特集 2011年10月11日

どちらも応援するということ

巨人も横浜もどっちも応援する
巨人も横浜もどっちも応援する
この時期になると小学校の運動会を思い出す。「赤がんばれ、白がんばれ」「どっちもがんばれ」とアナウンスが流れる。

応援される方は「これは勝負なんじゃないのか?」ともやもやした気持ちになったが、もっと気になるのは応援する側の気持ちだ。

あれは何をやってたのだだろう。どんな気持ちでいたのだろう。 そもそも誰が言ってるのだろう。

どっちも応援することがどういうことなのか、一度やってみたいと思う。
2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

(ほぼ)初めてのプロ野球観戦と東京ドーム
(ほぼ)初めてのプロ野球観戦と東京ドーム

応援したいと思ったらプロ野球

どっちも応援するのはプロ野球の試合に決めた。有名だし、個人的な思い入れもない。なにより応援しても怒られない。

例えばその辺の公園で懸垂してるおっちゃんを応援したら「バカにしてるのか」と殴られかねない。草野球にしたって気まずい。

人は何かを応援したいなと思ったらプロ野球を見に行くのだ。それであれだけ人気があるのか。
「味覚セット」というすごい名前の弁当があった
「味覚セット」というすごい名前の弁当があった
赤飯、いなり、サラダ巻き…甘いとか酸っぱいとかそういう話じゃなかった
赤飯、いなり、サラダ巻き…甘いとか酸っぱいとかそういう話じゃなかった
各選手の弁当があるようだ。選手が手作りしてる姿を想像して食べるのだろうか。
各選手の弁当があるようだ。選手が手作りしてる姿を想像して食べるのだろうか。

売店からおおはしゃぎしてしまう

応援する企画なのに、はじめての野球観戦についついはしゃいでしまっている。

圧巻だったのはビールの売り子である女の子たち。彼女たちは美人揃いで背中には飲み切れないほどばかでかいビールタンク。おっさんの夢を体現した存在だ。

「おっさんの夢に包まれるようだ‥‥」

客席に急ぐ彼女たちに追いぬかれながら、そんな思いで拳を固くにぎりしめた。
失礼がないよう、帽子をくるっと横浜側になおして
失礼がないよう、帽子をくるっと横浜側になおして
横浜グッズがないかも見ておこう
横浜グッズがないかも見ておこう
家族が寝静まったあと、野球帽を作る
家族が寝静まったあと、野球帽を作る

今回の応援グッズ特製野球帽

なんだその帽子は?とお思いの方もいらっしゃるだろう。これが今回のために特別に制作した「どっちも応援野球帽」である。

その実態は、本日対戦する横浜と巨人二つの帽子をただ前後につなげたもの。

二つを一つにしなくてもいいのだが、この距離の近さがどっちも応援するめまぐるしさや暑苦しさを体現していると思う。
これがどっちも応援する野球帽。かぶると頭が悪くなる。
これがどっちも応援する野球帽。かぶると頭が悪くなる。

使い方はご想像のとおり

この前後に各チームがついた帽子の使い方はご想像のとおり。めまぐるしくどっちも応援するために使用する。
巨人帽側をかぶって巨人頑張れ~
巨人帽側をかぶって巨人頑張れ~
「空振り三振~!」あちゃ~
「空振り三振~!」あちゃ~
っと思った瞬間に
っと思った瞬間に
ササッ!
ササッ!
横浜ファンとしては三振とれて「いいぞ~!」
横浜ファンとしては三振とれて「いいぞ~!」

こういうことでいいのか?

しかし本当にこれでいいのか?上の写真を見て何か気づかないだろうか。

そう、よく見てもらいたい。横の字である。一部がみょうにきれいに写っているだろう。修正なのだ。
本当は「横」の字まちがってた(上の写真を修正)
本当は「横」の字まちがってた(上の写真を修正)
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巨人ファンに囲まれ「巨人いいぞ~」と言ってるものの、ものすごく後ろが気になる
巨人ファンに囲まれ「巨人いいぞ~」と言ってるものの、ものすごく後ろが気になる

結局片方だけ応援してないか?

思ったことをやってみると実際にはちがうことがある。漢字の書き方もそうだし、先ほどからの応援スタイルもそうだ。

この「バッターを応援し三振したらピッチャーを応援してたことにする」形は永遠に勝者だけを応援してられるというメリットもある。

だがこれって基本的には片方しか応援してないんじゃないか?
どっちも応援する方法
その1
『帽子を変えて、どっちも応援』

結果・・・片方しか応援してないのでは?
ということでどっちも応援してみる。「両方」と書いた応援ボードを作ってきた。横向きにかぶった帽子が両者の応援を意味している。
ということでどっちも応援してみる。「両方」と書いた応援ボードを作ってきた。横向きにかぶった帽子が両者の応援を意味している。

どっちも応援すると忙しい

応援方法を変えて、ちゃんとどっちも応援することにした。それを口にすると例えばこんな感じだ。

「ピッチャー第一球投げた。いいぞ、速い。きっとストライクだろう。待ち構えるバッター。かっこいいぞ、ヒット打ってくれ。球はバットの下を通過、おしい。待ち構えるキャッチャー、落ち着いてて品がある。よくとった、ストライク。ナイスピッチング。バッターもいい振りしてるよ、次はホームランだ。ホームラン?いやいや、キャッチャーフライだろ」

肯定につぐ肯定。ポジティブナイアガラ大瀑布がやってきた。

例えていうならこんな場面だ。遠い星の遠い未来、喋る猿の科学者に「その手元のボタンを押すと、君の脳内に穏やかで心地よい麻薬が流れこむのだ。プライドを捨てて私たちに従うならそのボタンを‥‥」と言うが早いか横からファミコンの名人がやってきてボタンを16連射するような感じ。「やめて~」と猿の科学者も大困り。

この平和さ、めまぐるしいぞ。
ピッチャーマウンドに集まる選手たちも応援
ピッチャーマウンドに集まる選手たちも応援
「あつまれ~」と声をかけると振り向く人がいた
「あつまれ~」と声をかけると振り向く人がいた

ついに試合が動く

ヒットだなんだのをやって(※よく知らない)ここで横浜が先制。一点とった。

うれしさもあるが、周囲は巨人ファンだらけで落胆の声が漏れてくる。そうだ巨人ファンとしては悲しい。次の点は巨人がとってほしいな。

しかしその後も横浜は点を重ねる。二点、横浜いいぞ~、三点、いいけど巨人もがんばれ~。四点、五点、いや~、どっちもいいんだけどね~、と言いながらも心にもやっとした黒い影が差す。

やはり五点という現実は重い。
どっちも応援する方法
その2
『どっちも同時に応援』

結果・・・次々に平和がやってくるが、実際の点差はやっぱり気になる
横浜先取点、そのあと「横5-0巨」まで点差は開く
横浜先取点、そのあと「横5-0巨」まで点差は開く

文部科学大臣の視点

ここで応援の方法をまた見なおそう。目の前の現実をさらに高いところから見下ろすのだ。

小学生の頃、Jリーグが開幕した。ヴェルディだ、マリノスだ、クラスメートたちが各々ごひいきのチームを選び、ファンを名乗っていたので、松井という友人にもどこのファンなのか聞いてみた。

「おれはJリーグファンだ」

なんだそれは。視点が文科省だ。リーグ全体を応援しようというその視点の高み。小学生の視点ではないだろう。

しかし今こそその視点が有効なのではないだろうか。
むしろリーグを応援する。世界的なリーグという新しいセ・リーグの提唱である。
むしろリーグを応援する。世界的なリーグという新しいセ・リーグの提唱である。

もっと大きく高い視点でいけないか?

なかなかいい。スケールのでかさを感じさせる。五点のことなんてどうだっていい。パの動向くらいしか気にならない。

パ?そうだ、パは気になる。パはなんでパっていうんだろう。セは世界のセだから、パはパリ?おしゃれだ。いいな。いやもうパのことはいい、忘れよう。パはいいとして、あれだ。…Jはどうなんだ?

しまった、他リーグが気になる。いっそのことリーグ全体というよりも全人類的な平和を目指せばいいのではないだろうか。

どっちも応援する平和な社会、それはお互いの心を思いやり、想像してこそ達成されるものなのだ。
どっちも応援する方法
その3
『リーグ全体を応援』

結果・・・他のリーグが気になってくる
こういうことだ
こういうことだ

これは天覧試合だ

なんでもいい。なんだっていい。どっちが打ってもいいし、どっちが守ってもいい。ババ抜きで目の前のジョンから一枚引いたら「平和」って書いてあった感じだ。ビッグ平和。

ストライク入って「いいですね」ヒットになって「ああ、いいですね」。球場もよく見わたせていいですし、ビールの売り子さんもよく走っていますね。

よくがんばりましたね。きっと天覧試合はこんな視点で見られているのではないだろうか。

心の貯金額が半端ない。つもり貯金で企業買収してしまうようなこの感じ。小学生のころ「どっちもがんばれ」と言ってたあの声。お前はだれなんだ?と思っていたが、それはこんな貴族的な視点だったのだ。
どっちも応援する方法
その4
『とにかくなんでも応援』

結果・・・高いところから応援する感じ。心の余裕がすごい
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8回は巨人、9回は横浜を応援することに

「横5-0巨」のスコアで7回が終わった。どっちも応援することの感触はつかめたので、残りは一回ずつ応援することにした。8回は巨人、9回は横浜だ。

このまま勝ちそうな横浜を9回に応援することで、きもちよくゲームを終えようという目論見もある。
どっちも応援する方法
その5
『一回交替で応援』

勝ちそうなチームを選んで、試合を気持ちよく終えられることだろう
5点差をつけられてるチームの攻撃は応援にも力が入ります
5点差をつけられてるチームの攻撃は応援にも力が入ります
東京ドームなので、周囲は巨人ファンばかり。応援にも一体感があってなるほどおもしろい。
東京ドームなので、周囲は巨人ファンばかり。応援にも一体感があってなるほどおもしろい。

8回裏、5点差つけられてる巨人が満塁

先ほどから「どっちも応援」なんて言っていたが、正直なところやはり負けてる巨人の攻撃にはついつい力が入っていた。

負けてる側の攻撃はおもしろいのだ。

と思っていたら、ヒットを重ねて満塁に。いよいよこの試合初のビッグチャンスがきた。
ホームラン!なんとここで満塁ホームラン!
ホームラン!なんとここで満塁ホームラン!
会場が総立ちで大喜びする
会場が総立ちで大喜びする
ちがう、おれは横浜ロゴを隠さなくては‥‥という後ろめたさがあった
ちがう、おれは横浜ロゴを隠さなくては‥‥という後ろめたさがあった

ゲームが大盛り上がり

ヒットは打つものの、一向に点の入らなかった巨人に満塁ホームラン。あと一点で同点だ、というところで8回は終了。

さあ、最後の9回は横浜を応援。きっと勝つだろうからバンザイで終わることだろう。いや、あと一点くらいとるんじゃないか?そんな巨人側の気持ちが少し入ってしまう。
そして9回の横浜の攻撃はゼロ点。残りは巨人の攻撃であるが‥‥
そして9回の横浜の攻撃はゼロ点。残りは巨人の攻撃であるが‥‥

これがファンの気持ちだ

砂を噛むような思いで9回表の横浜の攻撃を見つめている。0点でスリーアウト。いいぞ、ちがうか、「残念!」が正解だ。いよいよ9回裏、5-4で負けている巨人最後の攻撃。

ワンナウト。「ピッチャー。いいぞ~」自分の応援の声が遠く小さく響く。どっちも公平に応援するため、9回は横浜を応援することに決めたはずだが。

いや、もう自分にうそをつく人生はやめだ。どっちも応援?くそくらえ、だ。
帽子をひきちぎって「やってられるか!」
帽子をひきちぎって「やってられるか!」
巨人帽をさっとかぶって
巨人帽をさっとかぶって
おれがYヨ(巨人)ファンだ!
おれがYヨ(巨人)ファンだ!
どっちも応援する方法
その6
『ただのファン』

我慢できなくなってただの巨人ファンに

あと一点、九回裏、企画は全部ナシだ!

このゲーム性の誘惑には勝てなかった。あと一点で、打者は残り二人。こんなおもしろい場面はない。どっちも応援なんてしてる場合か、と帽子をひきちぎって巨人側についた。

ツーアウト。残り一人。バッターが打つ。打った、いったぞこれ。
すると最後のバッターが、ホームラン性の当たりで会場は大歓声!球はぐんぐん伸びて延長戦に突入か…
すると最後のバッターが、ホームラン性の当たりで会場は大歓声!球はぐんぐん伸びて延長戦に突入か…
なんとフェンス際ジャンピングキャッチでアウト!
なんとフェンス際ジャンピングキャッチでアウト!
ゲームセット!「横5-4巨」
ゲームセット!「横5-4巨」
イスからの滑り具合はジョンというより三枝・レノンのそれだ
イスからの滑り具合はジョンというより三枝・レノンのそれだ

野球のおもしろさに救われる

偶然にもすごい試合だった。やはり片方だけ応援すると野球というゲームのおもしろさが際立つ。勝負を楽しむのに片方応援、おすすめです。

しかしどっちも応援することの平和さはすごい。寛容さを失いつつある社会において、こういう平和さは重要なんじゃないだろうか。丸めがねをかけてギターを弾きながら、想像することの重要性を野球場で説く。

そして9回裏には業を煮やして帽子をひきちぎれば「今日もジョン・レノンのおやじさん来たよ~」球場の名物となりうることだろう。

ともかく小学校のアナウンスで「どっちもがんばれ」と言ってたのは、ジョン・レノンだったということでまちがいはない。
ドーム風でほんとうに人が吹き飛ばされてるのは野球ファンじゃない身からしたら信じられなかった。これがベースボールか、と恐れいった。
ドーム風でほんとうに人が吹き飛ばされてるのは野球ファンじゃない身からしたら信じられなかった。これがベースボールか、と恐れいった。
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