特集 2011年9月17日

ゴキブリホイホイを山や池に仕掛ける

なんとカメまで捕れました。
なんとカメまで捕れました。
ゴキブリホイホイに掛かる虫はもちろんゴキブリであるが、それは仕掛ける場所がゴキブリしかいない屋内であるからではないだろうか。いろいろな虫が生息している山の中に仕掛ければ、もっとバラエティに富んだ虫を捕まえることができるかもしれない。実験してみた。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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想像以上のホールド力

屋内を我が物顔で跋扈する憎きゴキブリどもを一網打尽にしてしまうトラップ。それが言わずと知れたゴキブリホイホイである。
久々に購入。こんなパッケージだったか。
久々に購入。こんなパッケージだったか。
中身は粘着シートと誘引剤(エサ)
中身は粘着シートと誘引剤(エサ)
粘着シートを組み立てて誘引剤をセットすれば完成である。あらためてかわいいデザインだと思う。
粘着シートを組み立てて誘引剤をセットすれば完成である。あらためてかわいいデザインだと思う。
誘引剤の匂いがすごい。肉!って感じ。見た目は熱帯魚のエサっぽい。
誘引剤の匂いがすごい。肉!って感じ。見た目は熱帯魚のエサっぽい。
成分はえび、ビーフ、キャベツにオニオンとある。バーベキューでもするつもりだろうか。また、どれも私の好物でもあるのだが。私はゴキブリと食の趣味が合うようだ。

とりあえず粘着シートの粘着力を確認しておく。
どんなものか
どんなものか
!!まずい!剥がれない!捕まった!
!!まずい!剥がれない!捕まった!
人間の力をもってしても剥がすのに一苦労。そりゃそうだ。あれだけ大きくてパワフルな虫をとらえて離さないのだから、この粘着力にも納得である。しかし困った。こんなにがっちりとホールドされるのでは、もしも虫が掛かってしまった場合、無事に引きはがして再び野に放ってやることはできないに違いない。
ベッタベタ
ベッタベタ
これは一計を案じなければならない。
プラスチックのコップを使用することに
プラスチックのコップを使用することに
考えた末、コップを用意した。これをどう用いるかは後ほど解説したい。

いざ山へ

実験のフィールドには筑波山を選んだ。筑波山と言えば古くはあの古事記や日本書紀にも登場する、富士山と並ぶ名山である。しかし、いかに由緒正しく長い歴史を持っていても、ゴキブリホイホイを持参して登ったのはさすがに私が初めてなのではないだろうか。
虫のいそうな場所を探して山に分け入る。
虫のいそうな場所を探して山に分け入る。
適当な林床に腰をおろし、穴を掘る。
適当な林床に腰をおろし、穴を掘る。
コップを埋めて…
コップを埋めて…
誘引剤を入れれば、ゴキブリホイホイ屋外仕様の完成。
誘引剤を入れれば、ゴキブリホイホイ屋外仕様の完成。
これでもしも生き物が引っ掛かっても、傷つけずに済むだろう。実はこうしたコップを地面に埋めるタイプの罠はピットフォールトラップと呼ばれ、昆虫愛好家の間ではごくごくメジャーなものである。ただし、一般的には中に仕込むエサには腐肉や酒類など、多くの昆虫が好む匂いの強いものが多く用いられるそうだ。

今回は同じ仕掛けを10個用意した。これだけあればどれか1つくらい虫を捕らえてくれるかもしれない。

意外!満員御礼!!

仕掛けたのち、一晩おいてトラップを回収に向かう。果たして何かホイホイされているのだろうか。
どれどれ
どれどれ
おっ、虫がいる!!
おっ、虫がいる!!
最初にチェックしたコップにいきなり虫の姿を確認。これは幸先が良い。興奮しながら急いですべてのコップを回収する。
戦いを終えた戦士たち
戦いを終えた戦士たち
先に結果から書いてしまうと、なんとすべてのコップになんらかの虫がホイホイされていた。たった一晩でこの成果は驚くべきことではなかろうか。すごいぞゴキブリホイホイ。
それではどんな虫たちがホイホイされたのか具体的に見ていこう。

基本的に地味。でもきれいな虫も。

まず断わっておくが、こうしたタイプのトラップで採れる虫はたいてい地味である。なぜならトラップの性質上、地面をごそごそと這いまわっているような連中しか引っ掛からないからである。空を飛びまわるトンボやチョウ、セミといった花形たちはまず期待できない。
地味オブ地味ズ。ダンゴムシ。
地味オブ地味ズ。ダンゴムシ。
まずはおなじみのダンゴムシである。10個中5つのトラップに入っていた。雑食性なのでゴキブリ用の誘引剤に引き寄せられたのも不思議ではない。計12匹を採集。
まずはおなじみのダンゴムシである。10個中5つのトラップに入っていた。雑食性なのでゴキブリ用の誘引剤に引き寄せられたのも不思議ではない。計12匹を採集。
またも地味の代表選手。ゴミムシ類。
顔は結構かわいい。
顔は結構かわいい。
ゴミムシ。もう名前からして日蔭者感がすごい。響きだけならゴキブリよりもダメなやつっぽい。しかし実のところ、彼らは獰猛なハンターである。おそらく誘引剤に含まれる動物質の匂いに反応したのだろう。5種19匹を採集。
あまり会いたくなかったがやはり出会ってしまったヒラタシデムシ。
あまり会いたくなかったがやはり出会ってしまったヒラタシデムシ。
シデムシとは死出虫と書き、文字通り動物の死体に湧いて出る腐肉食性の昆虫である。ビーフの匂いに集まったに違いない。どうも不気味で、昔からちょっと苦手な虫だ。写真の掲載は控えるが、この虫が大量に掛かってあふれ返りそうになっているコップもあった。採集数は最多、驚異の45匹。
お口直しにきれいな虫を。センチコガネ。センチとは雪隠が訛ったものらしい。
お口直しにきれいな虫を。センチコガネ。センチとは雪隠が訛ったものらしい。
紫色の金属光沢がなんとも美しい。そのままブローチにできそうなほどだ。しかしこの虫、実はいわゆるフンコロガシの仲間なのである。食べているものがアレなのになぜこんなにきれいなのだろうか。また、なぜゴキブリホイホイに惹かれたのだろうか。1匹のみ採集。

…余談だが、この虫に関して一つエピソードを持っている。当時私がまだ幼稚園児だった頃、私が虫好きだと知っていた近所のおばさんが、「寛くんのためにきれいな虫とっといたよー!」と言ってこの虫を差し出してくれたのだ。しかし子供は残酷である。私は「その虫、バッチいからいらない!」と、にべもなく受け取りを拒否してしまった。あの時のおばさんの悲しそうな笑顔が忘れられない。
またしてもキレイ系。アオオサムシ。
またしてもキレイ系。アオオサムシ。
漫画家の手塚治虫氏も愛好し、自らのペンネームにしてしまったことで知られるオサムシの仲間。ゴミムシを巨大化させたような容姿で、やはり肉食性。2種3匹を採集。
おなじみコオロギも。
おなじみコオロギも。
ゴキブリとコオロギは似ていると思う。野外を歩いている時に足元を大きなエンマコオロギが横切ると、ヤツかと思ってギョッとしてしまう。案の定、彼らもホイホイされてきた。私の直感は正しかったのだ。内面も外面もおよそゴキブリだったのだ。コオロギ類は3種5匹を採集。

いやはや、ずいぶんと多種多様な虫たちが採れてしまった。このほかにも写真掲載を控えたほどグロテスクな虫や、アリなどの小さな虫を含めると、おそらく100匹近くの虫がたった一晩でホイホイされていた。
ゴキブリホイホイといえば粘着シートばかりが注目されがちだが、あの地味な誘引剤にはそれほどのポテンシャルが秘められていたのだ。

水中でも威力を発揮。とんでもないものが掛かる。

十分な成果を上げられたので、今回の取材はこれで終えようかと思ったのだが、あるいたずらめいた考えが頭をよぎった。「山の中であれだけ採れるなら水中でも効果があるのでは…?」
思い立ったが即行動。魚捕り用のトラップに誘引剤を詰める。
思い立ったが即行動。魚捕り用のトラップに誘引剤を詰める。
水中へ投入
水中へ投入
許可を取って溜め池にゴキブリホイホイ水中仕様を仕掛けさせてもらった。
数時間後に引き上げると…。
えええ!?カメ!
えええ!?カメ!
カメ入っとるですたい。なにこれ。
ホイホイされていたのはクサガメという種類のカメ。
ホイホイされていたのはクサガメという種類のカメ。
「小魚かザリガニでも入れば面白いな。」くらいの気持ちで臨んだ実験だったのだが、まさか爬虫類が掛かるとは。恐るべし、ゴキブリホイホイ!

いろいろ捕れました

くだらない好奇心で挑戦した実験だったのだが、どうしてどうしてバラエティに富んだ獲物を手にすることができて実に楽しかった(もちろんカメも虫も撮影後に逃がしてあげたが)。

ゴキブリホイホイは害虫駆除だけでなく、昆虫採集にも使えるのだ。子供たちよ、来年の夏休みの自由研究はこれでいってみてはどうだろうか。
大量の粘着シートが手元に残った。どうするよこれ…。
大量の粘着シートが手元に残った。どうするよこれ…。
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