ちしきの金曜日 2012年2月24日
 

本気で作るとコマは3分回る

この小ささ、そしてこの回転(いまこれ回っています)。
この小ささ、そしてこの回転(いまこれ回っています)。
「全日本製造業コマ大戦」というイベントが2月2日に横浜で行われた(こちらのサイトに動画もあります)。

コマ?と思うだろう。そう、コマなのだ。この大会は全国の製造業にたずさわるみなさんが、その技術力をコマに託してぶつけ合うというなんとも平和な(しかし実際はかなり熱い)戦いなのでした。

今回はこの大会で優勝したコマを作った工場を見せてもらってきました。
1975年愛知県生まれ。行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。

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製造業のイメージが一新されます

前述のコマ大会で優勝したのがこちら「株式会社由紀精密」。看板からしてソリッドな魅力であふれている。
触ると切れそうな看板。
触ると切れそうな看板。
由紀精密は主に金属の精密加工を行っている会社。いわゆる「町工場」という雰囲気ではなく、なにかの「研究所」みたいな印象を受けた。
金属加工の精鋭、高木さん(左)、八木さん(右)
金属加工の精鋭、高木さん(左)、八木さん(右)。
この二人が作りあげ、見事大会で優勝したコマがこちらである。
優勝した精密コマ。無駄のないシェイプ、鈍色の金属がかっこいい。
優勝した精密コマ。無駄のないシェイプ、鈍色の金属がかっこいい。

言ってしまえば飾りっ気のないコマだ。だけど回すとすごい。

由紀精密では大会で回したこのコマと同じ形状の、二回りくらい小さいタイプのものを一般向けに販売している。

「コマ大会のあと、コマの注文が殺到しまして。いま、えーっと、1000件くらい入ってるんじゃないでしょうか。作れるのが1日せいぜい100個くらいなので、待ってもらってる状態ですね。」

これが市販品。大会に出たコマをダウンサイジングして材料をステンレスに変えたもの。
これが市販品。大会に出たコマをダウンサイジングして材料をステンレスに変えたもの。
ぱっと見止まっているようにしか見えない。
ぱっと見止まっているようにしか見えない。
市販サイズのコマもとにかくよく回る。小さいので指先でつまんで指を鳴らすときのようにして放つと、うなりを上げながら回り、回転軸が安定するとピタリと静止するのだ。

もちろん実際には静止していない。回転が速すぎて回っているのに止まっているように見えるのだ。いわく「3分以上回る」のだとか。

やっぱり作るのたいへんなんだろうか。

「手作業の部分がありますからね。たとえば持ち手のローレット(ギザギザの加工)は最近まで社長が入れていました。」
このギザギザ、社長作。
このギザギザ、社長作。
このコマが一個840円である。

コマを削る機械は1台だけなので、コマの人気が他の製品の製造に影響を与えることはないらしいのだけれど、それにしてもこの精度の製品をこの値段で販売していて儲けはあるのだろうか。

「ステンレスの削りだし、って製品としてそんなに多くないんです。材料が高いから削って粉を出すのがもったいないですからね。でも削りだしじゃないと精度が出せないから削りだしてるわけなんですけど。」

ずばり製造コストに数百円かかっている製品を840円で売るっているのだそうな、社長がギザギザ付けて。

「ええ、まさかこうなるとは思っていなかったので、この売値を付けたんですが…」と言っていた。
これが今回の大会に出たコマたち。
これが今回の大会に出たコマたち。

優勝すると全部もらえる

ところで前述のコマ大会、おもしろいところというか怖いところというか、優勝したチームは出場したコマを全部もらえるのだという。

というわけで優勝した由紀精密さんには、いま出場21チームの全コマが揃っている。

--これで他社のコマの研究ができちゃいますよね

「ええ。でも今年でだいたい勝ち方というか、強いコマの特徴がばれちゃいましたからね。来年は規格が変るかもしれないですね。」
中でも強かったのがこの4つ。形も材質もさまざまです。
中でも強かったのがこの4つ。形も材質もさまざまです。
これが由紀精密の優勝コマ。よく覚えておいて下さい。
これが由紀精密の優勝コマ。よく覚えておいて下さい。
コマ大会は円形の土俵の上で行う。1対1で計2つ、同時に回して長く回っていた方が勝ちとなる。

土俵はすり鉢状になっているため、コマはおのずと真ん中に集まり、ぶつかり合う。その時に相手をはじき出してもいいし、敵をかわして回り続ける作戦でもいい。

大会に出られるコマの規格は直径だけ。他社のコマを見比べると、その形の裏にいろいろな戦略が見てとれた。
A社のコマ。あくまで低重心にこだわったシェイプ。持ち手にもこだわりが見られる。
A社のコマ。あくまで低重心にこだわったシェイプ。持ち手にもこだわりが見られる。
普通に考えると重心が低いコマが有利だと思う。それは由紀精密のみなさんもそう言っていた。しかし中には性能よりも個性で勝負してくる会社もある。
バネ会社であるB社製のコマ。宇宙っぽい個性的なシェイプの中にも中段にバネ業界の主張が見える作品。
バネ会社であるB社製のコマ。宇宙っぽい個性的なシェイプの中にも中段にバネ業界の主張が見える作品。
「チタン屋さん」C社の作品。重心の位置が変っていて、なんと回すとひっくりかえって回る。
「チタン屋さん」C社の作品。重心の位置が変っていて、なんと回すとひっくりかえって回る。
見た目で戦意を感じるD社製。ただ、思惑は外れあまり強くなかったらしい。
見た目で戦意を感じるD社製。ただ、思惑は外れあまり強くなかったらしい。

重ければいいってもんじゃない

「重ければいい、というのであればプラチナとか金を使うのが一番なんですよ」と。

加工できる金属の中で最も重いのはプラチナ、金のあたりらしいので、重さを追求するならこれらを使うことになる

「でも負けたら取られちゃうじゃないですか。そうなると高い金属は使えないんですよね」

そうだった…、取られちゃうんだ。

このくらいのサイズのプラチナのかたまりとなると、負けて取られるにはダメージがでかすぎる。というわけで由紀精密チームは一般的に使われる材料の中でも比重の重い銅とタングステンの合金を選んだ。

一見単純な形状の優勝コマの中にも、よく見ると勝つためのこだわりが随所にある。例えば土俵と接する点には滑りをよくするために別の部材を組み込んであったりする。
先端に滑りの良い素材を埋め込んでいる。ほんと細かい。
先端に滑りの良い素材を埋め込んでいる。ほんと細かい。
土俵と接する面(というか点)は小さければ小さいほど摩擦が少なくて有利かと思われた。しかし作ってみるとそんな単純ではなかった。

「コマ自体が重いでしょう、鋭すぎると刺さっちゃって逆に回らないんですよ」

加工が鋭すぎて土俵に刺さるのだ。そうか、そこまで考えていなかった。
他社のコマにもやはり先端に工夫が見られる。
他社のコマにもやはり先端に工夫が見られる。
まさに工夫のかたまりのようなこの精密コマ、どんな工場で作られているんだろう。現場を見せてもらった。

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