特集 2017年11月20日

カニを『ひっこくり』で捕まえたい

カニを『ひっこくり』という方法で捕まえました。
カニを『ひっこくり』という方法で捕まえました。
生物を捕まえる喜びの大きさは、『ターゲットの個性』と『捕まえ方の楽しさ』の乗算で変化する。

何を言っているかよくわからないかもしれないが、これを食事に言い換えれば、『食べ物の美味しさ』と『食べるシチュエーション』の乗算で幸福度が変わってくるのと同じことだ。

今回はどこの磯にでもいる身近なカニを、伊豆半島に伝わる伝統漁法のひっこくりで捕まえてみた。これが超楽しかったのだ。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:日本人が食べない世界一の養殖魚サバヒーを知りたい

> 個人サイト 私的標本 趣味の製麺

カニがギンポ釣りの邪魔する

大きな岩が転がっているような磯や防波堤にて、岩と岩の隙間に竿先を突っ込んで、ギンポという細長い魚を釣る遊びが好きだ。

以前は針金ハンガーを釣竿にしていたが(こちらの記事参照)、最近は100円ショップで買った竹竿を使っている。長さもちょうど良く、もし折れても100円なので、雑に扱えるのが性に合っている。
こんな隙間にエサの付いたハリを沈める。
こんな隙間にエサの付いたハリを沈める。
これがギンポ。天麩羅にすると最高にうまい。
これがギンポ。天麩羅にすると最高にうまい。
ギンポ釣りはとても楽しい。ただ、この日は場所なのか時期の問題なのか、ギンポよりも先に、ちょっと厄介なやつがエサに寄ってきてしまうことが多かった。

赤くてゴツゴツとしたショウジンガニというカニだ。どこにでもいるカニだが、それなりにサイズが大きく、鎧武者みたいな重厚感があって、個人的には捕まえたくなるタイプの甲殻類だ。
マガニやイソガニなどとも呼ばれるショウジンガニ。磯にいるカニとしてはなかなかのボリューム。
マガニやイソガニなどとも呼ばれるショウジンガニ。磯にいるカニとしてはなかなかのボリューム。
こいつをどうにかして釣り上げたいのだが、踏ん張る力がとても強いため、糸を引っ張っても簡単には上がってこない。強く引き過ぎると、エサを離すか糸が切れてしまう。この装備で戦える相手ではないのだ。

このカニが出てきたらさっさと諦めて場所を変え、本命であるギンポ釣りに集中すればいいのだが、このショウジンガニの味噌汁はイセエビの味がした覚えがある。ギンポの天麩羅にぜひ添えたい。

『ひっこくり』をやってみよう

そういえばこのカニを捕まえる方法があることを思い出した。伊豆半島の稲取あたりに伝わる『ひっこくり』という伝統漁法だ。

詳しいことは全然知らなくて、だいぶ前に釣り雑誌かなんかで見かけた程度の知識だが、仕掛けの作り方は何となく覚えている。

今手元にある道具だけでもできそうなので、ちょっとチャレンジしてみよう。
これが急造したひっこくりの仕掛け。
これが急造したひっこくりの仕掛け。
竿の先にサンマの頭を輪ゴムで縛り付け、穂先の輪に太い糸を通す。穂先に輪があるタイプの竿でラッキーだった。

太い糸には小さなリングをくぐらせておき、二つ折りにしてループを作って穂先を通して結び、手前に引っ張っても穂先の輪にリングが引っかかって抜けないようにしておく。
引っ張ると太い糸の輪が縮まる仕組みになっている。
引っ張ると太い糸の輪が縮まる仕組みになっている。

文字にすると訳が分からないが、要するに引っ張っても抜けないようにした輪っかで、エサに寄ってきたカニを縛って捕まえるのだ。

罠のレベルとしては相当アナログなものだと思うが、なんだか投げ縄を使いこなすカウボーイみたいでかっこいい。牛じゃなくてカニが相手なので、カニボーイだけど。
いったん広告です

輪っかが開いてくれない!

さて本当にこの作ったばかりの仕掛けで、カニは捕れるのだろうか。

いざやってみると、これが全然ダメだった。
右手で竿を構え、左手に糸を持って、カニが輪に入ってきたら引っ張り上げる予定なのだが。
右手で竿を構え、左手に糸を持って、カニが輪に入ってきたら引っ張り上げる予定なのだが。
エサのサンマでカニをおびき出すまでは問題なかった。ギンポ釣りよりもエサがでかいので、カニがすぐに寄ってくる。

しかし問題はそこからだ。肝心の糸で作った輪っか部分がうまく開いてくれず、カニの足がちっとも引っかかってくれないのだ。
この状態で輪っかが開いてさえいれば、あのカニが捕まえられるのに!
この状態で輪っかが開いてさえいれば、あのカニが捕まえられるのに!
引き上げて確認してみると、輪に通したリングのところで、糸に折り目ができてしまい、丸ではなくミカヅキモみたいな開き方しかしなくなっていた。

なるほど、こんな先細りの輪では絶対に無理だな。仕掛けができあがった段階で、そんな気はちょっとしたけどね。
糸を引っ張った時に、輪の先端に折れ目ができてしまったようだ。
糸を引っ張った時に、輪の先端に折れ目ができてしまったようだ。

仕掛けを改造してみた

構造的な問題は理解したが、さてこれをどう解決すればいいのやら。釣具屋かホームセンターにでもいって、あれこれ道具を調達できればどうにでもなりそうな気もするが、そんなことをしている時間はない。手元にある道具でなんとかならないだろうか。

チクチクチク………ポーン!
ひらめいた!
ひらめいた!
輪っかが抜けないようにするパーツを、リングから1センチほどのゴム管に変えればいいのでは。この素晴らしい思いつきに、久しぶりに自分は天才なんじゃないだろうかと勘違いしそうになる。

ある程度長さのあるゴム管を使うことで、輪っかの先端は必ず開くようになる。これが固いパーツだと、引っ張った時に隙間ができてしまうが、ゴムなので輪っかはちゃんと小さくなる。やっぱり俺って天才だな。

見事にカニの捕獲に成功!

さっそく改良型のひっこくり仕掛けを海へと差し込むと、見慣れない赤いカニが近づいてきた。

よし、お前が記念すべき、ひっこくられの第1号だ。
アカイシガニというカニかな。水中撮影ですよ。
アカイシガニというカニかな。水中撮影ですよ。
このひっこくりという漁法は、カニが勝手に輪の中へ足を入れてくるものだと思っていたのだが、私の作った仕掛けは輪が2つしかないこともあり(普通はもっと多いらしい)、そううまく罠に掛かってくれそうにない。

そこでこちらから竿先を積極的に動かし、カニのハサミに輪を通すという作戦に変更。そんなことをしたらカニが逃げちゃうかなとも思ったが、エサに夢中になっているカニは意外と逃げないのだ。

一旦カニからエサを離し、そのエサを掴み直そうと伸ばしたカニのハサミを目掛けて輪を通す。そして糸をひっぱり輪をすぼめて、食い逃げ常習犯のハサミをキャッチ。すかさず引っ張るテンションを弱めずに竿を上げれば、カニの捕獲に成功だ!
やったー!楽しー!!
やったー!楽しー!!
やばい、これは楽しい。カニなら今までに何度も捕まえてきたけれど、私にとって新たな技であるひっこくりという伝統技法で捕まえた意味は大きい。これは能動的な罠だ。

カニのハサミに自分の操作で輪を通すという、想定していなかった工程が加わったことで、UFOキャッチャーのようなゲーム性がアップ。カニ捕りが最高の磯型エンタテインメントに仕上がったのだ。
このシンプルな手作りの仕掛けで捕れたのが嬉しい!
このシンプルな手作りの仕掛けで捕れたのが嬉しい!

やり方がわかると簡単に捕れる

この日はカニがそこらじゅうに潜んでいたので、捕獲の流れさえ確立できれば、あとはポンポンポンと捕まえることができた。

輪っかを掛けようとした時に竿先でカニを突っついてしまって逃げられたり、引き上げようとしたときにカニが落ちることもあったけれど、だからこそ楽しいのである。これはよい遊びを覚えた。
ショウジンガニもしっかりゲット。
ショウジンガニもしっかりゲット。
ケガニみたいなナイスサイズもいた!
ケガニみたいなナイスサイズもいた!
これは余談になるのだが、このように何匹か捕まえているうちに、ふと手掴みでもいけるんじゃないかという気がしてきた。

なるべく水面までカニをおびき出し、エサに夢中になっているところをそっと背中から指先で抑え込む。

あ、いけた。
いきなり掴むのではなく、こんな感じで上から押さえつけるとうまくいく。
いきなり掴むのではなく、こんな感じで上から押さえつけるとうまくいく。
そのまま甲羅の両サイドを指でつまんで、無事捕獲に成功。カニとの距離が近ければ、ひっこくりの技を使わなくても捕まえられるのか。こっちのほうが手っ取り早いな。
素手でいけた。
素手でいけた。
いやいや、でもそういうことじゃない。ひっこくりという技を使って捕まえるのが楽しいのだ。

でも手掴みも楽しいよねー、なんて遊んでいたら、まんまとカニに挟まれてしまった。
まあまあ痛いけど、楽しかったので良し。
まあまあ痛いけど、楽しかったので良し。
いったん広告です

ショウジンガニはイセエビの味がする

夢中になって捕まえたカニは、全部で10匹ほど。

その気になればもっと捕れそうだったけれど、ワタリガニよりも硬そうだし、そこらじゅうがトゲトゲだし、どう考えても食べるのが大変なタイプのカニなので、程々でやめておいた。
硬そう。
硬そう。
どうやって食べようかと帰りの電車でずっと考えていたのだが、ギンポの天麩羅もあることだし、一番手間の掛からない丸のままの味噌汁にすることにした。

炎のように赤くなったカニは最高にかっこいい。最高に食べにくそうだけど。
シルエットだけだとケガニっぽいな。
シルエットだけだとケガニっぽいな。
とりあえずスープを飲んでみると、これが笑えるほどイセエビ味なのだ。前に食べたときよりもカニの量が多いので、記憶していた味よりもさらにイセエビ味が濃い。

私がイセエビをそんなに食べたことがないので正論として断言はできないのだが、私のイメージするイセエビの味と一致する。もしかしたらイセエビよりもうまいかも。

もし本物のイセエビの味噌汁を飲んだら、あっという間に溶けてしまう魔法なのかもしれないが、この想いは大切にしていきたいと思う。

味噌も身もうまいです

続いてはカニ本体を食べる番だが、このサイズのカニが一番食べ方に悩んでしまう。もっと大きければ食べやすいし、小さければ身は諦めるのだが。

とりあえずスープから取り出して甲羅を剥がしてみると、そこには黄金色のカニ味噌が詰まっていた。
うまそー。
うまそー。
スプーンですくって食べてみると、ちょっと苦味のある濃厚な味わいが詰まっていて、日本酒との無限ループが止まらなくなる。甲殻類が鮮度が命。さっき海で捕ったばかりのカニなので、臭みは全く感じない。いつかイセエビと比べてみたいところだ。

このカニ味噌を味噌汁に溶かしこめば、さぞやうまいだろうけれど、こうして直接楽しんだ方が感動は大きいだろう。カニを半分に割ってから入れるべきか迷ったのだが、丸のままで正解だったぜと小さくガッツポーズ。

続いてはどう食べたらいいのかわからない本体だ。とりあえず甲羅の下に隠れていたエラをとり、パキっと縦に割る。あとはこのまましゃぶりつくしかないようだ。
この肩(?)の肉、食べにくいけどうまいやつだ。
この肩(?)の肉、食べにくいけどうまいやつだ。
カニ味噌の付いた脚の付け根に吸い付き、その肉をガシガシと歯で削り取る。濃厚なカニ味噌と味噌汁の染みた甘みのある肉が混ざり合う。こりゃうまい。

歯の隙間にプラスチックみたいなカニのパーツがバンバン挟まってくるが、夢中になって食べつくした。

そして最後に脚の中にある身をほじくる。ほんのりと甘味があって、これまたうまい。甲羅が猛烈に硬くてトゲトゲで、食べるのがクリとかギンナンくらいは大変で痛いけれど、その苦労の価値は十分ある美味しさだ。
この倍の大きさだったら食べやすいんだけどね。
この倍の大きさだったら食べやすいんだけどね。
キッチンバサミとカニスプーンで身を取り出していったのだが、カニが小さいのでかなりやりづらかった。次回は食べるための道具をしっかり選ばなくては。ひっこくりの道具も、もっと研究してみたい。

全部のカニを食べるのに4時間も掛かったが、それは幸せな時間だった。気の短い人には向かない食材だが、摂取カロリーよりも消費の方が多いんじゃないかと思うくらい、のんびりした食事もたまにはいいもんだ。

ショウジンガニのひっこくり、いつか絶対やってみたいと思っていたので、また一つ、捕まえて食べる夢が叶ってうれしい。こうして心のスタンプカードが押されていく。

今回は味噌汁で全部食べてしまったが、今度はあのイセエビっぽい風味をもっと生かすべく、殻ごと砕いてだしをとったり、安いエビとあわせてみたりして、誰かに食べさせてみたいところだ。
▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←
ひと段落(広告)

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ