特集 2016年3月20日

書き出し小説大賞・第94回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説単行本第二弾の編集作業がはじまっている。前回もそうだったが掲載作を選ぶ作業ほど辛いものはない。毎回600通以上届く作品から厳選した秀作を、断腸の思いでさらに厳選する。もちろん個人的好みだけでははく、全体のバランスも考え、編集さんの意見も取り入れ、選んでは読み直し、読み直しては入れ替える作業が果てしなく続く。こんな無間地獄になんとか耐えられるのは、もちろん何度読み直しても鑑賞に堪える作品があるからである。今回も粒がそろい過ぎてもうグロテスクな域に達した一冊になる予定である。楽しみにお待ちいただきたい。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

2軍の円陣は美しかった。
ヘリコプター
雨の直前だけ、台所に電車の音が届く。
井沢
たらこスパゲティ考えたやつ天才だなとか思いながら夕焼けを見ていた。
プレミアムバザー高田
フードプロセッサーを得た母はマッドサイエンティストと化した。
たこフェリー
彩度の低い部屋でグリンピースが目立っている。
ウチボリ
味噌汁が隣家まで滑っていった。
くのゐち
はめ直した網戸がゆっくりと倒れていく。
TOKUNAGA
私は、とにかくグルテングルテンした子供だった。
にら将軍ハルナ
少女は無邪気に質問を続け、わたしは粉々になってゆく。
xissa
約束をしなかった私だけが、その約束を覚えていた。
NanaAkua
帰りが遅かった夫から、鉄棒の匂いがする。
偶数の指達
バスの補助席で苦笑いしながら、回ってきた飴をつまんだ。
茂具田
前妻が打った麺に後妻の餡が降り注いだ。
流し目髑髏
ダイヤを飲み込んだ豚が鷹に拐われて追いかけたいけど妻の不倫相手が現れるし家は火事だしテレビをつければ父が立てこもっている。
正夢の3人目
自転車通勤に変えて、わずかな勾配に気づいた。
TOKUNAGA
自供しながら、パン粉をまぶす手は休めない。
義ん母
我が家にも新しい土佐ドッグが届いた。
ぬけさく
急行が待ち合わせ場所に着いたとき、すでに各駅は出発したあとだった。
東ことり
都内の県人会で事務を五年やってた、油屋の娘っ子、火星人にさらわれたって聞いた。
ボーフラ
ヘリコプター氏「2軍の~」不良の生徒たちが甲子園を目指す話より、2軍の円陣について語れる物語の方が私は好きだ。たこフェリー氏「フードプロセッサー~」「買った」ではなく「得た」にしたことでぐんと勢いが出た。できた健康ジュースは明らかに体に悪そう。TOKUNAGA氏「はめ直した~」書き出し小説にはなぜか網戸ネタが多い。網戸モノに新たな名作が加わった。NanaAkua氏「約束しなかった~」よくあることだし的を射た真実。この「私」のようなタイプが作家に向いているんだと思う。正夢の3人目氏「ダイヤを~」この作品のような「思いつく限りのダメダメな状況」を考えるのは、創作のいい訓練になると思う。正夢氏の「ダメダメ状況」はかなりポップだ。ぬけさく氏「我が家~」なぜ土佐犬を土佐ドッグにしたのか、ただそれだけのヒネリで世界はねじれる。東ことり氏「急行~」これも地味ながらまったくダメダメな状況だ。

続いては規定部門。今回のモチーフは「ライバル」であった。書き出し作家たちの火花散る競作をご覧あれ。

規定部門・モチーフ「ライバル」

ヤツの合格も願ってやった。
大伴
家族ぐるみで張り合っている。
紀野珍
お前は一万人を熱狂させ、俺は十万人の足に影響を与えた。
マークパン助
あの日の亀の顔を、兎は一日たりとも忘れた事は無かった。
尻炉
佐々木小次郎がスマホをいじり始めた。背後の草むらから通知音が鳴った。
もずく酢
魔王と同じ人を好きになりました。
東ことり
ライバルの十五人の扶養家族の見守る中、決勝戦は始まった。
あつし
予知能力者同士の戦いは一瞬だ。
morin
もう出ないと思った歯磨き粉を、あいつはもう一回使う。
morin
「向こうはライバルだなんて思ってないっすよ」ブロッコリーについて語るカリフラワーはどこか照れ臭そうでもあった。
Mch
「俺の方がほお袋いっぱい入るし、回し車も速く回せる」
prefab
狩った数では負けたが、全体的に俺のイチゴの方がよく熟している。
くのゐち
ピンク!?じゃあ俺はショッキングピンクで。
TOKUNAGA
主役であるオレよりもライバルのアイツが人気者になるまでは我慢できなくも無い。ただ、オレが納得いかんのは新たにアイツのライバルが登場するという事だ。
伊東和彦
母は直木賞作家と芥川賞作家をライバル関係に思っている。
ミミズグチュグチュ
「悪い子は俺だ」
「いいや、俺の方が悪い子だ」
「いねが……」
suzukishika
自分のライバルは自分と豪語する男が、ひなたでクリームあんみつを食べていた。
松っこ
かれこれ二十年近く、おたがいにパッとしない。
紀野珍
浄法寺と津軽の漆器文化は、同じ東北にありながら決して相容れることなく、ひそかに対立しているのかもしれない。
七々子
こんなに辛いなら後続の精子に譲ればよかった。
義ん母
味で勝てないからロゴと制服を似せた。
ウチボリ
俺の方が季節感がない。
ヘリコプター
長生きする、というやっつけ方もある。
xissa
大伴氏「ヤツの合格も~」いきなりかっこいい秀作が出た。志望校の偏差値次第だが。マークパン助氏「お前は~」こういう勝ち方もあるのかと感心&同情。尻炉氏ともずく酢氏、ライバルものには欠かせない名作をうまくパロっている。morin氏「予知能力~」剣豪同士の間合いのような緊張感ある秀作。morin氏はもう一本もいい。Mch氏とprefab氏。野菜とハムスター。思わず頬が緩む可愛い作品。くのゐち氏、TOKUNAGA氏、争いはレベルが低いほど面白い。伊東和彦氏「主役で~」結局本筋から追いやられる形になった主人公。飲み屋でヒーローに絡まれている気持ちで読んだ。suzukishika氏「悪い子は~」これ、モンスターエンジンの神コントの口調が合う気がする。紀野珍氏「かれこれ~」これはちゃんと中年になった男にしか書けない秀作。七々子氏「浄法寺と~」冒頭で比される馴染みのないキーワード、いきなり本題に入る感じ、これからなにが語られるのか非常に気になる書き出し。ウチボリ氏「味で~」哀しすぎる!xissa氏「長生き~」やっつけ方という言い方がかわいい。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
拷問
捕らわれた人物が、敵の責め苦にあいながら自白を強要されるシーンは、ドラマの中でもっとも分かりやすいサービスシーンではないだろうか。次回はそんな、みんなが大好きは拷問をモチーフにします。拷問には古今東西いろんな方法がある。メジャーな拷問を題材にしてもいいし、オリジナルの拷問を考えるのも楽しい。肉体的にいくか、精神的にいくか、もちろん責める側、受ける側の選択も大きなポイントだ。加虐と被虐のせめぎ合い、もっとも葛藤が現れる場面はそれだけドラマも笑いも生まれやすい。どんな拷問を受けられるか楽しみです。

締め切りは4月1日正午、発表は4月3日を予定。下記の投稿フォームから自由、規定部門を選択して送って欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者
五捨六入/ビールおかわり/小夜子/君と僕と雨/いがそ君/わかるだろ、ソバ食ってんだよ/polo107/不眠/嶋夏子/チチカステナン号/TL125/muddom/トミ子/よしくん/くーみん/菅原 aka $UZY/
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