特集 2017年4月26日

花見散歩で愛でるご近所桜

桜を探して歩き回りながら花見を楽しむ花見散歩の提案と実践です
桜を探して歩き回りながら花見を楽しむ花見散歩の提案と実践です
春になり、桜が満開になったので、花見をしたいなと思った。

花見と言えば、桜の名所といわれるような場所にグループで集まり、わいわいやりながら食事やお酒を楽しむというのが一般的であろう。だがそれだと人を集めなければならず、なおかつ日程の調整も必要だ。そうこうしているうちに桜が散ってしまう。

もっと気軽に、手軽に満開の桜を楽しみたい。それならいっそのこと、ひとりで近所を散歩しながら桜を見て周れば良いのではないだろうか。なんとなく思いついてやってみた花見散歩であったが、これが思いのほか楽しかったので紹介したい。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

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桜の名所で見る一般的な花見

本題に入る前に、まずは一般的な花見を押さえておこう(というのは建前で、花見散歩を試した後にいわゆる名所と呼ばれるような場所の桜を見てみたくなったというのが本音である)。

私が住んでいるのは神奈川県の綾瀬市だが、そこから一番近い桜の名所として、隣の大和市を流れる「引地川の千本桜」が割と知られている。
既にだいぶ散ってしまってはいるが、実に見事な桜並木である
既にだいぶ散ってしまってはいるが、実に見事な桜並木である
土曜ということもあり、シートを引いて花見を楽しんでいる人も多い
土曜ということもあり、シートを引いて花見を楽しんでいる人も多い
スペースが限られているので宴会はできないが、家族やカップルで楽しむのに最適なお花見スポットである
スペースが限られているので宴会はできないが、家族やカップルで楽しむのに最適なお花見スポットである
引地川の水面は散った花びらで埋め尽くされていた。満開の時には見られない、散りぎわならではの光景だ
引地川の水面は散った花びらで埋め尽くされていた。満開の時には見られない、散りぎわならではの光景だ
桜の名所として知られているだけあって、なかなかどうして見事なものである。だが、やはり訪れる人の数が多く、落ち着いて花見をするには不向きであるような気もした。私はもっと静かにのんびり桜を楽しみたいのだ。

日本酒を仕込んだ水筒片手に花見散歩

というワケで本題である。たとえ名所と呼ばれるような場所でなくとも、それこそ自宅の近所であっても、キレイに咲いている桜はあるだろう。そういったご近所桜を探して歩く、花見散歩の実践だ。

ところで、花見といえば欠かせないのはお酒である。ビールだとまだ少々寒い気がするので、ここはやはり日本酒で行きたいところだ。早速スーパーでテキトーな日本酒を購入してきたので、これをお供に歩くとしよう。
さすがに酒瓶を片手にうろうろするのはどうかと思うので――
さすがに酒瓶を片手にうろうろするのはどうかと思うので――
水筒に忍ばせることにした。これなら酒とは思われないだろう
水筒に忍ばせることにした。これなら酒とは思われないだろう
それでは出発である。最初にどこへ行くかだが、近所の桜と聞いてまず頭に浮かんだ公園を目指すことにした。たしかあの公園には、それなりになりまとまった数の桜の木があったはずである。
おぉ、良い感じに咲いているではないか
おぉ、良い感じに咲いているではないか
記憶にあるよりも桜の木が多く、ちょっとだけ驚いた
記憶にあるよりも桜の木が多く、ちょっとだけ驚いた
まさにTHE満開といった具合である
まさにTHE満開といった具合である
平日の昼間ではあるが、シートを引いて花見をしているご婦人方もいた
平日の昼間ではあるが、シートを引いて花見をしているご婦人方もいた
うむ、桜は実に良いものだ。特に満開の桜には華やかさの上に生命力が感じられ、それはまるで春という季節の到来を全力で知らしめているようだ。平安時代より人々に愛され続けてきたというのも納得の、まさに日本を代表する花である。

このままボーっと桜を見ているのも良いが、やはり花見といったらお酒である。吹き付ける風も少々冷たいし、そろそろ温まるとしようじゃないか。
よーし、それじゃぁ一杯いきやすか
よーし、それじゃぁ一杯いきやすか
水筒の蓋が紛失しているので、家から持ってきた茶碗に注いで呑む
水筒の蓋が紛失しているので、家から持ってきた茶碗に注いで呑む
うーむ、平日の昼から桜の下で飲むお酒の味は格別だ
うーむ、平日の昼から桜の下で飲むお酒の味は格別だ
散ってきた花びらがたまたま茶碗に入った。風流ですなぁ
散ってきた花びらがたまたま茶碗に入った。風流ですなぁ
次にバッグから取り出したるはお弁当――
次にバッグから取り出したるはお弁当――
――に見せかけて、おつまみセットである
――に見せかけて、おつまみセットである
雲のない青空に、桜と裂きイカが良く栄える
雲のない青空に、桜と裂きイカが良く栄える
なんだか既にまったりと楽しめている気もするが、だが一箇所に留まり続けていては普通の花見と同じである。できるだけ多くの桜を楽しむ為にも、一箇所に滞在するのはせいぜい10分くらいにしようじゃないか。というワケで荷物をまとめ、次なる桜を目指して公園を後にする。
さぁ、花見散歩の本番はこれからだ
さぁ、花見散歩の本番はこれからだ
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桜を探して右往左往

先ほどの公園を後にしたは良いものの、次に行く場所を考えてもこれが不思議と思い浮かばない。そもそも、この辺りのどこに桜の木があるのかわからないのである。

桜の木に目が留まりやすいのは、当然ながら花が咲いている時期である。逆に言えば、それ以外の季節はまったく印象には残らない。たとえ身近に桜があったとしても、開花しているわずかな期間に遭遇しない限り、そこに桜が存在すると認知されないのかもしれない。

とりあえずカンだけを頼りに、桜がありそうな場所を目指して歩くことにする。
せっかくの散歩なので、徒歩でなければいけないルートを行ってみる
せっかくの散歩なので、徒歩でなければいけないルートを行ってみる
桜は……見当たらない
桜は……見当たらない
神社の境内になら桜がありそうだと思いきや、残念ながら一本もなし
神社の境内になら桜がありそうだと思いきや、残念ながら一本もなし
隅棟の鬼瓦が逆さにしたコアラみたいだなと思った
隅棟の鬼瓦が逆さにしたコアラみたいだなと思った
どうでも良い気付きはあれど収穫はなし。諦めて神社の境内から出ようとしたその時、視界の先に淡いピンク色の木が見えた。
ナシ畑の先に見えるのは……紛れもなく桜だ!
ナシ畑の先に見えるのは……紛れもなく桜だ!
喜び勇んでその木の元に向かおうとするものの、この辺りは道がいささか入り組んでいてなかなか辿り着くことができない。そうこうさ迷っているうちに、別の桜を発見した。
畑の中にたたずむ野良桜である
畑の中にたたずむ野良桜である
木自体は小さめだが、枝ぶりはなかなかのものだ
木自体は小さめだが、枝ぶりはなかなかのものだ
私有地にあって近付けないので、隣接する公民館の駐車場から眺めつつ一杯やる
私有地にあって近付けないので、隣接する公民館の駐車場から眺めつつ一杯やる
風が吹くたびに枝が揺れて花びらが舞い踊る。その光景は木の下にいては見ることができないであろう。桜の木は遠くから眺めるのも悪くない。そんなことを思いながら路地を行くと、ようやく先ほど神社から見た桜に辿り着いた。
昔からの農家なのだろう、広い庭に桜の木が聳えている
昔からの農家なのだろう、広い庭に桜の木が聳えている
もはや茶碗に注ぐのも面倒になり、水筒の口から直接飲む
もはや茶碗に注ぐのも面倒になり、水筒の口から直接飲む
遠目で見てもかなり立派な桜だと思うが、いかんせん遠すぎて風景の一部としか捉えられない。とりあえずお約束として一杯飲むものの、花見をしている感は薄い。このような立派な桜を庭先で独り占めできるとは、なんとも羨ましいお宅である。

ちなみに近くには農作業をしているおばあちゃんがおり、私の姿も見られていた感じである。だが水筒に詰め替えていたこともあり、私が桜を肴に酒を飲んでいるなど、露にも思わなかったことだろう。人目を気にせず酒を飲む手段として、水筒はかなり有用なようである。
引き続き、テキトーに路地を進んでいく
引き続き、テキトーに路地を進んでいく
すると……おぉ、あそこにも桜があるぞ
すると……おぉ、あそこにも桜があるぞ
企業の敷地に植えられていた桜である
企業の敷地に植えられていた桜である
通りに面して枝を伸ばしているので、接近も可能なのが嬉しいところ
通りに面して枝を伸ばしているので、接近も可能なのが嬉しいところ
この桜もまた満開で、実に素晴らしきことかな
この桜もまた満開で、実に素晴らしきことかな
平日の真昼間ということもあり、もちろん企業は仕事をしている。工場内からはガタンゴトンという音が絶え間なく聞こえてきており、少々申し訳なく思いつつも、グビリと喉を鳴らす。

まぁ、傍から見ればお茶か何かを飲んでいるように見えるのだろうし、人目を気にしなくて良いとはいえ、やはり道端での飲酒は一抹の背徳感を覚えるものである。
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微かな記憶を頼りに桜を辿る

再び桜を求めて歩き出すも、やはりどこへ行ったら良いのか分からず途方に暮れる。それ程ご近所桜に対する印象は薄い。

確かあの辺に桜があったような気がしないでもない。いや、あっちだったか、こっちだったか。そんな曖昧な記憶を頼りにぶらぶら歩く。
この先に桜の木があったような、そうでもないような
この先に桜の木があったような、そうでもないような
おっと、東海道新幹線の高架の間に桜が見えましたよ
おっと、東海道新幹線の高架の間に桜が見えましたよ
あーそうか、ここに幼稚園があったんだ
あーそうか、ここに幼稚園があったんだ
無邪気な園児たちの声が響く幼稚園の前で一杯やるのは少々気が咎めるが――それでも飲んじゃう!
無邪気な園児たちの声が響く幼稚園の前で一杯やるのは少々気が咎めるが――それでも飲んじゃう!
なんだか人としてのランクがひとつ下がったような気がしないでもないが、だが、まぁ、桜は素晴らしいものである。そしてお酒も素晴らしい。

いそいそと幼稚園の桜に別れを告げ、近くを流れる比留川沿いのプロムナードを歩く。私は去年の初夏頃までウォーキングをしていたのだが、この川沿いを歩いていた際に桜の花を見かけたのだ。
この先に桜の木があったはずだ
この先に桜の木があったはずだ
確かにあった……が、見事なまでに散っていた
確かにあった……が、見事なまでに散っていた
なんというガッカリであろうか。ここに桜の木があると確信をもって向かっていただけに、落胆の色は隠せない。肩を落としつつ川の流れに目をやると、そこには淡いピンクの花びらが複数見えた。
花びらが流れてくるということは、もしや――
花びらが流れてくるということは、もしや――
ビンゴ! 少し上流に花を咲かせた桜があった
ビンゴ! 少し上流に花を咲かせた桜があった
植えられたばかりなのだろうか、かわいらしい小ぶりの双子桜である
植えられたばかりなのだろうか、かわいらしい小ぶりの双子桜である
葉桜を見てしょんぼりした後なだけに、喜びもひとしおである。再びグビリグビリとやりつつ、ほろ酔い気分で双子桜を後にする。テンション上がって足取りも軽く、勢いに任せてどんどん突き進んでいく。
おぉ、あそこにも桜が見えるぞ、しかも複数あるようだ
おぉ、あそこにも桜が見えるぞ、しかも複数あるようだ
……が、残念ながらゴルフ場の敷地内なので近寄れない
……が、残念ながらゴルフ場の敷地内なので近寄れない
その隣にあったお寺にも咲いていたので、こちらの桜を楽しむことにする
その隣にあったお寺にも咲いていたので、こちらの桜を楽しむことにする
山門の甍に枝垂れる桜が良く映える
山門の甍に枝垂れる桜が良く映える
お寺の境内で一杯やるのはさすがにマズイので、般若湯を頂くのは敷地外でだ
お寺の境内で一杯やるのはさすがにマズイので、般若湯を頂くのは敷地外でだ
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桜で辿る幼少の記憶

これまで結構な距離を歩き、だいぶ酔いが回ってきた。だが酒が感覚を麻痺させているのかまだ疲れは感じてはいないので、もう少しだけ花見を続けることにする。
道路の先にこんもりと花を咲かせた桜の木
道路の先にこんもりと花を咲かせた桜の木
庭に桜の木があるお宅が羨ましい
庭に桜の木があるお宅が羨ましい
そのさらに先にも複数の桜が
そのさらに先にも複数の桜が
かなり出来上がっているが、桜の下でぐいっと一飲み
かなり出来上がっているが、桜の下でぐいっと一飲み
それにしても随分と古そうなコンクリート製の門柱である
それにしても随分と古そうなコンクリート製の門柱である
今は駐車場になっているこの敷地。しかし昭和前期に遡るのであろうこの門柱を見るに、かつてここには歴史ある建物が存在していたのだろうか。……と、そこまで考えたところで、幼少の頃の記憶が蘇ってきた。そう、確かこの辺りには古めかしい板張りの建築が建っていたはずだ。私がまだ小学生ぐらいだった頃、夜にバスで通りがかった時にお化けが棲んでいそうな雰囲気の建物があり、なんだか怖いなと思っていた。

気になったので調べてみると、ここにはかつて綾瀬町役場が存在していたのだそうだ。なんと! まさかあのお化け屋敷が役場の建物だったとは! 以降は気に留めることなくいつの間にか取り壊されてしまったものの、私の脳みその片隅にはまだ当時の姿が残っていた。
すっかり更地となった旧綾瀬町役場跡にも桜だけ残る
すっかり更地となった旧綾瀬町役場跡にも桜だけ残る
その隣にあった戦没者慰霊碑にも桜が植えられていた
その隣にあった戦没者慰霊碑にも桜が植えられていた
酔っぱらいつつ桜を探して歩いていたら、まさか忘れていた幼少の頃の記憶を取り戻すことになるとは。何とも不思議な体験に、我ながら驚きである。

さてはて、ここに来てさすがに少し疲れが出てきた。若干重くなってきた脚に鞭を打って坂道を上っていくと、そこには小学校があった。
入学式と同時期に花が咲く桜は、学校になくてはならない存在だ
入学式と同時期に花が咲く桜は、学校になくてはならない存在だ
もうだいぶぐでんぐでんである。小学校の前でこんなんじゃ、不審者として通報されても不思議ではない
もうだいぶぐでんぐでんである。小学校の前でこんなんじゃ、不審者として通報されても不思議ではない
坂の向こうにある、綾瀬市役所まで行って終わりにするとしよう
坂の向こうにある、綾瀬市役所まで行って終わりにするとしよう
千鳥足で坂をえっちらほっちら上り、ようやく市役所に辿り着いたのだが……
千鳥足で坂をえっちらほっちら上り、ようやく市役所に辿り着いたのだが……
想像以上に桜の木が多くて驚いた。市役所ってこんなに桜がキレイだったのか!
想像以上に桜の木が多くて驚いた。市役所ってこんなに桜がキレイだったのか!
とりあえずお弁当を頂くことにする(半額シールは見なかったことにしてください)
とりあえずお弁当を頂くことにする(半額シールは見なかったことにしてください)
水筒は既に空っぽになってしまっているが……
水筒は既に空っぽになってしまっているが……
こんなこともあろうかと、バッグに隠し玉を忍ばせておいたのだ
こんなこともあろうかと、バッグに隠し玉を忍ばせておいたのだ
いやぁ、花見って本当に良いものですね
いやぁ、花見って本当に良いものですね

気の向くままに楽しむ散歩de花見

一箇所に腰を据える普通の花見とは違い、フットワーク軽く色々な場所を楽しめる花見散歩。慣れ親しんだ近所とはいえ意外な場所で桜を見付けるといった発見もあり、なかなかに楽しむことができた。

今回の傾向を見るに、桜が多いのは公園や河川沿い、昔ながらの農家や寺院などだろうか。学校の施設は高確率で桜が植えられているものの、色々な面から花見散歩では避けた方が無難かと思われます。

どこから始めるかも、どこで止めるかも、すべてが自分次第。桜が満開になったら、お酒を入れた水筒片手にふらふらっと近所の桜を探してみるのも一興です。北海道など、これから桜のシーズンを迎える地域にお住いの方々はぜひとも試してみてください。もう散ってしまった地域の方々は来年にでも!
道すがら補給できるのも花見散歩の良いところ
道すがら補給できるのも花見散歩の良いところ
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