チャレンジの日曜日 2011年10月2日
 

誰でもうまい煮物を作れるようになる技術

大学のキャンパスに入るなんて久しぶりだー。
大学のキャンパスに入るなんて久しぶりだー。
煮物は料理の中で一番作るのが難しいと言われています。煮崩れたり、味が染みてなかったり、焦がしてしまったり。プロの料理人といえども、長い経験と勘が必要とされています。

しかし、その難しい煮物を誰でもプロと同じ味で作り出す事が可能になります。工学の力で!
1972年生まれ。体力系、料理系の記事を多く書いています。ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しています。利き酒師で、元機械設計屋で元プロボクサー。ウルトラマラソン走ります。米の飯と日本酒が有れば大体なんとかなります。
> 個人サイト 酒と醸し料理 BY 個人ページ「走れば大体大丈夫!」

「うまい煮物を、工学する」

ということで、やってきました、芝浦工業大学。こちらで煮物調理支援システムというものが開発されまして、その開発発表会が開催されました。題しまして「うまい煮物を、工学する」。

煮物を作ると言う人間的な行為に工学の力を加えることで、時間や場所を越えて、誰でもうまい煮物が作る事が出来るようになる。そんな夢のような技術の発表会です。
機械制御システム学科の建物。この建物も工学の力で動くんだぜ! ウソだけど。
機械制御システム学科の建物。この建物も工学の力で動くんだぜ! ウソだけど。
発表会場は大学内の実験室内になります。およそ調理をするような場所には見えない。
実験テーブルの周囲に色々な工具やボール盤、小型旋盤などが置いてある。懐かしい光景だね。なぜ懐かしいかと言うと、私は大学が工学部だったから。
実験テーブルの周囲に色々な工具やボール盤、小型旋盤などが置いてある。懐かしい光景だね。なぜ懐かしいかと言うと、私は大学が工学部だったから。
そして、こちらが煮物調理支援システムを開発された古川教授。
開発する技術も凄いが、酒に関する知識なども凄い人です。
開発する技術も凄いが、酒に関する知識なども凄い人です。
古川教授は、以前は本田技術研究所で研究を行っていた方で、世界初の乗用車搭載4WS(4輪操舵システム)を商品化した方。この人がいなかったらプレリュードはあんなに小回りがきかなかった・・・

えっ、プレリュードは知らない?ハンドルを回すと前のタイヤだけでなく、4つのタイヤ全部が動く凄い車が昔あったのです。今も同じ動きをする車はあります。

そしてその他にも、自律型自動運転車や人間型ロボット、先進安全運転支援システムなど。先端技術の研究開発プロジェクトの責任者を歴任していた方。この人がいなかったら、ASIMOはまだ2足歩行していない・・・か、どうかは分かりませんが、そんな方が今回の煮物調理支援システムを開発しています。

さて、どんなシステムなのでしょうか。

各種センサー、制御装置搭載

これがシステムの正体だ!テーブルの上にモニター、制御装置、パソコン、ガスレンジ!
これがシステムの正体だ!テーブルの上にモニター、制御装置、パソコン、ガスレンジ!
そして、こちらが今回の主役となる煮物調理支援システムです!

あっ、そこのあなた!今、「これだけ?」と言いましたね。そこの君は「ショボイな」とつぶやきましたね。ちょっと、待った!このシステムはこれだけではありません!こんな物も搭載されています。
鍋内温度測定用熱電対!
鍋内温度測定用熱電対!
ガス流量制御弁!
ガス流量制御弁!
システムの構成はこんな感じです。スターウォーズに出てくるようなロボットが調理台の前に備え付けられている物を期待していた方。先を行き過ぎています。実験室レベルのシステムの見た目なんてこんなものです。

 いや、しかし!このシステム。見た目はこんなですが、凄い可能性が秘められているのです。それは後で書くとして、実際に動かしている所を順に見てみましょう。

手順に従い作るだけ。

何種類かあるメニューから今回はサバの味噌煮を選択。パソコンにはプロの料理人が作った調理データが入っている。
何種類かあるメニューから今回はサバの味噌煮を選択。パソコンにはプロの料理人が作った調理データが入っている。
システムを起動するとモニターにメニューと人数を選択する画面が出てきます。今回はテストなのでサバの味噌煮を選択。すると、材料の分量と下準備の方法が表示されます。
材料の下準備、調味料の計量は済んでいるので、あとは指示に従い入れていくだけ。
材料の下準備、調味料の計量は済んでいるので、あとは指示に従い入れていくだけ。
今回はデモなので、既に材料の下準備や調味料の計量は済んでいます。調理開始を選択すると、火を強火にして点ける指示や、最初に入れる調味料の指示がモニターと音声で伝えられます。
次の作業までのカウントダウンが始まる。
次の作業までのカウントダウンが始まる。
指示通りの作業を行いしばらくすると、次の作業の指示がモニターと音声で出されカウントダウンが始まります。
さらに次の指示が出る。
さらに次の指示が出る。
カウントダウンが終わると、「実行してください」と音声が出ます。そして、またしばらく待つと次の指示がでる。
デモを行っていた学生は、この研究をするまで料理経験ゼロだったそうです。
デモを行っていた学生は、この研究をするまで料理経験ゼロだったそうです。
指示に従い作業を進めていくと、やがて調理終了の音声が出て自動的に火が消えます。あとは盛り付ければ完成。
料理経験のほとんど無い工学部生が作ったとは思えない美味しさ。盛りつけがイマイチなのは大目に見てあげよう。
料理経験のほとんど無い工学部生が作ったとは思えない美味しさ。盛りつけがイマイチなのは大目に見てあげよう。
出来上がったサバの味噌煮は、ふっくらと柔らかく、味も十分に染みていました。少し濃い目。料亭で出てきそうな上品な味わいに仕上がっています。

と、ここで「これって、料理本見て、時間をキッチンタイマーで計りながら作れば同じだろ」、「料理DVD見て作るのと変わらないのでは?」なんて思った方。それは大きな間違い。このシステムの凄い所は、ただ指示に従って作っていけば作れるという物ではないのです。

経験や勘をデータ化

プロとシステムを使った場合との数値比較。色々なデータのグラフが示されていました。
プロとシステムを使った場合との数値比較。色々なデータのグラフが示されていました。
この煮物調理支援システムでは、あらかじめプロが作った場合の各調理段階における鍋内の温度変化を計測し、鍋や材料への熱の伝わり方などを解析しています。その結果から算出されたプロの火の通し方、調味料の入れるタイミングなどを調理データとして保有しています。
こんな感じで鍋や材料への熱の伝わり方を予測。熱流体シミュレーションという物です。
こんな感じで鍋や材料への熱の伝わり方を予測。熱流体シミュレーションという物です。
システムは、鍋の温度をセンサーで測り、調理データに基づいてガス流量弁を制御して、その段階で最適な火加減を作り出します。更に、調理データとセンサーの測定結果から、あと何秒後に次の作業に入ればいいかを予測して指示を出していくのです。

だから、指示に従うだけでプロと同じような煮物が作れてしまうのです。本を見ながら作るのとは訳が違う。
私もシステムに従って調理してみた。研究室で白衣着るのなんて十数年ぶり。
私もシステムに従って調理してみた。研究室で白衣着るのなんて十数年ぶり。
このシステムならば、市販のガスコンロに幾つかのセンサーを取り付け、コンピュータを追加することで簡単に実現可能。家でもプロの味を容易に再現出来るわけです。

逆に、センサーを使って今作っている調理のデータを読み込むことが出来れば、家庭の味をデータとして残せる。親の作るちょっとしょっぱいけれど懐かしい味の煮物が、地球の裏側でも、何十年、何百年経ってからでも再現出来るかもしれないのです。
普段料理をやっていると、つい自分の感覚でやろうとして間違えそうになって焦る。うっかり指示前に調味料を入れてしまった。
普段料理をやっていると、つい自分の感覚でやろうとして間違えそうになって焦る。うっかり指示前に調味料を入れてしまった。
また、ファミリーレストランチェーンのような所ならば、本部に1人いる熟練料理人の技をデータとして各支店へ送り、同じ美味しさで料理を出す事が可能となるかもしれません。

更には、この支援システムを店の注文システムと連動させれば、次々に注文が入って来た時に、どの料理をどのタイミングで開始するのが最も効率的か予測できるはずです。熟練した料理人が店にいなくても、客を待たせることなく、美味しい料理を出す事ができます。

もしかすると、本社のサーバーをハッキングされて、翌日には別の会社の店で全く同じ味の美味しい料理が出回っているなんてことが起こるかもしれません。
しかし、大体同じような感じでサバの味噌煮が出来ました。システムがリカバリーしてくれたのだろうか?
しかし、大体同じような感じでサバの味噌煮が出来ました。システムがリカバリーしてくれたのだろうか?
残念ながら、現時点ではそこまでの機能は無いので、そのような事は起こりません。鍋の材質、サイズ、食材の量、煮汁の量などが変化した時の予測や、調理者への指示方法の改善などクリアーしなければいけない課題は山ほどあるでしょう。

しかし、どの問題もセンサー技術や制御技術を駆使すれば実現不可能な話ではありません。それほど遠くない未来では、台所のガス台の横にネットに接続された調理支援システムがついているのが当たり前の光景になっているかもしれません。

なんだか楽しい未来だ。
古川教授は日本酒や蕎麦にも造詣が深く、それに関する本も出されています。そんな訳で、今回の発表会にはうまい日本酒も用意されていた。うまい煮物とうまい日本酒で幸せな取材でした。
古川教授は日本酒や蕎麦にも造詣が深く、それに関する本も出されています。そんな訳で、今回の発表会にはうまい日本酒も用意されていた。うまい煮物とうまい日本酒で幸せな取材でした。

便利なシステムも人間がいないとダメ

まだまだ開発途上と言った煮物調理支援システムでしたが、とても興味深く、将来有望な夢のあるシステムでした。今後の動向も是非注目していきたいです。

そして、こんなシステムが実現化されたら、何処でも同じ料理を簡単に作れるようになってしまう。となると、客のより美味しい物を求める希望にこたえる為、料理人は今よりもっと想像力を働かせ、技術を磨いて蓄積されたデータを越えた物を作り出さないといけなくなります。元料理データを作るのは人間ですから。

なにはともあれ、工学力煮物、うまかったです。日本酒も。
実は古川教授は今まで何度も会って、一緒に酒を飲んだ事のある方でした。日本酒関係のイベントで。現地に着いてから気づく。私の事も覚えてくれていました。再会に日本酒で乾杯。素晴らしいシステムが実現化されることを期待しています!
実は古川教授は今まで何度も会って、一緒に酒を飲んだ事のある方でした。日本酒関係のイベントで。現地に着いてから気づく。私の事も覚えてくれていました。再会に日本酒で乾杯。素晴らしいシステムが実現化されることを期待しています!
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