特集 2017年8月8日

“トマトソースとマスタードが一度に出せるあれ”の工場見学

今回の主役、これです
今回の主役、これです
ディスペンパックが好きだ。
…といって伝わるだろうか。「ディスペンパック」でピンとこなくとも「アメリカンドッグを頼むとついてくるトマトソースとマスタードが片手で出せるあの容器」と言えばあーあれね!となるとひとも多いと思う。
あの容器が気になる。これはディスペンパックを日本で唯一作る企業に赴き、年間6億個のディスペンパックを生産する工場を見学したりオリジナルディスペンパックを作ってもらったりした記事だ。

※※トマトソースについて、一般的には「ケチャップ」の呼び方が馴染み深いかと思いますが、トマトソースとケチャップは規格で定義が異なるためこの記事では一律に「トマトソース」と表記します。
埼玉生まれ、神奈川育ち、東京在住。会社員。好きなキリンはアミメキリンです。右足ばかり靴のかかとがすり減ります。(インタビュー動画)

前の記事:宇宙チャーハンの作り方

> 個人サイト のばなし

日本独自に進化した容器、ディスペンパック

あの容器のことを知りたい!と訪ねたのは日本で唯一ディスペンパックを製造している「ディスペンパックジャパン」。この情報だけでもうなんだか楽しそうな匂いがする。
本社はマヨネーズで有名なキユーピー(親会社なのだ)と同じ建物内にある。おなじみの格子デザインをイメージした建物でかわいい
本社はマヨネーズで有名なキユーピー(親会社なのだ)と同じ建物内にある。おなじみの格子デザインをイメージした建物でかわいい
取材に同席したキユーピーの方の名刺をひっくり返すとまさにその格子デザイン
取材に同席したキユーピーの方の名刺をひっくり返すとまさにその格子デザイン
まずはディスペンパックの歴史を教わる。
そもそもはアメリカの発明家が思いついたこの容器。およそ30年前にキユーピーが目をつけたのがはじまりだ。ひとつの液体(1液)しか出なかったものを「1液じゃおもしろくないよね」とトマトソースとマスタードのように2液出せるように進化させたのが現在の普及につながったそうだ。
2液出せるディスペンパックは日本独自のもの。発祥のアメリカでも普及していないそうだ、てっきり全世界にあると思ってた…
2液出せるディスペンパックは日本独自のもの。発祥のアメリカでも普及していないそうだ、てっきり全世界にあると思ってた…
取材に応じてくれた方々。左からキユーピーの菅原さん、ディスペンパックジャパンの福田さん、江藤さん
取材に応じてくれた方々。左からキユーピーの菅原さん、ディスペンパックジャパンの福田さん、江藤さん

浸透するまではクレームも…

最初の15年程は“使い方がわからない”というクレームもままあったらしい。今でこそみんな当たり前のように使えるけど、確かに前知識もなかったら難しいかも…そう、言わば我々は“ディスペンパック・ネイティブ”なのだ。
逆に持って噴射させ、服が汚れた!という苦情が多かったとか
逆に持って噴射させ、服が汚れた!という苦情が多かったとか
転機はマクドナルドでパンケーキのシロップに採用されたこと。学校の給食で使われたこともあり一気に浸透した。あー確かに給食で使っていたかも!(という反応をしたその場の20~30代と首をかしげた40代。明確に世代の差が分かれた)

トマトソース&マスタード、実はトマトソースの方が少しだけ多い

一番多いシェアはコンビニ。トマトソースとマスタードの組み合わせの「とまと&マスタード」がディスペンパック界の花形なのだ。
江藤さん「実はこれ少しトマトソースの方が多いんですよ」
えー知らなかった!均等じゃないんだこれ!さらに言うとコンビニによって量も比率も違うそうだ。今後確実に彼らを見る目が変わる。
気になって後日3社分を手に入れた。今まで意識してなかったけど見比べると確かに違う
気になって後日3社分を手に入れた。今まで意識してなかったけど見比べると確かに違う
セブンイレブンとファミリーマートは確実にトマトソースの方が多い。ローソンは同じに見えるが、他社より明らかにでかい。各社工夫を凝らした結果なのだろうな…
セブンイレブンとファミリーマートは確実にトマトソースの方が多い。ローソンは同じに見えるが、他社より明らかにでかい。各社工夫を凝らした結果なのだろうな…

「小袋とコンペになります」

正直なところ“片手で使える”“なんか楽しい容器”程度の認識だったけど、様々なメリットも教えてもらった。
・一定の量が出せる。例えば素人のアルバイトでも確実にレストランで同じ味が提供できる
・ 小袋より大量生産できる(!) などなど

コストの小袋vs使い勝手と大量生産のディスペンパックといったところか、ライバルの図式が見える。
江藤さんの「小袋とコンペになります」という響きが印象的だった。小袋とコンペ。
良い話を聞いて良い表情をしている林さんと私の写真です
良い話を聞いて良い表情をしている林さんと私の写真です
フリー素材のような食いつき方だ
フリー素材のような食いつき方だ
果たしてそんな大量生産できる工場とは…?次ページ、工場へ行きます。
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いざ工場。

というわけで訪れたるは南足柄工場。真夏!
林さんは中国へ出張とのことで無念の離脱
林さんは中国へ出張とのことで無念の離脱
そこかしこにディスペンパックの模様。これはエレベーター内。かわいい
そこかしこにディスペンパックの模様。これはエレベーター内。かわいい
この日はあらゆる部署から集まった豪華メンバーに出迎えていただいた。まずは知られざる“ぼくのわたしのおすすめ商品”を聞いてみよう。

おすすめ商品合戦、思いのほか盛り上がる

左から川上さん、福田さん、飯田さん、宇田川さん
左から川上さん、福田さん、飯田さん、宇田川さん
はじめに切り出したのは福田さん。
「私は“チャーハンの素”ですね」と言った瞬間、横から「自分もこれ!」「かぶると思った!」の声。ここまでみんなが一様に推すのがすごい。「社内で人気投票したらダントツで1位だと思う」とのこと。そうなのか、知らなかったぞチャーハンの素…
社内ダントツ人気のチャーハンの素。お湯で溶いてスープにしても美味しい
社内ダントツ人気のチャーハンの素。お湯で溶いてスープにしても美味しい
次は隣の飯田さん、と思いきや「私もチャーハンの素だった…」とまさかのいったんパス宣言。チャーハンショックだ。そのためひとり飛ばして宇田川さんへ。
宇田川さんは重度のデイリーポータルZファン。話を聞きつけこの日のために山梨の富士吉田工場から飛んできてくれた
宇田川さんは重度のデイリーポータルZファン。話を聞きつけこの日のために山梨の富士吉田工場から飛んできてくれた
「チャーハンはかぶると思っていたので…」と教えてくれたのは「抹茶ミルク」と「黒蜜きなこ」の甘いものシリーズ。
正式名称は「濃い抹茶(宇治抹茶使用)&ミルク風味クリーム」と「きなこ&沖縄県産黒糖」
正式名称は「濃い抹茶(宇治抹茶使用)&ミルク風味クリーム」と「きなこ&沖縄県産黒糖」
これこれ!黒蜜きなこめちゃくちゃおいしい。実は筆者がディスペンパックに興味を持ったのもこれをアイスにかけたらべらぼうに美味かったことがきっかけだったのだ。
飯田さんのおすすめは業務用のパスタシリーズ。「たらこソース」「カルボナーラ」「バジルソース」…うどんにかけてもいけるらしい。絶対わかる、絶対食べたい。
絶対食べたい
絶対食べたい
「バジルソースはそうめんにもいけるんですよ」と食いついたのが工場長の川上さん。この“ディスペンパックレシピ”だけで1本記事が書けるくらい全員の熱がすごい。こういったレシピは社内で自然発生されるらしい。
インタビュー中とにかく商品に対するみんなの愛をひしひしと感じる
インタビュー中とにかく商品に対するみんなの愛をひしひしと感じる
川上さんおすすめが「ベタですがあん&マーガリン。なんでもっと売れないのか不思議」宇田川さん「わかります、(製造が)月1回ですもんね」月1ペースで作るものがもっともペースの遅い部類らしい。
ついでに教わった正しい割り方。初心者は指を間に入れがちだけど、そうするとうまく折れない。両端のみ持つべし
ついでに教わった正しい割り方。初心者は指を間に入れがちだけど、そうするとうまく折れない。両端のみ持つべし
商品愛を聞いていたらあっという間に1時間経ってしまった。そろそろと工場見学へ向かうため衣装を着替えよう。

工場へ向かうぞ

こんにちは、忍者です
こんにちは、忍者です
工場の稼働状況を教わる忍者
工場の稼働状況を教わる忍者
清潔忍者
清潔忍者
忍者の衣装に着替え、丁寧に手洗い・消毒をしたらいよいよ工場内へ。ドアが開くやいなや轟く機械音。立ち並ぶマシン、甘い匂い、天井を張り巡らされたパイプ。こ、工場だ!
左のタンクにはイチゴジャムが634kg。ちょうどアメリカバイソンと同じくらいの重さ
左のタンクにはイチゴジャムが634kg。ちょうどアメリカバイソンと同じくらいの重さ
天井を張り巡るパイプ
天井を張り巡るパイプ
このパイプの中を絶えずジャムやマスタードが移動している。すごい!意外と細い!と興奮していたら「これにそんなリアクションあるひと初めてですよ」と言われた。しかしおれはこのパイプを部屋に通したいくらい欲しい。我が家にクリームが流れ着いてほしい。

これが日本で唯一ディスペンパックを作るマシンたちだ

出ました
出ました
トマトソースとマスタードを作る台です、と案内され駆け寄る。さすが主力商品、この工場のマシンのうち約半分は常にトマトソース&マスタードが作られているという。全国のコンビニで配られるそれらはすべてこの南足柄工場で作られているのだ。

ディスペンパックが作られる様子はぜひ映像で流したいところだけど、ここはコマ送りで見てみよう。
1. このフィルムをどうにかして(企業秘密)ポケット型にする。イメージしてください
1. このフィルムをどうにかして(企業秘密)ポケット型にする。イメージしてください
2. ノズルで一気にマスタードを注入。次のノズルでトマトソースを注入
2. ノズルで一気にマスタードを注入。次のノズルでトマトソースを注入
3. 上からパッケージング。どうにかして(企業秘密)切り込みを入れる。ここ多分すごい
3. 上からパッケージング。どうにかして(企業秘密)切り込みを入れる。ここ多分すごい
4. パッケージにレーザーで印字をし…
4. パッケージにレーザーで印字をし…
5. 個別に切り取れるよう裁断
あれよあれよと出来上がっていく!このあとの段ボール箱への梱包、箱の積み上げまでマシンが一貫して行う。

すべてマシンがやるなら人間なんていらないじゃないか思うなかれ、とにかくこの容器、人間のチェックが欠かせないのだ。特にパックに入れる切り込みの深さ。この切り込みが浅いと中身がうまく出ず、かといって深く入れすぎると輸送中に割れてしまう。ミクロン単位の調整。割れないといけない、でも割れてはいけない。禅問答だ。
他のライン。詰められたパックが流れ着き…
他のライン。詰められたパックが流れ着き…
一瞬にしてさっき教えてもらった甘い美味しいやつに!
一瞬にしてさっき教えてもらった甘い美味しいやつに!
甘い美味しいやつが高速で流れていく!
甘い美味しいやつが高速で流れていく!

さぁ実食だ

興奮のうちに工場見学は終了し、最後に実食をさせてもらった。前半は味の話ばかりしたけど、ちょっと容器の形や出方にも注目をしてみよう。
パーティだ!
パーティだ!

「抹茶&クリーム」でパンケーキ

折り返すたびに色が緑、白と切り替わっているのわかりますか。芸術の域
折り返すたびに色が緑、白と切り替わっているのわかりますか。芸術の域

パスタソース

ベーコンなど具材入り。具が詰まらずに出るよう更なる進化を遂げている
ベーコンなど具材入り。具が詰まらずに出るよう更なる進化を遂げている
目の前で調理されていく。おれ、これ、すき
目の前で調理されていく。おれ、これ、すき

マヨネーズ

出し口が3つに分かれているので綺麗に3本の極細ラインが出せる
出し口が3つに分かれているので綺麗に3本の極細ラインが出せる
綺麗に3本の極細ラインが出せなかった(事前練習したのに) 川上さん「60点ですね」 60点かー
綺麗に3本の極細ラインが出せなかった(事前練習したのに) 川上さん「60点ですね」 60点かー

オリジナルディスペンパック、『合わせ味噌』の登場です。

そして手元にはこの世に売り出されていないディスペンパック。そう、なんとこの日のためにオリジナルで作成してもらったのだ。駄目元でお願いしてみたら通ってしまった、すごい。さあとくとご覧いただこう、これが幻のディスペンパック…
合わせ味噌だ!
合わせ味噌だ!
片側には赤味噌、もう片側には白味噌が詰まっており、片手で合わせ味噌を作ることができるのだ!今日のために生まれたパックに一同テンションが高まる。
白と赤が絡まりながらひねり出されていく。こんな味噌の姿初めて見た。「料亭っぽい!」と声が上がる。多分みんな変なテンションが上がっていたんだろうな
白と赤が絡まりながらひねり出されていく。こんな味噌の姿初めて見た。「料亭っぽい!」と声が上がる。多分みんな変なテンションが上がっていたんだろうな
お湯を入れたらしっかり味噌汁の様相。ドキドキの実食
お湯を入れたらしっかり味噌汁の様相。ドキドキの実食
ズズ、と一口飲む。お、これはなかなかいけるのでは…?
正直「最初から合わせておけばええやんけ!」というオチのつもりだったのだけど、この自分で混ぜる様がどうしてなかなか楽しい。聞けば20年前に同じような商品があったとのこと。余計なこと言わなくて良かった。
オリジナルかき氷シロップまで用意していただいた。こんな色鮮やかなパックがあっても楽しい
オリジナルかき氷シロップまで用意していただいた。こんな色鮮やかなパックがあっても楽しい

ディスペンパックの今後は?

今後の展望を聞いたところ、今企画中なのがお絵描きできるデコレーションタイプなのだとか。
江藤さんの口から再三出たのが“遊び心”という言葉。確かにディスペンパックは「1液じゃおもしろくないよね」という遊び心から普及された容器だ。「新しい企画は常に歓迎」とのこと、もっともっと進化したディスペンパックが食卓に並ぶ日も近いかもしれない。

あと社員の方々がこれだけ浸透しても名前を覚えてもらえない、と嘆いていたので今日は名前だけでも覚えて帰ってください、ディスペンパック。

おまけ

ついでに自分からも企画提案させてもらった。激辛パーティーグッズの「ディスペンパーティー」と濡れた手でも化粧水などが出しやすい「ディスペン試供品」。扱っているものは食品だけということで後者は難しいけれど、ディスペンパーティーは「企画会議にあげてみます」とのこと。社交辞令でもいい、ぜひ検討ください…!
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