ちしきの金曜日 2012年3月23日
 

人ごみの中、一人ぼっちの写真を撮る

他に人がいなーい。
他に人がいなーい。
たとえばきれいな景色の写真を撮りたいとき、カメラを構えて人がいなくなった瞬間を狙って撮るだろう。

そうやってじっくり待てば人が途切れる瞬間もあるかもしれないが、混み合った観光地ではそれもなかなか難しかったりする。

そんなとき、自分以外の人を写真から消す道具があるのだ。未来っぽいけど、普通にカメラ屋に売っています。
1975年愛知県生まれ。行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。
> 個人サイト むかない安藤 ツイッター

誰もいない渋谷

下の写真を見てもらいたい。昼間の渋谷駅前、スクランブル交差点である。

いつもならばまっすぐ歩けないくらい人がいるのだが、写真にはまったく写っていない。たまにはこんな瞬間もあるのだろうか。
渋谷、無人。
渋谷、無人。
もちろんずっと見張っていれば運よくそういう瞬間も来るかもしれないが、そんないつ訪れるかわからない瞬間を気長に待てるほどの根気はない。

上の写真を撮った時は、実際にはこんな感じだった。
まあいつもの渋谷の風景ですな。
まあいつもの渋谷の風景ですな。
ではこの人たちをどうやって消し去ったのか。ジェロか。いやそれは演歌歌手だ、セロか。

いや、答えはこれである
エヌディーよんひゃくー(と書いただけでドラえもんの声になるのが不思議だ)。
エヌディーよんひゃくー(と書いただけでドラえもんの声になるのが不思議だ)。
カメラのレンズの前につけるフィルター、ND400。これをつけるとカメラに入る光の量が通常の400分の1になるというすぐれものである。

どうすぐれているのかはこのあと説明する。
ほとんど真っ黒。
ほとんど真っ黒。
レンズから入る光が少ないとどうなるかというと、カメラが勝手に考えて長い間シャッターを開けておいてくれるのだ。長い間開けておくことで入ってくる光の量をかせぐ。

するとどうなるかというと、止まっているものはそのままに、動いているものだけが大きくぶれてまるで消えたように写らなくなるのだ。

言葉で説明するより写真で説明した方がわかりやすいですよね。たとえばこの人ごみの中、壁画の写真を撮りたいとする
このくらい離れないと全体が見えない。でも離れると人しか写らない。
このくらい離れないと壁全体が見えない。でも離れると人しか写らない。
じっと待って人が少ない瞬間を狙ったが、それでもこのくらいいる。
じっと待って人が少ない瞬間を狙ったが、それでもこのくらい写り込む。
そこでND400の出番である。

このフィルターを付けて入ってくる光を抑えると、写真を撮るのに1分くらいシャッターを開けておく必要がある。カメラの前を歩いている人はその場所を一瞬で立ち去るのだけれど、普通のカメラならばその一瞬を切り取るので人が写る。しかし写真を撮るのに1分かかるカメラにとってはそんな一瞬など、ないと同じなのだ。

つまり
こうなる。
こうなる。
みごと歩いている人だけ消えるのだ。

これを使えば人でごった返す渋谷駅前だって
たくさんの人が
たくさんの人が
ほぼ消える。
ほぼ消える。

上の写真でぼんやりと残っている残像みたいなもやもやしたものは、動きが遅いか、ほぼ止まっていた人たちである。駅前だと待ち合わせなどでそこにとどまっている人もいるのだろう。

もっともっと時間をかけて、たとえば1時間くらいシャッターを開けて撮れば、きっともっとスカッと無人にすることができるはずだ。しかしそれには入ってくる光の量をもっともっと減らす必要がある、つまりこのフィルターを何枚も重ねなくてはいけないのだ。

やりたいのはやまやまだけれど、このフィルターは1枚3000円くらいするので日本の平均的なサラリーマンのおこづかいから考えるとこのくらいぼんやり人が残っているくらいが限界なんです。

これも渋谷。
これも渋谷。
それにしても目の前にたくさんいる人が写真には写らないというのは不思議な面白さがある。写るものと写らないものを自分で選べる優越感。1分くらいかけてゆっくりと写真を撮るのも新鮮で面白い。景色からじわじわと光を吸い取っているような感覚がある。

ではさらに、この中にぽつんと自分だけ写りこむことはできないだろうか。誰もいない大都会に自分だけ、っていう写真が撮れたらすごくないか。

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