特集 2017年7月18日

君は藤田屋の大あんまきを知っているか

大あんまき。
大あんまき。
名古屋を中心に、中部地方に広く浸透するあんこ文化。

そんなあんこ文化の極北を担う食べ物がある。

藤田屋の大あんまきである。
行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

前の記事:正しさよりも面白さを!地図は手書きにかぎる理由

> 個人サイト むかない安藤 Twitter

名古屋といえばあんこ

中部地方、とくに名古屋周辺では、人はとにかくあんこを食べている印象がある。

トーストにもあんこを乗せるし
小倉トースト。
小倉トースト。
ホットケーキにも乗せる。
小倉ホットケーキ。
小倉ホットケーキ。
パフェにもあんこは欠かせない。
小倉パフェ。
小倉パフェ。
僕も愛知出身なので気持ちはわからんでもないが、迷ったらあんこ乗せておけばなんとかなると思っているふしがある。コーヒーにもあんこ入れる。

愛知に住んでいた頃はなんの疑いもなくあんこを食べていたのだけれど、離れてみて思うと、やっぱりちょっと普通じゃないなと思う。あれはあれで楽しかったけど。

そんなあんこ文化圏を天上界から見下ろすラスボスがいる。それが今回紹介する「藤田屋」である。久しぶりに実家に帰ったついでに寄ってみた。
関東で赤い電車といえば京急だと思うが、全国的には名鉄だからな。
関東で赤い電車といえば京急だと思うが、全国的には名鉄である。
藤田屋の大あんまきは子どもの頃親によく連れられて行った。

うちの親は月に1、2度、車で1時間ほどの場所にある大きなお寺を訪れていた。特に信心深い家でもなかったので、今思うとあれは子どもを連れて遊びに行く先、としてのお寺だったのではないかと思う。境内には森があったり小さな遊具があったりして、子ども心にちょっとしたレジャー気分だった記憶がある。

そしてその帰りには必ず「藤田屋」に寄ったものだ。

藤田屋は知立にある

藤田屋は知立にある。藤田屋については先日、同じ愛知県出身のゴスペラーズ酒井さんと対談した時にも話題にあがっている(この記事)。
知立駅前の案内図にも
知立駅前の案内図にも
知立名物大あんまき、とちゃんと明記されている。
知立名物大あんまき、とちゃんと明記されている。
申しわけない、いまみんな愛知の人かと思って「知立」をさらりと流したが、これは「ちりゅう」と読むから覚えておいてほしい。

知立駅を降りたら脇目もふれずに国道1号線の方に向かおう。
左に曲がって155号に行くとうちの実家に行っちゃうので注意だ。
左に曲がって155号に行くとうちの実家の方に行っちゃうので注意だ。
国道1号はでかいトラックがびゅんびゅん走る道である。僕は映画館でマッドマックスを見た時、「この映画名古屋みたいな世界観だな」と思ったのを覚えている。この沿線は、人も車もタフでワイルドなのだ。
この看板は夜になると光るので見過ごすことはないと思います。
この看板は夜になると光るので見過ごすことはないと思います。
めざす藤田屋はこの国道1号線のロードサイドにある。
藤田屋。
藤田屋。
怒りのデスロード。
怒りのデスロード。
子どもの頃は親の車で来ていたのでわからなかったが、歩いてくると藤田屋、どの駅からもそこそこ遠い。完全に車社会を前提とした店舗である。駐車場が野球できるくらい広いのもそのためだ。
藤田屋。
藤田屋。
この看板には池鯉鮒と書かれているが、これなんて読むかわかるだろうか。答えは「ちりゅう」である。

記憶力のいい人は、さっき「知立(ちりゅう)」って言わなかった?と思うだろう。そう、どちらも「ちりゅう」なのだ。

かつては「池鯉鮒」と書いて「ちりゅう」と読ませていたらしいのだが、難しすぎて誰も読めないということで「知立」に変えた。変えても読めてないが。

そんなことはどうでもいい、藤田屋では食事もできるが、まずは大あんまきを買ってほしい。
大あんまき売り場。
大あんまき売り場。
藤田屋は店舗も広大なので大あんまき売り場がいくつもある。どこで買っても同じである。
でも間違えて2階に行くと法事とかやっているから注意。
でも間違えて2階に行くと法事とかやっているから注意。
1階はお食事処と大あんまきの製造工場、販売所。2階には大広間があって親戚集めて法事ができる。
運がいいと製造現場を見ることができるだろう。子どもの頃かぶりつきで見ていたのを覚えている。
運がいいと製造現場を見ることができるだろう。子どもの頃かぶりつきで見ていたのを覚えている。
それではいよいよ大あんまきと再会である。反抗期や部活などを理由に、週末親と一緒に寺に出かけなくなって以来なので、ざっと30年ぶりくらいだろうか。でもこの藤田屋、ほぼ記憶どおりなので当時のままなのだろう。

売り場へ行くとできたての大あんまきが木箱で積み上げられている。
レジのお姉さんは「このくらい数時間ではける」と言っていた。この店のおかげでいつかあんこが絶滅すると思う。
レジのお姉さんは「このくらい数時間ではける」と言っていた。この店のおかげでいつかあんこが絶滅すると思う。
これが大あんまきである。
大あんまき黒。170円。
大あんまき黒。170円。
大あんまき白。170円。
大あんまき白。170円。
そして
これは…。
これは…。
これは何かというと、大あんまきを天ぷらにした「天ぷらあんまき」である。
天ぷらあんまき。210円。
天ぷらあんまき。210円。
大あんまきは見た目の通り、あんこを皮で巻いた食べものなのだが、天ぷらあんまきはこれにさらに衣をつけて揚げてある。余計なお世話を通り越したホスピタリティである。
買った。
買った。

藤田屋イートインの良さ

藤田屋は車で来てテイクアウトで帰るお客を主に想定しているのだろう。しかし実は買った大あんまきはお店の中で座って食べることができるのだ。これから藤田屋へ行く人は全員知っておいてほしい。
外で買った大あんまきをお店に持って入るとお茶とお手拭を出してくれるぞ。
外で買った大あんまきをお店に持って入るとお茶とお手拭を出してくれる。
店内は30年前から変わらぬ印象である。確認のためお店の人に「このお店、ずっと変わらないですよね」と聞いたところ、いつから同じなのか我々もわからない、と言っていた。パラレルワールドなのかもしれない。
大あんまきはいい香りがする。
大あんまきはいい香りがする。
皮はしっとりとしていて、あんこは甘すぎない。
皮はしっとりとしていて、あんこは甘すぎない。

大あんまきの「ちょうどよさ」

大あんまきはサイズも味も昔のままだった。皮はしっとりとしていてほんのり甘く、中のあんこは甘すぎず、逆に塩味を感じるくらいのフラットな味付けである。1本食べるとちょうど満足する量も絶妙。本当の1本満足バーは大あんまきだと思う。

この勢いで天ぷらあんまきをいただく。
いただきます。
いただきます。
天ぷらあんまきはカロリーや食べごたえを考慮してか、他の大あんまきよりも長さが短い。考え抜かれているのだ。
おっ、はっ。
おっ、はっ。

当日がうまさの盛り

出来たての大あんまきはまだ温かかった。あわてて食べると最初に小麦の香りが、次にあんこの上品な甘さが体中に押し寄せてきて、マッドマックス的世界を一瞬のうちに平和な世の中へと変えてくれる。冷めたやつもしっとりとして美味しいが、できたては別ものである。大あんまきの賞味期限が翌日までなのもわかる。

前に鬼まんじゅうの記事を書いた時にも思ったのだが、このあたりの狭い範囲でしか売られていない食べ物がまったく全国に流通する気配を見せないのは、出来たてがあまりにも美味いからだと思う。食べたくなったら帰って来るしかないのだ。

大あんまきは正義

大人になって愛知県から離れてみて、少しは冷静な目で見られるようになったのかもしれない。あんこ文化とかスガキヤとかコショウの効きすぎた手羽先とか、ちょっとあれはどうなんだろうと疑問をいだいたこともあった。でも自分が親の年代になってみて、あらためて愛知で大あんまきを食べると、これが美味しいのだ。

僕らが大人になるまでずっと、藤田屋は変わらずに大あんまきを売っていたのだ。それはやはりすごいことだと思う。これからも全国展開しないでほしい。
大あんまきを買ってトラックに乗り込む男達を、当時の僕も見ていた。
大あんまきを買ってトラックに乗り込む男達を、当時の僕も見ていた。
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