特集 2016年3月10日

もっと知りたい、昔の電話

昔の電話はいい
昔の電話はいい
去る2007年1月9日、iPhoneを発表したスティーブ・ジョブズ氏は言った。「アップルは今日、電話を再発明する」と。電話にしてみればまさに寝耳に水、再発明されてしまったのだ。じゃあ、再発明される前の電話ってどんなだったのだろう。

今回は、昔の電話を振り返りつつ、それを最新の技術で現代によみがえらせてみたい。
1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

前の記事:この「エアコン配管」がすごい!

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昔の電話を愛でたい

今はみんな当たり前のようにスマホを使っているが、それが「電話機」だっていう認識は年々薄くなっている気がする。公衆電話もほとんど絶滅してしまったし、固定電話がない家庭も増えてきた。こうしてゆるやかに、電話機は私たちの記憶から消えていってしまうのかもしれない。

しかしスマホだって、連綿と続く電話機の歴史の延長線上にあるのは確かである。温故知新という言葉もあることだし、みんなもっと昔の電話に興味を持ってもいいと思うのだ。

そんなわけで今回は、スマホ世代(というかほとんど全ての世代)には全く馴染みがないであろう、こちらの電話機を特集したい。
この顔みたいに見えるやつ(国立国会図書館デジタルコレクション『日立電話』より)
この顔みたいに見えるやつ(国立国会図書館デジタルコレクション『日立電話』より)
『となりのトトロ』に、これに近いタイプのものが出てくる。名を「デルビル磁石式壁掛電話機」(通称、「デルビル電話機」や「磁石式電話機」とも)という。

私のなかで昔の電話といえばこれのイメージなのだが、実は詳しいことを全く知らない。名前も今回初めて知ったくらいだ。そんなわけで、まずはこいつが何者なのか調べてみることにした。

参考にしたのが、こちらの書籍。
書面からただよう、ただならぬ風格。およそ90年前の書物である(国立国会図書館デジタルコレクション『電力技術者用 電話学』より)
書面からただよう、ただならぬ風格。およそ90年前の書物である(国立国会図書館デジタルコレクション『電力技術者用 電話学』より)
それでもって、その磁石式電話機を現代風にアレンジしたガジェットを作ってみた。
スマホに着信があるとベルが鳴ったり、ハンドルを回すと電話がかかったりする
スマホに着信があるとベルが鳴ったり、ハンドルを回すと電話がかかったりする
では順番にどうぞ。

※ 以下、書面の画像は『電力技術者用 電話学』、『日立電話』より引用

そもそも、電話がつながる仕組み

まずはざっくりと、当時の電話がつながる仕組みを知っておきたい。

ざっくりしすぎじゃないかって感じもするけど、これがシンプルで分かりやすかった。つまり、「局」(電話局)で接続を切り替えることで、「一」と「三」などの電話機が相互につながる仕組みになっている
ざっくりしすぎじゃないかって感じもするけど、これがシンプルで分かりやすかった。つまり、「局」(電話局)で接続を切り替えることで、「一」と「三」などの電話機が相互につながる仕組みになっている
こんな風に電話の接続を切り替えるのを「電話交換」という。実はいまスマホから電話をかけた瞬間にも、この電話交換が行われている。大きく違うのは、それが自動か、手動かという点である。

そう、昔の電話は、この電話交換を手動でやっていたのだ!
当時の交換室の写真。こんな風に電話交換を行う人を「電話交換手」という
当時の交換室の写真。こんな風に電話交換を行う人を「電話交換手」という
当時使われていたという単式交換機。これは100回線用なので、あとで説明する「加入者線表示器」や「ジャック」が100個ずつもある。ザ・昔の機械という感じ
当時使われていたという単式交換機。これは100回線用なので、あとで説明する「加入者線表示器」や「ジャック」が100個ずつもある。ザ・昔の機械という感じ
別の文献に鮮明な写真があった。外装が木製で家具調になってるのが渋い
別の文献に鮮明な写真があった。外装が木製で家具調になってるのが渋い
いっぱい並んでると、秘密結社の通信室みたいな雰囲気がある。とても「小型」という感じではないけれど
いっぱい並んでると、秘密結社の通信室みたいな雰囲気がある。とても「小型」という感じではないけれど
いきなり「スマホの通信の仕組みを知ろう!」っていうとハードルが高いけど、こんな風に昔のテクノロジから辿って行くと、何となく理解できるような気にならないだろうか。電話と電話の間の電話線を、交換機を使って人が手動で接続するという分かりやすさ。

実際に電話をかけるときの手順も、終始アナログで面白い。

電話のかけ方 (1) 電話機のハンドルを回す

電話をかけるときは、まず交換手の人にお願いして、電話したい相手につないでもらわないといけない。この「電話交換手を呼び出す」ときに使うのが、電話機に付いてる謎のハンドルの正体なのであった。
いまひとつ使い方が分からなかったこのハンドル、
いまひとつ使い方が分からなかったこのハンドル、
実は中に発電機が!
実は中に発電機が!
電話機の木箱の中は、ほとんど「磁石式発電機」で占められていた。磁石式電話機の名前の由来も、この磁石式発電機に依るものらしい。

ハンドルをグルグル回すと、発電機から交流の電気が発生する。その電気がはるか電話線の向こう、電話交換手の元まで届くのだ。
電話機のハンドルを回して発生した電気が、交換機に付いている表示器を動かす
電話機のハンドルを回して発生した電気が、交換機に付いている表示器を動かす
当たり前だけど、各家庭と電話局の間はもれなく電話線でつながっている。こういうインフラの壮大さを思うと、いつも頭がクラクラしてしまう。電車の線路を見ても思うのだけど、まったくよく敷設したよなぁと。

(2) 交換手に相手先の電話番号を連絡する

着信に気付いた交換手は、交換機に付いてる「応答プラグ」というものをジャックに刺す。このプラグによって着信元の電話機と交換機が接続され、ようやく交換手との通話が可能になる。
ジャックは加入者の数だけあって、各ジャックの先が各家庭の電話機につながっている。接続したい電話機のジャックに交換機のプラグを刺すと、電話機と交換機がつながる仕組み。……下手な図ですまぬ
ジャックは加入者の数だけあって、各ジャックの先が各家庭の電話機につながっている。接続したい電話機のジャックに交換機のプラグを刺すと、電話機と交換機がつながる仕組み。……下手な図ですまぬ
文献によると、電話に出た交換手は「何番?」と言うらしい。今だと「大変お世話になっております、こちらは交換手です。何番におつなぎすればよろしいでしょうか?」とか言いそうなものだが、実際どうだったかは分からない。

ちなみに、カステラでおなじみ文明堂のCMソング「電話は2番」は、当時の店舗の電話番号が2番だったということなので、文明堂に電話するときは交換手との間で「何番?」「2番で」なるやりとりがあったものと想像する。ちなみに市外からかける場合は、「○○局の2番で」という伝え方になるらしい。

(3) 交換手が相手の電話を呼び出す

接続先の電話番号を聞いた交換手は、「呼出プラグ」というものを、相手先の電話機につながっているジャックに刺す。これでようやく通話したい電話と電話との間が、交換機を介して結ばれたことになる。
相手の電話までの線路が開通した!
相手の電話までの線路が開通した!
しかし、これだけでは相手の人は電話がかかってきたことが分からないので、交換手がスイッチを操作して、相手先の電話機に電気を送るらしい。そうすると、遠く離れた電話機の、あの顔みたいなベルが鳴るのだ。やっと登場、あの顔みたいなベル。
これがあのベルの中身
これがあのベルの中身
ベルが鳴る仕組みはこれまた単純で、「鉄心に巻いたコイルへ電流を流すと磁力が発生する」という、電磁石の仕組みが使われている。マイコンとか、そういうのとは全く無縁の世界。磁石の力でベルを鳴らすのだ。分かりやすい!

と、ここまでの手順でようやく相手との通話ができるようになった。ちなみに通話が終了したときは、またあのハンドルを回して交換手に通話終了を知らせるらしい。交換手の人はそれを見てプラグを抜く。これでようやく一通りの手順が終了となる。
(細部は省略したので、気になる方は『電力技術者用 電話学』の本をチェック!)

昔の電話を現代向けにアレンジする

さて、調べているうちに昔の電話についてやたらと詳しくなってしまった。かなり味わい深い世界が広がっていた磁石式電話機――これを何とか、現代でも使えるようにはできないだろうか。

そう思って用意したのが、こちらの材料。
木の箱、ベル、ステンレス皿、懐中電灯。これからコロ助でも作るのかというようなラインナップ
木の箱、ベル、ステンレス皿、懐中電灯。これからコロ助でも作るのかというようなラインナップ
もちろんそれだけではなくて、電子部品もある。肝になるのは「konashi」という、マイコン搭載の通信モジュール。これを使うと、Bluetooth経由でiPhoneと連動するガジェットが簡単に作れる
もちろんそれだけではなくて、電子部品もある。肝になるのは「konashi」という、マイコン搭載の通信モジュール。これを使うと、Bluetooth経由でiPhoneと連動するガジェットが簡単に作れる
昔の電話に比べると、随分と遠いところへ来てしまった気がする。100年も経つと、かくも技術は進化するのだなぁ、としみじみ思うものなり。

交換手とのやりとりを再現するハンドルをつくる

磁石式電話機では、ハンドルを回すと電気が発生し、それで交換手を呼出す仕組みであった。それを真似して、ハンドルを回すと電話がかかるようにしたい。
発電機は、タミヤの工作キットに付いてるものを流用
発電機は、タミヤの工作キットに付いてるものを流用
ハンドルを回すと最大で1.5V程度の電圧が発生するので、それをkonashiで検知して、Bluetooth経由でiPhoneに知らせる。それをトリガーにして、自動で電話をかけるようにアプリを作った
ハンドルを回すと最大で1.5V程度の電圧が発生するので、それをkonashiで検知して、Bluetooth経由でiPhoneに知らせる。それをトリガーにして、自動で電話をかけるようにアプリを作った
本当はハンドルを回すと交換手につながって欲しいけど、さすがに現代では不可能……と思っていたら、NTTのサービスで「100番通話」というのを見つけた。

100番に電話すると、交換手ならぬオペレータにつながる。そこで相手先の電話番号を口頭で伝えると、電話を繋いでくれるというのだ。さっぱり存在意義が分からないけれど、なんてピッタリなサービスなんだ! って感動したのもつかの間、昨年の7月でサービスが終了していた。つくづく無念である。

仕方がないので、無難に117番の時報につながるようにしてみた。

着信を知らせるベルをつくる

もちろん着信があったときにはベルを鳴らしたい。
ベルを鳴らすには叩き棒を小刻みに震わせる必要があって、オリジナルの磁石式電話機では、それを電磁石で実現していた。

ただ、磁石で棒を動かす機構を作るのは結構面倒なので、今回は文明の利器、サーボモータを使うことにする。
サーボモータは、回転を自由に制御できるモータ。小刻みに回転の方向を変えることで、
サーボモータは、回転を自由に制御できるモータ。小刻みに回転の方向を変えることで、ベル叩き棒の動きを再現した
iPhoneに着信が入るとkonashiに通知し、それをトリガーにしてサーボモータを動かしてベルを叩く。実際に鳴るとかなりうるさく、妻から何回も「やかましい」と苦情がきた
iPhoneに着信が入るとkonashiに通知し、それをトリガーにしてサーボモータを動かしてベルを叩く。実際に鳴るとかなりうるさく、妻から何回も「やかましい」と苦情がきた
最後に、懐中電灯を改造して作った受話器にイヤホンマイク(これもBluetoothでiPhoneにつなぐため、トランシーバに接続)を仕込み、
最後に、懐中電灯を改造して作った受話器にイヤホンマイク(これもBluetoothでiPhoneにつなぐため、トランシーバに接続)を仕込み、
組み上がった電話機を壁に掛ける。これで昔の電話風iPhone用ガジェットの完成!
組み上がった電話機を壁に掛ける。これで昔の電話風iPhone用ガジェットの完成!
内蔵部分。モバイルバッテリで駆動するので、携帯することも可能
内蔵部分。モバイルバッテリで駆動するので、携帯することも可能

昔の電話を使って電話する

私も本物の磁石式電話機なんて使ったことはないので、自作の電話とはいえ、これが初体験となる。
ハンドルを回す。ジジジジジジ……
ハンドルを回す。ジジジジジジ……
iPhoneが動いて勝手に電話がかかった!
iPhoneが動いて勝手に電話がかかった!
受話器から時報が聞こえる。ああ、昔の人もこうして電話していたのだなぁ
受話器から時報が聞こえる。ああ、昔の人もこうして電話していたのだなぁ
ちなみに受話器はこんな風に使う。写真の雰囲気も昔っぽくしてみたけど、iPhoneがあるせいか全く昔に見えない
ちなみに受話器はこんな風に使う。写真の雰囲気も昔っぽくしてみたけど、iPhoneがあるせいか全く昔に見えない
ただ、時報相手にかけても会話ができないことに気付いたため、電話先を妻の携帯に変えて再度発信して会話してみる。ちなみに送話器は電話機の口にあたる部分なので、会話をするときは電話機と向き合って話をすることになる。
「もしもーし」 あ、もしかして電話機が顔みたいになってるのって、人と向き合って話してる感じを出すためとか!? (真偽のほどは分からない)
「もしもーし」 あ、もしかして電話機が顔みたいになってるのって、人と向き合って話してる感じを出すためとか!? (真偽のほどは分からない)
せっかく携帯できるように作ったので、外でも使ってみた。
未来にタイムスリップしてきた昔の人がいたらこんな感じだろうか
未来にタイムスリップしてきた昔の人がいたらこんな感じだろうか
以上、昔の電話でした
以上、昔の電話でした
参考文献:
1. 電機学校編、1927年、『電力技術者用 電話学』、電機学校
2. 1947年、『日立電話』、日立製作所

実は当初、ベルは電磁石で鳴らそうと思って、せっせと銅線を巻いていた。巻いてる途中に銅線がからまったりしつつ、泣きながら3時間かかって巻き終えて、無事に磁石になるのを確認。

結局、これでベルを鳴らすには至らなかったのだけれど、理科の実験みたいで楽しかった。こういう原初的な工作の喜びも大事にしていきたい。
クリップが電磁石の力で宙に浮く。小学校でこういうのやった気がする
クリップが電磁石の力で宙に浮く。小学校でこういうのやった気がする
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