特集 2017年5月1日

昭和感漂うベトナムの路地裏

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ベトナムでは路地裏のことを「ヘム」と呼ぶ。日本語的にはなかなかかわいらしく、在住日本人でも路地裏と言わずにあえてヘムと呼ぶ人も多い気がする。ちなみにこれは南部の言葉で、北部だと「ンゴ」になる。日本語的にはいきなり間の抜けた感じになるが、実際に発声すると「ン」は最初にほんのすこし喉を締める感じ。

これが実に、日本のオフィスビル街とはまた違った意味でコンクリートジャングルなのだ。今回、そんなヘムを紹介するべくズンズンと突き進んでみた。
1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

前の記事:ベトナム人はコーラに練乳を入れて飲む(全員じゃない)

> 個人サイト AbebeTV おきのえらぶ島移住録 べとまる

自宅から徒歩3分でコンクリートジャングルへ

ヘムは都市部なら至るところにある。ベトナム観光に来た人から「バイクの走行音やクラクションがうるさい」とよく聞くけれど、実はヘムに入るやいなや建物が音を遮って、気持ち悪いくらいに静かになるのだ。まぁ、耳をすませば、常に微かに地鳴りはしているのだけど。
文字通りのコンクリートジャングル!
文字通りのコンクリートジャングル!
今回選んだヘムは近所のここ。すでに少し複雑そうだが、目に見えない毛細血管レベルで枝分かれしている。
私が住んでいるエリアは市内の8区。在住者に話すと決まって「え、なんでそんなところに」と辺境の地扱いされる。実際、不動産屋に「4区だよ!」と連れて行かれたら「8区やないか!」という経緯があったのだけど、部屋もキレイだったし、区の境目にあり1区と5区と4区と7区にもアクセスが良いので気に入っている。

今きっと大半の方が「知らねぇよ!」と思っているのだろうけど、分かりやすく言えば東京都に隣接した埼玉県川口市みたいなものだと思ってほしい。それも知らない場合はどうか許しを乞いて、話を次に進めよう。

ジャングルの前に(バイクの)川を渡る

そんなヘムに入る前に面倒な障害がある。
バイクの川です!
バイクの川です!
いい景色を狙って夕方に出たものだから(理由は後述)、帰宅ラッシュがはじまっていた。彼らは避ける技術がすごいが、ここまで密度が高いと物理的に避けられない可能性もある。何かの拍子でつまづいたら、1%よりはるかに低い可能性だけど最悪死ぬ。慎重に歩を進めよう。

それにしても、ジャングルの前に川とは、まるでさもアマゾンの大自然を模しているようではないか(たまたまだ)。
目指すはあのヘム…!
目指すはあのヘム…!
渡ったぞ!
渡ったぞ!
入ったぞ!
入ったぞ!
当然ながら、大通り沿いは土地の価格が高いので、民家であっても一階ではお店を営業していることが多い。言葉を変えれば、逆にヘムに入るほど住居が多く、一般的なベトナムの日常風景を見ることができる。
入口すぐにはタバコ屋さん。
入口すぐにはタバコ屋さん。
タバコ屋があった。ベトナムのタバコのパッケージは割りとグロテスク。面積の半分以上が「タバコ吸ったらこんなひどいことになるよ~」という写真なので、それでも売れるタバコは吸わない自分から見ると中毒性ってすごいなと感じる。
軒先に座って談笑したりぼーっとしてる人が多い。
軒先に座って談笑したりぼーっとしてる人が多い。
南部のホーチミンは季節に関係なく、日中の日差しが殺人的に強いため、日暮れ時からひとびとはわらわらと外に出る。もちろんスコールが降っている間はめっきり涼しくなるが、それはそれでびしょ濡れになるので外に出ない。

だから、この時間から真っ暗になっても子どもが外で遊んでいることが多い。その舞台こそが、このヘムに当たり、それを狙ってこの時間帯に来たという訳です。
子どもたちの間を縫うように遠慮なくバイクは走る。
子どもたちの間を縫うように遠慮なくバイクは走る。
時によっては、
時によっては、
子どもも走る(金持ちだなこの子)。
子どもも走る(金持ちだなこの子)。
服が売っていたり、
服が売っていたり、
美容室があったり、
美容室があったり、
雑貨が売ってあったりする。
雑貨が売ってあったりする。
このあたりでお分かりかと思うが、基本的に生活に必要最低限な衣食住はヘムの中で完結していることが多く、雑貨屋もエリアごとに必ずと言っていいほど存在している。ホーチミンにコンビニが登場するずっと前からあって、スケールの小さなコンビニと言っていいだろう。

一般庶民向けの商品の流通はこの雑貨屋が鍵を握っていて、コンビニやスーパーを気にしているだけでは必ず失敗するだろう、という記事を以前どこかで読んだ。
木材で増築したのかな、趣がある。
木材で増築したのかな、趣がある。
ある民家の二階から伸びたビニールカバーは、電線に引っ掛けているようだった。雨が降ったときに簡易的な屋根になるってことなのだろうけど、相変わらず電線の扱いが心配になるほど雑だ。
といっても、今更か。
といっても、今更か。
トランプが落ちている場所では、少し前まで誰かがおそらく賭け事をやっていた証拠。 負けたのかな。馬券か。
トランプが落ちている場所では、少し前まで誰かがおそらく賭け事をやっていた証拠。 負けたのかな。馬券か。
玄関先にシーサー。
玄関先にシーサー。
玄関先にシーサーのある民家があった。前述の、日暮れ時からひとびとが外に出ることと言い、ベトナムの日常風景は何かと沖縄に通じるものがある。シーサーはそんなにしょっちゅう見るものではないけれど、あったらあったで「あるなぁ」くらいに思うほど、珍しくはない。
貝屋さんが夜の営業に向けて下準備をしていた。
貝屋さんが夜の営業に向けて下準備をしていた。
蚊取り線香、匂い付きそうだな。 というか蚊取り線香あったんだ、輸入品だとしても。
蚊取り線香、匂い付きそうだな。 というか蚊取り線香あったんだ、輸入品だとしても。
リヤカーで野菜を売っているおばちゃんがいた。
リヤカーで野菜を売っているおばちゃんがいた。
手押しから飛び乗ったと思いきや、
手押しから飛び乗ったと思いきや、
大通りに戻った!
大通りに戻った!
再び、バイクの走行音とクラクションで賑わう喧騒の時間に戻った。「時間の流れが違う」という表現があるが、ヘムと大通りの違いはまさにそう呼ぶにふさわしい。ベトナムの日常はヘムの中にこそ詰まっているのだ。

ちなみにヘム(ンゴ)はハノイの方がすごいです。

今回、ベトナム・ホーチミンのヘムを紹介した訳ですが、実はハノイの方がもっと入り組んでいて底知れない。ホーチミンはフランス統治時代にパリ(の放射線状に道路が広がる形状)を模して都市設計されたが、一方のハノイはそんなこともない並びで、合理的ではないために、空間を埋めるように「ンゴ」が形成されたのかもしれない。
途中で出くわした十字路。 パノラマ撮影をしてみたが、一本撮り切れなかった。
途中で出くわした十字路。 パノラマ撮影をしてみたが、一本撮り切れなかった。
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