特集 2018年7月1日

傾けると人の声がする”ざる“

波の音を出す古典的な小道具「波ざる」が進化しました
波の音を出す古典的な小道具「波ざる」が進化しました
通販番組で観客の「ええ~(安い)」「うわぁ!(素敵)」という女性の声が聞こえる。

あの声を機械で出していたらおもしろい。

いや、機械ではなく”ざる”だったら最高だ。ざるに小豆を入れて波の音を出す小道具と思わせておいて、人の声がするのだ。

理屈が飛んでいることは認める。でもそれがおもしろいなと思っちゃったのだ。
そしてたくさんの人に協力してもらって完成した。(テキスト:林雄司 / 制作:よしだともふみ)
1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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> 個人サイト webやぎの目

これが見たかったものだ

さっそく完成品の動画をご覧いただこう
波ざる2.0
こういうことである。論理が飛躍したおもしろさに賛同してくれたのはテクノ手芸部のよしださんである。

脳の中にあったもやもや~っとした面白さを、もやっとしたまま説明して形になった奇跡の作品である。いちどもちゃんと紙に書いて説明することなく、脳から直接飛び出した。

デイリーポータルZの企画は紙に書くなとライターに言っているが、脳から直接出るパターンを見たいからだ(当然、どろどろしたパトスそのままみたいなものも現れる)
脳からそのまま出ちゃった悪い例(この記事から)
脳からそのまま出ちゃった悪い例(この記事から
さて、今回のもやもやがこの世に現前するまでの過程を紹介したい。

デイリーポータルZの女性ライターに集まってもらい。通販の観客みたいな声を出してもらう。
声だけだが全員身振りをつける律儀さ
声だけだが全員身振りをつける律儀さ
ちなみに録音スタジオはパセラという名前である。ちゃんとしたスタジオを借りると高いのでカラオケボックスはおすすめだ(しかも1時間で歌わずに帰った)。

もやもやしているユーモアの割にはたくさんの人が協力してくれている。人は生きているのではなく生かされていると宇多田ヒカルも歌っていた。通販番組のサクラの声を聞きながら人生を考える

それをよしださんがメカにする。
女性ライターたちがこんな姿に
女性ライターたちがこんな姿に
このメカには加速度センサーがついていて、傾きを検知するようになっている。その傾きの大きさに応じて「わー」の声を大きくしている。
図にするまでもない図
図にするまでもない図
メカの部分にはアルディイーノである(技術的な説明終了)。
そして音は本体から出るわけではなく、スピーカーとケーブル(エレキギターでいうシールド)でつなぐようになっている。アンプにつなぐいでライブすることもできる。
林「これでメ芸出れますよ」 よしだ「メ芸!メ芸!」
林「これでメ芸出れますよ」 よしだ「メ芸!メ芸!」
メ芸とはメディア芸術祭である。よしださんはデイリーポータルZでおもしろ工作担当になっているが、もともとメディアアートの人でもある。そういう人へのキラーワードである「メ芸」というワードを使って鼓舞していることに若干の罪悪感を感じる。
カゴはヤフオクで1000円ぐらいで落札した
カゴはヤフオクで1000円ぐらいで落札した
メカを入れる穴をあけたら籐からおばあちゃんちの匂いがした。古い木の匂いである。
新宿の十二社のあたりの古い住宅街が再開発のために一気に壊されたとき、その周辺一帯がおばあちゃんちの匂いになっていた。
更地なのにそこにあった生活の匂いだけが残っていることに切なくなったが、カゴを切ったらあっさり嗅げた。

そしてくしゃみが出た。

別バージョンは

通販番組のサクラ以外のバージョンも作ってみた。傾けると男女の修羅場がどんどんひどくなっていくのだ。
男女がこじれるようすのざる
水平の状態では落ち着いているが、傾けるとだんだん不穏な雰囲気になっていくのだ。アイスピックか離婚届が登場するイメージである。

この声の主は俳優の八木光太郎さん。デイリーポータルZのライター、大北さんが主催している劇団「明日のアー」に出演している。
すごい迫力で、ぜひ音が出るざるプロジェクトに参加してもらいたいと思って依頼した。
左)よしださん 右)八木光太郎さん
左)よしださん 右)八木光太郎さん
ファンシーな背景はパセラではなく、ケーブルテレビ品川のスタジオである。スタジオで撮っているだけでローカルなテレビ番組のオフショットのように見えるから不思議である。
(こんど架空の番組の出演者ブログを作ろう)。
状況を考えながらセリフを決めてゆく
状況を考えながらセリフを決めてゆく
僕が書いたメモ
僕が書いたメモ
言語化されてないユーモアを説明するために唯一書かれた資料がこれである。もやもやしたユーモアではなく、何も考えてなかったのかもしれない。
収録のようす
見どころは八木さんに「好きだよ」と言われてもじもじしている僕である。後半は男性版の通販のサクラの声を撮っている。このときは僕とよしださんも参加しているのだが、清々しいほど八木さんの声にかき消されている。
通販の声男性バージョン
通販番組で商品が出てきたときに感激する男性の声がする”ざる”である。ただ、あんまり通販番組で複数の男性が歓声を上げているのを見たことがないので、

見たことがない状況の音がする見たことがない装置

という掴みどころのないものになってしまっている。インディアカの有名選手の顔に似ているオロロン鳥みたいなものである。たとえ話で一層わかりにくくなっているが。

中に僕らがいる

最後にかごの中に僕らがいると仮定したものを作った。なかに小さい人がいて、傾けるとわーわー言うのだ。神の視座である。
神動画
ポピュラスというゲームがこんな感じでしたね!とそのときは興奮したが、そういうゲームではなかった。

いつか必要になる日が来る

ケーブルテレビ品川でこの小道具使う用事があったら言ってください!と言って帰ってきたが、男3人が慌てている声、しかも強弱を付ける必要があるシチュエーションが難しいかもしれない。

ただ「巨大なシーソーが街を襲い、その上に市民三人が乗せられている」というシーンがある外国映画があればその吹き替えで使うことができる。

次はその映画を撮るところから始めたい。
メディアアートを楽しむ八木さん
メディアアートを楽しむ八木さん
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