特集 2011年6月29日

洞窟の中で宴会ができる旅館があった

洞窟の入口
洞窟の入口
三重県津市に、洞窟の中で食事ができる旅館があるという。
その名も磨洞温泉涼風荘。
洞窟というとグーニーズやインディージョーンズの世界だが、そこでご飯が食べられるなんて、冒険心がくすぐられるではないか。
1973年北海道生まれ。物心ついた頃から飽きっぽい。そろそろ自分自身にも飽きてきたので、神様にでもなってみたい今日この頃。


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一見ふつうの旅館

磨洞温泉涼風荘は三重県津市の郊外にある。
「洞窟」というので山深いところかと思っていたが、周囲は田んぼに囲まれている。
こんなところに洞窟があるんだろうか、というのが最初の印象だ。
ごく普通の温泉宿だ
ごく普通の温泉宿だ
しかし、本館裏にある駐車場の脇には「洞窟座敷」と書かれた案内板がある。
洞窟+座敷というのは見慣れない組み合わせの文字だ。
そしてその下には「地底の楽園」。
ふつうは「地上の楽園」という表現が一般的で、地底にあるのは何となく地獄っぽい感じはするが、楽園が地底にあってはいけないという法律はない。
洞窟座敷
洞窟座敷とな

エントランスも普通

旅館のエントランスもごく普通の温泉旅館だ。
洞窟の存在を伺わせるものは、宿の名前意外にはない。
そして玄関の脇には「歓迎 工藤様」の文字が輝いている。
余談だが、子供の頃家族旅行で行った旅館にこの看板があり、とても欲しくてたまらなかった。
当時は黒塗りの木札に白いペンキで「工藤様」の文字が書かれており、いまみたいにワープロ打ち出しの使い捨てではないから、「これください」というわけにもいかず、こっそり持ち帰ろうとも思ったが、抜き取った札の隠し場所が思いつかずにあきらめたことがある。
歓迎されている
歓迎されている
お茶菓子も普通
お茶菓子も普通

お食事の用意が調いました

客室もいたって普通の旅館だ。
部屋の窓には田園風景が広がっている。
「いい旅夢気分」みたいな感じである。
洞窟のある旅館ということで、もっとハイブロウな宿を予想していたのだが、いたって真面目な旅館だった。
まずは食事の時間まで普通の旅館で普通にくつろいだ。
田んぼを見渡すいい景色の部屋
田んぼを見渡すいい景色の部屋

お食事の用意が調いました

食事の時間になったので、フロントへ。
ここから一旦外へ出て、洞窟へと向かうようだ。
仲居さんの案内について行く。
これからがこの旅館の真骨頂だ。
こちらでーす
こちらでーす
この日はあいにくの雨模様で、傘をさして田んぼの脇を歩く。
ケロケロとカエルがたくさん鳴いている。
いわれるがままについて行く
いわれるがままについて行く
仲居さんは細い通路をスタスタと歩いて行く。
その先に見えてきたのは
はっ!
はっ!
鬼…
鬼…

鬼の口から宴会場へ

田んぼ脇の細い道を進んだ先に、鬼がいた。
ぽっかりと口を開けている。
そして光る目。
あ、鼻輪も。

まさか洞窟の入口にこんな装飾があったとは。
驚くわれわれをよそに仲居さんは「傘はこちらにどうぞ」と平然としている。
まぎれもなく洞窟
まぎれもなく洞窟

本気の洞窟だ

鬼の口の中は、本格的な洞窟になっている。
一歩踏み込んだだけで、さーっと冷気がまとわりつく。
むかしどこかの観光地で入った洞窟と同じ感じだ。
そこは天然記念物か何かに指定されていて、厳かな雰囲気に包まれていたが、ここは宴会場。
この暗闇の先で賑やかな宴が催されているのか。
不思議な世界へと進んでいくようだなあと思いながら、足元に注意して歩く。
入口にはなぜかドクロ
入口にはなぜかドクロ
そしてマリア像
そしてマリア像
しばらく進むと仲居さんが振り返り、こちらのお座敷になりますと手を向けた。
洞窟の中にはいくつかの小部屋があり、そこにビニール製のゴザが敷かれている。
その中のひとつが、僕たちの宴席だ。
洞窟を進む
洞窟を進む
こちらになりますー
こちらになりますー

全体的に珍妙

宴席にはすでに今日の食材が並んでいる。
海産物と肉を焼いて食べるようで、テーブルの真ん中には網がセットされていた。
テーブルの上だけ見ると、鉄板焼きの宴会なのだが、ここは洞窟の中、地底である。
お刺身や三重の特産品である松阪牛などが並んだ華やかな膳と、しっとりと冷たい洞窟の空気との組み合わせは、スーツなのにスニーカー履いてきちゃったみたいな違和感がある。
また歓迎される工藤様
また歓迎される工藤様
そして三重といえば松阪牛
そして三重といえば松阪牛
テーブルの上はまぎれもなく素敵な夕食なのだが、ふと顔を上げると、岩をくりぬいた天井に白熱球がこうこうと光っている。
常に自分が「ちょっと変なところにいる」ということを意識せざるを得ない。
周囲に広がる不思議な景色は、子供の頃に見た夢の中のようだ。
むろん、それは決して不快ではなく、むしろいつもと違うことをしているという楽しさがある。
列車の中で駅弁を食べるとおいしかったり、機内食が楽しかったりするのと同じ種類の喜びなのではないだろうか。
一部トンネル化された宴会場
一部トンネル化された宴会場

ともかく食おう

ついさっきまでは普通の旅館だったのが、洞窟に入ったとたんに異次元みたいな、夢の中みたいな気分になり、ちょっと高ぶっている。
宴会開始します
宴会開始します
今日は「松阪肉と伊勢湾の幸プラン」というコースで宿泊しているのだが、海鮮部分はホタテやアサリ、サザエに車エビととても豪華だ。
こういうのは一般的に、屋外で食べるのがおいしいとされるが、ここは地底洞窟である。
なんとなくもったいない気もしなくはないが、ともかく食おう。
地底焼きホタテ
地底焼きホタテ

うまい

洞窟の中という、ある意味奇をてらったシチュエーションなので、味の方はそれほど期待していなかったのだが、料理はどれもうまい。
観光地のドライブインレベルのものが食べられればいいと思っていたのだけれど、ちゃんとおいしくて感動した。
地底ビール
地底ビール

洞窟ならでは

海鮮だけではなく、付け合わせの野菜までおいしくて、夢中で食べた。
一瞬洞窟の中だということを忘れそうになってしまうのだが、テーブルから視線をあげると手彫り風の岩盤が目に入る。
そこでぐぐっと引き戻される感覚が楽しい。
そういえば洞窟だ、と。

目の前で貝を焼いているのにとても涼しく、冷房でもいれているのだろうかと思ったが、冷房どころかなんとテーブルの脇に置いてあるストーブには火が入っていた。
雨とはいえ、外は6月である。昼間は外にいると汗をかく気温だ。
それなのに、ここは寒いほどだ。
さすが洞窟。
節電のこの夏はみんな地底にもぐって生活すればいいのではないだろうか。
もちろん携帯は圏外
もちろん携帯は圏外
そしてストーブがついている!
そしてストーブがついている!
洞窟の中はいいことばかりではない。
電球が灯っているものの、地底だけあって、やや暗い。
おしゃれな居酒屋くらいの明るさだろうか。
周囲の岩盤の色が茶色っぽいので、余計に暗く感じる。
もちろんそれが洞窟ならではの醍醐味なのだが、ビールの残りがわかりにくくてちょっと困った。
まだ入っていると思ったらもうない、というのを何度かくり返した。

…のだが、それは今日だけではなくいつものことだとあとで気づいた。
ビールの残りがわかりにくい
ビールの残りがわかりにくい

洞窟慣れ

ビールを少し(多めに)飲んだせいもあるのか、洞窟にいるということに少し慣れはじめてきた。
だんだん特別な感じがしなくなってきたのだ。
それは僕だけではなく、周辺の客達も同じようで、となりにいた女性三人組は、職場の男性の噂話などをしていて、ここが洞窟だということをまったく意識しなくなっているようだ。
KINGCOBRAといういかにも落書きらしい落書き
KINGCOBRAといういかにも落書きらしい落書き
この宿のキャラクターか。洞窟といえばモグラ、モグラといえばサングラスだ
この宿のキャラクターか
洞窟といえばモグラ、モグラといえばサングラスだ

肉食うぞ

僕はおいしいものは最後にとっておく派で、先に食べる派の人と一緒にご飯を食べるとぎくしゃくしてしまう場合があるのだが、今日はみんなとっておく派のようで、他の食材を食べ終わるまでだれも松阪牛に手をつけなかった。
松阪牛入ります
松阪牛入ります
レアでいきたいものです
レアでいきたいものです

宝石箱や

うまいものを食べた時は、瞬間的に味を言葉で表現できるはずはなく、うまいものはうまいのだ。
そして松阪牛はうまい。
洞窟で食べてもうまい。
おいしすぎて、フハウハムファウファと言葉にならない。
こりゃ高いのもうなずける。
ムスターファ
ムスターファ

洞窟は楽しい

生まれて初めて松阪牛を食べたけれど、いままで西友や丸正で買っていた牛肉とは別次元の食べ物であった。
また食べたい。
そして肉だけじゃなくて、他のものもおいしかった。
洞窟で宴会という不思議な経験もスパイスになって、さらにおいしく感じるのかもしれない。
どこぞのテーマパークなんかでも、ちょっと変わった場所で食事はできるが、そういうところで食べらる料理はそれなりだ。
それなりのものでもきっと商売が成り立つだろうに、ちゃんとおいしいものを出してくれてうれしい。
翌朝のご飯もおいしかった
翌朝のご飯もおいしかった

磨洞温泉涼風荘 三重県津市半田2860-1
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