特集 2017年11月14日

スイーツがバズる無垢な世界、これがイノセントワールド!

スイーツを紹介するツイートがバズっている。それがあまりにも無垢な世界だ。われわれもその純粋な世界を体験すべくバズるスイーツを探した
スイーツを紹介するツイートがバズっている。それがあまりにも無垢な世界だ。われわれもその純粋な世界を体験すべくバズるスイーツを探した
TwitterなどのSNSでは日々の雑感(つぶやき)を書いて、読んだ人はそれを自分の発言のように示して共感をする。そしてどんどん誰かの思いが波及していくのである。

そこに最近大きな変化があった。甘いものを紹介するツイートが大きく波及するようになったのだ。

その現象がとても無防備で、あ、これはなにかすごいことが起こってるぞと思ったのだ。ご紹介したい。
動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

前の記事:ボンカレーを手で食べると驚くほどインド味

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

無防備が好き

まず最初に言っておかないといけないのは私は変態かもしれないということである。

これは理解されにくいだろうなという個人的な嗜好がある。それは「無防備な人が好き」というところだ。

たとえば炭火焼肉チェーン牛角の看板に「炭火で焼肉が食べたい」と書いている。あれも無防備である。人としての欲望を前面に書いてしまっているのだ。そんな「欲望が節度を超えた瞬間」が微笑ましいし人間らしいと思っている。

バイキングで山盛りとって残しちゃう人も好きだ。あれも欲望が節度を超えた無防備さがある。

そんな折、スイーツ(甘いもの)バズ(SNSで流行ること)ツイート(SNSでの個々のつぶやき)である。これおいしい!という甘いものに対して何万というRT(共感を示す行為)がされている。

なんのひねりもない。そこにあるのはただただおいしそう、食べてみたい、という共感である。
たとえばデイリーポータルのライターがスイーツをツイートしてバズった例。この甘いものが好きという無垢な気持ちがTwitter内を回りまくる。こうしたツイートがたくさんある。

きっかけはフィナンシェがバズりまくったこと

きっかけとなったツイートがある。何万人もがRTという共感を示したので自分のところにも回ってきたのだ。それは「池袋でこのフィナンシェを買うべき」「焼き立ての方を買え」「とてもおいしい」という主旨の文面であった。

フィナンシェが何万という共感を生んでいる。見るからにふつうのフィナンシェである。そこにあるのは「おいしそう」「買いたいな」という何万もの共感の波であった。

それのどこが変なの?と思う人もいるだろう。というのも、以前はこの数万RTという共感はおもしろい動画や人やもっと趣向をこらしたものにつくものだったのだ。

それが今ではただただ「フィナンシェおいしい」「フィナンシェ買いたい」という無数の共感になっている。なんて純粋でなんて無垢な世界なんだろう。もちろん自分もRTをした。

その瞬間から「池袋…フィナンシェ…買う…買いたい!!」という池袋フィナンシェ人間になったといってもいい。ここはニコニコでピースフルな世界だ。ゾンビ化した人たちの世界はこんな感覚なのかもしれない。ああ、早くみんなこっちにくればいいのに。
同じくデイリーのライターがスイーツをツイートして意図せずバズった例。こうした事例からどういうものが世の中を回るのか探る。ここでは◯◯風××という小さな意外性を学んだ。

自分も無垢になるべくサンプルを集めた

フィナンシェ人間になって思ったのが「この無防備なスイーツバズを自分もしてみたい」ということである。

人為的にバズをおこすといえばそうなのだが、それよりも「無垢に感動する世界」の仲間入りをしたいという動機である。

今までのどれだけ頭をひねられるかに特化した「とんち修羅の国」Twitterを脱して、ケーキおいしそー。好きー。という無防備な世界に生きてみたいのだ。

そこで数々のバズツイートを飛ばすデイリーポータルZ編集部の古賀さんとどうやってスイーツバズを起こしているのか調べてみた。まずはサンプルを集めてみた。
一体どういうツイートが出回っているのか探る作戦会議。実際にヴェローチェのチーズケーキをツイートしてみたりする
一体どういうツイートが出回っているのか探る作戦会議。実際にヴェローチェのチーズケーキをツイートしてみたりする

スイーツバズの条件

数々のツイートを見ながらああだこうだ議論を重ね、明らかになったスイーツバズの条件がこれだ。

・大前提として知らないものを扱う
アクセスのよさ
→デパ地下、コンビニ、空港のお土産など
少しの意外性
→スライスチーズの形なのにチョコ、◯◯なのに××という"かけ算"のもの
→フィナンシェの作りたては美味いという「そうだと思っていた」程度の意外性
1ツイートで完結
表現の過剰さ
→文章はどれも過剰といえるほどの感想だ
写真の力
→いわゆる"インスタ映え"もあるがリアリティ重視
→写真は4枚まであってもいい
宣伝っ気のなさ
→販売サイトの誘導がついてると伸びない

そして「あたしいっちょやってみるわ」と古賀さんが目の前のチーズケーキにのびのびと感動したツイートをしてみた。
そのとき食べていたチーズケーキをツイートしてみたそうだ。ふだんよりは数は伸びてるようだが、バズったというわけではない。
スイーツバズはアクセスの良いものが多いとはいえヴェローチェのチーズケーキだと知ってる人が多かったか。新宿のデパ地下にウケそうな商品を探しに行った
スイーツバズはアクセスの良いものが多いとはいえヴェローチェのチーズケーキだと知ってる人が多かったか。新宿のデパ地下にウケそうな商品を探しに行った

デパ地下でバズりそうなものを探す

古賀さんのチーズケーキツイートはそこまで数が伸びなかった。無防備な感動はあるものの、みんな「ヴェローチェだしな…」と思ったのだろうか。追随者は少なかった。

やはりデパ地下レベルじゃないと人は納得しないのではないか。そう思って伊勢丹に来た。

地下一階お菓子売り場。あれがいいのかこれがいいのか。山ほどのツイート素材がある。

こんな体験はじめてである。どれが美味しそうか?ではなく、どれがツイートするのにふさわしいか?で食べ物を見ていくのだ。

それはもう自分の評価でなく他人の評価で生きている感覚。自分の名前の印鑑を探してるわけじゃないんだ。自分の舌くらい後回しでいい。これが「インスタ映え」に代表される評価優先の行動か。

実際そうやって探して見て回るのはとにかく新鮮でおもしろかった。自分を後回しにする、自分を殺すのがなんだか新鮮だった。そのときの会話がこんな感じだ。
「かけ算の商品」にしぼって探したところ栗の水羊羹が見つかった。有名な和菓子店鈴懸さんの商品である
「かけ算の商品」にしぼって探したところ栗の水羊羹が見つかった。有名な和菓子店鈴懸さんの商品である

バズ視点での買い物の興奮

古賀:(売り場一面を見て)すげえ! なんでもいける気がする…!!
大北:あー、でもシュトーレンとかはむりでしょう。なじみがなさすぎますよね
古賀:フィナンシェがいけるならカヌレもいけますよね
大北:たとえばおいしさでいったらこのタルトとかおいしいと思うんですけど、ツイートでいくかといったらそうでもないですよね
古賀:そう、たとえばロールケーキはもうみんな知りすぎてたりするでしょ。堂島ロールとか流行って。

大北:あ、これすごい。見た目がかぼちゃまんまのかぼちゃのプリン。「これがもう、ほんっとにかぼちゃで、昇天しそうなほど」ってツイートすれば…
古賀:「死ぬほどかぼちゃ…」
大北:「かぼちゃの概念が変わる…」!?
古賀:「もうかぼちゃに足向けて寝られない…」
大北:それだ! かぼちゃに枕向けて寝るんだ! いや、それがなんだ! わからなくなってきた!

大北:あ、ここ月餅の専門店なんですか? 「月餅がまさかこんなにおいしいなんて…」とか!?
古賀:「月餅の概念が覆った!」だ
大北:そうそう
古賀:「まず……小さい」
大北:一個目から言うことなくなった(笑)
古賀:「概念が覆る」というか「概念を超えてきた」っていうのがふさわしいんでしょうね
大北:「想像を超えた」ってのもそれですね。ちょっと意外なんだけど、それは知ってる方向性なんですよね。そういうのが求められる
一方古賀さんは「本当に自分が感動したもの」に賭けた。ずんだの餡だけ売ってたのに感動したそうだ。隣のおばちゃんに「餡だけ売ってていいわね」と話しかけられたそうだ
一方古賀さんは「本当に自分が感動したもの」に賭けた。ずんだの餡だけ売ってたのに感動したそうだ。隣のおばちゃんに「餡だけ売ってていいわね」と話しかけられたそうだ

かけ算のものと本気のピンときたものに決定

大北:これは? 栗の水羊羹? これ想像を超えてくるんじゃないですか?
古賀:栗と水羊羹でかけ算でもある。身近にあるちょっとだけ意外なかけ算だ。
大北:ぼくはわからないんですけど、栗の水羊羹って見たことありますか?
古賀:ない、ない。これだ!!
大北:よし!! 「栗の概念を超えてくるし水羊羹の概念も超えてくる…」だ!
古賀:「ちょっと一回静かにしてほしい。そしておれの話を聞いてくれ」
大北:「栗と水羊羹の概念を超えてくるんだ」だ。これだ! ください!

古賀:あ、ずんだ餡だけ売ってる! 私、けっこうこれピンときた。やばい。やばいと思う。
大北:素直に! じゃあ決定でいいですよ。
古賀:これ……これはいく。リツイート3万。
大北:古賀さん…さすが、ツイートの才能がある!(ちなみに結果はリツイート500でそこそこの才能)
古賀:「ちょっと一回静かにしてほしい」
大北:「ずんだの概念超えてくるから」(笑)
古賀:いや、ずんだ餡の概念はみんなにないから超えられない。「ちょっと一回静かにしてほしい。ずんだの神様にありがとう」だね
大北:一回静かにさせるのは恒例なんですね(笑)

古賀:これがパンにも合うし!
大北:で、毎回買ってるんだ!
古賀:え、そうかな?
大北:そうですよ、買うんですよ!
古賀:「つい買っちゃって」
大北:「寄るたびについ買っちゃって」
古賀:「最初はわかんなかったんだけど…だからみんなも買って、人生をよりよくしてほしい!」だ
大北:大きなお世話だ(笑)
写真に撮りツイートする。リアリティ重視でざっくり盛って撮った。
写真に撮りツイートする。リアリティ重視でざっくり盛って撮った。
味はもちろん美味しい。栗羊羹だし水羊羹な食べたことのない味だ。さあこの感動をツイートすれば世に回るのか
味はもちろん美味しい。栗羊羹だし水羊羹な食べたことのない味だ。さあこの感動をツイートすれば世に回るのか

食べて写真に撮りツイートをする

家で買ってきた栗の水羊羹を食べてみる。よし、感動するぞ。素直に感動するぞ。ああ、うまい……感動するぞとか言ってたけどそもそもうまいよな、伊勢丹の地下のいい場所に入ってる和菓子店だものな。ああ、久しぶりにうまい和菓子を食べた。よかった。

さてこの感動を文章にして、写真を添える。写真の工夫でいえばツイートするときのアプリで暖色系を足したことくらいか。
古賀さんの結果、539件
古賀さんの結果、539件

古賀のずんだ餡 539RT

大北:さあ、各々のツイートの結果を見てみましょうか。文面でいうとテンションが「だだ上がり丸」なんですね
古賀:そこ、良いでしょう。げきおこぷんぷん丸 みたいなもんです。
大北:うーん、でも表現でいうとそれが良いものなのかはわかりづらいかも。もっと美味しさ過剰に盛ってますよね。他のスイーツバズツイートは
古賀:あかんかったか…
大北:もっと全力で感動してるような気がするんですよ。感動屋さんがもの言う世界というか…
美味しかった感動を伝えると1000件を超えた。SNSとんち時代は終わり、無垢な時代の幕開けである
美味しかった感動を伝えると1000件を超えた。SNSとんち時代は終わり、無垢な時代の幕開けである

栗の水羊羹1063RT! これがイノセントワールドだ!

古賀:大北くんのツイートは「あざとい」「バズらせようとしてる」というコメントがあったね。
大北:本当にねえ…ふだんのツイートを知ってる人にはなにか意図があるなと思われてましたね。

大北:実際食べてみたら上品の甘さでおいしかった。栗感もすごかった。おいしい和菓子って大人の味がしていいですねえ。
古賀:おいしそうだよね、本当に。名店だしね。
大北:食感がちょっと予想外で、水羊羹よりもごわっとしてるので、たしかに水羊羹でもなければ栗羊羹でもない。
古賀:やっぱりツイートの文面よりも、実際の食体験の感動が素直にバズってるんじゃないの?
大北:異次元緩和はとんち入ってますけど、基本的には「感じたことを過剰気味に」書きました。でも結局自分もふだんからツイートって大なり小なり表現を盛っているなと思いましたね。
古賀:あとやっぱりかけ算の商品を選んでるところ強いよ。作為として成功したのはそこが大きかったんじゃないかな
大北:結果として1000RTを超えたので大きくはないですがほんとにバズっちゃったんですよね。これが素直な感動が波及する世界か…
古賀:どうですか?
大北:通知が……ちょっと面倒ですね

テキトーに感動する世界がいいのではないか

これがイノセントワールドか。おいしそう!という共感のRTがスマホに通知されていく日々。おいしかったよ…と無言で評価を見つめていたのだが、記事用のスクリーンショットを撮り終わっていたので、通知が多いなと思い消してしまった。

軽い気持ちで消してしまったが、不利益を被る人がいたなら申し訳ないことをした。ごめん。

さあ過剰めに、と思ってツイート文面を考えていて思ったのが、これは異世界なんかではなく多かれ少なかれ人は文章を書くときに「盛っている」ということである。円谷幸吉の遺書も全部が「おいしゅうございました」だったわけではないだろう。

過剰に表現するな!と怒る人もいることだろう。しかしフィナンシェ人間になった今では、みんなこっちに来ればいいのにと思う。

もはやここには主観しかないのだから。みんなテキトーにおおげさに感動して、いいねいいねと言い合ってる世界になればいいと思う。そこは平和な世界だ。ニッポン無責任時代よ今こそである。
中にチーズケーキが入ってるパン。アクセスの良いかけ算の商品に感動するとすべて伸びそうだなと思った
中にチーズケーキが入ってるパン。アクセスの良いかけ算の商品に感動するとすべて伸びそうだなと思った
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