とくべつ企画「洋食」 2016年11月28日

色んなカルボナーラを作って食べる試み

本場っぽいレシピで作ったカルボナーラ。
本場っぽいレシピで作ったカルボナーラ。
カルボナーラを初めて食べたのは今から30年くらい前、隣町にあった大きな病院の最上階にあったレストランで。

ビジュアルショックだった。だって、生玉子の黄身が乗っていたのだ。ナポリタンとミートソースしか知らなかった田舎の少年は驚愕した。

そんなビジュアルのカルボナーラがあるのかって?あったんですよ。

※この記事はとくべつ企画「洋食」の1本です。
あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

前の記事:ユーシンブルーっていうけど、けっこう緑色だぜ

> 個人サイト keiziweb DIY GPS 速攻乗換案内

亀田病院で食べたカルボナーラ

南房総の鴨川に亀田病院という巨大な病院がある。僕の実家は鴨川の北、小湊にある。

この辺の人はだいたい亀田病院で生まれ、通い、一度くらいは入院し、死ぬ。僕も何度か掛かり、母は4年前にここで亡くなった。
僕が知ってる40年間で4倍くらい大きくなった。
僕が知ってる40年間で4倍くらい大きくなった。
子供の頃、通院する兄にくっついて何度か亀田病院に行った事がある。

なぜ僕までくっついて行っていたのか忘れちゃったけど、ローカルバスに乗って亀田に行くのはちょっとした旅行気分だった(兄にしてみれば迷惑だったかもしれないが)。
新しめの病棟。高級ホテルのような設備でコンシェルジュもいる。
新しめの病棟。高級ホテルのような設備でコンシェルジュもいる。
亀田病院の最上階にはレストランがあった。

今でも大概の田舎だが、当時の南房総は大山倍達が山籠もりをするほど(本当)の田舎で、ファミレスもなければコンビニもなかった。

料理屋といえば煮魚や新鮮な刺し身なんかの海の幸ばっか。そんなもんには飽き飽きだった。
ここに写ってる建物は全部亀田病院。真ん中に写ってるのは妻だが、木の枝を持って「大魔法使いになった気分で海を眺めていた」と言っていた。訳がわからない。
ここに写ってる建物は全部亀田病院。真ん中に写ってるのは妻だが、木の枝を持って「大魔法使いになった気分で海を眺めていた」と言っていた。訳がわからない。
僕は魚屋に生まれ、でも魚は大して好きじゃなかった。

そんな松本少年の心をガッチリ掴んだのが亀田病院のレストランだった。食い意地の張った僕のことだからレストラン目当てで兄にくっついて行っていたのかもしれない。

そこにカルボナーラがあった。
今の亀田病院のレストラン階。都会のデパートかホテルの最上階っぽい雰囲気。
今の亀田病院のレストラン階。都会のデパートかホテルの最上階っぽい雰囲気。
なにそれ、スパゲティなの?ナポリタンでもミートソースでもなく、カルボナーラ。え、玉子のスパゲティ?食べたい!と思って注文した。

レストランには、特有の、肉やパン粉、ワインソースなどが混ざった匂いが漂っていた。
今の亀田病院最上階にあるケーキ屋さん。美容院、コンビニ、ギフトショップなど、一つの街が収まっている。
今の亀田病院最上階にあるケーキ屋さん。美容院、コンビニ、ギフトショップなど、一つの街が収まっている。
初めて食べる味だった。わぁ、なにこの匂い!食べたことない味!え、黄身だけ乗ってるの?白身はどこ行ったの?すべてが新鮮で、ハマった。

以後、結構な割合でカルボナーラを注文していた(と、記憶しているが捏造の可能性もある)。
再現してみた。
再現してみた。
当時食べた記憶を元に再現してみた。玉子の黄身以外のディティールはあまり覚えていない。多分ベーコンは入ってたと思う。
記憶の中のカルボナーラ。具はベーコンと缶詰のマッシュルームにしてみた。
記憶の中のカルボナーラ。具はベーコンと缶詰のマッシュルームにしてみた。
当時の僕は『玉子の黄身が乗ったスパゲティ』をカルボナーラと呼ぶのだと思っていたので、黄身以外の部分には注目していなかった。

だから、黒胡椒はかかっていたのか、具はなんだったのかについてはほとんど覚えていない。
食べるときに黄身を混ぜる。
食べるときに黄身を混ぜる。
生の黄身が原型をとどめたまま料理に乗っているのが新鮮だった。玉子かけご飯にしろ卵焼きにしろ、黄身は混ざっている。目玉焼きは焼けている。

亀田のカルボナーラは生の黄身がのっている。この儚い感じ、自分で黄身を混ぜることで完成するインタラクティブ!
要素としてのカルボナーラはまぁまぁ満たしている。
要素としてのカルボナーラはまぁまぁ満たしている。
今はカルボナーラの正体を知っている。材料はパスタ、玉子、黒胡椒、パルメジャーノ・レッジャーノ(とかペコリーノとか)がメインで、あとオリーブオイルとかニンニク、白ワイン。それらを混ぜれば出来上がる。

なにこのしゃらくさい料理。

亀田のカルボナーラは、確かに要素は満たしているが、よく知られているカルボナーラとは違う。
これはこれでおいしいけどな。
これはこれでおいしいけどな。
「イタリアにゃ黄身がへぇった(入った)スパゲティーがあるみてーだお」

「はー、材料はあんだ(なんだ)、玉子とベーコンだぁ?」

「こんでいっぺか?(これでいいか?)」
(房総弁でお送りしました)

で、黄身を乗せるカルボナーラが出来たんじゃないかと勝手に想像している(あるいは東京の店で出されていたカルボナーラを真似たか)。

そして、今もカルボナーラには色んなレシピがある。生クリームを使ったり使わなかったり、カルボナーラって曖昧だ。

だから色んなカルボナーラを『こんでいっぺか?』で作ってみることにした。次のページへ。
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まずはレトルト

カルボナーラの正体が『黒胡椒が掛かった玉子ソースのパスタ』だと知ったときの衝撃ったらない。

だって、20年以上『生の黄身がのったやつ』だと思っていたのだ。『カルボ=炭』で、黒胡椒を炭の粉に見立てた料理だったのだ(諸説あるぜ)。

黒胡椒が主役だったのかよって思った。
和えるだけのカルボナーラソース。
和えるだけのカルボナーラソース。
スパゲティ茹でてソースを和えるだけで完成。簡単すぎる。
スパゲティ茹でてソースを和えるだけで完成。簡単すぎる。
盛り付けてみた。料理写真は窓辺で逆光気味に撮ると良いよ。
盛り付けてみた。料理写真は窓辺で逆光気味に撮ると良いよ。
見た目はまぁまぁ、味もまぁまぁ。

期待した濃厚さは感じられない。なんていうか、クリームソースパスタ?みたいな感じ。
真上から撮るのもいい。
真上から撮るのもいい。
実売価格は2食入りで198円くらい。安い。だから、味も安い(申し訳ございません)。
カルボナーラと思わなければいいのかも。
カルボナーラと思わなければいいのかも。

青の洞窟

安いレトルトだとこんなもんかなってことで、高いレトルトも試してみた。『青の洞窟 2種のチーズのカルボナーラ』。実売価格246円。一食でこの値段なので、キユーピーとくらべて2.5倍だ。
青の洞窟は、家でちょっといいものを食べたいときに買う。
青の洞窟は、家でちょっといいものを食べたいときに買う。
パスタを茹でて和えるだけなので、これも簡単。10分掛からない。
ベーコンは入ってたけど、パセリと黒胡椒は自分で掛けた。
ベーコンは入ってたけど、パセリと黒胡椒は自分で掛けた。
おいしいことはおいしいが、カルボナーラかと言われると、これも違う。

ソースがサラッとしていてカルボナーラっぽさは弱い。やっぱり『チーズクリームソースパスタ』って感じだ。
カルボナーラと思わなければうまい。
カルボナーラと思わなければうまい。
ソースがゆるいんだよね。玉子混ぜたらいいのかな。
ソースがゆるいんだよね。玉子混ぜたらいいのかな。

しゃーないのでイチから作る

レトルトでは、らしいカルボナーラは食べられないようなので、作ることにした。

材料は下の写真の通り。まずは生クリーム入りのレシピ。
ちゃんとレシピサイトで調べたわけじゃないけど、多分こんな感じ。
ちゃんとレシピサイトで調べたわけじゃないけど、多分こんな感じ。
レシピは適当だ。「こんでいっぺか?」の精神である。だから分量も全部目分量。
全卵1個に生クリーム(多分大さじ2くらい)、粉チーズ適当(多分大さじ1くらい)。
全卵1個に生クリーム(多分大さじ2くらい)、粉チーズ適当(多分大さじ1くらい)。
材料を混ぜる時にフォークを使うとイタリア気分が出る気がする。
カルボナーラソース出来た。これを茹でたパスタに混ぜればいいのか。
カルボナーラソース出来た。これを茹でたパスタに混ぜればいいのか。
フライパンにはオリーブオイル、ニンニク、適当に切ったベーコン。火を入れてる間にフェットチーネを茹でる。

茹で上がったらフライパンに投入、茹で汁も適当に投入、手早く混ぜるといい具合にドロドロしてくるので、火からおろして玉子ソースを入れて混ぜる。
火に掛けたままだと玉子焼きになってしまう。ここで更に大さじ2くらいの茹で汁を足すと凝固を防げる。
火に掛けたままだと玉子焼きになってしまう。ここで更に大さじ2くらいの茹で汁を足すと凝固を防げる。
目分量と勘、それでもカルボナーラっぽいものが出来た。

フェットチーネ・アッラ・カルボナーラ、完成。
初めてにしてはおいしそうに出来ましたよ。
初めてにしてはおいしそうに出来ましたよ。
レトルトも混ぜるだけだったけど、これも混ぜるだけだった。気のせいだろうか、レトルトと手間が変わらない。

で、味はどうなのか?
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食べたことあるレベル

感想は「ああ、食べたことあるわ、これ」だった。どっかのイタリアンレストランで食べたことある味になった。

なんだよ、カルボナーラってこんな簡単だったのかよ。材料費も300円掛かってない(半分以上がパスタの値段)。
10分くらいで簡単に作れちゃうとは思えない美味しそうさ。
10分くらいで簡単に作れちゃうとは思えない美味しそうさ。
濃厚。玉子とチーズ、生クリームが濃厚に絡み合ってベーコンと黒胡椒の香りが味に奥行きを与えてくれる。うまい。よかったですね。
次はもっと美味しく作れると思う。
次はもっと美味しく作れると思う。

本場のレシピに挑む

生クリームを使ったレシピの成功に気を良くしたので本場のレシピで作りたい。

探したらイタリア人っぽいオッサンが陽気にカルボナーラを作る動画があったので、真似してみることにした。
基本的に材料を混ぜるだけってのは変わらない。ただ、材料も良いものを使いたいので粉チーズじゃなくて30ヶ月熟成のパルメジャーノ・レッジャーノとパンチェッタを買ってきた。

『なに気取ってやがるんだ』って材料名であるが、イタリア人にしてみたら『利尻産昆布と枕崎の鰹節』みたいなもんだろう(多分)。
パルメジャーノ・レッジャーノは関税とか色々あるので高い。パンチェッタは自分で作れる気もする。
パルメジャーノ・レッジャーノは関税とか色々あるので高い。パンチェッタは自分で作れる気もする。
パスタを茹でるのに8分掛かるので、その間に色んな準備をする。カルボナーラは準備と段取りで味が決まる(などといっぱしの事を言ってみる)。
今回は乾麺のパスタを使う。
今回は乾麺のパスタを使う。
2人前で玉子3個。2個は全卵で1個は卵黄だけ。そこにパルメジャーノ・レッジャーノをどっさりすり下ろす。
ケチらず贅沢にたくさん入れる。
ケチらず贅沢にたくさん入れる。
黒胡椒ももちろん投入。3年くらい前にコストコで買ったホールの黒胡椒がまだ余っている。
ミルで挽きたての胡椒は香りがいいのです。
ミルで挽きたての胡椒は香りがいいのです。
フライパンにオリーブオイル、バター、パンチェッタ、潰したニンニクを投入。

オリーブオイルとバターは容赦なく入れる。「多すぎかも・・・」と躊躇するくらいがおいしい。
ニンニクは香り付けなので後で取り除く。
ニンニクは香り付けなので後で取り除く。

茹で上がったら合体

茹で上がったパスタをフライパンに投入。

茹で汁もお玉半分くらい入れて混ぜ混ぜすると、油と茹で汁がドロドロになっていい感じになる(エモーショナルな説明)。これが多分乳化ってやつだ。
色々な理由で、茹で汁を入れるといいみたいです。
色々な理由で、茹で汁を入れるといいみたいです。
最後にフライパンを火からおろしてソースを投入、固まらないように混ぜたら完成。
美味しいものを全部混ぜたんだからおいしいに決まってる。
美味しいものを全部混ぜたんだからおいしいに決まってる。
今や本場のレシピを動画で見られる時代。『生玉子を混ぜるスパゲティ』とか、曖昧な情報から想像で作るのと比べたらずいぶん楽である。

完成。
スパゲティ・アッラ・カルボナーラ。
スパゲティ・アッラ・カルボナーラ。

濃い

生クリームではなくオリーブオイルとバターをたっぷり入れたので味が濃い。玉子の味がストレートに来る。

一人前食べただけで1kgくらい太るんじゃないかって濃さだ。
一人前の材料費は500円くらいだろうか(主にチーズとパンチェッタ)。
一人前の材料費は500円くらいだろうか(主にチーズとパンチェッタ)。
カルボナーラのレシピを考えた人は天才だと思う。
カルボナーラのレシピを考えた人は天才だと思う。
これまた、こんな簡単でいいのかよってくらいの簡単さであり、おいしさ。イタリア人はエライ(雑な感想)。

次のページではちょっと変わったカルボナーラを作ります。
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釜玉うどんは、ほぼカルボナーラ

カルボナーラを作りながら思ったんだが、釜揚げうどんに生玉子を絡ませるアレ、ほぼカルボナーラだと思うのだ。
きしめんがフェットチーネっぽいので合うんじゃないかと思って。
きしめんがフェットチーネっぽいので合うんじゃないかと思って。
ゆでたきしめんとソースをフライパンで混ぜ混ぜ。
ゆでたきしめんとソースをフライパンで混ぜ混ぜ。
完成。
完成。
きしめん・アッラ・カルボナーラの完成。亀田式カルボナーラにならって黄身をのせてみた。
黄身をつぶす瞬間。
黄身をつぶす瞬間。
じゅわー、たまらん。黄身乗せはやっぱり良い。
じゅわー、たまらん。黄身乗せはやっぱり良い。

別物だけど、これはこれで

きしめんにほとんどコシがないのでパスタで作ったカルボナーラとはまったく違う味わいだが、これはこれでいい。

要はチーズが掛かった釜玉うどんだが、ベーコンやニンニク風味が味に深みを出している。おそらく単に生玉子とチーズだけでは味が足らない。
この組み合わせ、鉄板。うどんは讃岐うどんの方がコシがありパスタっぽいかもしれない。
この組み合わせ、鉄板。うどんは讃岐うどんの方がコシがありパスタっぽいかもしれない。

カルボナーライス

最後はカルボナーラライス。略してカルボナーライス(1文字しか略せてない)。パスタをご飯に変えただけだ。作り方は同じ。
創作レストランとかで出てきそう。
創作レストランとかで出てきそう。
やはり黄身をつぶすのはいい。官能的ですらある。
やはり黄身をつぶすのはいい。官能的ですらある。
正直に味を書くと、最初はうまい。外しようがない材料がそろっているのだからうまいに決まっている。

だが、飽きる。ゆで汁による乳化が行われていないので油っぽく、次第に重くなるのだ。玉子と油が別々で、変わった味のチャーハンという感じもする。
少な目ならおいしく食べられるので、二人で分けるとちょうどいい。
少な目ならおいしく食べられるので、二人で分けるとちょうどいい。
やっぱりカルボナーラはパスタに限る、みたいです。

おしまい!

カルボナーラは自由だ

亀田式のカルボナーラも、生クリームを使ったのも、生クリームなしで玉子だけで作るのも、みんなカルボナーラでいい。全部うまい。

きしめんとごはんについては研究の余地があるとおもうが、1週間くらい毎日カルボナーラを作っては食べてきたので、しばらくこの味はいいかなって感じです。

現場からは以上です。
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