特集 2018年8月24日

電車が国道を爆走!陸送に密着した

イニシャルDのワンシーンのよう
イニシャルDのワンシーンのよう
長野県から神奈川県まで、引退した電車をトラックで運ぶことになった。線路上の電車をクレーンで吊り上げるところから密着取材して良いという。

新幹線などが道路の上を運ばれるニュースはよく目にするけれど、実際には見たことがない。この機会を逃すわけにはいかない!ということで、見に行ってきた。

編集部より
この記事は東急電鉄と川崎フロンターレが共催したイベント「川崎の車窓から~東急グループフェスタ~」に展示のための車両輸送の様子を取材したものです。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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超巨大&超親切

早朝からじりじり太陽が照りつける8月中旬のある日、長野県上田市の上田電鉄別所線の中塩田駅にやってきた。時間は朝の8時。まず午前中にクレーンで車両を吊り上げてトラックに載せ、そのまま夜まで待機。21時頃に東京に向けて出発し、この日は途中の群馬県安中市まで移動するというスケジュール。家を出たのは4時前、1日(以上)仕事だ。体力持つだろうか。

駅近くの線路に面した空き地の前で待っていると、車高が低くて荷台の長いトレーラーがやってきた。これに電車を乗せて運ぶのだろう。その後、超巨大なクレーン車も2台到着。早朝の田舎町に似合わないものものしさ。頭の中ではなぜか特攻野郎Aチームのテーマが流れる。
「道理の通らぬ世の中に、敢えて道路を通る...」
「道理の通らぬ世の中に、敢えて道路を通る...」
ところで運送チームから取材をして良いとは聞いていたけど、車をどこに停めれば良いのか分からず困っていたら、地元の方が「電車の写真撮るの?私いまから夜まで出かけるからうちの駐車場停めていいわよ」と言って出かけて行った。長野の人、超親切!だけど不用心!でもお言葉に甘えさせてもらった。

今回運搬される電車は

今回運搬されるのは、今年の5月で上田電鉄から引退した古い電車。Jリーグ川崎フロンターレのイベントで、本拠地である等々力陸上競技場に展示されることになり、川崎まで運搬されることになった。とは言えこの電車、もともとは東急電鉄所属で、川崎市も通る東横線や田園都市線でも走っていて、東急で引退したあと上田電鉄に譲られたというから、ホームへの凱旋とも言えるのかも知れない。
勤勉親父の帰還
勤勉親父の帰還
線路の方に歩いて行くと、引き込み線に引退した車両が停まっていて、既に数人の鉄道ファンらしいギャラリーも来ていた。みんな今日搬出されるという情報をどこから聞きつけるのだろう、と思って訊いてみたら「フロンターレのツイッターで」とのことだった。オフィシャル!
早くもギャラリーが集まっていた
早くもギャラリーが集まっていた
今回のようにトラックで運ばれる電車を追いかけている人もいるらしく「等々力まで行くの?」「いやー明日は仕事で...」みたいな会話が聞こえてきた。分かる。ダム好きの間でもイベントが重なって「明日〇〇ダム行くの?」みたいな会話を500kmくらい離れたダムですることあるのでよく分かる。

ぜんぜん関係ないけれど、今回取材に同行してくれているウェブマスターの林さんが、ギャラリーのひとりとシャツの絞り染めが被るというプチ奇跡が起きていた。
全体で20人くらいの中で絞り染めが2人
全体で20人くらいの中で絞り染めが2人
今回搬出される電車は2両編成だったようで、いまクレーンが横付けされている車両と、もう1両が後ろの方に留め置きされていた。おそらく最初の車両がトラックに載せられたらここまで移動して来るのだろうと思う。
長年コンビを組んだ相方の吊り上げを見守る
長年コンビを組んだ相方の吊り上げを見守る

作業開始!

やがて作業が開始され、クレーン車のアウトリガーが展開。すると先ほど到着したトレーラーが巨体を折り曲げ、何度も切り返しながら車両の横に入って行った。
いよいよ作業開始!
いよいよ作業開始!
満を持してという感じで登場
満を持してという感じで登場
驚いたのは、トレーラーの後ろに片側3輪ずつついているタイヤが、ハンドルを切ると曲がるいちばん前のタイヤとは関係なく左右に曲げることができるところ。これを組み合わせることによってすごく小回りができたり、柴犬のように斜めに直進したりできるので、巨体にも関わらず狭い路地も何度か切り返せば曲がれてしまうのだ。
左折しているのにタイヤは少し右を向いているのに注意
左折しているのにタイヤは少し右を向いているのに注意
あと荷台の長さを変えられるようだ
あと荷台の長さを変えられるようだ
感激してこの部分の写真20枚くらい撮ってしまった
感激してこの部分の写真20枚くらい撮ってしまった
トレーラーが横付けされ、クレーンのアームも伸ばされた
トレーラーが横付けされ、クレーンのアームも伸ばされた
どうやって電車を吊り上げるのかと思ったら、車体の部分にぐるりと通したのはスリングベルトだった。ワイヤーじゃなくていいのか。見たことない太さではあるけど、モノタロウで売ってるだろうか。
何となくワイヤーをフック的なものに引っ掛けるのかと思っていた
何となくワイヤーをフック的なものに引っ掛けるのかと思っていた
根元はふつうのシャックル(ごついけど)
根元はふつうのシャックル(ごついけど)
トレーラーの荷台に支柱がセットされた
トレーラーの荷台に支柱がセットされた
その後、反対側にもスリングがかけられ、いつの間にか到着してアームを伸ばしていたクレーンに接続された。これで吊り上げ準備完了である。
準備完了!
準備完了!

電車が空を飛ぶ

作業員の方がクレーン車の操縦士に巻き上げの指示を出した。その瞬間、現場の空気が一気に張り詰める。数人の作業員が台車と車体の接続部分を凝視している。ほんのゆっくりした速度で、車体と台車の間に隙間が開きはじめた。このときをもって、この車両が上田電鉄の線路に乗ることはもうなくなった。
ギャラリーも固唾を呑んで見つめていた
ギャラリーも固唾を呑んで見つめていた
離れた!
離れた!
台車から離された車体は、2台のクレーンの連携でゆっくりと持ち上げ横にずらされ、すぐ隣に停められたトレーラーの荷台の上に慎重に運ばれた。
クレーンの操縦士のスキルの高さよ
クレーンの操縦士のスキルの高さよ
そのままトレーラーの荷台の上に置かれた支柱に降ろされるのかと思ったら、なかなか作業が進まない。どうやら支柱が置ける荷台の位置と、支柱を受ける車体の底の位置がうまく合わないらしい。
数分間あーだこーだやっていた
数分間あーだこーだやっていた
やがて位置が決まり、車体は支柱の上にゆっくり降ろされ...もう少しというところでまた止まった。今度は支柱の高さが足りず、車体の底についている機械が荷台に接地しそうになったらしい。
ギリギリ
ギリギリ
そこでまた数分間あーだこーだやって...
そこでまた数分間あーだこーだやって...
ついに降ろされ、スリングも外された
ついに降ろされ、スリングも外された
固定はしっかりラッシングで(でもこれだけで大丈夫?と思ったのも事実)
固定はしっかりラッシングで(でもこれだけで大丈夫?と思ったのも事実)
台車はスムーズにクレーンで吊り上げられ...
台車はスムーズにクレーンで吊り上げられ...
別のトラックに載せられ、一足先に搬出されていった
別のトラックに載せられ、一足先に搬出されていった
作業開始からおよそ2時間で、ついに車体はトレーラーに積まれた。入って来たときと逆に、トレーラーは慎重にバックで駐車場の方に戻って行く。これから夜までここで留め置きされるのだ。
後ろの家に突っ込まないかかなりヒヤヒヤ
後ろの家に突っ込まないかかなりヒヤヒヤ
線路の上じゃないところで電車の顔が見えるとものすごい違和感
線路の上じゃないところで電車の顔が見えるとものすごい違和感
夜までここで留め置き
夜までここで留め置き

2両目、作業開始!

留め置き場所で1両目の車体の写真を撮っていて、ふと気がつくと2両目の車体を移動していた。しまった!
急いで吊り上げ地点に戻った。
気がついたら2両目を移動していた
気がついたら2両目を移動していた
続いて2両目を載せるトレーラーがやってきて...
続いて2両目を載せるトレーラーがやってきて...
あっという間に吊り上げられ...
あっという間に吊り上げられ...
スムーズにトレーラーに積まれて...
スムーズにトレーラーに積まれて...
留め置き場所に移動され...
留め置き場所に移動され...
これで一旦作業終了。おつかれさまでした!
これで一旦作業終了。おつかれさまでした!
2両目の作業は早かった。雨が降ってきたにも関わらずあっという間に吊り上げて、トレーラーへの積載もスムーズ。1両目の作業が終わった時点で、聞こえなかったけど作業員の方々のレベルが上がりまくったファンファーレが鳴り響いていたのだ。

車体を積んだトレーラーは駅前の空き地に並んで停まり、夜まで待機。空き地に面した家の人々は、突然自宅前に現れた電車に窓から写真を撮りまくっていた。
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いよいよ出発!

お昼頃に作業が終わり、スーパー銭湯的な施設で休憩してから20時過ぎに留め置き場所に戻った。既にトレーラーはライトが点き、作業員の方々は点検に余念がない。
既に準備完了な雰囲気
既に準備完了な雰囲気
そして夜9時過ぎ、ついにこの電車が長野を離れる時がやってきた。鉄道ファンだけでなく、いつの間にか近所の人々も集まり、手を振っている。日常的にこの電車に乗っていた方たちだ。
特にセレモニーはないが大勢の見送りが
特にセレモニーはないが大勢の見送りが
ちなみに、この1両目は千葉に、2両目が等々力陸上競技場に運ばれる。まず1両目がトレーラーのエンジン音とともにゆっくり走り去っていった。
等々力に行く2両目が出てきた
等々力に行く2両目が出てきた
大勢の近所の人が見送りに
大勢の近所の人が見送りに
いつの間にか行き先が「等々力」に
いつの間にか行き先が「等々力」に
左は誘導係ではるばるやってきた川崎フロンターレのマスコットキャラのふろん太、隣は上田電鉄の駅長さんらしい
左は誘導係ではるばるやってきた川崎フロンターレのマスコットキャラのふろん太、隣は上田電鉄の駅長さんらしい
巨大な電車が走り去って行くとき、近所の方々から口々に「さようならー」という声が自然に漏れていたのが印象的だった。

国道を走る電車を追う!

しかし感傷に浸ってばかりいられない。我々は密着取材班である。電車が道路を走る光景を先々で待ち構え、写真を押さえなければならない。すぐに車に乗り込み、裏道を抜けて通過予定地点に先回りした。昼間のうちに何ヶ所かアタリをつけておいたのだ。
緑のランプの先導車が唯一の目印
緑のランプの先導車が唯一の目印
セブンイレブン前、通過!
セブンイレブン前、通過!
出発地点の近くのセブンイレブン前は、電車が通れない細い道で先回りできるので確実に待ち伏せできると思ったけど、その先が分からなかった。電車は国道18号を延々走る予定なのだけど、現在地を知る術がないのだ。次は裏道を通って、数キロ先の歩道橋の上で待ち構えた。
写真奥から手前に向かってくるはず
写真奥から手前に向かってくるはず
しかし5分待っても10分待っても来る気配がない。もしかして既に通り過ぎたのでは...。しかしそれも分からない。心細く待ち続けると、林さんが「あ、あの緑のランプは!?」と声を上げた。
間違いない!先導車だ!運転代行じゃない!
間違いない!先導車だ!運転代行じゃない!
そしてその後ろから巨大なトレーラーがやってきた。
きたー!
きたー!
待ってて本当に良かった
待ってて本当に良かった
しかし一瞬だった
しかし一瞬だった
信じて待ってて良かった。何しろ、通り過ぎていたときのために誤魔化すための写真まで撮っていたのだ。
「来たけど暗くてこんな写真になっちゃいましたー」
「来たけど暗くてこんな写真になっちゃいましたー」
その後、高速で先回りし、今回最大の難所である碓氷峠入り口で待ち構え、電車(を載せたトレーラー)がワインディングロードを爆走する様子を真後ろから眺めることができた。
高速で先回りしたのに到着して数分後に来たので驚いた
高速で先回りしたのに到着して数分後に来たので驚いた
「峠のダウンヒルを走る電車」の光景は一生忘れない
「峠のダウンヒルを走る電車」の光景は一生忘れない
この日は碓氷峠を下り切ったところで終了、残りの行程は翌日の夜スタートということだった。翌日は別の仕事が入っていたので行けなかったけれど、等々力に着くまでにさまざまな困難があり、しかしトレーラーの前後も沿道も大勢のファンが待ち構えて見守ったそうだ。
無事この日の終点に到着、おつかれさまでした!
無事この日の終点に到着、おつかれさまでした!
そしてその翌日、電車が展示される当日のイベントに行ってみた。
初めて来ました等々力陸上競技場
初めて来ました等々力陸上競技場
おお!一昨日の!!
おお!一昨日の!!
無事に展示されていてなんだか僕も嬉しい
無事に展示されていてなんだか僕も嬉しい
初めて見た電車のトラック輸送。それはさまざまなドラマに満ち溢れていて、忘れられない思い出になった。

電車をトレーラーで輸送するのは想像以上にダイナミックでロマンがあった。沿道で待ち構えてる人、車で追いかけている人もたくさんいて、なんだか作業の人と一体となって盛り上がっている感じがあった。とは言えまずは無事に運び終えた作業員の皆様おつかれさまでした。
そうそうここスレスレでさー、などとひとりで悦に入っていた
そうそうここスレスレでさー、などとひとりで悦に入っていた
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