ひらめきの月曜日 2012年2月13日
 

ぼ、僕なんかが美術館のレセプションに行ってもいいんですか…!

着々と進む社交界の準備
着々と進む社交界の準備
僕は岐阜県の田舎で生まれ、田んぼに囲まれて思春期を迎えた。実家から最寄りのコンビニまでは約3キロ、自転車なら行きは10分だが、帰りは25分かかった。(家が山の上だからすごい坂なのだ)
その後なにかの間違いでうっかり東京なんかに出てきてしまったが、いまでも好きな食べものは芋と柿である。

そんな僕が、び、美術館のレ、レセプションなんかに行ってもいいんです…か…!(鼻血&卒倒)
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
> 個人サイト nomoonwalk

完全に余談だがこういうとこで育った
完全に余談だがこういうとこで育った

地方出身者、レセプションに行く

僕の友人であり、テクノ手芸部というユニットで活動しているよしださん(※)が、東京都現代美術館で展示をすることになった。そのオープニングレセプションがあるから来なよ、と誘われたのである。(というのは見栄で、本当は「行きたい!」と自分で言ったのだが)

※よしださんは、過去に当サイトにも登場していただき、すね毛を抜かせてもらったりテクノ手芸を教えてもらったりしています
すね毛を抜かれる筆者(写真左)とよしださん(写真右)。こんな写真で紹介することとなり恐縮だがよしださんはアーティストである。
すね毛を抜かれる筆者(写真左)とよしださん(写真右)。こんな写真で紹介することとなり恐縮だがよしださんはアーティストである。
勢いで「行きたい!」と言ってみたものの、そもそもオープニングレセプションってなんなのかよくわかっていない。買い物したときにもらえるレシートの英語表記が「receipt」であることは知っているけど、あれと関係があるのだろうか。(語源までさかのぼればあるいは…)

レセプションって何だ

インターネットで検索してみた。
「オープニングレセプション」っと…
「オープニングレセプション」っと…
出てきたのは、
・ルイ・ヴィトン 東京 オープニングレセプション
・ジュエリーブランドPANDORA旗艦店 オープニングレセプション
・イグレック・パリ神楽坂店のオープニングパーティーの様子
などなど…。
……
……
いやな予感がする。

出てきた動画をおそるおそる再生してみると、高そうなスーツに身を包んだ人たちが、ワイングラス片手に歓談している。テーブルには立食形式のビュッフェが並べられ、弦楽隊が清楚な音楽を奏でる。テロップで参加者のプロフィールが紹介される。ファッション関係者にアーティスト、モデル、実業家、そして職業はわからないがかっこいい外国人…。
うう…
うう…
少し昔の話をさせてほしい。

僕が通っていた高校の体育祭では、全員が100m、400m、1500m走のうちどれかひとつを選んで出場しなければいけなかった。1500mも走りたくなかった僕は、「100m走を選んで人数オーバーで不人気な1500mにまわされる」という事態を避けるため、最初から400mを選び、すんなり勝ち取った。

ところが当日。僕はその日が来るまでまったく知らなかったのだが、400m走とは花形競技であったらしいのだ。錚々たるスポーツエリート達に囲まれて圧倒的最下位でのゴールを果たした。当時気になっていた女の子からは「なんか走り方へんだったね」というコメントをいただいた。

あの時と同じである。レセプションとはパーティー界の花形競技だったのだ。知らなかった。そこはまるで少女漫画に出てくる社交界。高級スーツを身にまとったエリート階級のみが集まる空間。ジーンズにネルシャツのしがない編集者など一人もいなかった。
ジーンズにネルシャツのしがない編集者
ジーンズにネルシャツのしがない編集者

俺はバカだ

浮く。これは確実に浮く。

いやいやこれはルイヴィトンだからだろう、世の中にはもうちょっと庶民的なオープニングレセプションもあるはずだ。そう思って今度は「友達の展示 オープニングレセプション」で検索してみる。するとそれなりに庶民的なレセプションの情報も出てくるのだ。

…しかし考えてもみろ、僕が行くのは東京都現代美術館だ。Wikipediaによれば日本最大の美術館(※)なのである。庶民的なわけないだろ、バカ!俺のバカ!

※館の床面積で。Wikipediaによる。

できる範囲でがんばるしかない

そんなふうに自分を責めていたのがレセプション前日のこと。そして一夜明けて当日。やっぱり行くのやめようかな…、と思っているところによしださんからメールが来た。
「オープニングレセプションの件、美術館に連絡したので、入り口で名刺見せれば入れますよ」
とのこと。あとへは引けない状況になった…。

しかたない、自分がやれる範囲でがんばるしかない。へんな走り方でも400mとりあえず走るしかない。
がんばった
がんばった
結婚式用の一張羅のスーツを着込み、いつもほったらかしの頭もヘアワックスで固めた。ワイシャツだって隠しボタンのオシャレなやつだ。

思えば大学生くらいまでは、オシャレといえば自分をかっこよく見せるためのものであった。しかし大人になると必要に迫られてオシャレをしなければならないシーンがままある。たとえば、美術館のレセプション。10代の頃にかっこつけを一切あきらめてきた我々にとって、そういったシーンは本当に鬼門だ。(そういうわけなのでスーツは妻が選んだ)
チーフはTPOがよくわからないのでとりあえず隠し持っていくことにした
チーフはTPOがよくわからないのでとりあえず隠し持っていくことにした
高級ブランドのスーツではないものの、それなりに体裁は整ったと思う。ただ、ふだんから着てるわけじゃないのでやっぱりボロが出る。
2年ほど前から靴底がずっと割れたままだ
2年ほど前から靴底がずっと割れたままだ
雨の日はこの割れ目から水が染みて大変なことになるのだが、幸い今日は降ってない。

さあ、精一杯の準備はした。あとは現場での次第だ。あのハイソな空間、ハイソな人たちに馴染めるだろうか。失敗したら会場の隅でずっと携帯いじり続けることになるぞ。あとトイレにすごい何回も行ったりとか…。

戦場へ

緊張すると咳が出る体質である。激しく咳き込むたびに、冬の冷たい空気が肺に沁みた。
この中に社交界が…。
この中に社交界が…。
今日からついに社交界デビューか、それとも隅で携帯ポチポチか。
ドア脇に立つ警備員に軽く会釈をし、運命の扉をくぐる。
広っ…
広っ…
なによりその広さに圧倒された。会場は展示室の一角なのかと思っていたら、ただっ広いエントランスホールがぜんぶ会場であった。

奇跡のプレスパス

受付に向かい、事前に言われたとおり名刺を差し出す。そのとき、僕の運命が動いた。
プレス腕章だ…
プレス腕章だ…
広報の方がプレスのパスをくれたのだ。よしださん、僕のことは報道関係者として美術館側に連絡してくれていたのである。

あっ、ありがたい…。

歓談の輪に入れなくても、記者だったら写真でも撮ってれば間が持つ。さらにインタビューを装って適当な人に話しかけることもできるし、なにより仕事中の名目なのだ。ひとりで行動していてもまったく自然。

このパスは、パーティーにおける人見知りの免罪符みたいなものなのだ。
一気に安心した…。
一気に安心した…。
そして安心の材料がもう一つ。この会場、ものすごくでかいのだ。ルイヴィトンの動画みたいに一室でみんなが談笑してるわけじゃない。広い館内では談笑してる人もいるしベンチに座ってる人もいる、じっと資料見てる人もいる。まるで大きな公園のようで、なにしてても誰にも気にされない雰囲気だった。
のでとりあえず一番すみっこに座ってみた。落ち着く…。
のでとりあえず一番すみっこに座ってみた。落ち着く…。

平静を取り戻したのでここからはレセプションのレポートです

正直、入場時は生きた心地がしなかったのだが、こうした好条件により心はすっかり平穏を取り戻した。
すこやかな気持ちで荷物をロッカーに入れる。そのうちなんだかセレモニーが始まったぞ。
たくさん人が順にあいさつしていく
たくさん人が順にあいさつしていく
ここでわかったんだけど、このレセプション、テクノ手芸部だけのものじゃなかった。

テクノ手芸部と、同室で一緒に展示をするQosmoというユニット、ここまではわかってたのだが、それにくわえて2つの大きな企画展、さらに常設展示室での特集展示まで。ほぼ美術館丸ごと、みたいな勢いでのオープニングレセプションだったのである。そりゃ会場もでかいわけだ…。
あいさつするテクノ手芸部のおふたり(マイク持ってるのがよしださん、左の女性がかすやさん)
あいさつするテクノ手芸部のおふたり(マイク持ってるのがよしださん、左の女性がかすやさん)
ちなみにテクノ手芸部のあいさつは、(前の人が長く喋りすぎたため)司会の人に「一言でお願いします」と念を押された上で、よしださんが早口で10言くらい喋るというスリリングなものであった。
あいさつが一巡するとセレモニーも終わり、あとで記念撮影させてもらいました。
あいさつが一巡するとセレモニーも終わり、あとで記念撮影させてもらいました。

これがレセプションか!

セレモニーが終わると、フードとドリンクが出てくる。
フライ!
フライ!
ラップ!
ラップ!
チップス!
チップス!
無限ドリンク!!!
無限ドリンク!!!
ご歓談だ
ご歓談だ
これがレセプションの正体か!
みんなこうやって飲んだり食べたりしながら、談笑したり社交したりするのだ。
僕はといえば、唯一の知り合いであるところのよしださん、かすやさんが忙しそうなので、ひとりでワインを一杯だけいただいた。
手持ちぶさたなのでほぼ一気飲み
手持ちぶさたなのでほぼ一気飲み
これが目立たない雰囲気でよかった…。

ただ、寂しい思いはしなくて済んだ。だって、全く予想していなかったもう一つのお楽しみがあったのだ。
それが内覧会。

たのしい内覧会

なんとこれから始まる展示が見放題なのだ。しかも今回は企画展も常設展も始まるので、館内ほぼぜんぶ見放題。
人が少ないのですごく見やすい (「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展示風景)
人が少ないのですごく見やすい (「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展示風景)
かっこいいマンモス (ヤノベケンジ/ロッキング・マンモス/2006)
かっこいいマンモス (ヤノベケンジ/ロッキング・マンモス/2006)
思わず走り回りたくなるほど見放題(走り回るのは禁止されています) (「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展示風景)
思わず走り回りたくなるほど見放題(走り回るのは禁止されています) (「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展示風景)
ここがテクノ手芸部の展示のあるブルームバーグ・パヴィリオン
ここがテクノ手芸部の展示のあるブルームバーグ・パヴィリオン
テクノ手芸部の作品。目の部分には小さい映像が流れている。このサイズで手刺しフェルトは気が遠くなる作業だ… (テクノ手芸部/オオサンショウウオ/2012)
テクノ手芸部の作品。目の部分には小さい映像が流れている。このサイズで手刺しフェルトは気が遠くなる作業だ… (テクノ手芸部/オオサンショウウオ/2012)
かすやさん本人が「新興宗教みたい」と言ってた作品 (テクノ手芸部/うさぎ(回転)/2012)
かすやさん本人が「新興宗教みたい」と言ってた作品 (テクノ手芸部/うさぎ(回転)/2012)
ここで友達に会った!当初の目的「歓談・社交」もここへ来てついに達成(マフラー巻いてるのは会場が屋外で寒いから。)
ここで友達に会った!当初の目的「歓談・社交」もここへ来てついに達成(マフラー巻いてるのは会場が屋外で寒いから。)
これ、楽しいんですよ。ふつうに来る美術館とは一味違う。だってまず空いてる。しかも一般公開前。先取りなのだ。

くわえてワイン飲んだあとほろ酔いで作品を見る、というのはこういう機会でもないとなかなかできない。いいよ、すごくいい。

まあ時間が90分しかないので、広い館内をあんまりゆっくりは見られないんだけど、ビュンビュン飛ばしながら高速で見ていく美術館というのもなんだかスリリングなものがあった。そしてこんどまた来て、ゆっくり見たくなった。

いちおう報道っぽい仕事を

プレスで入った以上、ちょっとは報道っぽいこともしておかねば。ということで、結局オープニングレセプションとはなんだったのか。改めて広報の方に聞いてみました。
広報の野口さん。変な質問で大変恐縮です…
広報の野口さん。変な質問で大変恐縮です…
−−オープニングレセプションって何なんですか?
「当館では2部構成になっていまして、まず第1部はプレスの方に広報目的の情報提供をするものです。本日は学芸員が展示室で解説をするプレスツアーを行いました。

 第2部では関係者の方もお招きして、セレモニーを行います。その後レセプションパーティーとして交流の場も設けさせていただき、同時に内覧会では展示もごらんいただいております。」


−−レセプションはどうしたら参加できるのですか?
「作家の関係者などのほか、東京都現代美術館友の会の賛助会員の方もご招待しています。」

ここに参加したい人は作家の関係者になるか、友の会の賛助会員になればいいとのこと。賛助会員は年会費10,000円。若干、値は張りますが、美術にちょっとでも興味がある人なら、おもしろい体験ができますよ。

ハイソサエティじゃなくてもよかった

緊張して挑んだレセプションだったけど、いざ飛び込んでみるとすごく楽しいものだった。こんなことなら何回でも行きたい。
美術館で見ると心なしかゴミもアートっぽく見える…と思って撮ったんだけどあとで見たらどう見てもゴミでした
美術館で見ると心なしかゴミもアートっぽく見える…と思って撮ったんだけどあとで見たらどう見てもゴミでした

展示情報

今回のテクノ手芸部の展示は、ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクトの一環です。

「ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト」
東京都現代美術館敷地内に建てられたパヴィリオンを舞台に、1年間に渡り9つのプログラムを開催しています。

Qosmo×テクノ手芸部 2012年2月4日(土)〜3月4日(日)
Qosmoのインスタレーションと、テクノ手芸部(かすやきょうこ+よしだともふみ)による電子工作と手芸を組み合わせたワークショップ+展示を行います。

東京都現代美術館:ホームページ
テクノ手芸部について:テクノ手芸ウェブ

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