特集 2011年8月15日

「本人」グッズで自分を主張

これさえあれば誰でも「本人」
これさえあれば誰でも「本人」
選挙の時期になると、いつ頃からだったか「本人」と書かれたタスキやノボリを見るようになった。 確かにその人が候補者本人だということはわかる。ただ、なんとなく妙な感じもするのは、誰がつけても「本人」ゆえに、「そりゃ当たり前だ」とも思えるからだろうか。

わかったようなわからないような気持ちにさせる「本人」グッズ。自分でも使ってあの感じを味わってみたい。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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実はとんちが効いてる「本人」グッズ

選挙における「本人」グッズ。調べてみたところ、これには理由があるようだ。

選挙活動については様々な決まりがあるのはよく知られていることだろう。その一つとして「選挙期間以外は候補者の名前の入った道具は使えない」というものがあるらしい。
経済的な都合で自作
経済的な都合で自作
そこで誰かが頭をひねったのだろう。公示前でも書いてあることが「本人」ならば、法律を守りつつ、その人が候補者本人というメッセージを伝えることができる、というわけだ。ルールの盲点を突く、とんちの効いた作戦だ。

選挙用品を扱う店では「本人タスキ」を販売しているが、数千円から一万円程度となかなか高価。今回はホームセンターでビニール製のテーブルクロスとカッティングシートを買ってきて自作することにした。
200円以下で作れた
200円以下で作れた
カッティングシートを大きくプリントアウトした「本人」の形に切って貼り付け、本人タスキが完成。格安でそれっぽいものができた。

誰が着けても、言ってることは正しいこのタスキ。それでは早速試着してみよう。
本人です
本人です
本人だってば
本人だってば
本人である。その言葉の内容ゆえ、どんな者が着用しても真実を示すタスキなのだ。

にも関わらず、この混迷はなんだろう。選挙用品であるのに、選挙の雰囲気はまるで見当たらない。

書いてあることは間違っていないはずなのに、余計なものが頭についていることでトータルとして発信している情報がおかしくなってくる。
ポーズが悪いのかな
ポーズが悪いのかな
こうかな?
こうかな?
この写真に写っている人物が選挙活動をしているわけではないことは伝わってくる。こんな奴が立候補したって、誰も票を入れるはずがないからだ。
これが自己ベスト
これが自己ベスト
やはり余計な飾り物をつけてしまったのがよくなかったのだろう。このままでは単なる変態ごっこで終わってしまう。もっと別の自分で「本人」をアピールしたい。
自信のなさそうなジャミラ(こちらの記事より)
自信のなさそうなジャミラ(こちらの記事より)
逆に、始めから「絶対本人っていうのはあり得ないだろう」と誰にでもわかる格好をする方向性もある。そう思って引っ張り出してきたのが、以前の記事で作ったジャミラスーツだ。

ただやはり、当人にも「ジャミラがいるわけないだろう」という気持ちが心の奥にあるようだ。表情も暗い。そこでタスキを投入してみたい。
俺だよ、おれ!
俺だよ、おれ!
ジャミラだって!
ジャミラだって!
ジャミラ、意外といるんだってば。そういう無理な主張がタスキを通して伝わってくる。表情もぐっと明るくなったではないか。

夏は暑いから、こういう人もときどきいるよね。見る人にそれくらいの感想をもってもらうまでには至っていないだろうか。
これで念を押したい
これで念を押したい
果たして「本人」とは何なのか。書いてあることとは逆にそんな疑問が深まったところで、状況を打破するためのアイテムを追加したい。それが「本人ノボリ」だ。

こちらは2000円ほどだったので、既製品を購入。本人タスキと合わせて使うことで違和感を払拭したい。
これで信じてもらえるよね
これで信じてもらえるよね
僕が本人だってこと
僕が本人だってこと
2つのアイテムでデュアルに本人を主張。これで説得力も出てくるはずだ。

しかしそうなっていないのは、どう見ても本人性が怪しいから。「本人だって、本人なんだってば!」と、言葉を重ねて語気を強めるほど、疑念は高まる。

ノボリまで立てて「本人」。いよいよ胡散臭い。

そもそも現代人がノボリをしょっているというのがしっくりこない。本来の使い方である選挙活動は「選挙戦」とも例えられるハードなもの。そう、ノボリは戦にこそマッチするのだ。
ワシが本人じゃー!
ワシが本人じゃー!
以前の記事で使ったマイ鎧を装着。これはわかりやすい。戦国武将も、風林火山や葵の御紋はもう古い。これからは本人だ。言いたいことがよく伝わる。
こんなやつに戦の指揮が務まるはずがない
こんなやつに戦の指揮が務まるはずがない
しかし戦場では、そのわかりやすさが命取りとなる。敵兵に「こいつか!」とすぐ悟られて首を取られてしまうだろう。

それはまずい。ならば、影武者がこの本人セットをつければいいんじゃないか。
本人だと思う?思う?
本人だと思う?思う?
影武者なんだなー、これが
影武者なんだなー、これが
これは使える作戦ではないだろうか。敵の虚を突いた本人グッズ。今回ここまでいろいろ試してみて、初めて知性の光明が見えてきた。

まあ武将本人でも影武者でも、すぐに斬って捨てられる気がするのはなぜだろう。いずれにしてもイメージさせる末路は同じなのがほろ苦い。
誰だっけ、この人
誰だっけ、この人
本人タスキは、「本人」という言葉の性質上、誰が着けてもしっくりくるという特徴がある。だからこそ、おかしな奴が着けることで見ている人を妙な空気で包むことができる。
俺が誰かって?
俺が誰かって?
キャベツ太郎だよ!(こちらの記事より)
キャベツ太郎だよ!(こちらの記事より)
それは、「本人」という意味の呪縛を解き放ち、「本当に本人なのか?」という一つ上の次元への疑念を新たに生み出す行為と言ってもいい。

話を抽象的な方向にもっていったことで大層なことを言っているようにも聞こえるが、やってることは写真の通りだ。
謎の自信に満ちた表情
謎の自信に満ちた表情
言ってることが難しくなってきた。自宅にこもってこんなことばかりしていると、だんだんおかしくなってくるのも無理はない。せっかく「本人」というメッセージを全身から放っているんだから、それを世に伝えるべく外に繰り出そう。
キャベツ太郎のふるさと
キャベツ太郎のふるさと
それはやおきん
それはやおきん
やってきたのはキャベツ太郎の販売元、「やおきん」の営業本部。建物には同社のヒット商品、うまい棒のキャラクターが描かれている。自分がキャベツ太郎となることで、足りない部分を補えればいいと思う。
本人ですよー
本人ですよー
キャベツ太郎に変身し、本人グッズを装着する。これで誰がどう見ても本人だ。

こうして写真を見ていると、やってることの合理的目的性が見えてこないかもしれない。ここでは、行き交う人が「あっ、キャベツ太郎だ!」と声をかけてくれればこのゲームは僕の勝ちとするルールを設定したい。
そもそも人がこないね
そもそも人がこないね

タスキの装着に苦労するジャミラ
タスキの装着に苦労するジャミラ
選挙用品である本人グッズをずらして使った今回の試み。選挙のイメージを超えて見えてきたのは、おもしろ人間としての自分の姿だ。

上の写真はジャミラ状態でタスキを着けようとしているところ。ジャミラはなで肩なので、タスキがずり落ちやすいのだ。どんなことでも、やってみなければわからないことがあるという真理がそこにある。
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