特集 2016年12月29日

まずい料理、プロのひと手間でおいしく&ネパールになった

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今年5月に「まずい料理、プロのひと手間でおいしくなるか?」という記事を書いた。筆者が作った素人料理をプロにひと手間加えてもらい、「お店の味」になるかを検証した。本稿はその続編だ。

今回、僕の残念料理を高みへと引き上げてくれるのは、人気ネパール料理店のシェフである。

結果、まずい料理がうまくなっただけでなく、ネパール・日本間における素晴らしい食文化交流が生まれたのでご覧いただきたい。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

前の記事:食レポの常套句「素材を生かす」って、どういうことなのか?

> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

腕によりをかけるも、やはりイマイチ

まずい料理をリカバーしてもらう企画のため、ベースとなる料理はできるだけまずい方がいいのかもしれない。しかし、わざとまずく作るのは食材に失礼なので、全力でおいしくなるよう料理した。いっぱしの料理人のようなことを言って恐縮だ。
手前から餃子(豚肉)、筑前煮、塩焼きそば
手前から餃子(豚肉)、筑前煮、塩焼きそば
筑前煮と餃子は初めて作った。レシピに頼らずほぼ想像で作ったわりには味も見た目も悪くない。とはいえ、それはあくまで「男の素人料理」という基準での評価。これがお店で出てきたら、きっと上司の機嫌が悪くなる。食べログでいうと「1」にも満たないレベルだ。

わざわざ手心を加えずとも、無事にまずい料理ができた。プロに助けてもらおう。
「マナカマナ」。カレーの名店だ
「マナカマナ」。カレーの名店だ
東京都板橋区にある「マナカマナ」さん。カレーとネパール料理が評判で、“板橋三大カレー”の一つと称されるほどの人気店だ。当サイトライターで、同じ板橋区内で飲み屋を営む馬場さんのツテでご協力いただけることになった。
忘年会シーズンにすみません
忘年会シーズンにすみません
とにもかくにも、まずはオーナーに料理を食べていただく。
オーナーはネパール料理研究家でもある
オーナーはネパール料理研究家でもある
……どうでしょう?
……どうでしょう?

「ふつうに美味しいです。煮ものは味が染みてるし、餃子の塩加減もいいですね」

意外なことに、そして困ったことにオーナーの評価はそこそこ高い。前回ご協力いただいた高円寺のシェフもそうだったが、他人が作った料理には、プロといえどなかなかケチをつけづらいものなのかもしれない。

そこで質問を変える。この料理たち、それぞれ何点ですか? 正直にお願いします。
まず筑前煮は「90点」
まず筑前煮は「90点」
餃子「50点」
餃子「50点」
焼きそば「30点」
焼きそば「30点」

やはり、まずいらしい

筑前煮は優秀だが、餃子は凡庸、焼きそばは落第。おいしいと言うわりには、わりと遠慮のない採点である。ほれ見たことか、やはりまずいのではないか。

というわけで、なかなか手ごわそうな三品だが、今回は結論を先に言ってしまう。

もうね、全部めちゃくちゃうまくなった。なんせ、見た目からしてこの変わりようなのだ。
こうなった
こうなった
学年ビリのギャルが慶応大へ現役合格するどころか、そのままハーバードに編入するレベルの変わりようである。
これが
これが
こうなった
こうなった

なんでこうなった?

どうだ、びびっただろう。この何とも魅力的な品々に僕もひと役買っていると思うと感慨深いが、9割方はオーナーの手柄であることを忘れてはならない。そのプロの技を、とくとご覧いただきたい。
まずは焼きそばから。高温の「マスタード油」にクミンを投入。バチバチっとはじけるように炒めると香りが立つそうだ
まずは焼きそばから。高温の「マスタード油」にクミンを投入。バチバチっとはじけるように炒めると香りが立つそうだ
生姜、にんにく、ターメリックを火にかけ、鶏肉を炒める
生姜、にんにく、ターメリックを火にかけ、鶏肉を炒める
しかるのち、「30点」の塩焼きそばを投入。ここまでせっかくうまそうなのに、もったいない。明らかに、おれのやつが足を引っ張っている
しかるのち、「30点」の塩焼きそばを投入。ここまでせっかくうまそうなのに、もったいない。明らかに、おれのやつが足を引っ張っている
醤油で味を調える。意外にも、「ネパール中華」には醤油が欠かせないという
醤油で味を調える。意外にも、「ネパール中華」には醤油が欠かせないという
若干しょっぱいということで、トマトの酸味で中和
若干しょっぱいということで、トマトの酸味で中和
最後に針生姜を投入すると、一気にエスニックになった
最後に針生姜を投入すると、一気にエスニックになった
ものの5分で「ネパール焼きそば」いっちょあがりだ
ものの5分で「ネパール焼きそば」いっちょあがりだ
お見事です……。この調子で残りもなんとかしてあげてください。
高温のサラダ油でトマトをつぶしながら炒める
高温のサラダ油でトマトをつぶしながら炒める
唐辛子を加え、じっくりと炒める。業をおとすかのごとく、丹念に。そして餃子用の特製ソースが完成
唐辛子を加え、じっくりと炒める。業をおとすかのごとく、丹念に。そして餃子用の特製ソースが完成
ラストの筑前煮はなんと「ネパールカレー」にアレンジ。クミン、タマネギ、トマトの他、香ばしく、ややほろ苦いフェヌグリークというスパイスなどを炒める。カレー味のおかず「タルカリ」に使うスパイスで、芋に合うという。そして、最後に筑前煮を投入。やはり、「入れなくていいのに!」という気持ちになってしまう
葉ものをちらして完成。素敵
葉ものをちらして完成。素敵
かくして、素晴らしき三品が完成した。さっそくいただくとしよう。
ワクワクが止まらない
ワクワクが止まらない
まず、筑前煮改め、ネパールのカレー料理「タルカリ」。こちらはターメリックライスとともにいただく。
見た目もすっかりエキゾチックになられて……。もとはあんなに角刈りだったのに
見た目もすっかりエキゾチックになられて……。もとはあんなに角刈りだったのに
すごくうれしそうだ
すごくうれしそうだ

まあ、うまいよね

予定調和な感じで申し訳ないが、うまい! いや、うますぎる。サガルマータの山頂(※)から全世界にお伝えしたいほどのうまさだ。 (※エベレストのネパール語名)

しかし、ぼくのあほみたいな感想だと魅力が十分に伝わらないと思うので、プロの料理人である馬場さんにも食べてもらった。
「あ、うまいですね」
「あ、うまいですね」
「ベースの筑前煮は醤油味ですよね。それが、ナンプラー系のソースを使ったエスニックの旨みに感じられます。醤油だけだとしょっぱいんですよ。和食だったらそこにだしの旨みを足したりするんですけど、これはスパイスやら色んなものと混ざって、独特な魚醤系の旨みっぽくなってますね」(馬場さん)

さすが、コメントが的確である。食レポの際、プロを同伴させるとラクができていい。今日はおいしく食べることのみに集中しよう。

「ふと、筑前煮だった時代の面影も感じられます。ショウガやスパイスでうまく隠されていますが、『和食の私を忘れないで!』と、エスニックに囲まれた日本人が1人いる感じ。いずれにせよ、かなりきれいにまとまっていて、非常においしいですね。お店で出されても、何の違和感もなくいただけると思います」(馬場さん)
次。辛ウマなチリソースに絡めて食べる餃子
次。辛ウマなチリソースに絡めて食べる餃子
餃子。超うまい! ビール飲みたい。

詳しい感想は、馬場さんどうぞ。

「注意深く餃子のところだけを食べると、やや肉くささが残りますね。でも、ソースを絡めると、スパイス&トマトでちょうどいい具合にバランスがとれています」(馬場さん)

つまり、もとの料理が足を引っ張ってるってことですな。
そして、ネパール焼きそば
そして、ネパール焼きそば
元の焼きそばは塩加減が過剰だったのだが、それが見事に中和されている。アジアの屋台で食べる焼きそばである。すごい! あんなにまずかったのに!

「普通に、エスニックな麺料理ですね。最初の見た目ではネバっとしているのかなと思ったけど、これは油とソースでサラサラっと食べられる。スパイスの爽やかさで、全体の味も引き締められています。おいしいです」(馬場さん)
うんめー!
うんめー!

プロもうなるプロの技

つくづく、料理ってやつは本当に不思議で奥が深い。だって、筑前煮に加えた食材といえばタマネギとトマト、あとスパイスくらいなのだ。それだけで、料理にうるさい飲み屋の大将をうならせるほどの味になってしまうのだから。

まあ、ベースの料理がなければもっとおいしかったような気もするが、それは言いっこなしである。

【取材協力】
マナカマナ
住所:東京都板橋区大山東町59-20-2階
TEL:03-5375-6555
ランチ11:00~15:00、ディナー17:00~22:30LO
カレーはもちろん、ネパール餃子もおすすめ
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