特集 2016年6月16日

体が硬い人アクションフィギュアを作りました

「どうも、ぼくです」
「どうも、ぼくです」
アクションフィギュアという、関節が曲がるタイプの人形がすごい。本物の人間のように自然でしなやかなポーズが自由自在だ。

でも世の中、体が柔らかくない「本物の人間」もいるだろう。

ぼくは体が硬い。ぼくのアクションフィギュアを作ったらどうなるだろう。体が硬い人用アクションフィギュアである。
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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最近のフィギュアはすごい

先日、ふと訪れた店に展示されていたアクションフィギュアをまじまじと眺めて、とにかくいろいろなポーズが自然にできているのに驚いた。

プラスチックか何かでできているわけで、ようするに全部骨みたいなものだ。それがこうもしなやかに動くとは。
腕を組んだり、脚を折り曲げてジャンプなんて余裕。
腕を組んだり、脚を折り曲げてジャンプなんて余裕。
フィギュアになっているのはだいたいアニメやゲームの登場人物だ。これなら作中のポーズを再現したり、妄想した場面を現実化することができるだろう。

いかにも人形、という感じがまったくない。モチーフはフィクションでも、存在感に矛盾がない。いわば、リアルである。

最近はこうなのかー、と昔のことを知らずに感心してしまう。
帰って調べてみた。あぐらかいてるのもある。う~ん、リアル……。
帰って調べてみた。あぐらかいてるのもある。う~ん、リアル……。

いろいろなフィギュアを見ていて、つい考えてしまうのはぼくのフィギュアがあったらどうなるだろう、ということだ。

自分のフィギュアがあったらこんな風にリアルになったらいいなあ……。

いや、問題があった。

ぼくは前屈ができない

ぼくは体が硬いのである。

山田詠美の小説「ぼくは勉強ができない」みたいな感じで言うと、「ぼくは前屈ができない」。

実際やってみるとこうなる。
これを前屈と言っていいのだろうか。直角である。
これを前屈と言っていいのだろうか。直角である。
自分でこの写真を見ながら「いや、もっと行けるだろ!」と思うが、実際、行かなかった。やる気のない動物に見えるが、そうではない。

後ろから押してもらったらもう少しくらい行くかもしれないが、痛みもすごい。お断りである。
16:9にぴったりおさまるはずかしさ
16:9にぴったりおさまるはずかしさ
足を開くとこの状態で手を離すのがむずかしくなるレベル
足を開くとこの状態で手を離すのがむずかしくなるレベル
先程見てきた最近のフィギュアより圧倒的に体が硬い。フィギュアよりリアルさのない人間である。

一般的にアクションフィギュアにおいて可動域が狭いことはマイナス評価だろう。

Amazonで、フィギュアのレビューを見ると「思ったより可動域が狭く、期待はずれでした」みたいな感想がある。そういう人が僕を見たら星2とか付けられそうだ。

いや、これがぼくのリアルなのだが。
自分をフィギュアにするならこういうタイプのほうが親近感がある
自分をフィギュアにするならこういうタイプのほうが親近感がある

ヒザもおかしい

体が硬い説明はまだ終わらない。前屈のときの硬さもあるが、ヒザだけとってみてもこれまた硬いのである。

どういうことか。
ヒザを持ち上げた状態から足を伸ばそうとする。
ヒザを持ち上げた状態から足を伸ばそうとする。
ここまでしかいかない。
ここまでしかいかない。
こちらも「もっと行けるだろ!」と思うが、行かない。

説明すると、ヒザ裏のところにある筋みたいなのが発達していて、それが邪魔する感じだ。
はじめからヒザを伸ばした状態で足をあげると……。
はじめからヒザを伸ばした状態で足をあげると……。
結構いける!と言おうとしたのだが胴体の方がインチキしてる感じがあるな。
結構いける!と言おうとしたのだが胴体の方がインチキしてる感じがあるな。
長々と説明したわけだが、これがぼくのフィギュアをつくるときの「リアル」の前提となる。可動域が広くてしなやかに動くだけが人間らしさではないのだ。

もちろんぼくがストレッチで体を柔らかくしてフィギュアの可動域に合わせようとするなんていうのは、尊厳に関わるのでやらない。

デッサン人形を素体にする

それではぼくを含む体が硬い人の「リアル」を追求するフィギュアを作っていこうと思う。

体が硬い人間のフィギュアを作るので、もともと体が硬いデッサン人形を素体にすることにした。
デッサン人形。動かし方が慣れないのでちょっと物語るポーズになってしまった。
デッサン人形。動かし方が慣れないのでちょっと物語るポーズになってしまった。
このデッサン人形、そもそもけっこう硬いので親近感がわく。

前屈をさせてもこのような様子である。
さきほどのぼくを思い出してください。リアルでしょう。
さきほどのぼくを思い出してください。リアルでしょう。
最近のフィギュアだったらもっとペタ~っとなるろう。対してデッサン人形はもともとぼくと同じレベルだった。いいぞ。

これを見て「可動域が狭い! 低品質だ!」と文句をいう人は、同時に僕が傷つけていることになる。

ここからどんどんぼくらしいリアルさを追求していく。
ヒザが前方向に曲がるとか、もともとありえない動きの部分はくさびを打って止めた。
ヒザが前方向に曲がるとか、もともとありえない動きの部分はくさびを打って止めた。
ぼくは役作りで学ランを着ることがたまにあるので、体はこのように。
ぼくは役作りで学ランを着ることがたまにあるので、体はこのように。
頭をかぶせる。
頭をかぶせる。
頭をかぶせて、だいたい完成。しかし、このままでは色を塗って頭かぶせただけの、ただの何の変哲もない人形だと言われかねない。

体が硬い人(ぼく)のリアルさを追求するギミックがこれだ。
この糸がキモ。
この糸がキモ。
ヒザをのばそうとしても、糸がつっかえてのびない
ヒザをのばそうとしても、糸がつっかえてのびない
動かしながら、「リアル!」と思った。 自分にもこの糸ついてんじゃないの? それほどのシンパシーを感じる。

ちなみに直立時におしりにかかってる糸を側面にずらしておくと、まっすぐキックできる。
このピンと張った感じも思い当たる
このピンと張った感じも思い当たる
ふつうに立たせてる分にはまったくリアルでもないが、ひざをビーンとさせたときにだけリアル感が増す、そういうタイプのアクションフィギュアである。
体硬い人リアルフィギュア完成
体硬い人リアルフィギュア完成
全体的に一挙手一投足がぎこちないが、自分自身こうなってることがあるのでひどいことは言えない
全体的に一挙手一投足がぎこちないが、自分自身こうなってることがあるのでひどいことは言えない

フィギュアで遊ぼう

せっかくなので遊ぼう。
「藤原、満漢全席って食べたことある?あれ食べたことある人ほとんどいないよね」
「藤原、満漢全席って食べたことある? あれ食べたことある人ほとんどいないよね」
「あるぜ、ありすぎてもう飽きたって感じだけどな」
「あるぜ、ありすぎてもう飽きたって感じだけどな」
「満漢全席を飽きるほどなんて、お金持ちだな~」
「満漢全席を飽きるほどなんて、お金持ちだな~」
「ああ、うちの親父、満漢全席工場のオーナーだからぜんぜん大丈夫」
「ああ、うちの親父、満漢全席工場のオーナーだからぜんぜん大丈夫」
「うそつくな! 満漢全席は工場で作るものじゃあない!」
「うそつくな! 満漢全席は工場で作るものじゃあない!」
 「てへぺろー」
「てへぺろー」
「こら、授業始めるぞ。席につけ!」
「こら、授業始めるぞ。席につけ!」
ひざ
ひざ
ビーン!
ビーン!
~おわり~
~おわり~

フィギュアの世界も進化しているのだろう。そして進化は基本的に矛盾のない可動域の広さ、つまり自然な体の柔らかさの方向に向かっていると思う。

それに対する現場からの意見として、「ひざビーンシステム」を開発した。このすばらしさがわかるだろうか。わからない人は満たされた人なのかもしれない。その幸せを改めて噛みしめてほしい。折にふれて。

ただこの体が硬い人アクションフィギュア、どうしても遊ぶときに気を使うの。フィギュア界が新たなるエピステーメーを導入する日はまだ遠い。
ダブルひざビーン。
ダブルひざビーン。
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