特集 2011年11月24日

雑草のハトムギでお茶とご飯を作る

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みんな聞いてくれ、ハトムギがジュズダマなんだ。
ジュズダマがハトムギなんだ。
ああ、何て言ったらいいんだろう。
とりあえずハトムギから説明します。
そのあとジュズダマでお茶とご飯を作ります
1978年、東京都出身。漂泊の理科教員。名前の漢字は、正しい行いと書いて『正行』なのだが、「不正行為」という語にも名前が含まれてるのに気付いたので、次からそれで説明しようと思う。

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これがハトムギ。

♪はと麦・玄米・月見草~のCMソングで有名。
♪はと麦・玄米・月見草~のCMソングで有名。
でも名前は有名だけど、見たことがある人は少ないんじゃないだろうか。
そういう僕も、この記事で調べるまでは、ハトムギの見た目なんて知らなかった。
思ったよりも大粒だな、という印象を受ける。
1袋、580円です。
1袋、580円です。
さてこのハトムギは、すでに殻とか皮を除去された状態なわけなんだけど、殻が除去される前はどんな状態なのか。
答えはこれである
殻付きハトムギ。あまり「麦」っぽく見えない。
殻付きハトムギ。あまり「麦」っぽく見えない。
ビールの缶に描いてあるようなものを「麦」と認識している僕らは、え、これが麦なの?という思いを抱いてしまう。
なんだか黒々としたルックスで、雑草の実みたいだ。

そうです、雑草の実なんです。

てゆうか知っている人なら、上の写真を見た瞬間に、こう思っただろう。
「これ、ジュズダマそっくりじゃない?」と。
似過ぎだ。僕にはジュズダマにしか見えない。
似過ぎだ。僕にはジュズダマにしか見えない。
ジュズダマとは、日本各地にふつうに生えている雑草で、その実に糸を通して遊べる楽しい植物だ。
こんな雰囲気の植物。黒くなった実で遊ぶ。
こんな雰囲気の植物。黒くなった実で遊ぶ。
そういう僕も、幼い頃はジュズダマ遊びが大好きで、姉や祖母とネックレスを夢中で作った。この歳になっても、ほわっと胸に残る平和な思い出である。
で、これ、めちゃくちゃ似てるなぁと思って調べてみたら、驚くことに、ハトムギとジュズダマは同じ植物だと書いてあったのだ!
「ジュズダマを品種改良して、作物化したのがハトムギ」
「ジュズダマを品種改良して、作物化したのがハトムギ」
なんですと!
なんですと!

さっそくジュズダマを探しに出る

ジュズダマがハトムギの正体だと知って興奮した僕は、すぐさまジュズダマを探す旅に出た。

しかし、ジュズダマの発見は困難を極めた。
ジュズダマは湿地に生えていると読んだが、川沿いを探しても沼沿いを探しても生えておらず、霞ヶ浦の広大なレンコン畑まで向かったが、見つかる気配すらなかった。
ここ、めっちゃ湿ってたんだけど、全然生えてなかった。
ここ、めっちゃ湿ってたんだけど、全然生えてなかった。
思えば幼い頃だって、いくらでも生えているわけではなかった。
新宿御苑という公園の奥、裏山みたいな草むらに生えているのを知っていて、秋になるとそこへ取りに行くのが、僕の特別な行事であった。
そして、そこ以外で生えている場所を僕は知らない。
新宿御苑の奥の方。ほんとは取っちゃダメだったらしい。
新宿御苑の奥の方。ほんとは取っちゃダメだったらしい。
そして茨城に住んで14年。ジュズダマを見かけたことは一度も無い。
そう考えると、もう僕は20年以上もジュズダマを見たことが無いのだ。本当は生えているのに、見落としているのではないか?
そんな疑問も湧いてきたが、答えはNoである。
違う、これもジュズダマじゃ無い。
違う、これもジュズダマじゃ無い。
子供の頃、あんなに夢中になったジュズダマの葉を実を、見逃すわけがない。
叔父が草の先を引き下げて取りやすくしてくれたその葉っぱを、僕はありありと覚えている。
一目だけで判別する自信が僕にはある。(そして、ここにも無い)
一目だけで判別する自信が僕にはある。(そして、ここにも無い)
秋風の中をうろつき回っていたら、当然のように風邪をひいた。いいかげん心が折れてきた。
そんな折、当サイトのライター・玉置さんに「うちの近くにあるよ」と教わり、あきらめて埼玉まで行くかと思って日々を過ごしていた。
ところが、思いがけず電車に乗っているとき、僕の目の前を見憶えのある葉っぱが通り過ぎたのである!
え!? この葉っぱはもしかして!?!?
え!? この葉っぱはもしかして!?!?
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ジュズダマ(野生ハトムギ)発見!!

そう、それはまぎれもないジュズダマだった。
ジュズダマだ! これ、やっぱりジュズダマだ!
ジュズダマだ! これ、やっぱりジュズダマだ!
某JRの駅を通るとき、あれ?今のジュズダマ!?という草が見えたので、その駅で飛び降りて確認したら、やっぱりジュズダマだったのだ。
我ながら、よくあの一瞬で分かったものだと思う。僕のジュズダマへの愛は本物だった。
そしてさっそく、ジュズダマの収穫を開始する。
いくらでも取り放題! まさにジュズダマパラダイス!
いくらでも取り放題! まさにジュズダマパラダイス!
群生したジュズダマの実が、手つかずでごっそり残っており、時間があればあるだけ取り放題だった。
子供の頃の僕が知ったら、狂喜乱舞して2時間でも3時間でも取り続けるだろう。
大人の僕でも1時間ぐらい夢中で取り続けた。
そう、これがジュズダマ! めっちゃ懐かしい!!
そう、これがジュズダマ! めっちゃ懐かしい!!
時間を忘れて、と言いたいところだが、駅からは定時的に電車の到着時刻を告げるアナウンスが流れてくるので、時間をきっちり把握しながらジュズダマを集めた。
大人には時間を忘れることすら許されないのだろうか
大人には時間を忘れることすら許されないのだろうか
まあそんなことはどうでもいいか。
とにかくこうして、僕は今回の主役となるジュズダマをごっそりと集めることができた。
カバンいっぱいのジュズダマ。感無量。
カバンいっぱいのジュズダマ。感無量。

さて、とりあえずネックレス

20数年ぶりにジュズダマを手にした僕は、まずは懐かしいネックレス作りに挑戦した。
子供の頃、ジュズダマのネックレス作成にはいくつかの厳しい品質基準があった。
下処理において、中央のワラをきちんと取らなければならない。
下処理において、中央のワラをきちんと取らなければならない。
玉は形と色模様が美しいもので構成されることが望ましい。
玉は形と色模様が美しいもので構成されることが望ましい。
などである。
今回は、大人となった技術力を最大限に駆使し、その基準を完全に満たす珠玉のネックレスが完成した。
白玉&茶玉のアクセント構成まで含めて、最高の一品だ。
白玉&茶玉のアクセント構成まで含めて、最高の一品だ。
この完成度を子供の頃の自分に自慢し、そして温かくプレゼントしてやりたい
さて、これでひと通り満足したので、ハトムギと比較しながらジュズダマを解剖しつつ、その食品としてのポテンシャルを調べてみたいと思う。
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ジュズダマの殻がハンパ無く堅い。

あらためて紹介します。ジュズダマです
あらためて紹介します。ジュズダマです
この工具の使用法は、また後ほど。
この工具の使用法は、また後ほど。
で、このジュズダマの殻が恐ろしく堅い。
食うことなんて想像させないほどの堅さである。
「はと麦」なんて話ではない。名付けるとしたら「鬼麦」とか「石麦」である。
そこで工具を使って力ずくで割る。
殻が薄いハトムギ。さすが作物。
殻が薄いハトムギ。さすが作物。
割るとその殻の厚さがよく分かる。
隣にハトムギを並べて置いてみた。
ハトムギの殻は薄く、親指の爪でも割ることができるのに対して、ジュズダマその何倍も厚い。
むー、なるほど。
ハトムギ、だてに作物化されていない。
実が大きいハトムギ。さすが作物。
実が大きいハトムギ。さすが作物。
さて殻から中身を出そう。
中にはニンニクに似たルックスの実が入っていて、薄い皮に包まれている。
そして、ハトムギの方が圧倒的に太って丸々としている。殻が薄い分、中身に栄養が行っているのだろう。とても美味そうである。
なるほど。ハトムギ、だてに(以下略)。
実が大きいハトムギ。さすが作物。
実が大きいハトムギ。さすが作物。
そしてさらに薄い皮をむいた。
これでたぶん、米で言ったら「玄米」にあたる状態になっているのだろうか。
何と言うか、両者とも方向性は大きく変わらない。これはかなり食料として成立しそうな予感がする。
味はどうか、生のままかじってみた。
これは悪くない。穀物として合格の味。
これは悪くない。穀物として合格の味。
かじってみると、どちらも穀物らしいほんわかした香りがした。
確実に食える味だ。
そして驚くことに、ジュズダマの方が、よりいい香りがする。何と言うか、粉っぽさがなくて、いい意味で木の実っぽい。
これは絶対食える植物だ。さっそくジュズダマ茶からトライしてみよう。
煎り始め。
煎り始め。

ジュズダマを煎ります

ハトムギ茶は、ハトムギを焙煎して作る。
実験の前にハトムギの焙煎には成功していて、爽健美茶にも負けない美味しいお茶が出来上がった。方法は間違いない。
てなわけでジュズダマもコロコロ、20分かけて、こげ茶色にする。
10分経過。
10分経過。
~ワンポイント~

ここでポイントですが、フタをして加熱すると、焙煎ではなく蒸し焼きになり、邪悪な物体が生成します。(下図参照)
転がって散ってめんど臭くても、フライパンは開いて加熱しましょう。
20分後。完成
20分後。完成
蒸し焼きによる失敗。何か出てる!(へび花火?)
蒸し焼きによる失敗。何か出てる!(へび花火?)
弱火なら直火にかけられるタイプを使おう。
弱火なら直火にかけられるタイプを使おう。

続いてジュズダマ茶、煮出し

そして熱湯で30分間煮出す。
これも結構時間がかかるのだが、透明なコーヒーサーバを使ってのんびり眺めると楽しい。
お茶を飲むためだけに、煎りと合わせて約1時間、かなりのスローフードだ。
ハトムギ茶は漢方薬で、便秘や美白などに効くという。ダイエット・美容と言えば、多少怪しくても儲かるビジネスの代表格だ。
これで美味しかったら、お金の香りとかしちゃうんじゃないか? 『大自然ハトムギ茶』とか銘打って、本格的なマネタイズに乗り出せちゃうんじゃないか? その場合の商標権は……
……お、おっと、30分が経過したようだ。
飲んでみよう。
完成! ジュズダマ茶!
完成! ジュズダマ茶!
ジュズダマ茶は、色もハトムギ茶と大して変わらず、見た感じ、ものすごくいい感じにお茶だ。
これで美味しかったら、健康ビジネスで大儲けだ。間違いない。
さあ、『大自然ハトムギ茶』の記念すべき第一歩です!
まずっ! まずっっ!
まずっ! まずっっ!
まっずい! これ、まっずい!
そもそもお茶じゃない!
お茶と言うより、木の汁の味がする。
使用済みのくん製チップを煮出したみたいな焦げ臭さと苦みがする。
こんなん飲んだら、便秘なんて解消するに決まってる。確実に腹壊す。病気で寝込んで、美白にもなるかもしれない。

だめだだめだ、事業撤退!
ということで、第二のビジネスチャンス、ジュズダマご飯の方に挑戦してみようと思う。
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ジュズダマを手早く割る、たった一つの冴えた方法

炊飯(炊ジュズダマ)にあたり、最大の難点は、堅いジュズダマの中身を、いかに効率よく割って集めるかである。
この点に関し、極めて高効率で回収できる方法を開発したので紹介したい。
まずプライヤーを用意して下さい(ウォーターポンププライヤ)
まずプライヤーを用意して下さい(ウォーターポンププライヤ)
この器具はプライヤーといって、全力でつかんでも、挟み口にすき間ができるので、粉々になることが無い。
安いものは100均でも売っている。
1.お尻から4割のところをつかむ。
1.お尻から4割のところをつかむ。
これで、ジュズダマのお尻から4割ぐらいのところを強くつかむ。
運が良ければこれ一発で殻が取れるが、そうでなくても深めに傷が付く。
それぐらいでいい。
2.90度回転して、もう一度つかむ。
2.90度回転して、もう一度つかむ。
続いて、ジュズダマを90度回して、同じようにつかむ。
すると大体の場合、図のように、中ほどにきれいにヒビが入り、殻がすぽりと取れる。
あとはイージーだ。
すぽり。あとは針でつついて中身を出す。
すぽり。あとは針でつついて中身を出す。
上から針金でつつけば中身は出てくる。
慣れれば15秒ぐらいで、取り出しまでできる。
ちなみにプライヤーは、ギンナンの殻割りなどにおいても活用できるので、ぜひ一個備え付けておくといい。
飢饉でジュズダマを食べなければならないとき、一家を飢えから守ってくれるだろう。
だいたい20分で、これぐらい取れる。
だいたい20分で、これぐらい取れる。

ジュズダマは圧力鍋で炊く

そして1時間半かけて、これだけのジュズダマ玄米が集まった。
左)集まったジュズダマの玄米  右)それに相当する量のジュズダマ
左)集まったジュズダマの玄米 右)それに相当する量のジュズダマ
もう指先が超痛い。
もう指先が超痛い。
これ、実験始める前は、コーヒーミルで割れば取れるだろうと考えていたので、想定外の苦労であった。
最初、コーヒーミルでも試したのだが、鬼のように堅い殻は割れず、ミルが「ゴギッゴギッ!」と折れそうな音を出したのでやめた。
これに比べればハトムギの殻なぞは全く薄く、「はと」という名を冠したくなるのも分かる気がした。ぐるっぽ―ぐるっぽー!
(ガッテンガッテン!のイメージで)
一晩、水に漬ける。
一晩、水に漬ける。
小さい土鍋に仕込み、丸ごと圧力鍋に入れる
小さい土鍋に仕込み、丸ごと圧力鍋に入れる
約30分、炊き上げる。シュンシュンシュン!
約30分、炊き上げる。シュンシュンシュン!
さて、玄米は圧力鍋で炊くのが一番おいしいと教わったことがある。
今回はそれに従って、土鍋と圧力鍋を併用して炊いてみた。殻むきに成功した分だけ、今回は失敗したくない。
そしてこれが『大自然ハトムギ』ブランドの、最後のビジネスチャンスでもある。
炊きあがれ、ジュズダマ!

炊き上がったジュズダマ!

30分後。
鍋を開けるとジュズダマはこんなルックスになっていた。
オウ……。オオゥ……。
オウ……。オオゥ……。
何とも判断が付かない。
見た目は悪くなさそうだが、お茶のときにルックスで騙されてしまっているため、こちらの警戒心も強くなっている。
ここは勇気を出して、さっそく食べてみる。
味は……味は……
味は……味は……
おお、意外とうまい。
おお、意外とうまい。
思ったよりもいける。
米とはまた全然違った食感なのだが、玄米に似た香ばしさがあって、おいしい。
味にコクもあり、香りも含めて、クルミとか、茹でピーナッツを食べている感じに近い。
うまい。
こちら、炊いたハトムギ。味は……。
こちら、炊いたハトムギ。味は……。
さらに言えば、炊いたハトムギよりずっとうまいと感じた。ハトムギの方は、なんか独特の臭気というか、微妙な風味があった。
1993年の凶作のとき、輸入されたタイ米が「臭い、まずい」と散々な中傷を受けたが、あの独特の匂いに近い。
その炊ハトムギに比べれば、炊ジュズダマの方がずっとずっとうまい。
僕にはそこに、ビジネスの光が見えた!

DPZブランド『大自然ハトムギ』、発進!

というわけでジュズダマを炊く実験は成功と言っていいだろう。お茶はたぶん、殻が厚過ぎて木の汁になってしまうのかもしれない。

そして、巨大なビジネスの可能性が見えてきた。
マヨネーズで味付けすれば、おつまみになるようにも思えるし、商品化のラインナップの可能性も広い。
いけそうだ。
ただ当面の課題は、10グラム作るのに1時間半かかる点だ。
誰かやる気のある人が解決してくれるのを、指をくわえて待っていたいと思う。
起業とか面倒臭いから、やっぱいいや。
起業とか面倒臭いから、やっぱいいや。
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