特集 2016年8月22日

京都・伏見の日本酒テーマパークで地酒に溺れる

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国内有数の日本酒の生産地である京都市・伏見区。全国2位の日本酒製造量を誇り、「月桂冠」や「松竹梅」など日本酒好きでなくても知っている銘柄も伏見の酒蔵から生まれている。

そんな酒どころの町に、17酒蔵のお酒を飲み比べできる施設が今春できたと聞き、足を運んでみた。

行ってみるとただの試飲スペースなどではなく、限定酒あり、屋台村あり、フェスあり……日本酒のテーマパークといっても過言ではない場所だったのだ。
京都の編集プロダクション、合同会社バンクトゥで編集・ライターをしています。大学時代のあだ名が通称に。だいたい毎日飲んでばっかりの日々を邁進し、夢はスナックのママ。

前の記事:店内で居酒屋をやっている本屋が京都にある

> 個人サイト おかんの人生飲んだくれ日記

伏見の商店街に直結している

最寄り駅は京阪電車「伏見桃山」駅。伏見といえば、あの伏見稲荷神社を思い受かべるかもしれないけれど、ここからはけっこう遠い。
最寄り駅は京阪電車「伏見桃山」駅。伏見といえば、あの伏見稲荷神社を思い受かべるかもしれないけれど、ここからはけっこう遠い。
京都の夏は厳しいとよく言われるけど、この日も本当に厳しかった。伏見桃山駅に到着し、電車を降りた瞬間ムワムワと粘っこい熱気が肌に張りついてきて、リュックを背負った背中がたちまち汗だくに……。

ああん、キンキンに冷やっこい冷酒が飲みたい。
駅の西側、アーケード街をまっすぐ進む。屋根がついているので、日射しを防御できるのがありがたいなぁ。
駅の西側、アーケード街をまっすぐ進む。屋根がついているので、日射しを防御できるのがありがたいなぁ。
アーケードを道なりに5分ほど進むと向かって左側に看板があった。
左を見れば、奥に続くと細い路地。
左を見れば、奥に続くと細い路地。
住宅地にどどーんと大きな建物が現れた。
住宅地にどどーんと大きな建物が現れた。
ずいぶん細っこい道にあるんやなぁと思っていたが、後から聞いたところ、この路地のほうは裏口らしい。本当はもう少し進んで左折した先のアーケードに正面玄関がある。

アーケードは両方向から人が行き来するので、迷わないように裏口側にも案内を設けているようだ。
とはいえ裏口もこんなに立派なつくりなんですけどね。
とはいえ裏口もこんなに立派なつくりなんですけどね。

屋台村と日本酒バーの融合施設「伏水酒蔵小路」

各酒蔵の酒瓶がズラズラズラー!
各酒蔵の酒瓶がズラズラズラー!
扉を開ければ長いカウンターにぎっしりと並ぶ日本酒!
今回お話を聞かせてもらった、マネージャーの林さん。すごく丁寧にお店を紹介してくれて、アグレッシブすぎて写真がブレた。
今回お話を聞かせてもらった、マネージャーの林さん。すごく丁寧にお店を紹介してくれて、アグレッシブすぎて写真がブレた。
お店に入ってすぐ出迎えてくれた。まずは林さんに案内してもらって、お店のなかを見てみよう。

おいしいものほど後にとっておくのだ……というのは建前で、飲んじゃうと酔っぱらって写真が撮れなくなっちゃうからだ。
本来の入り口はこちら。和風の居酒屋然とした雰囲気である。
本来の入り口はこちら。和風の居酒屋然とした雰囲気である。
入り口にあるフロアマップ。イベントスペースは屋根のみがついた半屋外型の立ち飲みカウンターになっている。
入り口にあるフロアマップ。イベントスペースは屋根のみがついた半屋外型の立ち飲みカウンターになっている。
ここ「伏水酒蔵小路」は、現在7店舗が入る、いわゆる屋台村なのだ。屋台村の一角に、酒蔵カウンターと称して伏見にある酒蔵の日本酒が楽しめるコーナーが設置されているという形。
ラインナップもさまざまな屋台村の顔ぶれ。串カツとおでん屋さんありーの。
ラインナップもさまざまな屋台村の顔ぶれ。串カツとおでん屋さんありーの。
うどん屋さんに、鉄板焼き屋、角を曲がればワインバルがありーの。
うどん屋さんに、鉄板焼き屋、角を曲がればワインバルがありーの。
肉吸いやもつ鍋などの鍋料理屋、その隣にはラーメン屋もありーの。ひとつの建物で〆まで堪能できる。動かなくても得られる幸せがここにある。
肉吸いやもつ鍋などの鍋料理屋、その隣にはラーメン屋もありーの。ひとつの建物で〆まで堪能できる。動かなくても得られる幸せがここにある。
小さなお店が立ち並ぶアーケード街のなかにある建物のなかに小さなお店が立ち並んでいる。マトリョーシカみたいだな。

ずいぶん広いとおもって林さんに聞いたところ、もともと肉屋とパチンコ屋だった建物の間にイベントスペースをつくるかたちで繋げてひとつの建物にしたそうだ。

幸せが17倍、いや17杯

美しい17酒蔵のエースたち。伏見酒蔵界のEXILEや!と思ったけど、調べたら現在メンバーは18人だった。惜しい!
美しい17酒蔵のエースたち。伏見酒蔵界のEXILEや!と思ったけど、調べたら現在メンバーは18人だった。惜しい!
いよいよ本日のメインイベント、伏見の日本酒飲み比べタイムなのである。恐怖を感じるほど暑いなかを歩き、店内を散策しているので飲みたい欲がMAX。

早く!早く酒を持ってきちくり~!
これが17種類の利き酒ができるセット「粋酔(KISSUI)」1700円
これが17種類の利き酒ができるセット「粋酔(KISSUI)」1700円
やってきたのは格子状の容器に整然と並べられた小さなグラスたち。50mlほどの小さなグラスになみなみと冷酒が注がれている。

各お酒のラインナップは以下の通りだ。文字にするとかなり壮観なので書き出してみただけなんだけど。これぞ声に出して読みたい日本酒、さあ、リピートアフターミー!

黄桜:黄桜 吟醸 12年貯蔵 秘蔵酒
齋藤酒造:英勲 純米酒
北川本家:富翁 大吟醸純米 吟の司
京姫酒造:京姫 山田錦 大吟醸 匠
キンシ正宗:キンシ正宗 金鶴正宗 純米大吟醸
東山酒造:坤滴 純米酒
月桂冠:月桂冠 にごり酒
招徳酒造:招徳 純米吟醸 花洛
城陽酒造:城陽 特別純米酒 祝
宝酒造:特選 松竹梅 大吟醸
松本酒造:純米吟醸 桃の滴
都鶴酒造:若鶴 山田錦 純米酒 極辛
玉乃光酒造:玉乃光 酒魂 純米吟醸
豊澤本店:豊祝 純米酒
増田徳兵衛門商店:月の桂 純米酒 抱腹絶倒
山本本家:松の翠 純米大吟醸 限定品
山本勘蔵商店:鷹取 特選本醸造
味の特徴が書かれたリストをもらえるので、説明を読みながら飲むと噛み砕くように味が理解できるぞ!酔っぱらってくると舌だけじゃ判断つかなくなるので助かる。
味の特徴が書かれたリストをもらえるので、説明を読みながら飲むと噛み砕くように味が理解できるぞ!酔っぱらってくると舌だけじゃ判断つかなくなるので助かる。
いざ実食!いや、実飲!
いざ実食!いや、実飲!
まず最初に飲んだのは、林さんが「ぜひはじめに!」とオススメしてもらった増田徳兵衛門商店の「月の桂 抱腹絶倒」。これがめちゃくちゃフルーティーで白ワインのような芳醇な甘みと香り。

食前酒にぴったりな一杯を喉に放りこみ、合間合間に和らぎ水で舌をリセットする。
和らぎ水とはいわゆるチェイサー。この水も酒蔵で使用している湧き水なんだそう。湧き水も日によって種類が変わるらしい。まろやかでおいしい。
和らぎ水とはいわゆるチェイサー。この水も酒蔵で使用している湧き水なんだそう。湧き水も日によって種類が変わるらしい。まろやかでおいしい。
一杯が少しずつなので、気をつけないとピッチが早くなるし、日本酒の波状攻撃に気をつけないと頬がゆるむ。
肴に炙り焼きのセットも用意してもらった。旬の海鮮炙り五種盛980円
肴に炙り焼きのセットも用意してもらった。旬の海鮮炙り五種盛980円
タタミイワシやエイヒレ、みりん干しなどを手前のミニ七輪に乗せてセルフで炙っていくスタイル。
よくある着火剤の直火ではなく、小さな炭が入っているのがうれしい。
よくある着火剤の直火ではなく、小さな炭が入っているのがうれしい。
酒、水、酒、アテの無限回廊。幸せがいつまでもループ。
酒、水、酒、アテの無限回廊。幸せがいつまでもループ。
なるべく濃い味のあとにはさっぱりしたものを、辛い味のあとには甘い風味の酒を……。1歩ずつ歩をすすめていくように17種類のグラスを空けていった。
すっからかんになった各グラス。
すっからかんになった各グラス。
各種味の感想はこんな感じ。だんだん酔ってきて、メモ書きがミミズがのたくったような文字になってきて解読が大変だった。
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マウスオーバーで感想があらわれます!

みんながおすすめするお酒を飲ませてもらった

「どうもどうも~」と声をかけてきてくれたのは、あの名銘柄、月桂冠の人たちだった。
「どうもどうも~」と声をかけてきてくれたのは、あの名銘柄、月桂冠の人たちだった。
ちょうど利き酒セットを飲み終えた頃「せっかく取材されているので……」と林さんが声をかけてきてくれたのが、何と月桂冠の人たちだった。飲みに来ていたらしい。

自社のお酒を置いているからとはいえ、月桂冠のような大企業が飲みにくることってあるんだな!
月桂冠の村上さんがオススメするのは、「ヌーベル月桂冠 特別本醸造」。
月桂冠の村上さんがオススメするのは、「ヌーベル月桂冠 特別本醸造」。
月桂冠のように全国規模で知られる酒蔵のお酒って、あんまり好きになれない……という日本酒好きは少なくないように思う。スーパーで格安で陳列されている銘柄のイメージが定着しがちなので。

しかし! この「ヌーベル月桂冠 特別本醸造」はちがうのだ。華やかでフルーティな香りと、濃醇な米の旨みがマッチしている。つまりおいしいのだ。

庶民的でなんの印象にも残らなかったクラスの女子が、じつは才色兼備な社長令嬢だったくらいのイメージの覆りかたをした。
マネージャーの丸山さんも参戦してきた。「オススメください!」の一言にギラつきだす感じ、伏見の酒への愛がバンバン伝わってくる。
マネージャーの丸山さんも参戦してきた。「オススメください!」の一言にギラつきだす感じ、伏見の酒への愛がバンバン伝わってくる。
北川本家の「富翁 大吟醸 生酒」。
北川本家の「富翁 大吟醸 生酒」。
はい、大吟醸の生酒いただきました。磨き抜かれた大吟醸の旨みが、非加熱ゆえのフレッシュさで爽やかに広がっていく。白いワンピースが映える、真夏のお嬢さんみたいな味だ。くそーこれもおいしいな。おいしいぞ。
最後は林さんのおすすめを投入する。
最後は林さんのおすすめを投入する。
もう入れてもらうだけじゃ悪いから、飲みましょ、飲みましょ!と完全に酔っぱらいの絡み方だったが、快く乾杯につきあってくれた。

もともと、伏水酒蔵小路は普通の屋台村だったそうで、日本酒のカウンターはなかったそうだ。しかし、「もっと伏見を盛り上げたい!」という思いから、各酒蔵から協賛を集めたんだそうだ。

「だからこそ僕たちは伏見の酒、ひいては伏見の土地を愛してるんです。そうそう、この伏水酒蔵小路の上はゲストハウスになっていて、宿泊も可能なんですよ」と林さん。泊まれる場所もあるとは。
裏口にゲストハウスの玄関があった。伏見には宿泊施設が少なく、どうしても夜になると京都市内に人が移動してしまうんだそう。そこでお店の上にゲストハウスをこしらえたんだそうだ。ないなら作ろう精神がすごい。
裏口にゲストハウスの玄関があった。伏見には宿泊施設が少なく、どうしても夜になると京都市内に人が移動してしまうんだそう。そこでお店の上にゲストハウスをこしらえたんだそうだ。ないなら作ろう精神がすごい。
「ここでめいっぱい日本酒を楽しんで、ベロベロになってもすぐ泊まれるので大丈夫ですよ!ぜひ泊まりにきてください!」と朗らかに言われた。私が方々で酔いつぶれて帰宅できないのを知っているのか。そうなのか。
最後のだめ押し、東山酒造の「魯山人 特別純米原酒」。
最後のだめ押し、東山酒造の「魯山人 特別純米原酒」。
魯山人は京都産「祝」という酒米を使用しているらしい。いきなりバチーンとインパクトがある酒ではなく、飲み進めるうちにじわじわ旨みがやってくる。辛口のキュッとした味の締まり方もこれまたうまい。うまいうまい。

味の印象は取材メモに書き込んでいたのだが、実際は「いや~、うまいですねぇ」しか言えず、ボキャ貧丸出しだった。「この大たわけが!」と魯山人に怒られやしないだろうか……あ、これは海原雄山か。完全に酔っている。

「みんな違ってみんないい」伏見の酒

空きっ腹に日本酒をチャプチャプ飲んで、ほろ……どころではなく酔った。
空きっ腹に日本酒をチャプチャプ飲んで、ほろ……どころではなく酔った。
伏見という1エリアにもかかわらず、各酒蔵からは多種多様な味の酒ができあがる。杜氏さんと水と米と麹が生み出すミラクルを垣間見て、夜まだ浅い伏見の町を去る。

地酒あり、和洋中の各種料理あり、宿泊施設まで完備されている伏水酒蔵小路はまさに日本酒のテーマパークだった。
日本酒を飲むだけでキャパオーバーしてしまったので、次回は屋台村を食べ比べしながらベロンベロンに酔っぱらいたい。
<お店紹介>
伏水酒蔵小路
京都市伏見区納屋町115番地~京都市伏見区平野町82番地2(店舗が大きいため)
営業時間:11:30~23:00(LO22:30)
火曜休
075-748-8831
http://fushimi-sakagura-kouji.com/

伏見は良質な地下水に恵まれていた土地であることから、昔は「伏水」という漢字が当てられていたそうだ。お店の名前も「ふしみず」じゃなくて「ふしみ」と読むのが正しい読み方。

ちなみにアルバイトの女の子の名前が「伏見」さんだった。できすぎやろ!と思ったが、単なる偶然らしい。
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