特集 2018年5月13日

書き出し小説大賞第146回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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ハズキルーペのCMの菊川怜が椅子に座る瞬間だけもう200回以上リピートしてます。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

五月の風は輪郭だけ冷たい。
xissa
もう鉄板の端のような桜ばかりだった。
干す
客か、それとも廃墟マニアか。
紀野珍
母が忙しく動くので、康太には掃除機の蛇腹がうまく数えられない。
高田
今朝落としたカイロは、まだどこかを温めている。
はらげん
死ぬ、というのは、観覧車が止まること。ゴミ箱に花束を捨てること。
さくさく
舐めたらハッカの味がしそうな、そんな女の子だった。
ある瓶
遊具にまとわりつく雨水になりたい。
あや幹部
オランウータンは軍隊が遺した空家のベッドで眠る事を覚えた。
prefab
鈍器になるのだろうか?春キャベツは。
たこフェリー
雨は屋根を打ち、体育館を鳴らす。
井沢
影の形が、ひとりだけダサい。
大伴
パワーを増した掃除機は、双子の影をそっくり吸い取った。
g-udon
留学生がイメージだけで商工会議所を描いた。
ヘリコプター
慣れないブラインドが、アジトを丸見えにした。
ろっさん
この世から「青」という色を奪ってみても、僕はまだ「青」いままだった。
三原皐月
寸評

●干す氏「もう鉄板のような~」桜の表現に新しい比喩が加わった。
●高田氏「母が忙しく~」子供ってなにもしてなくてもなんかしてるよね。
●あや幹部氏「遊具にまとわりつく~」ジャングルジムか回旋塔希望。
●たこフェリー氏「鈍器になるのだろうか?」鈍器にも浅漬けにもなる。
●ヘリコプター氏「留学生が~」パルテノン神殿みたいな商工会議所ができた。

続いては規定部門。今回のテーマは「架空の自伝」であった。知らない人の自伝は書き出しだけで充分。

僕が銅像になるちょっと前の話。
反骨心のアップリケ
今書き留めておかないと、恐らく改造手術前の記憶は無くなるだろう。
高田
私が誰を好きだったのか、修学旅行の夜のあの問いに、そろそろ答える時が来たようだ。
タクタクさん
九十九匹の猫たちについて語ることが私の自伝になると思う。
suzukishika
横綱に抱っこされて、ぼくの性癖は決まった。
ろっさん
この度は「一万人のキャバ嬢をフォトショで手直しした男」を手に取って頂き、本当に有難う御座います。
prefab
「今夜は私が家具になる前の話をしてあげる。」
ヘリコプター
私の成功のきっかけは、半裸のおばさんが夢に出てくるようになった34歳の夏に遡る。
はらげん
いろんなとこに行ってさ、いろんなヤツに会って。『こんな事おかしくね?』って好きにカマシてただけ。したらノーベル平和賞だって。自転車屋の倅がだぜ?
fiftystep
私の半生は、4つの「ヤバい」で語ることができる。
ジェングウ
私の名前には「箱を持って電車に乗る人」という意味がある。
xissa
滅多に怒らない人を怒らせる、それが、私です。
トミ子
俺の人生はホイルの芯を毛嫌いし、ラップの芯を愛するところから始まった。
松っこ
この世に生を享けるまで、私は岩の中でずっと雷を待っていた。
g-udon
『臭い飯』を食べてみたい。そんな好奇心から、私は冤罪を受け入れた。
住民パワー
初めてビートルズを聞いたのは、50歳の時だった。
正夢の3人目
他人が便器につけた陰毛を小便で洗い流す人生であった。
のるまん
産湯に浸かりながら、シャンデリアを見ていた。
あひる
寸評

●反骨のアップリケ氏「僕が銅像になる~」自分で銅像を建てるタイプはとっくに自伝も書いてる気がする。
●タクタクさん氏「私が誰を好きだったか~」すでにクラスの半分は他界したが…
●suzukishika氏「九十九匹の猫たち~」九十九匹が語った一人の人物って視点も面白そう。
●prefab氏「この度は一万人のキャバ嬢を~」中身はフォトショのハウツー本。
●fiftystep氏「いろんなとこに行ってさ~」自己啓発書のコーナーにある、著者の写真が表紙の本みたい。
●g-udon氏「この世に生を享けるまで~」西遊記ビギニング?
●正夢の3人目氏「初めてのビートルズ~」出遅れ感w

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「映画」
次回のモチーフは映画。好きな映画をテーマにする、映画の思い出をテーマにする、撮影現場をテーマにする、アプローチ次第でさまざまな方法があると思う。あなたの映画への思い出をねじこんで欲しい。締め切りは5月25日正午、発表は27日を予定している。下記のフォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
Mch/ぴすとる/小柳はる/伊勢崎おかめ/りずむ原きざむ/ぴすとる/くずきり/
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