特集 2016年11月26日

海賊とよばれなかった男 ~いま明かされる「団塊あるある」~

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ベストセラーになった「海賊とよばれた男」がこんど映画化される。世界を相手に船で石油を運んだりして、海賊とまでよばれた男の半生を描いた熱い物語である。

その一方、そんな船を造る会社に勤めていたわりには、海賊とよばれなかった男がいる。

それは、僕の父親である。

そこで、海賊とよばれなかった男のその半生を、「団塊あるある」をもとに語ってもらった。

いま明かされる驚愕の諸あるあるを、団塊の方そして団塊ジュニアの方も括目せよ!
多摩在住のイラストライター。諸メディアにおいて、フマジメなイラストや文章を描くことを専門としながらも、昼は某出版社でマジメな雑誌の編集長をしたりするなど、波乱の人生を送った後に、新たなるありのままの世界へ。そんなデイリーポータルZでのありのままの業務内容はコチラを!(動画インタビュー)

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僕の父は造船業の会社に勤めていたのだが、日本の高度成長を支えた重工業の象徴ともいえ、
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海賊とはよばれないまでも、素人には想像できない業務である。
僕の父のみならずみんなの親もそうだと思うが、日本の成長を支え、昭和という時代を駆け抜けてきた団塊のみなさんは一体どんな人生を歩んできたのか、
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その実情をとりあえず僕の父に語ってもらおうと思う。団塊ジュニアの僕らもしっかり知っておこう。
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団塊あるある(1) <重工業だと理系的になりがち>

さっそくどんな仕事をしていたのか聞いてみた。
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「造船業の会社だったけど、会社ではプラントの設計をやっていたんだ。例えば、フェノールとアセトンを反応させてビスフェノールAを作り出し、それを原料にしてポリカーボネイトを生成するプラントを造ったりしていたよ」

…は? いきなり文字化けしたのか、というほど難解フレーズが連発。重工業感がエグイ。犯罪組織の感すらする。確かフェノールは消毒液、アセトンはペンキに使われるやつ。ギリギリ授業でやったが、それをすさまじいレベルで実験してるイメージである。

「ポリカーボネイトっては、透明のプラスチック板、例えば車のヘッドライトなどに使われているやつ」

あら。これは自動車の普及という点からも高度成長の一端を担っていたと言えるだろう。で、そのプラントでは、
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「リアクターという反応機だったり、タワーと呼ばれる蒸留塔だったりをパイプで繋いで、いわゆるコンビナートを成すプラントとしていい形になるように、各所の設計をやっていた」

ようであった。確かに海賊とはよばれないかもだが、より危険度の高いテロリストのようではある。
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「例えばこういうのを組み合わせていく感じかな」

と資料を見せられたが、見るからに理系の文書。こういうのを見たくないから僕らは文系にしたんだ(決めつけてごめん。)そして実際に設計したプラントの図面を示されながら、
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「ココで化合の際に出てきた不純物が分離されて…」

とか説明してもらったが、さっぱりわからない。テレビジョンとかでのドラマの人物関係図にしか見えない。
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「ちなみに基本的なことはココに書いてあるよ」

と、専門用語辞書もあったが専門がすぎて困る。
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最新若者言葉「それな」よりもわからなかった。
そして他にもいろいろ情報を教えてくれた。
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「扱う物質が、揮発性や毒性が高かったり危険な物が多いのでリスクへのケアが大変だった」
「プラントを完成させるまでに期間は約2、3年はかかるもの」
「小さいのでも億の単位のお金は動いた」

おぉ! ビッグビジネス! いちいち規模がすげぇ。さすが重工業。まさに高度経済の象徴な案件だと言えるであろう。
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団塊あるある(2) <メールとかなかったのでテレックスを使いがち>

今では業務ツールとして欠かせないメールだが、団塊の方がかつて働いていた時代、メールていうかそもそもパソコンもない時代って、一体どうしていたのだろうか。
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「メールがなかったので、昔はテレックスっていうのを使っていた。いわゆるタイプライターで、アルファベットで文をタイピングしたら、それが先方の機械にて紙で出力される、ような形でやっていたよ」

!? テレックス? 名前からしてダサい。適当なポケモンの名前のようである。で、ちょうどそれと同様な形のタイプライターの実物が、なんと実家から発見されたのであった!
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!! なんだこれは。戦争映画でスパイが使ってるやつである。今でこそ武骨なレトロ感がたまらないビジョンだが、団塊の方には懐かしい絵なのかもしれない。で、なんとこれ、
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まだインクリボンが生きていた! ってことは、これまだ使える! 実家、保存状態良すぎ!! で早速、何か打ってようと、キーを押してみると、
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ガチャン!とそのキーの鉄具が紙に押し付けられる! 原理、ありのまますぎ! というわけで、1文字ずつ魂込めて、
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ガチャーン!ガチャーン!と轟音と共に打ち込んでいった結果、
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I AM A STUDENT (私は学生です。)
と、せっかく時代を超えて打たれた割には、そう使わないクソ英文になってしまったのは、僕の不徳の致すところ。でも当時はこんなものを使って、連絡などやりとりをしていたようであった。さぞ不便だったと思うが、そんなツールでも仕事をしてくれてどうもありがとう。
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団塊あるある(3) <計算機とかなかったので計算尺を使いがち>

昔は、現在当然あるものが、他にもなかった模様。
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「昔は計算機がなかったので、計算する際は、計算尺というのを使ってたなぁ」

…ん、ケイサンジャク? 韓国の歌手? ではなく「計算尺」であった。が、また実家を探してみたところ、なんと、その現物が出てきたのであった! それがこちら!
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!? 何これ! なんとも初見だが、団塊の方には懐かしの再会かもしれない。当時はこれが計算機の代わりに大活躍していたようなのであった。

パッと見、竹の変な定規のようなものだがなんと、これをアレコレすると、掛け算と割り算ができてしまうとのこと! マジか! たとえば掛け算の場合では、
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2、掛ける
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3、だったら、竹をズラしてそのように数字を合わせると、
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ココに6!という答えが出てくるのである!

…原理がさっぱりわからない。数の並びにどんな数列が駆使されているんだかさっぱりでスゴすぎる。実はもっと複雑な数の計算もできるらしくやり方を説明されたけど、覚えてもしょうがないので、忘れた。
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ただこれ、そもそも竹というアナログ物体ゆえ、膨張したり縮小したりしたら、答えも変わってきてしまうらしい。あら、ほほえましい。理系業務ゆえ計算ミッションも多かっただろうが、これでやっていたと思うと本当にスゴイ。

ちなみに
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「最初に導入された電卓は30万円近くした。課ごとに1台くらいでみんなで使っていたよ」

とのこと。みんなも電卓には感謝しよう。
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団塊あるある(4) <パワポとかなかったので資料は手で書きがち>

そもそもパソコン自体が昔はなかったゆえ、いわゆる資料とかはどう作っていたのか聞いたところ、
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「昔はワードももちろんパワポもないので、資料は基本、手書きだった。」

!! 想像はしていたけど、イヤーん!! 手書きだなんて考えただけでイヤになるが、実物を見せてくれたのだが、
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確かに手書き! 表から図形から何でもフリーハンド。肉筆なフォント感。
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えらい温かみがある。
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だが字ヘタにはハードすぎる作業である。
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「あと、昔はコピー機もなかったから、複製の際には、トレーシングペーパーに書いて、感光紙に焼き付けて複製していた」

とのこと。いわゆる日光写真の原理で複製を行っていたのであった。なんだか頭が下がる思いであった。
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団塊あるある(5) <3日ほど家に帰れないことがありがち>

どうも父の性格上、基本的に仕事は計画通り淡々とこなしていたようであった。それはそれでいいことなのだが、読み物としてはいまいち刺激がない。そこでなにか本物の「海賊~」のように、仕事でドラマチックな事がなかったか聞いてみた。
すると、語ってくれた。
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「そういえばまだ若手だったころ、プラントのタワーに異常が見つかって、高度30mのタワーのてっぺんで、機材の修理が行わることになった。その推移をひと時も離れず見守るために、12月の寒風吹きすさぶ中、タワーのてっぺんで一晩明かしたことがあったよ。結局3日ほど、家に帰ることができなかったなぁ」

おぉ!これはドラマチック。文系ではそうない事態。ハリウッドだったらこれだけで映画化である。どれだけハードな事態かわかりにくく言うと、よみうりランドの「クレージーヒュー・ストン」の頂上で一晩過ごすことを想像してみてほしい。
わかりにくいだろう。でも、こんな困難なミッションを乗り越えてきた団塊の方々の労苦によって、高度成長は成り立っていたのであろう。
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団塊あるある(6) <赤字とわかっていても事業を行いがち>

そしてさらに衝撃的な話も。
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「あとバブル後のことだけど、とある水素のプラントを、まさに半値8掛け(実質4割)な値段で請け負うことになった。事実上、やる前から赤字になることがわかっていたミッションだった。それゆえに給料も減って、ボーナスもカットされたけど、でもプラント設計士としての使命感から、最後まで造りあげたよ。」

おぉ、これは熱い!お金よりも、使命を重んじるこの姿勢。ハリウッドだったらこれだけで映画化である。「海賊~」でも赤字とわかっていても国のためにタンクから石油を取り出す過酷なミッションを行っていた。これは良い。そして話には続きがあった。

「赤字でも取り組んだそのミッションだったけど、じつは定年後に、その時の取引先の人に再会し、その時の自分の取り組みを知ってくれていて、すごく世話になったんだ」

おぉこれも熱い!ハリウッドだったらこれだけで映画化である。「海賊~」でも、赤字とわかっていても取り組んだその姿勢が、その後各所で評価され会社を支えることになっていた。これは「海賊」よばわりしていい話である。
このようなお金のためというよりも、使命感や情熱からミッションに取り組んでいった団塊世代の姿勢が、日本を支えていったのであろう。どうもありがとう。
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団塊あるある(7) <ピンチの時ほど人との絆が深まりがち>

あと興味深い話も語ってくれた。
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「そういうピンチの時って、取引先の人とは厳しく過酷なやりとりになるけど、会社の公人としてでなくプライベートで私人として接する時は、みんなキツイ事情もわかってくれてすごく親身になってくれたものだった。結果的には、そんなピンチの時に知り合った人ほど、その後も続くような深い人間関係を築くことができた」

おぉこれも深イイ話! 我々もこれからいろいろピンチに陥ることもあるだろうが、そんな時こそ出会えるものがあることを先人たちの経験から知っておこう。
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団塊あるある(8) <大学からそのまま入社しがち>

そういえば、そもそも会社で働くことになる際の、就職活動って、当時はどうだったのか聞いてみた。
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「就活はした記憶がない」

とのこと。え、そうなの?

「大学では化学工学科だったんだけど、大学の研究室に求人が直接来て、推薦してもらえたら選べるような感じだったんだ」

マジか!それでいいのか! いわゆる現代の学校での指定校推薦のようなもの。すげぇ。何者。あ、でも理系だと、専門職的にスペシャリストな求人になるのでそういう文化なのかもね。
ちなみに学生時代は
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「洋書のテキストが訳されていたものが、また手書きで海賊版として出回ったりしていた」

とのこと。これもすべて手書き。受験マシーンとしては、震えた。
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団塊あるある(9) <出張はコンビナートに行きがち>
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「よく岡山のコンビナートに出張に行ったなぁ。プラントが完成したら試運転に、品質とか大丈夫か確認しに行っていた」

とのこと。これはかなり緊張の一瞬であろう。もしうまくいかずやり直しだと手間もコストもハンパないことに。文系制作仕事だとそのプロセスは校正などになるが、スケールが違う。
そういや昔、岡山のキビ団子的な出張土産をよく買ってきてくれていた気がする。別に僕を飼いならそうとしていたわけではなかったらしい。
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団塊あるある(10) <企業名は略しがち>

ついでに業界的なことも聞いてみた。
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「同業の会社としては、ニチゾウ、サンゾウ、スミジュウ、ジュウコウなんかがあるね」

? どうやら略語で教えてくれたようである。「ニチゾウ」→「日立造船」、「サンゾウ」→「三井造船」、「スミジュウ」→「住友重機械工業」、「ジュウコウ」→「三菱重工」とのことであった。忍者か何かかと思ったが、さすが重工業感パないラインナップであった。
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団塊あるある(11) <車はシビック買いがち>

今度はプライベートなことも聞いてみた。
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「最初のマイカーはシビックだった。ホンダはちょっと変わった会社でよかった」

当時ホンダって業界のトップではなかったけど、F1に参戦してたり会社としての独創性に惹かれて、ホンダの車にした模様。こんな観点で車を選ぶのも、理系あるあるということにしておこう。ちなみにバブル期にはアコードに買いかえた。確かに変わってたわ。恐るべしバブル。平野ノラに扱ってほしい。
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団塊あるある(12) <子どもにファミコンを買わされがち>

そしてVS子供についても聞いてみた。
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「ファミコンとか買ってあげたっけ」

この時期の団塊の親が誰しも買わされがちだったのが、ファミコンであろう。1980年代に大ヒットしたゲーム機である。うちもクリスマスだか誕生日だかに買ってもらった気がする。
また携帯ゲーム機の先駆けとして、いまでは全然ボーイ感はない色合いだが
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ゲームボーイも買ってもらった。理系ゆえ、うちにはそういったデジタル先見的な風土があったのかもしれない。ないかもだけど。とりあえず現代の子は、いきなりPSVRとかNSはまずいので、ちゃんと進化のプロセスを経てほしいものである。
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団塊あるある(13) <とりあえず社宅に住まされがち>

そして住まいについて聞いてみた。
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「重工業は作業員の人手が多いので、まとめて社宅に住まされがちだった」

確かに僕、子供のころ、多摩にある社宅に住んでいた。ちなみに、「関西から関東の工場で働くようになった人たちのために、関東の一角に会社が社宅をつくり、彼らが集団でそこにまとめて住むようになった結果、関東の地なのに関西の彼らの方便が根付いてしまったとか」という高度成長都市伝説もあったようである。
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団塊あるある(14) <退職の際に再雇用してもらうか悩みがち>

そして団塊の方はもう多いかもしれない退職についても聞いてみた。
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「定年で退職するとき、再雇用制度を利用するかはちょっと悩んだなぁ」

この高齢化社会、最近の会社では、高齢者の労働力としての雇用のために、定年後給料が下がった状態で再雇用する、ような制度がありがちで、これを使うか悩むことになるとのこと。
そういうのって窓際的な閑職につきがちな印象があるが、今でもデフォルトで窓際人生な僕はピンと来ないであろう。でも父は、先述のようなかつて行った仕事の関係で、別の会社に転職したのであった。グッジョブ。
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団塊あるある(15) <前立腺弱りがち>

最後に体調についても聞いてみた。
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「前立腺ガンになってしまった」

人間ドックの検査にて、PSAという前立腺に異常があると示される値が、高数値を記録。団塊の方々はひっかかりまくる値である。ガンでも前立腺ガンってすこぶる多い。たぶん僕もなるであろう。父もその除去のためにひと月ほど入院していたのであった。
ちなみにその手術に、ドクターXばりのロボット技術を駆使した手術法を選択したのも、理系ならではなのかもしれない。いずれにせよ無事でよかった。そのほかにも、高血圧やコレステロールが良くない値を示していた、とのことだが、これは本人次第な気がする。とにかく体には気をつけてほしいものである。
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…と、このように、いろいろ明かされてきた衝撃の「団塊あるある」。うちの父の場合はこんな感じだったが、みんなの親御さんにも、きっとそれぞれのあるあるがあることだろう。これを機に、みんなも自分の親にいろいろ取材をしてみるといいかもしれないね。激動の時代を駆け抜けそのうえ僕らまで育ててくれた団塊世代の親たち、その一人ひとりがドラマティックな偉業を成し遂げてきた結構な人たち、だと言えるであろう。あらためて親に感謝をしなければいけませんね。どうもありがとう親たち。ではまたおやすみなさい…。

はい。以上いかがでしたでしょう今週の「実家にいろいろありすぎ」。みんなも適宜帰省をしていただけたらと思いまして、どうぞよろしくおねがいいたします。
海賊とよばれた犬。
海賊とよばれた犬。
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