特集 2011年12月10日

揚げパン専門店の揚げパンを食べたい

煌めくコッペパンを食べてきました
煌めくコッペパンを食べてきました
揚げパンの専門店があるらしい。
パン屋ではなく揚げパン屋。
日本唯一、というわけでもなく、世の中には何件かそういったお店が存在しているらしいのだ。

その専門性の高さに期待しつつ、2件の揚げパン屋さんを巡ってきました。
石川県出身。以前は普通の会社員。現在は透明樹脂を用いたアクセサリーを作る人。好きな色は青。好きな石はサファイア。好きな犬はウェルシュ・コーギー。

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四角い揚げパンからの卒業

先日、「あの四角い揚げパンを再現する」という記事を書いた。私の出身小学校では給食の揚げパン=食パンでした、という内容だ。

これがまあ見事に、誰にも賛同が得られなかった。「嘘なんじゃないの?」「何かの間違いなんじゃないの?」とまで言われた。

記事として広くお披露目することにより、改めて世の揚げパン文化と自分の認識との乖離を思い知った格好である。

地動説を唱えたガリレオ・ガリレイはこんな気持ちだったろうか。私も世が世なら宗教裁判にかけられ、揚げパン教の異端信者として糾弾され、二度と食パンを揚げたりしないと誓わされ、項垂れながらこう呟くのだ。

それでも揚げパンは角張っている…。
よかった、17世紀に生まれなくて!
よかった、17世紀に生まれなくて!
いやそういう話ではなくて。

とにかく揚げパン=食パン文化の中で育った私である。世間一般のノーマルスタンダードだというコッペパン揚げパンを食べたことがないのだ。あれでしょ、何か知らないけど砂糖とかきな粉とかまぶしてあるんでしょう?

その存在を訝しみつつ、一度くらいは味わってみたいとも思う。思い切って食パン文化の外にも目を向けるべきだ。心の揚げパン鎖国をここで終わらせようじゃないか。

はじめまして、コッペパン揚げパン

そんなわけでやってきたのがこちら。名古屋は大須にある、揚げパン専門店だ。
のんのん、という可愛らしい店名。看板のフォントがどこか昭和レトロな雰囲気を醸し出す。
のんのん、という可愛らしい店名。看板のフォントがどこか昭和レトロな雰囲気を醸し出す。
早速発見、コッペパン揚げパン(の写真)。昔なつかし給食の、とあるが、ちっとも懐かしくなんかないぞお前なんか。
早速発見、コッペパン揚げパン(の写真)。昔なつかし給食の、とあるが、ちっとも懐かしくなんかないぞお前なんか。
いけない、うっすらとコッペパンへの敵意が滲みでてしまった。パンに罪はない。

ところでこのお店、シンプルな揚げパン以外にもなかなか面白いメニューが沢山ある。
揚げパンスイーツ、という新ジャンル
揚げパンスイーツ、という新ジャンル
ソース!? コロッケ感覚ということ? (でもソフトクリームが乗ってる)
ソース!? コロッケ感覚ということ? (でもソフトクリームが乗ってる)
どんと押し出されたこれらのメニューに心惹かれなくもないが、ここはぐっと我慢して、とにかく普通のコッペ揚げパンをオーダーすべきだろう。

と、一度はそう決めたのだが、せっかくはるばるやって来たのだ。やっぱり揚げパンアイスとやらも食べたい。さほど小食な方ではないが、相手は揚げパン。ザ・揚げ物だ。2個も胃に収めて平気だろうか。
食券機を前にして、真剣に悩んだ。
食券機を前にして、真剣に悩んだ。
時刻は朝10時半。うん、きっと大丈夫。このためにお腹を空かせておくべしと、ホテルの朝食バイキングを泣く泣く諦めた私だ。

今この瞬間、揚げパンを迎え撃つ心構えは名古屋一であろうと思う。よし、普通の揚げパンと揚げパンアイスもくださいな…!
オーソドックスな「さとう」と、牛乳+ミルメークも買った
オーソドックスな「さとう」と、牛乳+ミルメークも買った

揚げパン=油っこい、という誤解

お店では作り置きはしていないそうで、全て注文を受けてから、揚げたてを用意してくれる。

これが噂のコッペパン揚げパンというものか、と感慨深く思いながら早速齧ろうとしたらお店の方に止められた。「アイスが溶けちゃうから、そっちを先にを食べない方がいいですよ!」と。 なるほどもっともだ。自分はまだまだ揚げパンに対する作法がなっていなかったな、と反省しつつ、差し出された揚げパンアイスを受け取った。
こちらがその揚げパンアイス。中にソフトクリームが挟まっている。
こちらがその揚げパンアイス。中にソフトクリームが挟まっている。
揚げたてのパンはさくっと薄いクラッカーのように歯ごたえがよく、冷たく甘いアイスとの相性も絶妙だ。 とにかく食感が軽いので、あっという間に一個ぺろりと食べてしまった。

お店の方によると、この揚げパン+ソフトクリームというメニューはこの店独自のものではなく、元々関西の方で考えられたものなのだという。

揚げ物の割にはどっしりとお腹に貯まることもなく、さらっと食べられる手頃なおやつ、という印象。2個購入するのに躊躇していたが、これなら何の問題もなく完食できそうだ。
そしていよいよ「給食の揚げパン」、コッペパン揚げパンに初挑戦だ
そしていよいよ「給食の揚げパン」、コッペパン揚げパンに初挑戦だ
キラキラした砂糖が美しい。ちなみにお店には砂糖の他にも「きなこ」「シナモン」「ココア」など、各種メニューが取り揃えられている。自分の学校はこれだった!というニーズにもばっちり対応だ。

一番の売れ筋を尋ねてみたが、不思議なことに日によって人気が異なるのだという。「砂糖が出る日は砂糖ばっかりだし、きな粉の日はきな粉ばっかりなのよ」と。
ここで一緒にミルメークも。私の学校は液体状だったので、粉末が新鮮。
ここで一緒にミルメークも。私の学校は液体状だったので、粉末が新鮮。
ミルメークは選べる7種類。こちらの一番人気ははっきりしているらしい。「いちご」がダントツだそうだ。
ミルメークは選べる7種類。こちらの一番人気ははっきりしているらしい。「いちご」がダントツだそうだ。
では、改めましていただきます
では、改めましていただきます
先ほど同様、とても食感が軽やか。サクっとしていて重たくない。

おまけに揚げたてということもあってか変にべちゃっとしていることもなく、砂糖のしゃりしゃり感もあいまって食が進む。正直、もっと油っこくてしつこいものかと思っていた。しかし実態は甘くてさくさく香ばしい。いちご味に変身した牛乳とも、もちろん相性抜群だ。

なんだ、いいやつじゃないかコッペパン揚げパン。これまで相容れない存在だと思っていたが、急激に仲良くなれそうな気がしてきた。2011年冬、揚げパンの壁はあっさり崩壊だ。
店内には交流ノートも。ざっと見る限り女子高生(中学生?)が書いたと思われるメッセージで溢れていた。
店内には交流ノートも。ざっと見る限り女子高生(中学生?)が書いたと思われるメッセージで溢れていた。
そんなわけで浮かないよう、精一杯演出してみた女子高生らしさ(書いた内容に嘘はない)
そんなわけで浮かないよう、精一杯演出してみた女子高生らしさ(書いた内容に嘘はない)

2件目はちょっと変わった揚げパン

さて次に訪れた揚げパン専門店も、同じく愛知県にある。
夕日を浴びる揚げパン屋さん
夕日を浴びる揚げパン屋さん
こちらも店名が可愛い。パンでポン。
こちらも店名が可愛い。パンでポン。
揚げパン屋は可愛い店名にすべし、という虎の巻でも出回っているのだろうか。こじんまりとしたお店だが、堂々と書かれた「あげパン専門店」の文字に心が踊る。
そう、ここの揚げパンはあんこ+おもちが入っているらしいのだ
そう、ここの揚げパンはあんこ+おもちが入っているらしいのだ
喜んで外観の写真を撮っていると、なんとなく店内から不思議そうな目を向けられているような気がして無駄に焦る。

怪しい者ではないんです、揚げパン買いに来ただけなんです、と心のなかで言い訳しつつそそくさと慌てて店に飛び込んだ。こういうところで堂々としていられないから余計に不審がられるのだと思う。今後の克服課題としたい。
さておき、入店。とてもシンプルなメニュー構成。
さておき、入店。とてもシンプルなメニュー構成。
秋冬の限定揚げパンも
秋冬の限定揚げパンも
店内は注文のカウンターがあるのみで、飲食スペースなどは用意されていない。メニューも1件目のお店と違い非常に簡潔。要はあんこの揚げパンかカレーの揚げパンか、という2択だ。それに加えて季節限定メニューとしてお芋の揚げパンもあるという。

どれも「給食に出た懐かしの~」という雰囲気ではない。このお店オリジナルの揚げパンということだろう。カレーはなんとライス(!)が入っているらしく、この点が普通のカレーパンとも異なる。

売れ筋を聞いてみると、やはり住宅地の中という場所柄かやや高齢のお客様が多いようで、あんこの方がよく出ますねとのこと。
迷ったがさすがに3つは食べられそうにない。あんこと、季節メニューのお芋を購入。
迷ったがさすがに3つは食べられそうにない。あんこと、季節メニューのお芋を購入。
こちらも作り置きはしていないそうで、注文ごとに揚げたてを作ってくれる。店内は大人が数名入ればもういっぱいになってしまうくらいの広さだったが、それでもひっきりなしにお客さんが訪れていた。地元の方々に愛される、地域密着型のお店であるようだ。

さて、それにしてもこのまま東京に持って帰るわけにもいかない。せっかくの揚げたて揚げパン、どこかに食べられそうな場所はないものかしら。

公園と少年とパンを食う妖怪

ベンチでもあればいいのにとキョロキョロ歩いていると、近くでちょうどよい公園を見つけた。
誰もいない、夕暮れ時の小さな公園。揚げパンを食べるのに適した環境であると判断した。
誰もいない、夕暮れ時の小さな公園。揚げパンを食べるのに適した環境であると判断した。
まずはあんこ+もちの揚げパンから
まずはあんこ+もちの揚げパンから
中のあんは、やや甘さひかえ
中のあんは、やや甘さひかえ
1軒目同様、まず感じるのはサクっとした歯ざわり。しかし全体的に軽い食感だったあちらと比べて、こちらはパンの表面はさくさくしているが中の生地部分にもっちり感がある。あんこのボリューム感もあいまってしっかりとした食べごたえがあり、一つでかなりお腹が満たされる。

最初に食べた揚げパンとは全くの別物だ。
2つ目。この、生地の粒々がサクサク感をいい具合に引き立てている。
2つ目。この、生地の粒々がサクサク感をいい具合に引き立てている。
中にはお芋。スイートポテトに近い味。
中にはお芋。スイートポテトに近い味。
一口に揚げパンといえど様々だなあ、と思いつつ味わっていると、人気の無かった公園に一人の少年が走りこんできた。小学校3-4年といったところか。
少年っていつの時代もやたら薄着ですよね。寒くないのか。
少年っていつの時代もやたら薄着ですよね。寒くないのか。
「ねえ!こっちで子供見なかった!?」

と聞かれた。銭形警部ばりの質問を繰り出してくる少年である。君以外には見てないよ、そもそも揚げパンに夢中で周りが見えていないからね、という内容を(後半部分を略して)伝えると、「ふーん!」と言いながら公園の遊具の影などをうろうろし始めた。

「○○公園って言ったのになー!」と一人で叫んでいる。どうしよう、と迷ったが思い切って話しかけてみた。

「お友達探してるの?」

できるだけにこやかに声をかけたつもりだったが、彼はちらりと私を見ると無言でだだーっと公園から走りさってしまった。風の子か。綺麗に無視されてしまってちょっとだけ悲しい。

このご時世、変な大人に声をかけられても無視しなさい、という話かもしれないが、最初に声をかけてきたのは向こうの方だ。ということはあれか、もしかして夕暮れの公園で揚げパンを食べる類の妖怪か何かと思われたか。
まあ、怪しい女ではあるよね
まあ、怪しい女ではあるよね
妖怪パン食い女はパンを食べ終えたら東京へ帰りますので安心しなさい少年よ
妖怪パン食い女はパンを食べ終えたら東京へ帰りますので安心しなさい少年よ
冬の公園は時折強い木枯らしが吹き、手にした揚げパンの袋がバサバサなびく。陽もどんどん傾いてきて、そろそろ薄暗くなってきた。

変な都市伝説にならなきゃいいなぁと思いながら完食した揚げパンの味は、ややスリリングな思い出と共に心に残りそうだ。

揚げパンにハズレなし

2件の揚げパン専門店を訪問し、4種類の揚げパンを食べ比べた。結果はどれも満足、ハズレなしだ。
せっかくの名古屋で味噌カツでもひつまぶしでもなく揚げパンを食べ続けた一日だったが、それぞれバリエーションに富んでいたおかげか途中で飽きることもなく、よい揚げパン日和であったと思う。
学んだこと:コッペパン揚げパンは袋必須(砂糖がこぼれまくる)
学んだこと:コッペパン揚げパンは袋必須(砂糖がこぼれまくる)
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