特集 2011年10月12日

棟方志功の絵を台無しにした店

この大作を台無しに!
この大作を台無しに!
特に芸術とかには詳しくはなくても『開運!なんでも鑑定団』などで名前は聞いたことがある芸術家・棟方志功。

その作品を持っていたとしたら、家宝としてメチャクチャ大事にしていてもおかしくないビッグネームですが、なんとその棟方志功にわざわざ描いてもらった壁画を塗りつぶしてしまった、とんでもないお店があるらしいのです。
1975年群馬生まれ。ライター&イラストレーター。
犯罪者からアイドルちゃんまで興味の幅は広範囲。仕事のジャンルも幅が広過ぎて、他人に何の仕事をしている人なのか説明するのが非常に苦痛です。変なスポット、変なおっちゃんなど、どーしてこんなことに……というようなものに関する記事をよく書きます。(動画インタビュー)

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レトロでインパクトのあるレストラン

ここんとこずーっと群馬県桐生市ネタがつづいていますが、今回も桐生!
内容と関係ないけど桐生で見つけた消防署のシャッター
内容と関係ないけど桐生で見つけた消防署のシャッター
貧乏性なもんで、遠出する機会があると色んなところに行ってやろうと躍起になっちゃうんですよ……。おかげで、ボク主導で計画した旅行に友達と行ったりすると、あまりにもハードなスケジュールでケンカになりがちです。

ま、それはいいとして、今回ご紹介するのは地元の人から「あの店はスゴイ。外観からしてレトロな雰囲気でインパクト強すぎるし!」と教えてもらったレストラン。
これも内容関係ないけど、群馬の観光キャンペーン中ということで、あちこちに貼られていたポスター。いまだにこのふたり(ヒデちゃん&イモリ)が群馬代表として扱われているのには違和感が……
これも内容関係ないけど、群馬の観光キャンペーン中ということで、あちこちに貼られていたポスター。いまだにこのふたり(ヒデちゃん&イモリ)が群馬代表として扱われているのには違和感が……
レトロなつくりのレストランってよくありますけど、テキトーにアンティークなインテリアをそろえた、ただのオシャレなお店だったりすることも多いですよね。

その点、教えてもらった「異国調菜・芭蕉」は昭和12年から70年以上にもわたって営業しており、創業以来のメニューであるカレーやオムライスなどの洋食を出しつづけているお店とのこと。ガチでレトロな雰囲気あふれまくりなんじゃないかと期待大です。

というわけで早速お店へと向かったのですが、教えられた住所の近くについたものの、それらしいお店が見あたりません……。
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あるのはこんな建物のみ
あるのはこんな建物のみ
表にまわるとこんな感じ。ま、まさか……
表にまわるとこんな感じ。ま、まさか……
わーっ「芭蕉」って看板が出てる
わーっ「芭蕉」って看板が出てる
ここが「異国調菜・芭蕉」なのか……
ここが「異国調菜・芭蕉」なのか……
たしかにレトロなのは間違いないけど「70年以上営業している洋食レストラン」という情報から喚起されるイメージとはかなりズレのある外観。

レストラン、というよりは古民家……いや、むしろ廃墟ですよ、こりゃ。
山奥にひっそりと建っていそうなたたずまいですが、普通に街中です
山奥にひっそりと建っていそうなたたずまいですが、普通に街中です
壁はビッキビキにヒビ入ってるし
壁はビッキビキにヒビ入ってるし
謎の板が打ち付けられていたり
謎の板が打ち付けられていたり
年季が入っているにも程がある朽ち果てっぷり
年季が入っているにも程がある朽ち果てっぷり
昭和12年創業だということを考えると、このくらいボロ……味がある建物になっていても不思議ではないですけど、ホントにここ営業しているの? と、ちょっと不安になってしまいます。
外観の重厚さに比べてポップすぎる看板
外観の重厚さに比べてポップすぎる看板
まあ、とりあえず看板も出ているし、営業しているんだろうということでお店に入ってみると……。
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店内はさすがに古さを感じるものの、センスよく小物が配置されていて、外観よりはだいぶキレイな印象です。

よかった、廃墟の中でメシ喰う的なお店じゃなくて!(それはそれで行ってみたいけど)

それにしても「スミマセーン」と声をかけてもお店の人が出てきません、こりゃどうしたことか?
ああ、「この銅鑼を叩いてください」……
ああ、「この銅鑼を叩いてください」……
このドラをゴーンと鳴らすとお店の人が出てきてくれるシステムらしいです。豪快!
BGMなど全く流れていない店内に響き渡るドラの音
BGMなど全く流れていない店内に響き渡るドラの音
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狂おしいまでにレトロ

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かなりキョーレツなインパクトを与えてくれた外観と比べたらだいぶマトモに見える店内ですが、それでも「洋食レストラン」というカテゴリーから考えると相当フシギです。
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増改築を繰り返した古民家っぽく、やたらと店内が入り組んでおり、迷子になっちゃいそうなほど複雑な構造になっています……。
間接照明に照らされた馬の頭
間接照明に照らされた馬の頭
いきなり木馬&石仏
いきなり木馬&石仏
なにやら怖ろしげな仮面や
なにやら怖ろしげな仮面や
古くて薄汚れた人形たちが大量に……
古くて薄汚れた人形たちが大量に……
とにかく、なんか怨念のこめられてそうなアヤシゲな小物たちがいたるところにゴチャゴチャ置かれていて、田舎のおじいちゃんち的な空間になってるんですよ。

しかも窓が少なく、照明も間接照明的なのがちょこっとある程度なので店内は全体的に薄暗く、昼間だったからまだよかったものの、夜中にひとりで迷い込んだとしたらすっごく怖そうです!
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客席はこんな感じ。

薄暗いながらも、小さな窓から日が差し込んできて、雰囲気はいいんですけどね。
各テーブルの頭上にはこのように鐘や
各テーブルの頭上にはこのように鐘や
鈴が吊されているんですが
鈴が吊されているんですが
コレはいわゆるファミレスでいうところの店員を呼ぶピンポーンね。入口にあったドラのようにガラガラ鳴らして店員さんを呼び出します。
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メニューはこちら。まあ、フツーに洋食レストランらしいラインナップとなっておりますが、ここは創業以来のメニューだという「印度かりー」を注文してみました。
アヤシゲな食器に盛りつけられてきたらどうしようかと思ったものの、非常にフツーで安心しましたよ
アヤシゲな食器に盛りつけられてきたらどうしようかと思ったものの、非常にフツーで安心しましたよ
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「印度かりー」という名前ではありますが、いわゆるインド風のカレーというよりはルーがもったりとした欧風カレーですね。
日本の古民家風なお店なので、味も昔の日本風カレーなのかと思いきや、スパイシーな本格派
日本の古民家風なお店なので、味も昔の日本風カレーなのかと思いきや、スパイシーな本格派
さて、ここまででもかなりフシギで面白いお店でしたが、この「異国調菜・芭蕉」の見所は他にもあるらしいのです。それがコレ!
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なんとこの壁画、あの棟方志功が描いたものなんだとか。

棟方志功といえば、最近司会が変わったことでもお馴染みのテレビ番組『開運!なんでも鑑定団』で(本物なら)高い評価額つけられまくりの世界的な芸術家!

それが群馬のレストランに壁画を描いていたなんてオドロキです。しかし、この壁画にはもっとオドロキな逸話が……。
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1953年に描かれたこの壁画ですが、完成してすぐに漆喰で塗り固められてしまい、2008年に発掘&復元作業を行うまで見ることができない状態だったらしいのです。

……どうしてそんなことに!? ちょっと意味分かんないんですけど。
発掘作業中の様子
発掘作業中の様子
ちょっとした作品でも100万、200万の値段が平気でつけられている棟方志功。高さ2メートル超という巨大なこの壁画がどれくらいの価値になるのやら想像もつきませんが、そんな貴重なものを塗り固めて隠していた理由とはなんだったんでしょうか。
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「店にあわない」で、棟方志功の壁画を塗りつぶした!? しかも描いた次の日に……モッタイネー!
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さすがに悪いと思ったらしいですが

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ボク程度でも、お願いされてわざわざ描いた絵をソッコーやぶかれたりしたら、さすがにショックですからねぇ……。
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……ということで、どうも棟方志功は亡くなるまでこの壁画が塗りつぶされたという事実を知らないままだったようです。ホント、バレなくてよかったですねー!
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芸術ってのはよく分かりませんが、それにしてもこの壁画、怒って塗りつぶしちゃうほどヒドイものだとは全く思えないんですけど、どこがそんなに気に入らなかったんでしょうか?

なんでも、初代店主の小池魚心さんは何事にも相当こだわりまくる性格だったらしく、このお店を作る時にも自分が気に入らないところは何度も作り直しをさせて、何人もの大工さんたちが逃げ出したほどだったんだとか。
あ、経年劣化で朽ち果てていった結果こういう店ができあがったんじゃなくて、最初からこうだったんですね
あ、経年劣化で朽ち果てていった結果こういう店ができあがったんじゃなくて、最初からこうだったんですね
で、壁画を描いてもらう際も「馬の絵を」とお願いしていたのに、棟方志功が勝手に馬の周りに女性を描いたのが気に入らなかったみたいです。

しかし、さすがに棟方志功に文句をいうことはできなかったので、いなくなってから黙って塗りつぶすことになったと……。
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壁画を塗りつぶした初代店主も亡くなり、店を受け継いだ2代目が、周りからの勧めもあって発掘&復元を決心して、55年の時を経て今のように見られる状態となったわけですが、描かれた当初はかなり派手な色調だったという壁画もだいぶ落ち着いた色合いとなり、お店の雰囲気に自然と溶け込んでいるように思えます。

そう考えると、まさかの塗りつぶし事件も結果オーライだったのかなぁ……と。
2008年にこうやって漆喰をはがして復元されたそうです。この作業も緊張したろうなぁ
2008年にこうやって漆喰をはがして復元されたそうです。この作業も緊張したろうなぁ

全体的に異世界なレストランでした

棟方志功が描いた壁画ですら(しかも自分で頼んだくせに)店にあわないと思えば塗りつぶしてしまう、こだわりまくりの店主が作ったレストラン。さすがに隅々まで意識が行き届いており、店内に入った時の異世界感はすごいものがあります。

さらに、壁画の復元前には「この壁に棟方志功の絵が埋まってるんだけどねぇ」という、見れない贅沢感まで楽しめたという意見も。うーん、そういわれるとその当時にも来たかったような気が……。いや、やっぱりフツーに見られた方が嬉しいか。
●異国調菜・芭蕉
群馬県桐生市本町5-345
【電話番号】0277-22-3237
【営業時間】11:30~20:30
【定休日】火曜日 (第二又は第三の火曜日、水曜日連休)
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