特集 2012年4月19日

年季の入りすぎた食品サンプルメニューを実際に頼んだ

左がサンプルで右が実際に出てきたもの
左がサンプルで右が実際に出てきたもの
年季の入った食品サンプルがそのままになっている店をよく見かける。
中には年季が入りすぎて、そばつゆが器から浮いているイリュージョンを見せていたり、色が褪せて天ぷらが真っ白になっていたりするようなものもある。
しかし、これらの食品サンプルはあくまでサンプルで、店で注文しても年季の入った食品サンプルそのままのものが出てくるわけではないはずだ。
実際に頼んで食べてみたい。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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年季の入った食品サンプルはどこに行けばあるのか?

といっても年季の入った食品サンプルは、よく見かけるイメージはあるけれど今まであまり気にしなかったので具体的にこの店。というのがわからない。
わからないので「ええい、ままよ」と浅草に行ってみた。浅草なら食品サンプルの聖地ともいえる合羽橋にも近いし、古い食堂なども多いだろうという目論みだ。
浅草キター
浅草キター

期待以上の結果を見せてくれる浅草の食品サンプル事情

地下鉄浅草駅の出口を出るとすぐ近くに、いきなり年季の入った食品サンプルを展示している店があった。さすが浅草である。
浅草キター
浅草キター
残念ながらこの店はまだ準備中だったため、実際に食べることはできなかったのだけど、なかなか良い感じで年季の入っている食品サンプルだ。
寿司が脱走しかけてる
寿司が脱走しかけてる
右はじの食品サンプル。乱雑に置かれた寿司。見ようによっては寿司が逃げ出そうとしているようにも見える。
しかも、この「上の上ずし」という言い方は、この店オリジナルの頑張って考えた面白ネーミングなのか、それとも寿司業界ではよくある言い方なのか判別しずらい。ので、もし面白ネーミングだとしたらちょっとスベってるよなと、いらぬ心配をしてしまう。

さらに右端のチラシのサンプル。
まぼろしだから見えないんです!
まぼろしだから見えないんです!
昼と日曜日だけの「まぼろし特上チラシ」の表現として「空の寿司桶」という、とんちみたいな食品サンプルまであった。

「これ一休、まぼろしの特上チラシとやらを見せてくれ」
「将軍様こちらでございます、ただし、バカには見えないチラシ寿司でございます」
「うーむ、一休こりゃ一本とられたわい」
というような、どうでもいい光景が目に浮かぶ。

閑話休題。

年季の入った食品サンプルは蕎麦屋が多い

年季の入った食品サンプルがある営業中の店をさがして浅草を歩きまわっているとさっそく一軒目の蕎麦屋を見つけた。
年季が入っている食品サンプルがあった!
年季が入っている食品サンプルがあった!
遠目にみるとそうでもないのだけど、近寄ってよく観察してみるとなかなかどうして、けっこう年季の入った渋い食品サンプルばかりだ。
パイナップルとりんごの煮込みではなく、親子丼
パイナップルとりんごの煮込みではなく、親子丼
なるとの色使いのコントラストが非現実感を演出
なるとの色使いのコントラストが非現実感を演出
レゲエっぽいざるそば
レゲエっぽいざるそば
どう見てもなるとがフィクションっぽい
どう見てもなるとがフィクションっぽい
とりあえず、上の食品サンプルの中から、どう見ても現実感がない「おかめそば」をたのんでみることにした。
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食品サンプルそっくりなのが出た!

店内はごくごく普通のそば屋さんだ。
小さい座敷席がたまらない
小さい座敷席がたまらない
ちょっと小さい座敷があるところなんか、江戸のそば屋っぽくて実にいい。しばらくすると、おかめそばが出てきた。
おいしそう!
おいしそう!
表にある現実感のないおかめそばの食品サンプルに比べると実に本物っぽい。というか本物だこれ。
実物の存在感は偉大
実物の存在感は偉大
こんなにサンプル通りのものが出てくるとは思わなかったのでちょっとした驚きもある。カマボコの数が本物だと1コ多いぐらいで、上に乗っている具までほぼそのままだ。
味の連携プレーやー
味の連携プレーやー
しっかりとおつゆを含んだお麩やしいたけ、ほうれん草など、そばのアクセントとして見事なチームワークが、食べてて飽きないうまさ。あっという間に食べ終わった。

ところで気になるのは、あの食品サンプル。いつ頃からあそこに置いてあるのだろうか。お店の方に聞いてみたところ、いつ頃からかはわからないと言われてしまった。
ただ、少なくとも9年前からはあの状態で置いてありますよとのことだった。

常識的な形のしっぽ

つづいて訪れたのは、またもそば屋さんだ。そば屋さんは年季の入った食品サンプルを置いている確率が高いかもしれない。
全体的にくすんでいる
全体的にくすんでいる
ちょっと白っぽく変色した食品サンプルは強い日差しに耐えながら小さく佇んでいた。
カラカラに乾いている
カラカラに乾いている
ゴッホの絵を近くでみたみたいな山菜そば
ゴッホの絵を近くでみたみたいな山菜そば
お好み焼きのへらみたいなしっぽ
お好み焼きのへらみたいなしっぽ
しっぽがとれた
しっぽがとれた
中でもご飯つぶが判別できないぐらい細かくなってしまって、見た目は敷き詰めた大根おろしの上に海老天がのっているように見える天丼をたのんでみた。
じゃーん、普通だ!
じゃーん、普通だ!
出てきた天丼はいたって普通。
エビのしっぽもお好み焼きのへらみたいな三角形ではなく、常識的な形のしっぽだ。
!
食品サンプルばかり見てると、本物をみたとき「そうそう、確かにしっぽはこんな形してる!」と、当たり前のことをいま発見したみたいに思えるからいい。偽物を見ると本物を見る目が養われるのだ。たぶん。

南向きだから食品サンプルが傷みやすい

めがねがずり落ちるほどうまい
めがねがずり落ちるほどうまい
天丼は、たれをよく含んだしっとりめの衣と、ぷりぷりの海老という、昔ながらの奇をてらったところのない、安心できるうまさの天丼だ。

ところで、やはり気になるのは表の食品サンプル、先ほどの店は何年ものかわからなかったけれど、この店はどうか?

--表の食品サンプルけっこう年季が入ってますが、いつごろからおいてあるものですか?
「店が南向きだから、傷みやすいのよ、だから何回か取り替えてるんだけど、新しいのにしてからは7年ぐらいですよ」
ぼくの失礼な質問にも丁寧に答えてくれるおかみさん。あれだけ年季が入ったようにみえるけれど、まだ7年ぐらいらしい。

--やはり直射日光には弱いんですね。
「そうなのよー、昔はサンプル屋さんがきて洗ってくれたりしたんだけど、今はそういうのないから取替えなきゃいけないのよね」
昔の食品サンプル屋さんはアフターケアがしっかりしてたらしい。
合羽橋周辺
合羽橋周辺
--今の食品サンプルは合羽橋で?
「そう、合羽橋で買ったのよー」
ですよねー。と思わずあいづちをうってしまったが、やはりそうらしい。

さらに上を行く年季サンプルを発見

浅草周辺を年季サンプル(めんどくさいので略します)をさがしてウロウロしていると、こんどは喫茶店の年季サンプルを発見した。
雷門のすぐ横だ
雷門のすぐ横だ
喫茶店の食品サンプルといえば「コーヒー豆が直接カップに入ってるやつ」を思い浮かべるけれど、確かに喫茶店にも年季サンプルは多い気がする
全体的に白っぽいピザトースト
全体的に白っぽいピザトースト
けっこう色が残ってるナポリタン
けっこう色が残ってるナポリタン
そばと天丼ですでに胃は限界にたっしているものの、なんとかピザトーストぐらいはいける。これは実際に食して確認しなければなるまい。
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サンプルの方もそこそこうまそうに見えてくる

ピザトーストを注文して待つこと5分ほど、でてきたものがこれだ。
本物のピザトーストきた!
本物のピザトーストきた!
サンプルに比べると具が大きめだけども、マッシュルームやピーマン、トマトなどのトッピングはサンプル通りといえる。
!
しかし、こうやって写真に撮ってみると、サンプルのほうのピザトーストも年季が入っているとはいえ、なんだかうまそうに感じてきた……。 これはあれか、美人は三日で飽きるけど、ブスは三日で慣れるというやつか?
うまい
うまい
出されたピザトーストは、パンが思いのほか柔らかく食べやすい。トッピングもいちいちでかいので食べ応えがある。うまい。
やっぱり美人の方がいい……。サンプルの方がうまそうってのは満腹感による気の迷いでした。すみません。

30数年前から置いてある。

陽気なおばちゃん
陽気なおばちゃん
ここでも一応、年季サンプルの年数を訊いてみた、

--すみません、表のサンプルいつから置いてあるんですか?
「あれ? ここ始めたころからだから34,5年になるわねーアハハハハー」

--すごい、ぼくとほぼ同い年(2歳ぐらいサバ読んだ)ですねー
「そうだわよー、孫がもう成人しちゃうぐらいだもの、アハハハー」

--え、お孫さん成人っておいくつなんですか?
「いくつに見えるかしら?」
しまった、つい勢いで歳を訊いてしまった。ここは正直に言うしかない。

--60ぐらいですか?
「75よーアハハハー」
えー、たしかに75には見えない。

--お元気ですねー
「そうかしら、アハハハー」
と、とにかくよく笑う陽気なおばちゃんだった。サンプルは開店時にやはり合羽橋で仕入れたものだそうだ。
そんなことを思いながらもう一度、表のサンプルを見てみるとなんだか愛おしくなってきた。
ウサギやネコの人形が実家っぽさを演出
ウサギやネコの人形が実家っぽさを演出

最後の大物、ちらし寿司

そば、天丼、ピザトーストと、もうおなかがいっぱいになってしまったので、家に帰るべく、地下鉄浅草駅に続く地下街に入っていったところ、今は見てはいけないものをみてしまった。
この感じ
この感じ
この雰囲気
この雰囲気
今までで一番「年季の入ってる」すしのサンプルを見つけてしまったのだ。
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ダークなオーラが漂う寿司のサンプル

浅草の地下街で見つけたのは、かなり年季が入りすぎて、いぶし銀の風格が漂う。とにかく写真を見ていただきたい。
漆黒のスシ
漆黒のスシ
黒光りしてる海苔がかっこいい
黒光りしてる海苔がかっこいい
黒い宝石箱やー
黒い宝石箱やー
アンニュイな新香巻
アンニュイな新香巻
もちろん照明の問題もあると思う。 暗いので食品を超越した存在感が出てしまっている点は否めない。が、それにしても鉄火丼やちらし寿司のこのダークさはなんだ? シューティングゲームの中ボスぐらいにこんなのがいたような気がする。
おなかいっぱいだけど、これは食べてみるしかない……。と、さんざん悩んだ挙句、ちらし寿司を頼むことにした。

すごいのが来た!

出てきたちらしをみて驚いた。
天使が出てきた!
天使が出てきた!
天使! エンジェル! アガペー! そんなちらし寿司で出てきた!
!
よく見比べてみると、レンコンやタマゴ赤身などに加えサンプルにはない海老やアナゴ、タコまで実物には乗っている。

まさにダークサイドとライトサイド。ダース・ベイダーってちらし寿司だったのか!

味はもちろんうまい

本当にうまかったので真顔
本当にうまかったので真顔
刺身のネタが新鮮でうまいのはもちろんなんだけど、玉子焼きも出汁がしっかり効いていてうまい。しかもこれ、ランチタイム価格で750円だった。値段も高くないのだ。まさに天使というにふさわしいちらし寿司だ。

創業50年以上で地下街の中では一番古いらしい

10人ぐらいで満席になるぐらいの小さなお店です
10人ぐらいで満席になるぐらいの小さなお店です
さっそく、おもてのサンプルについておっちゃんにきいてみた。
--表の食品サンプル、ずいぶん年季が入ってていい感じになってますけども、あれ何年ぐらい置いてあるものなんですか?
「うちは昭和30年代からやってるから、50年以上やってんのよ」

--昭和30年といえば、ここの地下街って……。
「えーと、昭和29年に出来た。うちはその数年後からずーっとやってんだよ、この地下街の中では一番古くなったな、周りはみんな変わっちまった」

おっちゃん、意外と話好きで、なかなか食品サンプルの設置年が出てこない……。

「隣はいまコインロッカーになってるけど、昔は果物屋でよ、で喫茶店になってコインロッカーになっちゃった」

--コインロッカーって味気ないですよね……ところで、表の食品サンプルいつごろから設置してたんですか?
「あれか? 一回改装したときにかえて以来かえてねえな。30年ぐらいか?」

でた! あのサンプル30年ものらしい。確かに30年の風格は出てる。
「そこの写真が改装したとき写真だからそれ以来だな」
改装したときの写真
改装したときの写真
今の様子
今の様子
すし屋のおっちゃんの話はこの後もしばらく続いたのだけれど、本稿にあまり関係ないので割愛させていただきます。

あえて年季の入った食品サンプルのメニューを注文してみる

昔、浅草寺の裏にあったスペースタワーの写真があった
昔、浅草寺の裏にあったスペースタワーの写真があった
普段は食品サンプルが古いメニューは注文をためらってしまいがちだけれけど、ほんのちょっとの勇気を出して頼んでみると、意外とちゃんとおいしいものが出てくるので面白い。

こんどはあの中ボスみたいな鉄火丼を食べに行こうと思う。
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