特集 2017年5月11日

ポークカツレツがおいしいことに気が付きました

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ポークカツレツというと、ポークソテーととんかつの中間くらいのなんかメニューのバリーションを増やすためにあるんじゃないの?と疑いたくなるような、あなぬけない肉料理という印象だった。

昔のファイナルファンタジーでいう「赤魔道士」みたいな存在だと思っていた。

しかし偶然食べたことによってポークカツレツのおいしさに最近ようやく気がついたのだが、「ポークカツレツ」と言われても、その正体がつかめない。

いままで見落としていた反省も込めて、何店かで食べ比べてみたい。
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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これまでポークカツレツを見落としてきた人生でした

洋食屋やレストランにいろいろメニューがあるなかで、ついハンバーグとかステーキとかフライとかを頼んでしまう。ポークカツレツについてはいまいちピンとこず、視界に入ってこなかった。
ハンバーグか…
ハンバーグか…
オムライスもいいな…
オムライスもいいな…
エビフライ、ハンバーグ、オムライス…。並み居る競合が揃うメニューを見てポークカツレツを選ぶだろうか?

選んだほうがいいですよ、という話をこれからする。

ポークカツレツがおいしかった

ぼくの経験を振り返ってみよう。先日洋食屋に行った。
池袋駅からほど近いところにある洋食屋キッチンチェック。池袋の老舗である。
池袋駅からほど近いところにある洋食屋キッチンチェック。池袋の老舗である。
厨房を囲むようにカウンター席が並び、お腹をすかせた客が料理ができるさまをじっと眺める。理想的な近代国家の概念図のような熱気を帯びた店内だ。
スパゲティ明太子の倒置法も気になるが、今日はポークカツレツ
スパゲティ明太子の倒置法も気になるが、今日はポークカツレツ
メニューを見るだけでテンションが上ってくる。ついついオムライスやハンバーグに行ってしまう気になるがもうだいたい食べた経験がある。じゃあ今日は食べたことがないポークカツレツを頼んでみよう。軽い気持ちで注文をする。

ワインを飲みながら待つ。
赤ワインと白ワインがあって、どちらも味がピーキーだ。
赤ワインと白ワインがあって、どちらも味がピーキーだ。
そしてやってきたポークカツレツ。
きた。
きた。
ニンテンドースイッチ本体くらいの大きさの肉がきた。茶色くて地味だけどうまそうだ。ステーキとは一線を画す重厚なボディ。なんにしろ衣をまとっているので、焦げ目がついている。

ナイフでカットすると、うっすらとピンクの肉があらわれる。その厚み、2センチくらいだろう。これはニンテンドースイッチより厚い。
とんかつみたいな厚み
とんかつみたいな厚み
食べてみる。

ぶあつい肉なのだが、火加減の技巧でパサツキはまったくなくやわらかい。目を引いた衣の焦げも、夏休み明けの中学生の日焼けのように健康的だ。

トマト感ある慣れ親しんだ味のデミグラスソース、それはカツレツを焼いた油が残ったフライパンで温めているのだろうか、カツレツのと一体感がすごい。少年漫画のライバル同士のようにお互いを高めあっている。
思わず顔が四角くなる
思わず顔が四角くなる
揚げと焼きのいいどこどりをしている。調理方法は「焼き」だが、油を含んだ衣をまとっているいるのでからしも合う。それがデミグラスソースとも矛盾しない。

端的にいうと、うまかった。

先日これを食べて「なるほどこれがポークカツレツか」という思いでいっぱいになったのである。見逃していたもののよさを発見したときのショックは大きい。

ポークカツレツを無視していたことを反省せねばならないだろう。反省した。
反省(反省のしかたが古風ではあるが)
反省(反省のしかたが古風ではあるが)
帰宅したあと、ポークカツレツが一体どんな料理なのか調べた。Wikipediaを読んでいろいろ由来があるところまではわかったのだが、核心がつかめないうちに飽きて、いつの間にか「人によって引き起こされた核爆発以外の大爆発一覧」の項目を見ていた。

これではダメだ。べつの店のポークカツレツも食べてみよう。

揚げるタイプもあるらしい

かつれつ四谷だけだ
かつれつ四谷だけだ
ポークカツレツとはなんなのか。そう思って店名に四ツ谷の店にやってきた。店名に「かつれつ」とついている。ポークカツレツを知るにあたって、こんなに頼もしい店はないだろう。

19時くらいに行ったら何人か並んでいた。人気店のようだ。外で並んでいるとメニューを渡された。おいしそうなロースカツやフライなどが並ぶが、それはまたこんどにして今日はポークカツレツだ。

しばらくして店内に入る。
お皿にキャベツが準備されてるのがいい
お皿にキャベツが準備されてるのがいい
メンチミックス定食もしゃべるにぎわい
メンチミックス定食もしゃべるにぎわい
相席でいいですかと聞かれて「はい」と答えると、小さめのテーブルで食事中の女性と向かいあうというハードな相席だった。ちょっと気まずかった。

焼いてないのもあるのか

注文してしばらくしたら、来た。
キッチンチェックとくらべてだいぶとんかつに近い見た目。
キッチンチェックとくらべてだいぶとんかつに近い見た目。
チェックで食べたのと違って焦げ目がない。たぶん焼いてないのだろう。となるとほとんどとんかつと同じだ。
あらかじめ切ってあり、箸で食べる
あらかじめ切ってあり、箸で食べる
ところが一口たべてみると、フライめいた過剰なサクサク感はなく、見た目に反してかなりソフトである。なかの肉もふんわり。

そしてデミグラスソースはチーズがたっぷり入っている。はじめ「お、これはカツレツの中にチーズが入っているタイプか」と錯覚するほど、一体感は抜群だ。

一般的なとんかつとなればとんかつソース、みそ、カレーなど、ソリッドな味付けがよくあるのだが、このカツレツとチーズ風味デミグラスソースのまろやかで雅な組み合わせもまたいい。
粉チーズがかかたっところもうまい
粉チーズがかかたっところもうまい
なんだか疲れていたせいなのかわからないが、おいしくて食べながら泣きそうになった。心理学で言うところの変性意識状態だろうか。ポークカツレツで変性意識状態になってどうするのか。切ないJPOPのようなポークカツレツである。
文章にならない気持ちが昂ぶったので、いったん反省をはさみます
文章にならない気持ちが昂ぶったので、いったん反省をはさみます
揚げてるタイプのポークカツレツもあることがわかった。焼いても揚げてもデミグラスソースをかければポークカツレツなのかもしれない。ポークカツレツのしっぽを掴んだ気持ちになった。

しかし、本当にそうだろうか? まだ疑問は拭いきれない。

元祖に行ってみよう

ポークカツレツとはなんなのか? 核心がつかめない。こういうときは、元祖の店を尋ねるに限る。

銀座に「煉瓦亭」という店がある。カツレツとはフランス料理のコートレットを原型とし、そのコートレットを日本の洋食にしたもので、その歴史の現場がここなのだそうだ。煉瓦亭はオムライスの元祖だということでも有名だ。

そんな店でポークカツレツを頼むとなにが出てくるか。結果を楽しみにしてあまり調べずにやってきた。
すべてのポークカツレツは煉瓦亭のバリエーションにすぎないのかもしれない。
すべてのポークカツレツは煉瓦亭のバリエーションにすぎないのかもしれない。
開店の時間にあわせて来たら並ぶことはなかったが、やがてすぐに満席になった。
メニューを一瞥してポークカツレツを注文する。
ポークカツレツは単品で1700円、ライスをつけると2000円だ。銀座の値段だ。
ポークカツレツは単品で1700円、ライスをつけると2000円だ。銀座の値段だ。
半数以上のお客さんがオムライスを頼んでいる。
半数以上のお客さんがオムライスを頼んでいる。
名物の元祖オムライスが他の席に運ばれていくのをしばらく眺めていると、煉瓦亭のポークカツレツがやってきた。
煉瓦亭のポークカツレツ
煉瓦亭のポークカツレツ
ポークカツレツの肝だと思われたデミグラスソースがかかっていない。味はお好みでウスターソースをかけてくださいと言われた。

それって……。

とんかつ?

ナイフで切ってみると、衣がかなり厚く、触感もサクサクしている。これまで見てきたポークカツレツとはどうもちがう。
これはほとんどとんかつと言っていいのではないか。
これはほとんどとんかつと言っていいのではないか。
一口ほおばってみると、高温の油であげられているのか衣は見た目通りにサクサク。肉はこれまで見た2件と比べるとすこしぱさついている。

うすい塩味がついていて、これだけでもいけそうだ。しかしテーブルに備えられたウスターソースをかけてみたくなるのは自然なことだろう。しかしそんなことをしたら……。
ウスターソースをかけるなんてことをしたら、とんかつになってしまうのではないか。
ウスターソースをかけるなんてことをしたら、とんかつになってしまうのではないか。
とんかつになってしまった。
とんかつになってしまった。
ナイフとフォークで食べるのははじめてだったが、味はおいしいとんかつだった。

あとから調べてみると、もともとのデミグラスソースがかかったポークカツレツを、フライにしてウスターソースをかけて食べるように進化させたのが煉瓦亭なのだそうだ。

しかし名前はポークカツレツのまま。とんかつもまたポークカツレツなのか。つかもうとするとするりと指の間を抜けていく。
とりあえず反省です。
とりあえず反省です。

けっきょくなんなのか

「ポークカツレツ」とは、焼いている場合もあればフライの場合もあり、デミグラスソースの場合もあればウスターソースの場合もあることがわかった。

あらためてインターネットの意見を調べてみても「ポークカツレツは豚肉をカツにしたものだからとんかつとイコールだよ派」と「ポークカツレツは(とんかつとは違って)豚肉を揚げ焼きにしたものだよ派」に分かれていた。

店側もまたポークカツレツという同じ名前を使いながら、思い思いのおいしさを提供しているのだと思う。

つまり頼んでみないと何が出てくるかはわからないということである。

焼き派が好き

ポークカツレツの状況は混乱している。「ポークカツレツ戦国時代!」と言いたいところだが、とくべつ争ってる様子もないのでただ混乱しているだけだ。

ぼくは冒頭で紹介したキッチンチェックの焼いたポークカツレツが好きだったので、このタイプのポークカツレツが識別できるように、早急に名前がついてほしい。

こういうのは言い出したもの勝ちなので、できれば筆者の名前を取って「藤原風ポークカツレツ」だとなおいい。「焼きポークカツレツ」なんてダメですよ。どうかよろしくお願いします。
煉瓦亭の、古くからあるらしいレジにはいろいろシールが貼られて、IT系の人のノートPCみたくなっていた
煉瓦亭の、古くからあるらしいレジにはいろいろシールが貼られてIT系の人のノートPCみたくなっていた
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