特集 2016年6月18日

店内で居酒屋をやっている本屋が京都にある

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京都の南区には、お酒が飲める本屋さんがある。

それは下北沢の『B&B』や心斎橋の『スタンダードブックストア』のような、いわゆる「飲める本屋」と呼ばれるオシャレなお店ではなく、個人経営の小さな書店。

ネット通販や大型書店の広まりによって、激減したお店の売上を補填するため居酒屋営業をはじめたという。

京都の酒飲みにじわじわと話題になっているらしく、実際に行ってみた。
京都の編集プロダクション、合同会社バンクトゥで編集・ライターをしています。大学時代のあだ名が通称に。だいたい毎日飲んでばっかりの日々を邁進し、夢はスナックのママ。


> 個人サイト おかんの人生飲んだくれ日記

本屋×居酒屋なハイブリッド店舗

くだんの本屋「遠藤書店」は、京都駅から地下鉄で一駅。九条駅から歩いて5分ほどの場所にある。
「BOOKS ENDO」の看板はトレンディなフォント
「BOOKS ENDO」の看板はトレンディなフォント
最寄りは九条駅だが、京都駅からでも徒歩10分程度なので、京都駅からのんびり歩いていくのが個人的にはオススメだ。

画像の右手奥に光るのが京都駅、つまり近い。

酒場の看板、雑誌の棚、自販機のライト、そして提灯がブラリ。この雑多なハイブリッドさ、良酒場のにおいがプンプンする。

手づくりの居酒屋スペース

DIY感あふれる店内。節約のため、手づくりで飲食スペースをこしらえたらしい。
DIY感あふれる店内。節約のため、手づくりで飲食スペースをこしらえたらしい。
入ってビックリ、意外と広い。いや、もちろん居酒屋としては狭いんだけど。何てったって本屋だし。

コンビニの4割くらいのスペースくらいだろうか。

店内はテーブル席がふたつと、壁の両側に立ち飲みカウンター。素朴な木の質感がなんとも心地よい。いかにもハンドメイドって感じだ。この日は常連さんらしき人たちが仕事の話でもりあがっていた。

仕事の話といっても和やかなムード。この空気もいかにもハンドメイドって感じだ。

書店で飲むというと、てっきりこぢんまりしたスペースしかないものだと思っていたけれど。
入り口すぐ左のスペースには古本の棚。反対側には雑誌の棚がある。
入り口すぐ左のスペースには古本の棚。反対側には雑誌の棚がある。
聞けば、居酒屋営業をはじめてから、本業のほうの本屋は配達が中心になっているそうだ。店内に置いてあるのは、雑誌が数十種類と、文庫の古本などが中心。

書店は仕入れれば仕入れるだけ、請求をするまでは一旦その本の金額を立て替えないといけない。

さらに売れ残った本を返品するときの費用は実費らしいので、思い切ってお店に置く本を減らすというのは正しい判断なのかもなぁ。

リーズナブルすぎてビビる

いいちこのグラスで生ビール。
いいちこのグラスで生ビール。
席に座ると、遠藤さんが丁寧にコースターを出してくれる。この丁寧な接客がいい酒場感であり、でもビールグラスはいいちこだった。そのへんはすごく家っぽくて違和感がある。でもこのチグハグなギャップが面白い。

常連さんグループの席に相席して、とりあえずのビールを注文。ドリンクメニューはレジの後ろに短冊状のメニューがある。
瓶ビール380円、角ハイが250円。安い、安すぎる。
瓶ビール380円、角ハイが250円。安い、安すぎる。
いいちこの水割りなんて200円だ。ちょっと信じられない。

短冊状のメニュー、最初はちゃんとメニュー用の紙を使っていたのだろうが、途中で増えた分のお酒が普通の白い紙になっているところが味があっていい。
メガジョッキなる巨大なビールもある。これも700円と格安。
メガジョッキなる巨大なビールもある。これも700円と格安。
朗らかな笑顔でハイボールをつくっているけど、そんなに安くて大丈夫なのか。
朗らかな笑顔でハイボールをつくっているけど、そんなに安くて大丈夫なのか。
気がつくと謎の男性がしれっと登場。

フッと現れてビールケースを片づけはじめたので、最初「酒屋さんかな」と思ったが、おもむろにサーバーからビールをついだので頭が混乱する。

「誰なんですか」
「酒屋、酒屋!」
「絶対ちゃうやん、だって笑ってるもん!」
正体は遠藤さんのお姉さんの会社で働く従業員さんだった。ほら見ろやっぱり酒屋じゃなかったやないか!
正体は遠藤さんのお姉さんの会社で働く従業員さんだった。ほら見ろやっぱり酒屋じゃなかったやないか!
一瞬、最近の酒屋はお店を手伝ってくれるの……?と、お店の気さくさにあてられて勘違いを起こしそうになった。

ここでは家族や仕事仲間ぐるみでお店を切り盛りしていて、普段お店に立っているのは、遠藤さんとお兄さん。さらにこうしてピンチヒッターが駆けつけ、そのうえお店が繁盛してくると、常連さんが自分で料理を運んだり、テーブルを片づけたりするそうだ。

もはやアットホームさを通り越して、家のリビングで飲んでいるよう。ゆるく心地のよい雰囲気が店内に流れていて酒が進む。ついつい椅子のうえで体育座りをしそうになった。

嗚呼、素晴らしきせんべろ

よ~く味が染みたおでんに、コンビニスタイルのからしをつけていただく。こういうのが業務用で売ってるんだろうか。
よ~く味が染みたおでんに、コンビニスタイルのからしをつけていただく。こういうのが業務用で売ってるんだろうか。
開店当初からあるおでんと串カツは、お店の看板メニュー。どちらも300円台と格安ながら、手づくりにこだわってつくられている。

というか、ほぼ店内も料理も全部手づくりなんだよね。
おでんはテーブルと厨房の間のホットプレート内に鎮座。DIYでつくったから完璧なサイズでスフォッ……と収まっている。
おでんはテーブルと厨房の間のホットプレート内に鎮座。DIYでつくったから完璧なサイズでスフォッ……と収まっている。
たこわさや玉子焼きなどの鉄板メニューの他にも、砂ズリのにんにくバター炒めやら、カマンベール(チーズ)フライなんて変り種もあり、メニューは常時約50種類ほどがそろう。

ちょっと前まで本屋さん専業だったおじさんふたりが、これほど豊富なメニューをつくりこなしているとは。超ハイスペックおじさんだ。
串カツは5本でたったの350円。文庫本1冊以下。
串カツは5本でたったの350円。文庫本1冊以下。
ウスター、特製、辛、激辛。ソースが充実している。
ウスター、特製、辛、激辛。ソースが充実している。
ソース文化の関西ながら、このソースの多さはなんだ。普通こんなに種類はない。せいぜい甘口と辛口の2種類くらいだろう。

お客さんの好みに応じてどの角度からも玉を打ち返してくれる、スーパーバッターのような心遣いだ。
1本あたり驚異の70円。関西風の薄い衣で美味!
1本あたり驚異の70円。関西風の薄い衣で美味!
1本70円だけど、牛や海老などのメイン級もちゃんと入っている。

せんべろ酒場として最高の心地よさとおトクさ。どれだけポテンシャルが高いんだ遠藤書店。1000円でも十分満足できるぞ。

謙虚すぎる経営方針

ちょっと休憩~と厨房に座った遠藤さんに話を聞いてみた。奥にいるのはお兄さん。
ちょっと休憩~と厨房に座った遠藤さんに話を聞いてみた。奥にいるのはお兄さん。
――そもそもどうして居酒屋をやろうと思ったんですか?

遠藤さん:お店の売上が落ちて、どうしようかと考えていたところに「料理が好きなら飲み屋をしたら」って知人がアイデアをくれてねえ。

――なるほど、全部手が込んでいておいしかったです。ただ、安すぎません?

遠藤さん:本って利益率が悪いんですよ。たとえば800円の本を売っても利益は2割……160円程度にしかならへん。

――本って仕入れたら売れたぶん総取りじゃないんだ。

遠藤さん:そうそう。そんな商売をずっとやってきたから、いざ飲み屋をやるとなっても、多めにお勘定取るなんてことはできへんねぇ。

――ええ~!売上の補填に居酒屋するなら、もうちょっと取ってもいいと思うよ~? お父さん~!

遠藤さん:はははははは!

謙虚かよ。
囲碁の碁盤が気になったので聞いてみると、なんとお兄さんはプロの囲碁棋士。しかも9段の有段者。
囲碁の碁盤が気になったので聞いてみると、なんとお兄さんはプロの囲碁棋士。しかも9段の有段者。
これはお客さんから教えてもらったのだが、お兄さんは「いやいや~」と謙遜の笑み。

9段って名人とか、終身名誉監督とか、生ける伝説とか、そんなんじゃないのか。

やっぱりハイスペックおじさんじゃないか。なんでそんなスゴイことを言わないんだろう。謙虚すぎやしないか。

開店から1年を経て

自慢話や愚痴など一切なく、今日も今日とて謙虚に明るく接客にいそしむ遠藤さん。
自慢話や愚痴など一切なく、今日も今日とて謙虚に明るく接客にいそしむ遠藤さん。
居酒屋営業をはじめて1年、リーズナブルな金額での営業ながら、全体的な売上は少し向上したんだそう。

なにより、閉店後の静かだった店内に人が集い、活気づいているのが嬉しいと話してくれた。
遠藤さんのお父さんのから続く本屋を守り続けるための居酒屋営業である
遠藤さんのお父さんのから続く本屋を守り続けるための居酒屋営業である
遠藤書店は飲めてもあくまで本屋。飲むだけじゃなく、せっかくなので古本を買った。

個人経営の書店がどんどんお店を畳んでいくなか、新しい挑戦を取り入れながらお店を続ける遠藤書店。

これからも長く続いてほしいと思う。
閉店まで飲んで、最後はライトを消しに来た遠藤さんがダブルピースサイン
閉店まで飲んで、最後はライトを消しに来た遠藤さんがダブルピースサイン

その後はお客さんたちと一緒にスナックに行って、ビールケースが埋まりそうな量をガブガブみんなで飲んだ。

この地で80年続く遠藤書店。お昼間の本屋業務は宅配が主のため店内の在庫はあまりありませんが、ぜひお取り寄せで本をご購入ください。

・取材先
遠藤書店(立ち飲みENDO)
075-691-8403
京都府京都市南区東九条北烏丸町33
16:00~23:00(LO22:30)
第二・三木曜はお休み
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