フグ、遠いあなた
真夏にフグを想う。どんだけフグ好きなんだと思われるだろうが、実はフグをいただいたのは生涯で2度くらいだ。
その少ない逢瀬の中でも、特に気に入ったのがフグ唐揚げとヒレ酒、そしてこのフグ刺しである。
記憶もおぼろげ過ぎるので、しょうがないので画像検索を参考に、オーブン粘土でフグ刺しの原型を作る。
っつってもこれくらいの精度ですよあっはっは。
薄く平べったい型ができた。よく洗って使おう。
できた型を使い、黙々と「てっさグミ」を作っていき、本物よろしく大皿に並べてカタルシスを得ようというのがこの企画の主旨である。「見た目から涼む」はどこへ行った。
さて、あの白き身を再現するには・・・と考えるに、やはりそれはカルピスグミがいいのではないか。透明感は、牛乳より期待できそう。
ネットで簡単なやり方を探し、ゼラチンで硬めのゼリー原液を作っていく。
レンジで温めて溶かすたび、ホットカルピスの懐かしい匂いが漂う。しかし真夏だ。
一度に2枚しか作れないのが、最大の不安要素である。あさっての撮影までに、大皿いっぱいのグミはできるのだろうか・・・
薄ーく型に広げ、冷蔵庫へ。
30分くらい別の作業をしながら待ち、再び冷蔵庫へ。型から外すと、ペロンとはがれた。
十分な硬さ。食べてみると、うん、カルピスグミとしかいいようがないですな。
フグ刺し2枚、完成。ではまた原液を少し温めなおし、型に注いで、冷蔵庫に入れて、はがした2枚はタッパーへ・・・
などと30分おきにやっていったら、どれだけ時間がかかるのだ。50枚目標で、1回で2枚できるから、25回出し入れするとして、最低約12時間。寝ないでやればできるか。いやいやそういうことじゃなく。
次の回には冷蔵庫つきっきりで固まる速度を検証したら、15分もあれば固まることがわかった。薄いので、これくらいの速度でオッケーなのだろう。大幅な時短に成功した。
ほいほい作っていきますよ。
30g入りのゼラチンを1箱半ほど使って、54枚のグミをさばくことができた。次はこれを盛る皿だが、やはり豪華絢爛な伊万里焼の皿がいいだろう。
しかし本物はこれまたとてもじゃないが手が出せないお値段なので、安いプリント皿を2000円で買って用意した。
グミにはこれで釣り合いが取れる。
盛り合わせたあかつきには、ぜひ人に見てもらいたい。というかフグ刺しですよとだましたい。
編集部の石川さんに相談したところ、編集部から数名、試食会に参加していただけることになった。
石川 「なんかダミー企画作ります?フグ食べてくださいだと明らかに怪しいので」
乙幡 「確かに。いきなりテッサ持ってく状況って何なのと思いますよね。とある方法でさばいたフグは甘い!という企画の検証です、とか」
しかしダミー企画の内容がよく伝わらず、
「乙幡さんがさばいたんですか?死なないかな」
「いやだな死ぬの」
(両方、安藤談)
という声が上がったという。
私も死ぬのはいやだな。
まあ、たぶん一目見て丸わかりと思われるので、一瞬でその不安も解消だ。
ニフティ会議室にて、自然な流れでフグ刺しをふるまいます!
しかし遠きフグよ
12時に現場であるニフティの会議室に到着。石川さんを除く3人には別室で待機してもらって、フグ並べ開始だ。
それではおもむろに並べさせていただきます。
なんとか透けた。
しかしバラツキがある。2枚目は不透明で噛み応えありそうな身だ。こわい。
透け感を一番に考えながら、見よう見まねでグミを放射状に並べていく。
2周目に入った。できあがりつつある様はかなり楽しい。
中心に薬味(わけぎ、もみじおろしなど)を載せるのはちょっとなー、と思ったので、こういう感じにクシュクシュっと。あるよねこういう盛り方。
光沢がすごくて、フグというよりイカみたいだなーとは内心思いつつも、てっさの魅惑的な一皿ができあがった。
旬とは正反対だけど、てっさはいかが?
てっさはいかが?
断固として、てっさである。
箸置きを忘れた。この臨時の箸置きはのちに全ての人に突っ込まれた。
さて、石川さん、皆さんをここへ。
ただし、部屋に入ってから、まだ皿には近づかないようにしてください。
まずは遠目で見てもらいます。
異様な段取りに不安を隠し切れない面々。
遠目に見ていただいた限りでは、各人に聞いたところ「フグ刺しですよね」との返事だった(事前にフグ刺しと伝えていたのが大きい)。
ちなみにフグ刺しを食べたことあるのは古賀さんのみであった。それも私同様、遠い記憶のようである。安心した。
さて、では皿の近くにお寄りください。ある方法で“さばいた”てっさを、ここに披露いたします。
怪訝さが擬人化されるとたぶんこうなる。
しかしなにぶん、「フグ刺しに明るい人」がいないため、私を含めボンヤリした議論が続く。
「あれ?フグ刺し・・・あれ?でもちょっと違いますよね?」
「へどもど」
「こんなんだっけ?」
「あー、うー」
それでは、と私がひとかけ、口に含む。
「うん、甘いです」
「甘い??」「口に入れていいもの?」おいおい。
さすが、安藤さんが匂いをチェックし出した!
「これは・・・!乳酸菌の匂い・・・!」なんて鋭敏なんだ。
「カルピスだ・・・!」。すげえ。
皆さんの身になって考えると、
「フグ刺しと言われているものを、妙な手順を経た挙句にさあ甘いですよと勧められて、何味かわからぬままとにかく口に含む」
のである。どこからどう味にフォーカスしていいのか、わからないに決まっているだろう。
しかし野生児安藤さんがカルピスであると同定したため、その場の空気がサーッとゆるんだようである。そうです、これはカルピスグミなのですよ、はっはっは。
「イカだよね食感は!」「あと大きいよこれ!」「でもおいしいです」。ごめんねへんなもん食べさせて・・・
大きい。そうだ、なんか違うところ他にもあるなと思ったら、イカにも似た艶、そして大きさだ。そういえばフグ刺しってこんな大きくなかった気がする。元のフグがどれだけ大きいんだこれ。フグ憧れがそうさせたか。自分がいじらしい。
遠い記憶の中にあるフグ刺しの、哀しい再現であるなこれは。
とにかく、大、成、功!と来らあ。
よくわからないが作戦成功ということにして、このあと残ったてっさグミは編集部のおやつとなりました。
片付けるとき、何切れかを一気に掬い取る「セレブ箸」をして悦に入る古賀さん。
「夏なので涼しげなネタを」ということでこのてっさグミを取り上げたのだが、旬を思いっきり外していることにやった後から気がつくという、これまた哀しき「フグ・ストレンジャー」のさだめなのであった。
冬になったら、本当の意味で甘いてっさをぜひいただきたいと願う。
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