰りの男性
すぐそばにベンチもあるのに、なぜあえてこのサポーターを使っているのか聞いてみると「すごくしっくりくるんですよ。ベンチよりも、こっち(背もたれサポーター)ですね。音楽を聴いたり携帯をしたり、とても楽な姿勢で電車を待っていられます」

あと数歩あるけばベンチもあるのだが、そちらにいく必要がない。いくまでの労力がもったいない、とまでこの男性に言わしめた背もたれサポーター。おそるべし。
実際に座ってみることに
実際に座ってみることに
おしりが当たる部分が、だ円形かつ傾斜になっているので、おしり・ふとももにぴたっと吸い付くようにフィットする。

確かに楽だわ、これ。ベンチに腰を落ち着けてしまうと、立つのを億劫に感じてしまうときがあるが、背もたれサポーターなら電車が来たらすっと立ち上がることができるし、壁に寄りかかるよりも自然で楽な姿勢で待つことができる。

はまれぽ編集部もある最寄りの関内駅にも行ってみると…
ずらり
ずらり
座りたい放題
座りたい放題
座ったら、あいさつされた
座ったら、あいさつされた
こんなかたち
こんなかたち
黄色のベンチは中央が円形にへこんでいるためか、座り心地がとてもよい。地面と腰かける位置が近く、座った時に足がしっかりと地面に付くので、長時間座っていても疲れなさそうだ。人間の体に合っている、という表現が適当かもしれない。
横浜駅にもあった
横浜駅にもあった
投稿のあった蒔田駅には、2008(平成20)年までは柳氏デザインの水飲み、水汲み場、背もたれサポーターがあったようだが、2016年現在はその姿を確認することはできなかった。背もたれサポーターは、2009(平成21)年のエレベーター設置工事により撤去したとのこと。
ベンチはあった
ベンチはあった
2009年には横浜美術館で柳宗理展も開かれた
2009年には横浜美術館で柳宗理展も開かれた
柳氏の経歴から横浜に特別ゆかりがあるわけでもなさそうだが、新しいものに寛容な横浜だからこそ、いち早く氏の作品を生活空間に取り入れたのかもしれない。都会的かつリラックスした横浜の雰囲気が柳氏のデザインするプロダクトとマッチしているように感じた。

2008(平成20)年に発刊された『casaBRUTUS 柳宗理』の情報によれば。
市営地下鉄ブルーライン
市営地下鉄ブルーライン
黄色のベンチは、横浜駅、関内駅、弘明寺駅、蒔田駅、伊勢佐木長者町駅、吉野町駅、上大岡、港南中央駅に設置してあるようだ。
水飲みと水汲み場。使ってみたかった…(フリー画像より)
水飲みと水汲み場。使ってみたかった…(フリー画像より)
もし上記の最寄り駅を利用している人は、ベンチや背もたれサポーターの座り心地を確かめてみてはどうだろうか。

取材を終えて

個人的に柳宗理のプロダクトのファンだったので、弘明寺駅の背もたれサポーターやベンチが氏のデザインであると分かったときの感動はひとしおだった。今度はまれぽ編集部に寄った帰りは、このベンチに座って電車を待ちたいと思う。
おしまい
おしまい
取材協力
横浜市交通局
http://www.city.yokohama.lg.jp/koutuu/
柳デザイン研究会
http://yanagi-design.or.jp/

参考
『casaBRUTUS 新装版 柳宗理』株式会社マガジンハウス2008年10月10日発刊
金沢美術工芸大学
http://www.kanazawa-bidai.ac.jp/index.html
横浜美術館
http://yokohama.art.museum/
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