特集 2011年10月29日

巨大!オオウナギ!!

写真が切れてる?迫力と感動が伝わればいいじゃない。
写真が切れてる?迫力と感動が伝わればいいじゃない。
沖縄にはオオウナギという魚がいる。読んで字のごとく大型のウナギの一種なのだが、大きなものだとなんと体長2メートル以上、重さ20キロ以上にも達するという。その迫力たるや一般的なウナギの概念を突き崩しかねないものである。
ぜひその後尊顔を野外で拝みたいと思い、夜の河川へ繰り出した。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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ウナギ釣りが楽しかったの

今年の初夏、私は当サイトのライターである玉置さんに連れられて人生初となるウナギ釣りへ行った。
初めて釣ったウナギ。ウナギと聞いて想像するのはこれですよね。
初めて釣ったウナギ。ウナギと聞いて想像するのはこれですよね。
夜の釣りはスリリングで、これがエラいこと楽しかったのだ。
その時ふと、数年前のことを思い出した。
「そういえば沖縄に住んでいた頃、川で巨大なウナギに何度も出くわしたなあ…」と。
そう、実を言うと私は今までに何度も何度もオオウナギにニアミスしているのだ。その度に間近でじっくり観察しようと接近を試みたのだが、ことごとく逃げられてきたのである。

ならば関東でウナギ経験値を積んだ今こそ、釣りでオオウナギに挑んでみようではないか。

戦場は市街地!

さあ、オオウナギを求めていざ出陣である。
舞台は山奥の渓流…
舞台は山奥の渓流…
ではなくて街中の川。
ではなくて街中の川。
「オオウナギがたくさんいる」という信頼できる筋からの情報を頼ってやってきたのは市街地を流れる何の変哲もない川。詳しい地名は伏せるが、沖縄島の都心部にかなり近い場所である。こんなところにウナギはおろか魚がいるのだろうか。
いるんだな、これが。これはたしかクロサギという魚だったか。
いるんだな、これが。これはたしかクロサギという魚だったか。
いる。うじゃうじゃいる。ライトで水面を照らすとバシャバシャと音を立てながら小魚が跳ねる。上の写真の魚は勢い余って自分から陸に跳び上がってしまったものだ。
街中だろうと関係ねえ。恐るべし、沖縄の自然力。
沖縄の川のアイドル、オキナワフグも足もとで掬えた。
沖縄の川のアイドル、オキナワフグも足もとで掬えた。
写真に収めることはできなかったが、他にもボラやクロダイの姿を多数見ることができた。これはオオウナギについても期待してよさそうだ。

釣り具にひと工夫

さて、釣り場に自信が持てたところで早速釣りを開始しよう。
用いる仕掛けは釣竿に糸、釣り鈎だけの至極シンプルなもの。
用いる仕掛けは釣竿に糸、釣り鈎(ばり)だけの至極シンプルなもの。
とはいえ相手は普通の魚ではない。それなりの工夫は施してある。
たとえば、釣り糸は10キロ、20キロという尋常でない大物に備え、小学生くらいなら楽々吊るせてしまうような強靭なものを用いている。
さらに、釣り鈎の「かえし」はペンチで潰す。
さらに、釣り鈎の「かえし」はペンチで潰す。
魚を捕らえて離さない、釣り鈎の要ともいえる「かえし」はあえて潰した。今回はあくまで観察が目的であり、食べる予定は無いので捕らえた魚はリリースするつもりである。そのため魚体へのダメージを最小限にしたかったのだ。また、単純にウナギの類は鈎を外すのが難しいので、その際のトラブルを避ける目的もある。

狙う魚に合わせた仕掛けの工夫は魚釣りの醍醐味である。
エサとして釣り場近くのスーパーで安くなっていた甘エビを購入。
エサとして釣り場近くのスーパーで安くなっていた甘エビを購入。
見切り品とはいえずいぶんと贅沢な釣り餌である。これならウナギも文句あるまい。

カメやカニと戯れる

水辺で竿を出していると足元にカメが泳いできた。
甘エビの匂いに誘われてきたのか。
甘エビの匂いに誘われてきたのか。
ミナミイシガメという南方系のカメ。この辺りは潮の影響のある汽水域なのだが平気なのか。
ミナミイシガメという南方系のカメ。この辺りは潮の影響のある汽水域なのだが平気なのか。
膝の上でカメを愛でながらアタリを待っていると…
膝の上でカメを愛でながらアタリを待っていると…
釣りを開始して約一時間後、不意に竿がしなる!重い!オオウナギか!?
残念。大きなカニでした。
残念。大きなカニでした。
しかも交尾中。けしからんね。
しかも交尾中。けしからんね。
交尾しながら食事もとるってどうよ。どっちかに集中したまえ。
彼らはノコギリガザミというカニで、非常に美味しいため沖縄では珍重されている。よだれが出たが、さすがにこの状態から食べてしまうというのは気が引ける。こんな凶悪なハサミの持ち主に化けて出られてもおっかないので川の中にお帰りいただいた。

その後はぱったりと反応が無くなる。退屈して釣り場を散歩していると、足元をちょろちょろと小さなカニが歩いているのが目に付く。
ずいぶんカニの多い川だな。
ずいぶんカニの多い川だな。

幼少の記憶が突破口を開く

ここでふとあることを思い出した。9歳の誕生日に父親からもらった図鑑にオオウナギの別名が「カニクイ」であると記されていたのだ。
カニが好きなのか。
カニが好きなのか。
ならばさっそく
試してみよう。
試してみよう。
甘エビの代わりに拾ったカニを釣り鈎につける。
…人間の視点からするとやはり甘エビの方が魅力的に見えるのだが。
まあいい。物は試しだ。

いきなり釣れた!でも不満。

カニをオオウナギが潜んでいそうな岩の陰に放り投げる。とは言ってもそこはさっきから何度も甘エビで攻めているポイントだ。ほとんど望みは持てない。…が、しかし!
「ゴッ!」街明かりの中、突然竿先が絞り込まれる!カニ効果抜群!
「ゴッ!」街明かりの中、突然竿先が絞り込まれる!カニ効果抜群!
何かが食いついた!その何者かが口に刺さった針をはずそうと首を振っているのが釣り糸と竿を通じて分かる。なかなか力強い。岩の隙間に潜り込まれないうちに一気に引き寄せる!
それは、ぬるりと姿を現した。
それは、ぬるりと姿を現した。
この魚体。間違いようもない。オオウナギだ。
体長約70センチ。本土のウナギとは比べ物にならない太さだ。しかしこれでも不満が残る。
体長約70センチ。本土のウナギとは比べ物にならない太さだ。しかしこれでも不満が残る。
体の色は黄土色で黒っぽいまだらが入っている。まるでウツボだ。
体の色は黄土色で黒っぽいまだらが入っている。まるでウツボだ。
おなかは真珠のようにまっしろ。
おなかは真珠のようにまっしろ。
顔。ぽってりとした唇がセクシー。あとブルーのアイラインの入ったうらめしげな眼が怖い。
顔。ぽってりとした唇がセクシー。あとブルーのアイラインの入ったうらめしげな眼が怖い。
ついに長年憧れていたオオウナギをその手にし、間近で観察することができた!…が、喜びはそれほど大きくない。その理由はひとえに「小さい」から!これはまだまだ子供だ。小学生サイズだ。いつかあの暗い川ですれ違った巨大なヤツのように、もっと貫禄のある「オオウナギらしい」個体に会いたい。
もう夜明けは近いがもう少し粘ってみよう。後悔しないためにも。
遊んでくれたウナギを速やかに水中へ放し、再びカニを拾い釣りを始めた。

さらなる大物!さながら綱引き

さらに一時間後、先ほどよりも強い衝撃とともに餌のカニが、そして俺のハートがひったくられた。
さらに一時間後、先ほどよりも強い衝撃とともに餌のカニが、そして俺のハートがひったくられた。
釣竿を通じて、オオウナギがエサのカニをくわえた瞬間がわかった。針がアゴを貫いた感触がわかった。後ずさりで巣穴に逃げ込む様子がわかった。最高に興奮した。

こんなことを書くと大きなマグロやカジキなんかを相手にしている釣り人からは笑われるだろう。それでもあえて書かせてもらうと、それは魚釣りというより、まるで魚との綱引きだった。お互いヤリトリとか、カケヒキとか、そういうものを度外視して、必死で、夢中で一本の糸を引っ張り合っていた。

綱引きの勝負はおそらく数十秒で着いていたのだと思う。あまりに凝縮された数瞬であったので、それはとても短くも、とても長くも感じられた。

放心状態で川の中に立ちつくす私の目の前にはこいつがぶら下がっていた。
よっしゃー!体長1メートル強!体重なんと2キロ!!満足!
よっしゃー!体長1メートル強!体重なんと2キロ!!満足!
やったー!これはそこそこ大きい!これなら「オオウナギ」の名に恥じないだろう。というかいまさらだがウナギのサイズを表すのに㌔はねーよ㌔は!

冒頭のふつうのウナギの写真と比較していただければ、その巨大さがよくわかると思う。
もし料理にしたらいったいこの一匹で何人の腹を満たせるだろうか。
体高は手のひらほどもある!蒲焼きにしたら何人前だろうか。
体高は手のひらほどもある!蒲焼きにしたら何人前だろうか。
…さて、さんざん大げさな表現で喜びと興奮を述べた後でこんなことを言うのもなんなのだが、実はこれでもまだまだ小さい方。せいぜい中型、中学生サイズと言ったところなのである。
聞いた話ではこのウナギの10倍も重い20キロを超える個体の記録もあると言うし、私自身も以前に成人男性のふくらはぎほどの太さの個体を目撃したことがある。
こんなことを言うと、「さすがにそれは話盛ってるんじゃないの?」と思う人もいるだろう。だがそんな方も、後日撮影したこの写真を見れば納得していただけると思う。
ででで、でけえええええ!!これこそが真の「オオウナギ」!ここまで大きいと蒲焼きにすることすら不可能なのでは。
ででで、でけえええええ!!これこそが真の「オオウナギ」!ここまで大きいと蒲焼きにすることすら不可能なのでは。
これは琉球大学資料館に所蔵されている全長1.5メートルのオオウナギの標本である。まさに怪物。
こんなのが沖縄のどこかの川には泳いでいるのだ。見つけたら腰を抜かしてしまいそうだ。

正直言ってこの標本を見た後に先ほどの中学生オオウナギの写真を見返して笑いがこみあげてきた。すんません、自分やっぱり井の中の蛙でした。

味について

オオウナギは脂が少なく、蒲焼にはあまり合わない。唐揚げにするとチキンのような歯ごたえで悪くないのだが、飽きやすい味なので一人で一匹を食べきるのはつらい。というわけで、今回は観察を終えたらすぐに放してやった。

オオウナギ料理いえば、奄美の人たちは甘辛く煮て食べると聞いたこともある。現地で定着している調理法ならあるいはうまいのかもしれない。いつか試してみたいものだ。
オオウナギのかわりにタコライス食って帰った。 絶対こっちのほうがおいしいと思う。
オオウナギのかわりにタコライス食って帰った。 絶対こっちのほうがおいしいと思う。
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