特集 2011年8月30日

インドネシアに鉛筆を探しに

左が鉛筆。右は鉛筆立て
左が鉛筆。右は鉛筆立て
去年、インドネシア雑貨の店で変わった鉛筆を買った。よく言えば味わい深い、ストレートにいうとへただ。
これを作り、しかも売っちゃう国とはいったいどんな国なんだろう。もしかして国中が全員不器用なのかもしれない。不器用の国だったら僕程度の工作スキルでも「神の手」とか言われてしまうのではないか。

ずっと気になっていたが、夏休みを利用してインドネシアに行ってみたのだ。神の手になるために。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

前の記事:白黒フラッシュで訳あり写真

> 個人サイト webやぎの目

そういえば人生初南半球

インドネシアの首都、ジャカルタは南半球だ。赤道を越える。インドネシアはマレー半島の下(南ね)にある細かい島がだいたいインドネシアである。左右に広く(東西だよ)、アメリカ合衆国と同じぐらいの幅がある。

インドネシア=アメリカと同じ幅は代々木公園で開かれたインドネシアフェスティバルでインドネシア専門の旅行代理店の人に聞いてたいへん驚いたのであたかも自分で発見したかのように書いてみた。
南半球とは言っても成田に行って
南半球とは言っても成田に行って
飛行機乗って
飛行機乗って
機内食を食べていると
機内食を食べていると
もうジャカルタである
もうジャカルタである
飛行機は赤道を越える瞬間にファンファーレをならしたりもせず黙々と飛んでいた。ファンファーレ情報はどこにも載ってなくて僕が勝手に期待していただけだ。

ただ、ピンポンピンポンとシートベルト着用でもないのにチャイムが鳴ったがあれがもしかしたら赤道越えのサインだったのかもしれない。

ジャカルタのみやげもの屋

さっそくお土産物屋である。あの変わった鉛筆みたいなものがたくさんあるかもしれない。期待が高まる。
きれいなビーズ細工
きれいなビーズ細工
すばらしい手工芸。しかし10%引きなら買ってくかと思うものでもない
すばらしい手工芸。しかし10%引きなら買ってくかと思うものでもない
このモチーフはなんだろうと思うが上手い
このモチーフはなんだろうと思うが上手い
期待したものに似ているが色もたくさん使ってておもしろい
期待したものに似ているが色もたくさん使ってておもしろい
どれも上手だ。インドネシアの人は器用じゃないか。そう思うとなぜあの雑貨屋はよりによってあれを売っていたのかが謎である。もしかしてあの家の子どもの手作りだったのかもしれない。いっそうレアだ。
結局ジャカルタのみやげ屋ではこれらの鉛筆を購入。いちばん左が味わい深い。鉛筆に細工をする文化はあるらしい
結局ジャカルタのみやげ屋ではこれらの鉛筆を購入。いちばん左が味わい深い。鉛筆に細工をする文化はあるらしい
しかしインドネシアの器量の広さの片鱗を見せるみやげものもあった。上手だけど凝りかたのベクトルが予想外なのだ。
すばらしい木彫りの彫刻
すばらしい木彫りの彫刻
だけど目がうずまき
だけど目がうずまき
ガムランのミニチュア。地元のものだし、精巧なミニチュアでおみやげとしても納得の一品。
ガムランのミニチュア。地元のものだし、精巧なミニチュアでおみやげとしても納得の一品。
弦楽器のミニチュア。楽器なら何でも良くなった感はするが、良くできている
弦楽器のミニチュア。楽器なら何でも良くなった感はするが、良くできている
そしてキーボードのミニチュア
そしてキーボードのミニチュア
このおみやげ渡されてどこ行ってきたでしょうといわれても、インドネシアはまず出てこないだろう。キーボードの前面にはYAMAHAと書いてある。どちらかといえば静岡県みやげである。もちろん買った。

レジで梱包してくれたが、これを入れる箱が見あたらず、店員は別の楽器のミニチュア(ドラえもんのギター)が入っている箱を使ってくれた。

入れる箱がなくなったギターをどうするのだろうと思って見ていたら、店員はギターを弾く真似して遊びはじめた。

このあたりで今回の夏休みの旅行先の選択が正解だったことに気づいた。ここはおもしろい。
そして木製のテトリス
そして木製のテトリス
よくある組木パズルなのだが、テトリスと名付けたところが天才である。別にそろったところで消えたりしない。説明書の無言っぷりも崇高さを感じさせる。
無言
無言

いったん広告です

爆笑の国

タイはほほえみの国と言われているが(でも言うほど笑ってない)、インドネシアは爆笑の国である。街のあちこちで声を出して笑っている人がいる。

ビルの警備員、ファーストフードの店員らが互いに体を突っつきあったりしてゲラゲラ笑っている。じゃれあっているのである。学校を思い出す雰囲気だ。
食堂で働いていたふたり。背後の人も全員笑ってる
食堂で働いていたふたり。背後の人も全員笑ってる
みっちりかつ楽しそうな車
みっちりかつ楽しそうな車
ATMの修理に4人集まっていたり(うち直しているのはひとりで残りは見てる人)、デパートでも店員がやたらと多くて日本人からしてみたら無駄が多いんじゃないかと思うのだが、日本よりぜんぜん経済成長率が高いのである(街を走っている車はだいたい新車だった)。
大人も加わって楽しそうに去ってゆくみっちり車
大人も加わって楽しそうに去ってゆくみっちり車

鼻歌がでかい

そして町の人の鼻歌がでかい。鼻歌じゃなくて声を出して歌うのだ。横を歩いている人がでかい声でうたっているので金くれと言われるのかと思ったら去っていった。ただの豪快さんだ。金を要求されるのではと思った自分が恥ずかしい。

屋根までみっちり乗ったマイクロバスが合唱しているのも見た。みっちり乗ったバスは新興国でよく見かけるが、大合唱しているのははじめてである。


ショッピングセンターは日本のどこよりもでかくて豪華
ショッピングセンターは日本のどこよりもでかくて豪華
豪華なショッピングセンターに入っている日系の電気店では閉店時間すぎに店員がステレオで自分の好きな曲をかけて踊ってた。楽しそうである(自分が店のオーナーでなければ)。

そういえばバスに乗ってきた流しも歌が上手かった。バスに流し乗ってくるなよ、という点はおいておいて。




ゴリラを売る

道路の真ん中に物売りがいた。信号待ちの車にものを売るのだ。インドネシア国旗だったり(ちょうどインドネシア建国記念日が近かった)雑誌だったりするのだが、僕の心をわしづかみにしたのは彼だ。
ゴリラ売りのゴリラ
ゴリラ売りのゴリラ
ゴリラのマスクをかぶってゴリラのマスクを売っているのだ。気温は34度、東京よりは低いが日差しは強い。そして8月はラマダン(断食月)、彼もごはんを食べてないはずだ。

しかもゴリラ、そうそう売れるとは思えない商材である。そしてゴリラの面をかぶるというのはアピールになっているのだろうか。驚かすだけになってないか。笑いを狙ったのかゴリラがおしゃぶりをくわえているのも効果があるのか大いに疑問である。
ゴリラの下には端正な顔立ち。ゴリラかぶらないほうが売れるんじゃないか
ゴリラの下には端正な顔立ち。ゴリラかぶらないほうが売れるんじゃないか
ジャカルタで新聞記者をしているほりたみきほさん(サイト)といちど食事をさせてもらったのだが、そのときにゴリラについても聞いた。
オバマ大統領がインドネシアに来たときにオバマのマスクを売っていたそうだ。なるほど、それはわかる。
そのあとなぜかゴリラになったとのこと。その全く理屈が通ってないところにシンパシーを感じる(インドネシアにゴリラはいません)。
歩道からゴリラ買うよーと合図したらすべての車を止めて来たゴリラ(まわりからすごいクラクション)
歩道からゴリラ買うよーと合図したらすべての車を止めて来たゴリラ(まわりからすごいクラクション)
値引きしてよと言ったらいきなり半額にするゴリラ(カメラ目線)
値引きしてよと言ったらいきなり半額にするゴリラ(カメラ目線)
ゴリラは黒・茶色・白・ツートーンの4色。車のすきまでゴリラを売っている時点でどうかしているので、ゴリラのカラーバリエーションの多さなんて気にならない。きっとそういうものなんだろう。

4色買ったらゴリラ売りは自分が使っている袋をくれた。黒くてゴミ袋に似てたけど好意が嬉しかった。インドネシア人にあふれるホスピタリティである。盛り上がったので記念写真を撮った。

でもぜんぜんよそ見してた
でもぜんぜんよそ見してた

いったん広告です

ごはんが大好き

インドネシアの主食はお米。あらゆるところにごはんがある。ケンタッキーのセットもごはんがついている。
食堂でおかずだけ頼むと店員が「え、ごはんは?」と聞いてくる。まるでお母さんのようである。
写真を撮り忘れたのでインドネシアのKFCのサイトから
写真を撮り忘れたのでインドネシアのKFCのサイトから
インドネシア人は日本人以上にお米を食べる。お米が足りなくなるから週に1回はコメ以外の食事にしましょうという州令があるほどである(知ったようなこと書いているがすべて前述のほりたさんに聞いた)。

ごはんの他は焼きそばや汁なし麺が多い。サテーというほぼ焼き鳥みたいなものも有名である。食べ物はだいたい戸越銀座で売ってるお総菜のようで安心だ。またインドネシアに行きたくなったら戸越銀座で我慢しようと思う。

1円が100ルピアなので、100円が1万ルピアである。「はいおつり30万」という点も商店街のノリに近い(ノリじゃなくて通貨なんだけど)。
うまい!と思ったら皿に味の素の文字
うまい!と思ったら皿に味の素の文字
サテー。焼いてる人はインドネシアでも「焼き鳥屋のおっさん」みたいな人だった
サテー。焼いてる人はインドネシアでも「焼き鳥屋のおっさん」みたいな人だった
しぶいおじさんが道ばたで焼いてたお菓子。クレープのうえに蒸しパンがのってる。
しぶいおじさんが道ばたで焼いてたお菓子。クレープのうえに蒸しパンがのってる。
ジュースはどこでもジャムのように濃い。パンにつけたくなった。
ジュースはどこでもジャムのように濃い。パンにつけたくなった。
ジュースの濃さはどこもすばらしく、カルピスのように薄めて飲める濃さだった。

ラマダンだった

訪れた今年の8月はイスラム教のラマダン(断食月)だった(インドネシアは国民のほとんどがイスラム教)。夜明けから午後6時まで食べてはいけないし水も飲んでもいけない。というのは知識として知っていたが、行ってみたらちょっとイメージが違っていた。
1日の断食明けのお茶の案内。ハッピーラマダン
1日の断食明けのお茶の案内。ハッピーラマダン
ケンタッキーのラマダン用商品
ケンタッキーのラマダン用商品
右にバザーラマダンの文字
右にバザーラマダンの文字
洋服もラマダンで30%引き
洋服もラマダンで30%引き
ラマダンでバーゲンをやっていたり、ケンタッキーにラマダン商品があったのだ(1日の断食を終えたあとの食事にどうぞということだろう)。ホテルにはラマダン宿泊プランの案内もあった。
6時すぎに道路にテーブル出して近所の人が集まってお茶を飲んでいるのも楽しそうだった。縁側状態である。
「神聖な月」という響きから想像するものよりももっと生活に組み込まれている。日本のお正月かお盆のような雰囲気だった。

などと偉そうに分析しているが、ケンタッキーの看板見て「そういえば日本でもお正月バーレル出してるな、そうか正月みたいなものか」と思った、というのもある意味(ほぼ)正解である。
きっとKFCは中国では旧正月バーレル、ノルウェーでは白夜バーレルを出してるに違いない。

ラマダンあけのお祭りがレバラン。このときに送る飾りがスーパーで売られていたがこれが日本のお盆の飾りにそっくりで驚いた。
高級スーパーのレバラン用の贈り物
高級スーパーのレバラン用の贈り物
こっちは庶民スーパーのもの
こっちは庶民スーパーのもの
きっとこれを送られた家の子どもは食べられるのをじっと待っているのだろう。日本でお供えのなかの桃缶をながめている子どもと同じである。

いったん広告です

どこの国でもエアコンがついてると人は寝る

ガイドブックにはジャカルタはあまり治安がよくないと書いてある。バスにはスリがいたり、刃物を持って脅されることもあるとまで書いてあるのだ。バスに乗るときも緊張していたのだが、
みんなぐーぐー寝てた
みんなぐーぐー寝てた
………。いや、これは高度なテクニックで寝てるふりをしながら財布をするのかも…と観察してたら隣に立ってるはずの妻がいなかった。
探すとちょっと離れたところに座っている。地元の人が席を譲ってくれたという。いい人たちじゃないか。疑ってごめん。しかも妻は5日で3回ぐらい席を譲られていた。超やさしい。

これは安全なほうのバスでもっとぼろいバス(ドアがない)は違うのかもしれない。そっちにも乗ったけど危険なことにはあわなかった。車掌が蟹江敬三にそっくりだったぐらいである。

(たまたま危ない目にあわなかっただけで、これ読んで安全なんだと思って行ってスリにあっても責任もてません)

夜型こそスタンダード

暑い国なので昼間はだらだらしていて(ラマダンだったというせいもあるけど)、夜になると元気になる。ナイトマーケットもにぎわっていた。
僕のような夜型がアジアではスタンダードであることを実感した。
ナイトマーケット。ときどき停電になるがそのときに誰も怒ったりせずに大爆笑がおきてた
ナイトマーケット。ときどき停電になるがそのときに誰も怒ったりせずに大爆笑がおきてた
iPhoneケースとACアダプタの店
iPhoneケースとACアダプタの店
歯磨き屋。歯を磨くことの重要性を実演販売のように説明していた(たぶん)
歯磨き屋。歯を磨くことの重要性を実演販売のように説明していた(たぶん)
薄暗いナイトマーケットにタトゥーの店があった。明かりは携帯のライトだった。携帯は世界を変えたけど、こういう使い方もあるのかと思った。

さいごに紹介しきれなかったコネタ的な写真。
赤ちゃんのポスターがよだれだらけ
赤ちゃんのポスターがよだれだらけ
ノートパソコンの冷却台ばかり売ってる(暑いから)
ノートパソコンの冷却台ばかり売ってる(暑いから)
女性マネキンがけつアゴ
女性マネキンがけつアゴ
食材のイラストが妙にリアル
食材のイラストが妙にリアル
けつアゴの女性マネキンは2体ぐらいしか見かけず、写真撮ったときも地元のひとが「それ撮るの?」みたいな顔してたので地元でも失敗作なのかもしれない。

インドネシアの人は不器用ではない

1ページ目の本題からずいぶん離れてしまった。そういえばあの鉛筆みたいなものを探しに来たのだった。結論としてはあれはなかった。そしてインドネシアの人が皆が不器用なわけではない。民芸品を見る限りむしろ器用である。

でもたまに変なものがあっても、こういうのもいいよね、売っちゃおうかという雰囲気はあると思う。そして僕が次々と買って周囲に配っているのである。
リモコン屋。うちのエアコン用にひとつ購入。もうリモコンなくし放題だ
リモコン屋。うちのエアコン用にひとつ購入。もうリモコンなくし放題だ

▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ