特集 2011年12月26日

インド料理店で食べる「カレーうどん」

新鮮なような気がする響き
新鮮なような気がする響き
子供にも人気のあるメニューの代表格、カレー。私も大好きで、大人になってからはインド料理の店にもよく行くようになった。 カレーと一緒に食べる主食は、そのときによってナンやサフランライスを選ぶというのが一般的な食べ方だと思う。それは私も同様だ。

しかし、ごく稀に他の選択肢が目に入る場合がある。それは、うどんだ。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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食器内で一体化するインドと日本

カレーを食べに入ったインド料理店で目にする「カレーうどん」の文字。店員さんもインド人、テレビに映っているのもインド映画という中で、カレーうどん。虚を突かれたような気持ちになる。
よく見かけるこうした店頭の様子
よく見かけるこうした店頭の様子
様々なインド系メニュー
様々なインド系メニュー
インドカレーを食べにきて、ナンかライスかを迷うことはあるが、そこにうどんはなかなか入ってこない。それゆえに、気になりながらも選んだことはないインドカレーうどん。

しかし、食事をして店を後にした際も心に残るのは「カレーうどん、あったな…」というモヤモヤ。今回はそれを解消すべく、始めからカレーうどん狙いでインド料理屋を訪れよう。

まずやってきたのは、東京・新宿区にある「スバ・ラクシュミ」という店だ。地下にある店だが、地上の入り口付近にはたくさんのメニューが紹介されている。ここ10年くらいでずいぶん増えたインド料理店の店先で、こうした感じのディスプレイをしばしば見かける。
そこにあるのはやんわりとした違和感
そこにあるのはやんわりとした違和感
ただこの店の場合、微妙な異彩を放つメニューが押し出されているのだ。「インドカレーうどん」という響きが、そこはかとなく新しい。
地下の飲食店という感じの店内
地下の飲食店という感じの店内
基本的にメニューはオーソドックス
基本的にメニューはオーソドックス
店内はインド風のタペストリーが飾ってあったり、テレビでインドの映画が流れていたりと、よくあるインド料理店の雰囲気。店員さんも現地の方のようだ。

昼時に訪れたのでランチメニューをまずは見てみよう。一般的なセットメニューが並んでおり、そこにうどんの入り込む余地はなさそうに見える。しかし、別の紙にしっかりとそれはあった。
独立してるカレーうどんメニュー
独立してるカレーうどんメニュー
カレーうどん専用のメニューが一枚用意されていたのだ。ラインナップもベジタブル・チキン・シーフード・プラウン(エビ)・マトンと豊富。左上に「当店おすすめ」とも書いてあり、カレーうどんを推す店の姿勢がよく伝わってくる。
今回はベジタブルをチョイス
今回はベジタブルをチョイス
同行者のスペシャルセットがうまそう
同行者のスペシャルセットがうまそう
これだけ選択肢があるのは意外だったが、とりあえず一番値段の安かったベジタブルカレーうどんを注文してみよう。

しばらくすると、同行者が頼んだカレー・ナン・ライスなどがセットになったランチメニューがやってきた。ステンレスの器に盛られてくるのがインド料理店らしく、実においしそう。そしてあとから私の注文品がやってきた。
違和感登場
違和感登場
これがベジタブルカレーうどん。メニューにある写真と同じようなものがちゃんと出てきた。

そば屋のそれとは違う、はっきりとスパイシーな香り。そこにチラチラ見え隠れする白いうどんがまだ見慣れない。
竜「なんかおかしくね?」
竜「なんかおかしくね?」
そして箸は和風
そして箸は和風
違和感の正体は食器にもあると思う。うどん的な器ではなく、ラーメン丼なのだ。メニューの写真でもこうなっていて気になっていたが、ちゃんとそのまま出てきた。

インド(カレー)+日本(うどん)+中国(ラーメン丼)という国際的な構成。頭を軽く混乱させる。
持ち上げてみてもうどん
持ち上げてみてもうどん
うはは、うまいね
うはは、うまいね
味の方は、まずカレーがガッチリとインドカレーでうまい。そしてうどんは「それが何か?」と言わんばかりに、当たり前のようになじんでいる。

そば屋のカレーうどんのように、和風のダシやつゆの甘みはそこにないカレーうどん。だけれどもしっかりおいしい。カレーの浸食力と、うどんの適応力の幅広さが、食べる前の違和感を覆すようにマッチしている。

店員さんに、インドにもカレーうどんはあるのか聞いてみたところ、「アリマス!」との答え。本当なのだろうか。
チキンチリの右上がソーセージ炒め
チキンチリの右上がソーセージ炒め
そして焼きバージョンも
そして焼きバージョンも
メニューには純粋なインド料理にとらわれないものがあるのも楽しいお店。さらには焼きうどんまであって、どんだけうどん推しなんだと思わされる勢いだ。
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日本的システム導入のインドカレーうどん

続いてやってきたのは、東京都足立区にある「ナラヤニ」というお店。
鮮やかで目立つ店構え
鮮やかで目立つ店構え
レジ奥にはインドの神様いっぱい
レジ奥にはインドの神様いっぱい
こちらは建物の一階のお店ということもあって、店構えからしてポップな色づかい。内装もインドの装飾品などが飾ってあり、よく見かけるインド料理店の雰囲気だ。
やっぱりこっちにしようかと誘惑される
やっぱりこっちにしようかと誘惑される
チキン系だけでも6種類と充実
チキン系だけでも6種類と充実
夜だったので、メニューでまず目に留まるのはディナーセット。そして単品メニューもカレーの種類がかなり多く、どれもこれもおいしそうで迷い始めてしまいそうだ。

しかし、その迷いは許されないのが今回の来訪。
箸で持ち上げてうどんをアピール
箸で持ち上げてうどんをアピール
うどん追加システム導入
うどん追加システム導入
メニューの片隅にひっそりあるのではなく、ドーンと一枚専用の紙があるのは先ほどの店と同様。どうしてインド料理店なのにこんなにうどん推しなのか。

具の違いで選択肢は4種類。さらにはあらかじめ大盛りにできるだけでなく、食べてからうどんを半玉追加できるようにもなっている。つゆが残りがちなカレーうどんという料理をしっかりわかっているように思える。
フェイク系カレーうどん
フェイク系カレーうどん
今回はチキンカレーうどんを注文。やってきたのは、うどんっぽい器に入れられたカレーうどんだった。

先の店よりもカレーうどんの体を為している。紙製のスリーブに入った「おてもと」と併せて、そうと知らなければそば屋のカレーうどんのようだ。万能ネギが散らされているのもそれに輪をかける。
うわー、やっぱインド
うわー、やっぱインド
お前、インド出身だろ
お前、インド出身だろ
だからこそ、食べてみて思いっきりインド味なのに目が覚まされる。うっかりしてた、ここはインド料理屋だったんだ。

けれども、半端のないインドカレーとうどんとのマッチングは全く問題ない。この店でも店員さんに、インドにもカレーうどんはあるのか聞いてみたところ、「ナイデスネ…」とのこと。さっきの店と話が違うのはどうしてか。

続いては埼玉県三郷市にある「マカル」という店。
店頭にインド国旗がたなびく
店頭にインド国旗がたなびく
木訥とした文字もこの手の店の味わい
木訥とした文字もこの手の店の味わい
住宅街にひっそりとあるタイプの店。インドの国旗が掲げられていなければ、昔からありそうなそば屋か何かのような雰囲気でもある。

ネイティブの方が経営しているとわかるのが、店頭の手書きメニューボード。一生懸命書いていることが伝わってくる文字には、なぜか訴求力を感じる。
「お選び」って漢字がかわいい
「お選び」って漢字がかわいい
でも中はグイグイとインド
でも中はグイグイとインド
しかも「選」という字を漢字で書いてあるのが健気。結構難しい字なのに、ひらがなに逃げずしっかり形をとれている。

それでも店内に入ると、そこは容赦なくインド。バリバリと神様の絵が飾ってあって、一気に空気をもっていかれる。
インドの本気出してきてる
インドの本気出してきてる
お釈迦様に見守られながらメニュー選択
お釈迦様に見守られながらメニュー選択
メニューはチキンカレーだけでもかなりの種類。チキンムグライ・チキンベイガン・チキンパラック・カラヒチキンなど、名前だけでは意味がわからないのがずらずらと並ぶ。

どれも食べてみたいが、今夜は一択。メニューの中からカレーうどんを見つけて、それを注文だ。
つゆの質感がそば屋系カレーうどん的
つゆの質感がそば屋系カレーうどん的
やってきたのはこんな感じのカレーうどん。これまでの中で最も日本のカレーうどんに近いように見えるのは、つゆに相当するカレーがインドインドしていないからだろう。
具の組み合わせが新鮮
具の組み合わせが新鮮
そして器がでかい
そして器がでかい
この店ではカレーうどんの種類は一つで、鶏肉が入っていたのでチキンカレーうどんということになるだろう。それよりも個性的なのは野菜の具で、モヤシ・ネギ・トマトという組み合わせが新しい。

日本では通常一緒に使われないそれらも、カレーに入るとみんな仲良し。全く違和感を感じなくなるのが不思議だ。実際、カレーの作りもこれまで店とは違って、めんつゆ的な味わいが少々感じられるようにも思えた。

器は和風で大きさも特徴的。普通のうどんやラーメンの丼よりも、一回り大きい。
カレーうどん単品はメニューになし
カレーうどん単品はメニューになし
日本的黄金コンビ
日本的黄金コンビ
さらに個性的なのは、カレーうどんはライスとのセットメニューになっているということだ。カレーうどんのみという注文の仕方は、メニューを見る限りない。ここには当然、お店側のメッセージが込められているのだと思う。
こういうオプションが標準装備
こういうオプションが標準装備
2度楽しめるシステム
2度楽しめるシステム
つゆとしてのカレーはたっぷり目に入ってるため、うどん完食後にご飯を投入する流れも自然。やや日本のカレーうどんっぽさを漂わせながらも、しっかりインド系スパイスも香るカレーは、ご飯を合わせるとインドおじやのようになっておいしい。

ネパールの方だという店員さんに、本国にもカレーうどんはあるか聞いてみたところ、「ないですね。日本のやきそばやうどんが好きで、カレーうどん出してみました」とのこと。かの国での存在の有無は未だはっきりしない。
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インドのお父さんが作った風カレーうどん

最後にやってきたのは、千葉県松戸市にある「ラジャ」というお店だ。
実は高貴な名前の店
実は高貴な名前の店
扉にはいくつかの国は文字の張り紙が
扉にはいくつかの国は文字の張り紙が
調べてみたところ、ラジャとは貴族の称号であるらしい。その音が含まれるマハラジャという言葉は日本人でも聞いたことのある人が多いと思うが、王という意味になるらしい。

窓や扉にはいろいろと張り紙がしてある。まずはそれらを見るのも楽しいのがこの手の店だ。
オーソドックスなセットメニューの写真
オーソドックスなセットメニューの写真
よく見るとサラダがモヤシ
よく見るとサラダがモヤシ
なんか気になるメニュー
なんか気になるメニュー
これ、はじめは600円のつもりだった?
これ、はじめは600円のつもりだった?
カレーやナン、ラッシーの並ぶセットメニューのサラダが、なんだかモヤシ入り。

インドのピラフ風料理にビリヤニというものがあるが、それとは別なのかこの店では「インドスタイルチャーハン」というメニューも存在。気になりどころがいろいろある。
ここにもあったカレーうどん
ここにもあったカレーうどん
カ、小さく書き過ぎちゃったんだね
カ、小さく書き過ぎちゃったんだね
張り紙ではカレーうどんもアピールされていた。シンプルなのが逆に興味を引くデザイン。「おいしいよ。」と小さくあるのも、耳元で囁かれたような気分になる。

よく見ると「カ」を最初小さくしすぎて書き直しているらしいのも読み取れる。一文字目で全体のバランスに気づいてよかったと思う。
勝手に地元の食堂風と想像
勝手に地元の食堂風と想像
右から、インド・インド・北海道
右から、インド・インド・北海道
店内は、実際に行ったことがないのに、現地の食堂ってこんな感じかなと思わされるような雰囲気。インドっぽい装飾もあるにはあるが、グイグイ迫る感じではない。

窓際に置いてあった工芸品も、インド押しかと思えば鮭をくわえた熊も混ざってる。絶妙なバランス感覚だ。
なんかこれまでのと違うぞ
なんかこれまでのと違うぞ
そしてやってきたカレーうどんは個性的。チキンとほうれん草があったので、後者を頼んでみたところ、思いっきり緑色だ。
ネギの切り方がでかい
ネギの切り方がでかい
はっきりとピザ用チーズ
はっきりとピザ用チーズ
ネギが散らされているのはこれまでと同様だが、白くて切り方が大きいのはここだけ。チーズはピザ用のがしっかりそれとわかるように乗せられている。

土曜日のお昼にインドのお父さんがササッと作ってくれた昼ごはんのようなカレーうどん、とでも言えばよいだろうか。カレー部分は本格っぽいのに、それ以外がダイナミック。
なんか見たことない食い物だなー
なんか見たことない食い物だなー
とは言えベースは本格インドカレー
とは言えベースは本格インドカレー
これまでの店のがまだ日本的なカレーうどんの要素を残していたのに対し、これはそういうこととは関係なく、ガッツリとしたインド+うどん。粘度高めのカレーソースがしっかりとうどんに絡んで、これはこれではっきりうまいと言える料理となっている。

ご主人にインドにカレーうどんはあるか聞いてみたところ、「ナイデス」ときっぱり。「自分で考えたんですか?」と聞くと、「ソウデス」とのこと。日本のカレーうどんに影響されない独自性が新鮮だった。

インドスタイルチャーハンの実態
インドスタイルチャーハンの実態
これまで気になりつつ手が伸びなかった、インド料理店のカレーうどん。食べてみるとそれぞれ微妙に違いがあってどれもおいしかった。

インドにカレーうどんがあるかの問いに対する答えは、「ある」対「ない」が1:3という結果に。調べてみると、基本的にはないようだけれども、ごく一部ではあるというようなことがわかったので、店員さんの答えは妥当だったのかもしれない(参考ブログ)。

上の写真は最後の店でカレーうどんと一緒に頼んだインドスタイルチャーハン。確かにビリヤニとは違っていて、インドのスパイスが漂う家庭料理のチャーハン的料理。説明に偽りなしと感じた味だった。
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