特集 2018年6月13日

天国のような釣り堀「武蔵野園」の経営哲学

ジョーズを釣ろうとする筆者
ジョーズを釣ろうとする筆者
その釣り堀の存在を知ったのは数年前。花見をしようと杉並区の和田堀公園を訪れた際に偶然見つけたのだ。

浅草の花やしきを思わせるキッチュな外観。思い思いに釣り糸を垂らすのどかな風景。そして、食堂のドリンクメニューにはホッピー。天国である。

どんな人がどんな思いで経営しているのか。そこには、揺らぐことのない「客ファースト」の精神があった。
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圧倒的な存在感を放つ赤い建物

目指す釣り堀「武蔵野園」へは、京王井の頭線の西永福駅から徒歩15分。JR高円寺駅からもバスでアクセスできる。
青々と茂った草と木立の奥
青々と茂った草と木立の奥
草木の緑と空の青の間で圧倒的な存在感を放つ赤い建物。それが「武蔵野園」だ。
一度見たら忘れられない外観
一度見たら忘れられない外観
入り口には、忍者じゃじゃ丸くんの形をしたポップコーン販売機。「ボク、じゃじゃ丸。ボクの中からおいしいポップコーンをたくさん作れるよ」とエンドレスで繰り返す。他に聞こえるのはカラスの鳴き声ぐらい。のどかだ。
この日は気温30度と非常に暑かった
この日は気温30度と非常に暑かった
中に入ると、まず食堂。冷房が効いていて心地よい。
ビニールハウスのような造り
ビニールハウスのような造り
そして、その奥に釣り堀がある。
平日の午後なのに盛況だ
平日の午後なのに盛況だ

継ぐことに違和感はなかった

にこやかに迎えてくれたのは、3代目の青木大輔さん(50歳)。

「うちは開業して70年ぐらい。初代の祖父は、すぐ横の和田堀池で貸しボートやプールを経営していました。さらに手を広げて、この釣り堀を人から買い取ったのが始まりです」
このキャップ、ほしい
このキャップ、ほしい
70年前といえば戦後すぐの頃だ。当時から釣り堀というアミューズメントスポットがあったのか。昔の写真も非常に興味深い。
1970年代の「武蔵野園」
1970年代の「武蔵野園」
男性客の服装に時代を感じる
男性客の服装に時代を感じる
青木さんは、勤めていた大手証券会社を辞めて25年前に釣り堀を継いだ。

「兄弟で男は自分だけ。だから、爺ちゃんと婆ちゃんからは『潰さないでね』と言われて育ちました。ここの2階が家で、子どもの頃からずっと見てきた風景だから、継ぐことに違和感はなかったですね」
2代目の龍雄さん(78歳)も現役
2代目の龍雄さん(78歳)も現役
レジ担当の龍雄さんはすぐ近くの大宮中学出身で、宮崎駿と同級生だという。

「武蔵野園」は、ほぼ家族経営だ。青木さんと奥さん、2代目のお父さんと奥さん、土日は大学生の娘さんも手伝う。

「僕ら夫婦には、女の子2人と小学4年生の息子がいます。息子が4代目を継いでくれるでしょう。本人にはまだ言ってませんけど」

映画のロケで使ったジョーズをもらった

なお、「武蔵野園」は2012年放映の『孤独のグルメ』に登場したことがきっかけで、全国にその名を知られるようになった。

「松重さんは親子丼と焼きうどんを食べていましたね。僕のイチ推しはオムライスなんですが」と青木さんは少々不服そうだが、これによって“聖地巡り”の客も増えたそうだ。
こちらが人気フードランキング
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ドリンクメニューにホッピーがあるのが嬉しい
ドリンクメニューにホッピーがあるのが嬉しい
「他にも、EXILEの映画『HiGH&LOW』のロケに使われました。撮影で使ったジョーズを捨てるっていうから、『じゃあ、くださいよ』と言ってもらったんです」
めでたく池の中で生き長らえたジョーズ
めでたく池の中で生き長らえたジョーズ
さらに、乃木坂46の西野七瀬が釣り堀でPVを撮影。この反響は過去最大で、全国からファンが殺到したそうだ。
西野さん、字がきれい
西野さん、字がきれい
「うちは宣伝はまったくしていないし、ホームページもSNSもない。皆さんの口コミでたくさんの人に来てもらえるから、ありがたいことですよ」

DIYはまったくの素人、すべて独学だ

ところで、一番聴きたかったのは独特なデザインセンスのこと。赤い外観、ビニールハウスのような食堂、あちこちにぶら下げられたぬいぐるみ。
ブランコに乗るクマ
ブランコに乗るクマ
「ぬいぐるみは、お客さんたちが『飾って』と言って持ってくるんですよ。小さい子どもが喜ぶからいいかなと思って。外観の赤い板? あれは老朽化した外壁が見えないようにね。いわゆるボロ隠しです」

そして、驚くことにビニールハウスを含めた釣り堀全体の工事は、すべて自分たちで行っているという。

「この食堂は6年前に池の上にパイプを組んで作りました。最初は吹きさらしで、冬は寒いから真ん中に薪ストーブを置いて。でも、大雪の年に屋根のビニールがどーんと落ちちゃった。これではいかんと、ポリカの波板で補強。あと、真夏に汗水垂らして食べているお客さんを見ると申し訳なくて、2年前にエアコンも導入しました」

DIYはまったくの素人、すべて独学だ。お金をかけずに客を楽しませたい。その思いが青木さんを突き動かす。
なるほど、片隅には大量の工具
なるほど、片隅には大量の工具
初代の奥さんは信仰心が厚く、「水を使う商売だから」と江ノ島の弁財天に毎年奉納に行っていた。やがて、12、13年前に弁財天から水の神様をお連れして、青木さんが釣り堀の奥に社を作る。この体験がきっかけで、DIYによる創作意欲が高まったそうだ。

何も足さない、何も引かない、完璧なオムライス

インタビューが終わるとお腹が空いてきた。いただきますよ、孤独のグルメを。人気ナンバーワンで青木さんもイチ推しだというオムライスをさっそく注文した。
おっと、3代目みずから作るのね
おっと、3代目みずから作るのね
ほどなくして運ばれてきたのは、何も足さない、何も引かない、完璧なオムライス。
神々しいほどの美しさ
神々しいほどの美しさ
チキンライスの下までオムレツでくるんと包むタイプで、キレのあるケチャップソースと醤油ベースのスープとの相性も抜群だ。
美しい味で「美味」になる
美しい味で「美味」になる
思わず、ふだん人には見せない表情が出た。ごちそうさまです。

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