特集 2017年4月19日

南国の人はココナッツでたまに死ぬ

その死神は南国に棲まう!
その死神は南国に棲まう!
熱帯地域のベトナム・ホーチミンでは至るところにヤシの木が生えている、その実がココナッツだ。陽気な南国を彩る要素だが、こんな噂を耳にした。「落下したココナッツが脳天に直撃して死ぬ人の数は、サメに襲われて死ぬ人の数よりも多い」。嘘だぁ、仮にも果物でそう簡単に死ねるかよ。農家に聞いたら、結構死んでた。
1984年大阪出まれ、2011年からベトナム暮らし。日本から3600km離れた土地で、ダチョウに乗ったり、ドナルドのコスプレをしたり、札束風呂に入ったりしている。

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まずはこちらをご覧いただきたい

ヤシの木の下に停められた車と、落下したココナッツ。
ヤシの木の下に停められた車と、落下したココナッツ。
フロントガラスに残るヒビ…!!
フロントガラスに残るヒビ…!!
マジか。車のフロントガラスは割れやすいように出来ているらしいとはいえ、これほどの衝撃が脳天に加わればポックリと逝ってしまってもしょうがない。これはときに、「ココナッツ爆弾」とも呼ばれるそうだ。

陽気で平和な印象のあるココナッツは、風に煽られて落ちるとき、途端に牙を剥く。たっぷり水を含んだ、カッチカチのココナッツ。重いものなら4kgになる、もはや軽めのダンベルだ。これは南国ならよく知られ、ハワイには日本語でのココナッツの注意書きの看板が存在するらしい。
Wikipediaより。B級のパニック映画で襲ってきそう。 でもなんでペロペロキャンディー持ってんだ?
Wikipediaより。B級のパニック映画で襲ってきそう。 でもなんでペロペロキャンディー持ってんだ?
そんなココナッツ爆弾のちょっといいとこ見てみたい、言い換えると落ちる瞬間を見てみたい。せめて現地の人から生を声を聞きたいな。そこでココナッツの名産地としても知られるベンチェーという街(省)に向かった。

現地に明るい人の協力を得てココナッツ農園へ

たびたび通訳として取材を手伝ってもらっているユエンさんの知人でヴァンさんという方がベンチェーにおり、その親戚筋がココナッツ農園を経営しているということで協力をお願いした。現地までは車で片道二時間、折角チャーターするならと友人も誘って7人で向かう。
知人宅。あちらも大人数で、法事かという人数に。
知人宅。あちらも大人数で、法事かという人数に。
部屋の半分を陣取るミシン。
部屋の半分を陣取るミシン。
ここは小さな裁縫工場。ユエンさんは服飾ブランドを経営しており、その発注先が今回ご案内いただくみなさんという訳。つまりこれは彼女たちからユエンさんへの接待でもあるので、我々日本人も甘んじて受けることに。
中央のクッキー缶は、ベトナムではおもてなし定番のロングラン商品。
中央のクッキー缶は、ベトナムではおもてなし定番のロングラン商品。
余談だが、赤ん坊がめちゃくちゃこっち見よるので少し怖かった。前世は知り合いだったかもしれない。
余談だが、赤ん坊がめちゃくちゃこっち見よるので少し怖かった。前世は知り合いだったかもしれない。

ココナッツはベンチェーの「恵み」であり「災害」

ココナッツ農園が併設されたレストランへ。
ココナッツ農園が併設されたレストランへ。
ココナッツミルク入りのお菓子を食べながら話を聞く。
ココナッツミルク入りのお菓子を食べながら話を聞く。
噛み砕くとポロポロにこぼれるので上を向いてしまう。で、笑われる。
噛み砕くとポロポロにこぼれるので上を向いてしまう。で、笑われる。
私「ベンチェーって本当にココナッツ尽くしですね」
ヴァンさん「名産だからね!お菓子も料理もあるよ」
ベトナム料理では定番の蓮の茎が入ったサラダだが、白い板状のものはココナッツの実を削いだものだ。大根の桂剥きのような食感だが、特有の甘い風味がする。
ベトナム料理では定番の蓮の茎が入ったサラダだが、白い板状のものはココナッツの実を削いだものだ。大根の桂剥きのような食感だが、特有の甘い風味がする。
私「で、いきなり聞いちゃいますが、落ちてきたココナッツがぶつかって死ぬことってあるものなんですか?」
ヴァンさん「うん、あるし、全然死ぬよ」
私「死ぬのかー」
ココナッツが、上からこう、音もなくね。
ココナッツが、上からこう、音もなくね。
ヴァンさん「私たちの親戚筋でもココナッツがぶつかった人はいるからね。ただ、死ぬとまではいかなかった。入院したり、顔が腫れたりはしたけど」
私「そんなに頻繁に落ちるもので?」
ヴァンさん「どこのだれが当たって怪我したって話は、毎月のように耳に入るね。死亡は年に一度くらいかな」

なんとなく、交番の前に張り出された交通事故の被害者数を示す掲示板を思い浮かべる。ベンチェーの人たちの語り口からすると、まるで不運な交通事故のようだ。
ココナッツまで金具の付いた棒を伸ばして穫るのだが、もはや木が高すぎて画面に収まらない。
ココナッツまで金具の付いた棒を伸ばして穫るのだが、もはや木が高すぎて画面に収まらない。
大ベテランのおじいさん、ココナッツを次々落とす。
私「でも、どういうときに当たりますか?ヤシの木の下で休んでいるといきなりゴツンと落ちてくる??」
ヴァンさん「危険だからそんな場所で休む人はいないね」
私「そもそもヤシの木の下は危険という認識なんだ」
ヴァンさん「やっぱり、収穫するときが多い。みんな避ける準備をしてから穫るけど、不意に当たっちゃうこともある。まとめて穫ると意図しない位置から実が落ちてくるから、それが頭に当たって怪我したり死んだり…」

ココナッツ爆弾による怪我は、ベンチェーでは言ってみれば職場の工場で指を切ったという感覚で、労働災害のようなものなのだろう。ココナッツが当たるかどうかは収穫する人の技量による。「まとめて穫ろうとすると当たっちゃうから気をつけろ」という話は、まるで欲張り者は罰が当たるという教訓を含んだ昔話にありそうだ。
たまに「パン!」と音がするなと思ったらたびたび果実(レンブ)が落ちていた。果樹の街・ベンチェーではあらゆるものが落ちてくる、その最悪がココナッツってことか。
たまに「パン!」と音がするなと思ったらたびたび果実(レンブ)が落ちていた。果樹の街・ベンチェーではあらゆるものが落ちてくる、その最悪がココナッツってことか。
黒いシミはすべてその落下跡。
黒いシミはすべてその落下跡。
頭上からたくさんのレンブが脳天を狙っている。
頭上からたくさんのレンブが脳天を狙っている。
私「アクシデント的に当たることはないんですか?」
ヴァンさん「歩いているときに偶然当たることもあるけど、動いていると逸れるし、死ぬことは滅多にないよ」
私「止まって、まともに直撃するとまずいんですね」

聞いた話をまとめてみると、こうだ。
・収穫中によく当たる
・まとめて穫ろうとすると不意に当たる
・毎月怪我する人はいるし、毎年死ぬ人もいる。
・歩行中に当たることもあるが、そうそう直撃しないので大事には至らない。
「そりゃ死んだりするけどしょうがないよね」という、まるで諦めの境地に至っているかのようだった。いや、そもそもそれを諦めとも思っていない、「ココナッツと共生している」という表現がもっとも近いのかもしれない。恵みであり、災害である、それがココナッツの名産地・ベンチェーの人たちにとっての考えなのだろう。

あ、日本にも似てるものがあるんじゃないか。餅と同じだ。毎年正月に喉を詰まらせて人を死なせる餅は、海外のメディアで「殺し屋」だとも言われている。「なんでそんなに危険なものを食べるのか」と聞かれても、「いや、正月と言えば餅だし…」ときっと答えてしまうだろう。恵みであり災害、ベンチェーの人たちにとってのココナッツは、我々にとっての餅に近いのかもしれない。

落ちぬなら落としてみせようココナッツ

で、だ。そんなココナッツ爆弾をこの目で見てみたい。このレストランには農園が併設されている。自然落下が望めないのであれば、そのココナッツをヤシの木の上から落とすことで再現できはしないだろうか。完全に安全を確保して試そう、その破壊力はいかほどか。
農園まで案内してくれることになった男性…
農園まで案内してくれることになった男性…
裸足・ザ・ワイルド!
裸足・ザ・ワイルド!
スタッフ?と思っていたら、後日この人物はレストランの社長だったことを知りビビる。ラフすぎんだろ!人を見るときは靴を見ろと言われるが、その道理が通じないこともあるのだと知った。いや、ある意味、自分の庭のようなものだから裸足なのかもしれない(無理ある)。
ヤシの木は想像以上に奥地にあった。
ヤシの木は想像以上に奥地にあった。
世界最大の果物・ジャックフルーツも実っていた。高さはないが、これも直撃したらむちうちにはなりそうだ。
世界最大の果物・ジャックフルーツも実っていた。高さはないが、これも直撃したらむちうちにはなりそうだ。
爆弾の発射台は…こいつでいいかな。
爆弾の発射台は…こいつでいいかな。
手頃なヤシの木を見つけ、準備に取り掛かる。低木ばかりで正直理想通りではないのだが、それでもこの園内ではまだ高い位置にあるし何よりスペースも取れている。ココナッツ爆弾を再現すると言っても、ただ地面に落とすだけではドスンと鈍い音が鳴るだけだ。そこで、破壊力を検証するためにあるものを準備した。
スイカ~!
スイカ~!
スイカは固いぞ。こいつを割ったら大したもんですよ。9個のスイカを落下するであろう範囲に敷き詰めて、クラッシュしたときの割れっぷりでその破壊力を確かめる。要するに、ココナッツ爆弾を使ったスイカ割りだ。
それにしてもいつの間にやら大所帯。
それにしてもいつの間にやら大所帯。
自分で提案しておいてなんなんだが、10人以上もの大人がココナッツとスイカがぶつかる瞬間を見に来たという状況に笑ってしまう。しかも休日。心から感謝したい。
作業で汗をかいたら…
作業で汗をかいたら…
もちろんココナッツで水分補給だ。
もちろんココナッツで水分補給だ。
さて、発射準備OK!
さて、発射準備OK!
人工ココナッツ爆弾、いよいよ放たれます!

抜群の破壊力!…からのシッチャカメッチャカ

唐突の前置きだが、ここから予想の付かない展開を迎えてシッチャカメッチャカになってこの記事は終わることになる。あまり真面目な考証にはならないことを念頭に置いた上で読んでもらえると安心だ。ひとまずは、ココナッツ爆弾の破壊力を動画でご覧いただきたい。
ココナッツ爆弾、投下!
ココナッツ爆弾、投下!
割れた!めちゃくちゃ割れた!!
私、興奮しすぎて、後半過呼吸気味になるけど笑ってあげてください。
動画をご覧いただければ分かる通りこのときはワッ!と盛り上がったが、ココナッツ爆弾は自然落下だっちゅーてんのに、動画を見返すと思いのほか振りかぶって投げている。そこは素直にココナッツの硬さと重さに驚いていただけるとありがたいと言いたいが…いや、ごめん。

とはいえご覧の通り、破壊力は抜群だ。ここでダメ押しになるかもしれないが、「スイカが思った以上にヤワい」という可能性もある。念のためにも私の拳で殴ってみよう。これでスイカが割れなければ、少なくともココナッツ爆弾は大人(私)が本気で殴るよりも破壊力があるということになるからな。まー割れないだろうけどね!
せーの…ゴシャッ!あれぇ!?
せーの…ゴシャッ!あれぇ!?
私「割れちゃったよ…嘘だろ、オイ!」
私「割れちゃったよ…嘘だろ、オイ!」
どうしよう!自らココナッツ爆弾の破壊力の根拠を潰してしまった!考えが甘かった!「ココナッツは私の拳より全然強かったですね、こりゃ死にますね!」で終わらせるつもりだったのに…ど、どどど、どないしよ!?

と思っていたら輪をかけるようにシッチャカメッチャカに。

社長「ほあぁー!!」
全員「!?」
社長「ほおおおぉぉぉ!!」
社長「ほおおおぉぉぉ!!」
社長「あたぁーっ!!!」 私「何しとんねん君!?」
社長「あたぁーっ!!!」
私「何しとんねん君!?」
突然、社長に、なにかのスイッチが入った。
私のスイカ正拳突きをどう解釈したのか、そういう力勝負がはじまったと思ったのか、案内してくれた農園の社長がいきなり奇声を上げながらスイカを破壊しだした。

なんだ、これは?何が起きている??ココナッツ爆弾の破壊力を示したかっただけなのに、スイカはヤワで、社長は私に対抗心を燃やしてスイカを叩き割りはじめている。
このあと本人がfacebookにアップしていた。フォロワー二万人のベンチェーの有名人だったらしい。
スイカは食べられるものは食べて、残りはあげた。
スイカは食べられるものは食べて、残りはあげた。

検証はともかく…「ココナッツによる死」は真実です。

帰りの車内から夕暮れを望む。
帰りの車内から夕暮れを望む。
ココナッツ爆弾の再現は、正直なところ失敗に終わった。威力を測る分にはベトナムのスイカはあまりにヤワすぎたし、自然落下でないといけないココナッツは思い切り振りかぶって投げられていたし、極めつけは社長乱入によってスイカ正拳突き割り大会になってしまった。「収集がつかない」とはまさにこういう状態を言うのだろうか。

そう思ってこの記事どないしよと思っていたら、スイカをもらってくれた女の子から「友人から教えてもらったよ」と言って送ってくれた写真が、あの冒頭の割れたフロントガラスになる。あれがなければココナッツ爆弾の証明がフワッとした感じで終わっていただろう。展開はともかくとして、「ココナッツによる死」は真実だった。

世界にはその国特有の意外な死因が存在する

ヴァンさんが聞き及ぶ限りで毎年1人は亡くなっていると言うのなら、ベトナム全体でココナッツが直撃して亡くなっている人数は10人以上に上るのかもしれない。ならばきっと、世界中のココナッツが実る南国で、同じ原因で突然の死を迎える人がいるのだろう。

ベトナムではココナッツが頭にぶつかって死ぬし、日本では正月に餅を喉に詰まらせて死ぬ。お互い、「なんて気の抜けた死因だろう」と思うのかもしれない。笑い事にはならないが、その国特有のアンビリーバブルな死因があるってやはり興味深くはある話だ。合掌。
最後にどうでもいいことだけど、
最後にどうでもいいことだけど、
ヴァンさん宅にあったマッサージチェアのブランド名が「かずこ」だった。
ヴァンさん宅にあったマッサージチェアのブランド名が「かずこ」だった。

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