特集 2016年4月3日

書き出し小説大賞・第95回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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花見シーズン到来である。ところで桜を観察すると、枝に咲かず幹のところにチョロと咲く花がある。調べるとアレは「胴吹き」といい可憐で健気なものとされているらしい。が、私にはアレが苛ついてしょうがない。なにかそり残した毛のような、首筋のイボのような、とにかく見ていると腕のあたりが痒くなり、思いっきり擦り落としたなってしまう。ならば見なければいいのだが、そういうものに限って目が行ってしまうのも人の性で……ひょっとすれば敢えて苛つくのも、ひとつの愛でかたなのかもしれない。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう。

書き出し自由部門

この木も桜だったのか。
ぴすとる
そう、いつだって鮭フレークはこんなふうに余る。
哲ロマ
タトゥーは旧姓で入っていた。
suzukishika
鎖帷子が揺れるたび私の乳首を刺激する。
g-udon
背中合わせで歩み始めたガンマンたちは振り返ることなく、各自帰宅した。
茂具田
天動説は今も賭けの対象で、そのオッズは一億倍を超えている。
ら+
自転車を起こす俺を隣家の犬が見つめていた。
TOKUNAGA
波が盤上の駒をさらっていく。
偶数の指達
もう決して戻ってこないであろう敷金の分だけ騒ぐことにした。
ロサンゼルス
他人の子供と痔は、いつのまにか大きくなっている。
伊勢崎おかめ
懐かしい景色のど真ん中を猪が突っ走ってくる。
正夢の3人目
ぼくがまだ駆け出しのミツバチだった頃、君はもう庭に咲いていた。
すらびぃくろべく
ヒーローたちの利害は複雑に絡み合っていた。
Mch
飽きないゲームがほしい。
xissa
主治医が先に死んだ。
義ん母
言い訳を考える度、焼畑が頭をよぎる。
偶数の指達
三面鏡の前で、饅頭が燃えている。
正夢の3人目
背中に生えた鱗を剥がしてやると彼らはようやく乳を出す。
小夜子
わかるだろ、ソバ食ってんだよ。
わかるだろ、ソバ食ってんだよ

ぴすとる氏「この木も~」冬の桜はガサついた樹皮と瘤だらけの幹がなんとも不気味だ。そのぶん満開の桜がもてはやされるのは所謂「ギャップ萌え」というヤツかもしれない。g-udon氏「鎖帷子が~」海外のファッションショーを見るとスーパーモデルたちが乳首の透けた服で颯爽と歩いている。あんな感じで鎖帷子も着こなして欲しい。TOKUNAGA氏「自転車を起こす~」常連TOKUNAGA氏の作品は渋さを通り越し「枯れ」の境地へ向かっている。伊勢崎おかめ氏「他人の子供~」つづきはイボ痔が人格を持つストーリー展開を期待。偶数の指達氏「言い訳~」焼畑のリセット感は言い訳前のまっしろな頭の中に似ているのかもしれない。正夢の3人目「三面鏡の~」なんだろうこのバカバカしいシュールさは。わかるだろ、ソバ食ってんだよ氏「わかるだろ、ソバ食ってんだよ」前号で最終選考まで残った氏が、今回ペンネームとまったく同じ作品でデビューを飾りました!

つづいは規定部門、今回のモチーフは「拷問」でした。読む拷問に悶絶してください。

規定部門 モチーフ「拷問」

まずは自分で試すことにしている。
紀野珍
二人羽織でずっと鍋焼きうどんを食べさせられている。
ウチボリ
岩盤浴は三日三晩つづいた。
東ことり
柱に縛られ孫と遊べない。
桃アパートおばけ
レゴの上で暮らしている。
ヘリコプター
顔を固定され、フランダースの犬の最終回を何度も見せられた。
書き出し小説94
盛り上がってきたところで次の巻を取り上げられた。
TOKUNAGA
これからイナバウアーの女が小指の上を通過する。
ろっさん
紹介しよう。今日からお前の拷問を担当する「すごいバカ」だ。
正夢の3人目
鞭でぶたれるたびに、姿勢も血流も良くなり、どんどん健康になっていく。
ねもっ血風クン
本当に何も知らないんだろうなあ。そう思いながら、俺は続けていた。
尻炉
情報を引き出せなければ同じ目に遭う私にしてみれば、嫌なら口を割れば済むこの男がむしろうらやましかった。
Mch
君が持つと、美顔ローラーでさえ拷問の道具に見えてくるから不思議だ。
タクタクさん
9回目の拷問で漸く、ポイントカードの半分が溜まった。
あつし
拷問も19問目となると逆に懐石を食わせ出したりする。
井沢
新作拷問と古典拷問が選べた。
紀野珍
※この拷問は専門家の指導のもと適切な方法で行われています。
Mch
「理由があるだけましだ。」塩をかけられたナメクジはそう思った。
ビールおかわり
全ての「やり過ぎ」は、拷問に成り得る。
尻炉
しゃべる奴は、ささくれを引っ張るだけでしゃべるもんだ。
瀬高矢尚
「思い出しのお手伝い」と少女のように澄んだ瞳の係官は言った。
空想庭園
罰は快感になり、罪は増え続ける。
トミ子
天国でさえ、それはありました。
ボーフラ
尻文字で自白した。
伊勢崎おかめ
拷問の感想をアンケート形式で書かされた。
流し目髑髏

拷問アイデア部門はウチボリ氏「二人羽織~」東ことり氏の「岩盤浴~」桃アパートおばけ氏「柱に~」など。ヘリコプター氏の「レゴの上~」もじわじわ来るナイス拷問。ろっさん氏「これからイナバウワー」は実際の拷問よりこの宣告が恐い気がする。正夢の3人目氏「紹介しょう」読後の絶望感たるや。タクタクさん「君が持つと~」たぶんSMの女王様が美顔ローラーを持ってもそうは見えないだろう。拷問とSプレイの微妙な差異が出た作品。紀野珍氏「新作拷問~」詳しく知りたい(笑)Mch氏「※この拷問は~」入れといた方がいいテロップ。尻炉氏「全ての~」瀬高矢尚氏「しゃべる奴は~」ベテラン拷問師の名言っぽい。空想庭園氏「思い出しのお手伝い」言われてみればたしかに。拷問をこれほど可愛く変換できるとは、脱帽。流し目髑髏氏「拷問の感想~」自白と感想は別?

それでは次回にモチーフを発表する。
次回モチーフ
イケメン
次回のモチーフはいまさら「イケメン」である。いわゆる美男子の意味だが、イケメンという言葉の響きには独特の薄っぺらさというか、頭の悪さがあるように思う、のは私だけだろうか。ともあれ世間的にはしっかり定着した言葉だし、世代ごとにその印象も違うと思う。憧れの対象として捉えるもよし、ねたみの標的ととらえるもよし、君なりのイケメンをねつ造してくれ! 締め切りは4月15日発表は4月17日を予定している。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門と選択して送って欲しい。力作待ってます!

最終選考通過者

muddom/ケロック/ベルサイユ製麺/ウチボリ/まじいい/もずく酢/八王寺義昭/kesuke/伝説のナニワ/五捨六入/グラマタ/無気力ダンス/ととこ0016/いがそ君/えむ毛/よしおう/おとぎ坊主/
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