特集 2011年12月16日

小松菜を軸とした江戸川土産の提案

最終的には土産をプロデュースします
最終的には土産をプロデュースします
観光地には様々な土産が売られている。

その観光地を代表するメジャーな一品もあれば、箸にも棒にもひっかからずひっそりと店頭から消えていく不人気商品もあるだろう。だが、なぜそのような明暗が分かれるのか?

売れるにしても、売れないにしても、そこにはなにかしらの理由があるはずだ。人気・不人気の理由を探ってみることにした。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

前の記事:恋のランキングでモテ男になる

> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

紅葉の鎌倉へ

紅葉も最盛期を迎えた11月中旬、神奈川の古都・鎌倉を旅した。今年は夏を超えても暑い日が続いたため色づきは今一つという声も聞かれたが、晩秋の鎌倉は美しかった。
紅葉まっさかりの鎌倉
紅葉まっさかりの鎌倉

鎌倉・小町通りで聞き込み

今回は、そんな鎌倉で土産のリサーチを行う。いくつかの土産物店を巡って「売れ筋の土産」と「ぜんぜん売れない土産」を聞き込むのだ。
鎌倉駅前の小町通り。土産物店がならぶ
鎌倉駅前の小町通り。土産物店がならぶ
店頭の目立つ位置に出てるのは人気商品だろう
店頭の目立つ位置に出てるのは人気商品だろう
雑貨屋の入口にいたから、こいつもきっと人気なんだろう
雑貨屋の入口にいたから、こいつもきっと人気なんだろう
1軒目は小町通りの入り口にあるバラエティショップ。お菓子やキーホルダー、おもちゃまで幅広い品ぞろえである。

さっそく店員さんに聞いてみた。売れ筋の商品は何ですか?
鎌倉の土産全般が揃う店
鎌倉の土産全般が揃う店
売れ筋商品①「大仏モチーフのキーホルダー」
売れ筋商品①「大仏モチーフのキーホルダー」
売れ筋商品②「鎌倉らしさのあるお菓子」
売れ筋商品②「鎌倉らしさのあるお菓子」
大仏と並ぶ鎌倉の顔「鳩」にちなんだお菓子も人気。特に鳩サブレーが有名
大仏と並ぶ鎌倉の顔「鳩」にちなんだお菓子も人気。特に鳩サブレーが有名

ポイントは「ご当地感」

店員さんに聞いてみると売れるのは鎌倉ならではのご当地感があるもの、ココでしか買えないもの。特に、鎌倉の顔でもある大仏モチーフの土産はよく売れるらしく、大仏キティちゃんのキーホルダーなど様々な大仏コラボ商品が見られた。
お店オリジナル商品の「金の義経人力車もっこり」。これも「ココでしか買えない」という理由で人気
お店オリジナル商品の「金の義経人力車もっこり」。これも「ココでしか買えない」という理由で人気
逆にあまり売れていないのは「バスケ部」のキーホルダー。鎌倉関係ないうえに「部活が限定されてしまうから」人気がないらしい
逆にあまり売れていないのは「バスケ部」のキーホルダー。鎌倉関係ないうえに「部活が限定されてしまうから」人気がないらしい
同じ理由で「野球部」もあまり売れない
同じ理由で「野球部」もあまり売れない
確かに「ご当地感」は土産にとって一番大切な要素だろう。基本中の基本だが、足元だけに意外とおろそかになってしまうポイントかもしれない。

長く店をやっていると大仏だけでなくバスケも売りたくなるものかのかもしれないが、旅の記念品である土産にはやはりベタなご当地感が求められているようだ。
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さらに人気土産の傾向を探る

小町通りには、いわゆるベタなご当地土産を扱う店以外にも様々な専門店がある。いくつか巡って人気・不人気を聞いてみよう。
石やガラス玉を使ったアクセサリー専門店
石やガラス玉を使ったアクセサリー専門店
かわいいアクセサリーがいっぱい
かわいいアクセサリーがいっぱい
売れ筋はブレスレッド
売れ筋はブレスレッド
一番人気と不人気を聞いたら、わざわざ売り上げデータを調べてくれた。ホントすみません
一番人気と不人気を聞いたら、わざわざ売り上げデータを調べてくれた。ホントすみません
この店の売れ筋はブレスレッド。そのなかでもとくに人気があるのは「単色より複数の色の石を組み合わせたもの」「恋愛運、金運など石に意味があるもの」「地味な色より明るい色(女性客中心なので一番人気はピンク)」。

けっきょく明るく華やかで目立つヤツがモテるのだ。でも地味な僕たちがいるからこそ、その光がより明るく輝くことを忘れないでほしい。
複数の石や飾りを組み合わせたコチラの商品。恋愛の御利益もあって人気 ※腕毛は気にしないでください
複数の石や飾りを組み合わせたコチラの商品。恋愛の御利益もあって人気 ※腕毛は気にしないでください
逆にこういう地味なものは女性に好まれないらしい。まあそうだろうなと思うけど、なんとなく残念な気分になる
逆にこういう地味なものは女性に好まれないらしい。まあそうだろうなと思うけど、なんとなく残念な気分になる

根強い干支人気

続いて訪ねたのはお箸の専門店。例によって売れているものと売れていないものを聞いたのだが「売れないものは置かないからねえ…」と困らせてしまった。売れてないものをわざわざ買おうとする僕はよほどの博愛主義者か変態に映ったことだろう。
お箸専門店
お箸専門店
1000円前後でお洒落な箸が買える
1000円前後でお洒落な箸が買える
店内には雅な和柄やドクロマークをあしらったものなど、様々なデザインの箸がディスプレイされていた。1000円前後とお手頃な価格のものが多く無料で名前も入れてくれるという。
干支をあしらったお箸もあった
干支をあしらったお箸もあった
なかでも人気なのは、干支をあしらったこのお箸。来年の辰年はもちろん、自分や友人、家族の干支のものをまとめて買っていく人が多いらしい。自分の干支の箸を名前入りでプレゼントされたら確かに嬉しいかもしれない。
続いては染てぬぐいの専門店
続いては染てぬぐいの専門店
柄のバリエーションが豊富
柄のバリエーションが豊富
やはりここでも一番人気は来年の干支「辰」をあしらったデザイン
やはりここでも一番人気は来年の干支「辰」をあしらったデザイン
逆に不人気なのはトーンが暗いもの
逆に不人気なのはトーンが暗いもの
ここでも干支ものは根強い人気を誇っていたのだが、なかでも色味が明るく派手なものがよく売れていた。特に外国人には和柄のなかでも派手なものが好まれるらしい。額縁に入れて飾った時にインパクトのある柄が良いようだ。

ちなみに、夏は白地で涼しげなもの、冬は暖色系の暖かいものが人気。暗い色や沈んだ色のものは年間通じて人気がないとか。とにかく地味なのはイカンらしい。
傘屋の売れ筋は意外なものだった
傘屋の売れ筋は意外なものだった

戦国武将傘が大人気

和傘からビジネス用まで色とりどりの傘が揃う専門店。ここの売れ筋はコチラ。
持ち手の部分が刀風
持ち手の部分が刀風
刀を模したこちらの傘。子供からおじいちゃんまで幅広い層に人気があり、特に外国人にはハカウケの一品らしい。
修学旅行生向けに学割もあるのが嬉しい
修学旅行生向けに学割もあるのが嬉しい
刀のデザインはひとつひとつが有名武将のバージョンになっている
刀のデザインはひとつひとつが有名武将のバージョンになっている
特に人気があるのは新選組、真田幸村、伊達正宗など。一方、数年前の大河ドラマで脚光を浴びた前田慶次だが現在は今一つの売れ行き
特に人気があるのは新選組、真田幸村、伊達正宗など。一方、数年前の大河ドラマで脚光を浴びた前田慶次だが現在は今一つの売れ行き
刀シリーズの人気を受けて、西洋の剣を模したものも登場する加熱ぶり
刀シリーズの人気を受けて、西洋の剣を模したものも登場する加熱ぶり

新選組人気が急上昇中

最近はゲームやアニメの影響で戦国武将人気が女性にも広がっていることから、女性客にもよく売れるという。特に新撰組が人気とか。
周囲を見渡すと、確かに刀を背負う外国人の姿がちらほらと。ホントに売れているみたいだ
周囲を見渡すと、確かに刀を背負う外国人の姿がちらほらと。ホントに売れているみたいだ

豆はどうだ

では、食べ物の場合はどうだろう? 何か売れ筋の傾向はあるのだろうか。通りの中ほどにある「豆」の専門店をのぞいてみた。
煮豆や甘納豆、落花生まで400広く揃う
煮豆や甘納豆、落花生まで400広く揃う
一番人気は「チーズ豆」
一番人気は「チーズ豆」
逆にあまり売れていないのは「グリーン豆」
逆にあまり売れていないのは「グリーン豆」

売れる理由「うまいから」

一番人気を聞いたところ「よくぞ聞いてくれました」という感じでお勧めされたのがこの「チーズ豆」。人気の理由をきいたら「うまいから」とのことである。おお、思わず柏手を打ってしまうほどのシンプルなお答えが返ってきた。「うまいから売れる」至極真っ当で、豆屋としてのプライドが垣間見える骨太の答えだ。

でもそうなるとあまり売れない「グリーン豆」はあまりおいしくないのかしら?という話になってくるがそういうことではない。もちろんおいしいのだが、グリーンピースを使っているため若干クセがあり、苦手な人も多いため人気がないのだ。
ちなみに鎌倉名物のシラス丼もうまい。名物にうまいものなしというけれど、違う。うまいから名物になったのだ
ちなみに鎌倉名物のシラス丼もうまい。名物にうまいものなしというけれど、違う。うまいから名物になったのだ
では、けっきょく「売れる土産」とはどんなものか? 調査の結果をまとめるとこんな感じだ。

・ご当地感があるもの
・その場所でしか買えないもの
・干支にちなんだもの
・外国人には和柄で派手なもの、女性には明るく華やかなものが人気
・恋愛運や金運にちなんだもの
・夏は涼しげなデザイン、冬は暖かいデザイン
・武将もの(一番人気は新撰組)

なんとなく傾向が分かってきた。上記の傾向を踏まえれば誰でも売れる土産をプロデュースすることができるのではないだろうか? うん、やってみよう。
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土産で地元を盛り上げたい

せっかくなので地元の土産をプロデュースすることにしよう。人気土産の第一の条件は、先に述べた通り「ご当地感」である。では僕が現在住んでいる東京都江戸川区のご当地感といえばなんだろう?
ヒントは地元に何店舗か展開する和菓子屋にあった
ヒントは地元に何店舗か展開する和菓子屋にあった
こちらの看板商品は江戸川区名産の小松菜を使った「小松菜餅」
こちらの看板商品は江戸川区名産の小松菜を使った「小松菜餅」
ゆるキャラもいるほど、小松菜は地元ではポピュラーな存在
ゆるキャラもいるほど、小松菜は地元ではポピュラーな存在
あと、こちらは名産の金魚をモチーフにした饅頭「金とと」
あと、こちらは名産の金魚をモチーフにした饅頭「金とと」

江戸川区といえば「小松菜」と「金魚」

そう、江戸川区は小松菜の産地として有名なのである。江戸時代に現在の東京都江戸川区小松川付近で栽培され始めたといわれ、地元では小松菜を使った焼酎やアイスクリーム、うどん、バームクーヘンなどもある。

また、金魚も誇りである。以前に記事でも書いたが日本の金魚三大生産地として知られており、今も2軒の養魚場が存在。夏には金魚まつりも催される。

というわけで今回は小松菜と金魚を軸とした江戸川土産の新ブランドを考えることにした。
江戸川区の誇りその1・小松菜
江戸川区の誇りその1・小松菜
江戸川区の誇りその2・金魚
江戸川区の誇りその2・金魚

小松菜のキャラ

まずはブランドの顔となるキャラクターがほしいところ。当然、小松菜か金魚をモチーフにしたキャラクターということになるが、ゆるキャラブーム全盛の今、ただかわいいだけのキャラクターではインパクトがない。
かわいいけど、ブランドをPRするにはインパクトにかける
かわいいけど、ブランドをPRするにはインパクトにかける
悩んでいても仕方ないので、とりあえず小松菜の擬人化を試みる。
とりあえず目玉をつける
とりあえず目玉をつける
とりあえず目玉をつけるというのは擬人化のセオリーとして当サイトでも度々取り上げられてきた手法だ。物言わぬ野菜に一気に意思が宿ったようである。
ぼく、埼玉産ですけどね
ぼく、埼玉産ですけどね

小松菜を新選組にする

ただ、これではちょっと生々しい。かわいさにも欠ける。なにか服を着せよう。

そういえば鎌倉では新選組が人気だった。よし、小松菜を新選組の隊士にしてしまおう。ネーミング的に小松菜の「新鮮」というイメージにもぴったりだ。
新選組といえば水色と白の斑点
新選組といえば水色と白の斑点
色画用紙を使った簡単な工作で
色画用紙を使った簡単な工作で
隊士の制服を作る
隊士の制服を作る
すっぽり
すっぽり
あらかわいい
あらかわいい
小松菜新選組
小松菜新選組
思いのほかかわいらしく仕上がった小松菜新選組。ご当地感と武将人気を兼ね備えた、ブランドの顔を任せるに足るキャラクターである。

金魚を「辰」にする

さらに、金魚もなんとかしたいのだが、ここで思い出されるのが「干支にちなんだものは売れる」というセオリー。来年は辰年。新選組だけでなく辰に絡めたキャラクターもほしいところだ。
我が家の金魚、辰にならんかな
我が家の金魚、辰にならんかな
見ようによっては金魚もどこかしら辰っぽいところがある。ということで我が家の金魚をどうにかして辰に変身させてみることにした。
辰の画像を参考に
辰の画像を参考に
まずは色を緑に変える
まずは色を緑に変える
さすがに直接色を塗るような金魚虐待はできないので、フォトショップ上で金魚の色を加工。髭や角などを描き足して、金魚を辰に近付けていく。
髭や角をプラスしてみるが
髭や角をプラスしてみるが
うーん…
うーん…
何をどうしても、ぬぐいされない圧倒的な金魚感。金魚を辰にするのはちょっと無謀だったようだ。気持ち悪いし、これは却下。メインキャラクターは小松菜新選組でいくことにする。
それにしても、かわいいな
それにしても、かわいいな
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「小松菜新選組」を軸にしたブランド展開

キャラが決まればそれを軸に様々な土産物の展開ができる。キーホルダーやストラップ、ステッカーなども作れるし、お菓子のパッケージに起用することも可能だ。
お菓子のパッケージを変えてみよう
お菓子のパッケージを変えてみよう
まずは撮影した小松菜隊士をフォトショップで加工
まずは撮影した小松菜隊士をフォトショップで加工
パッケージの柄をフリー素材から選ぶ
パッケージの柄をフリー素材から選ぶ

外国人ウケする派手な和柄を採用

パッケージの柄は外国人を意識して金色の派手な背景に桜吹雪が舞う豪華なものを選んだ。これにブランド名と隊士の写真をのせていく。
派手さの中にも品を感じさせる背景
派手さの中にも品を感じさせる背景
ブランド名はそのまま「小松菜新選組」とした
ブランド名はそのまま「小松菜新選組」とした
完成。「江戸川区銘菓詰合せ 小松菜新選組」
完成。「江戸川区銘菓詰合せ 小松菜新選組」
中身は江戸川区銘菓の詰合せです
中身は江戸川区銘菓の詰合せです
先にリサーチした売れる土産の条件のうち「ご当地感」「その場所でしか買えないもの」「和柄で派手なもの」「武将もの(新選組)」の4つを取り入れた。ヒット間違いなしである。

ぼくはマーケティングというものをしたことがないのだが、その真似ごとを今回はじめてやってみて「売れるものには理由がある」ということをつくづく感じた。市場にはヒット商品のヒントが転がっているのだ。

ただ、その分析結果を生かすか殺すかは開発者のセンス次第。マーケティング部門が一生懸命集めたデータをいかにアウトプットできるかが勝負なのである。
アウトプットの結果
アウトプットの結果
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