特集 2012年5月26日

生レバーがダメなら低温殺菌レバーだ

地味な和菓子選手権みたいな写真ですが、生レバー禁止に対抗する方法を考えました。
地味な和菓子選手権みたいな写真ですが、生レバー禁止に対抗する方法を考えました。
ご存知の通り、2012年7月1日より飲食店などで牛生レバーの提供が禁止となる。この件に関しては、みんないろいろといいたいことはあると思うけれど、こんな世の中じゃ、ポイズン。

とりあえず、その日がくるまでは生レバーを存分に楽しむとして、それ以降の長い日々を考え、低温殺菌牛乳みたいな調理方法を試してみることにした。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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牛生レバーを低温殺菌してみよう

牛の生レバーは残念ながら禁止されてしまうが、もちろん加熱したレバーなら今後も問題なく食べられる。

厚生労働省が通知している「生食用牛肝臓の取扱いについて (PDF)」によると、「牛肝臓を使用して食品を製造、加工又は調理する場合には、中心部を63℃で30分間加熱又は同等以上の殺菌効果のある加熱殺菌が必要である」と書かれている。
「気になるレバ刺しを、レバ刺し好きと食べ歩く</a>」の記事で食べた生レバ刺。こうやってみると、生で食べて大丈夫という方がおかしい気もする。もちろん大丈夫だったけど。
気になるレバ刺しを、レバ刺し好きと食べ歩く」の記事で食べた生レバ刺。こうやってみると、生で食べて大丈夫という方がおかしい気もする。もちろん大丈夫だったけど。
たとえば焼き肉のレバーだったら、両面をしっかり焼いても数分の加熱時間だ。この「63℃で30分間加熱」というのがピンとこない。それって、どんな状態になるのだろう。

ここで牛のレバーを、牛の乳に置き換えてみると、俄然イメージしやすくなる。牛乳だ。
牛レバーだけでなく、いろいろな食材も試してみることにしました。鶏レバー、牛肉、サバ、マグロ。
牛レバーだけでなく、いろいろな食材も試してみることにしました。鶏レバー、牛肉、サバ、マグロ。
通常の牛乳は130度で2秒とかの超高温瞬間殺菌だが、低温殺菌牛乳は63度で30分間加熱という低温保持殺菌をしている。そして大切なのは、低温殺菌牛乳はおいしいという点である。

搾りたての牛乳を生レバー、高温で殺菌した牛乳を焼き肉のレバーとすると、低温殺菌牛乳にあたる63度で30分間加熱したレバーの味、確かめてみる価値はあるだろう。

もしかしたら、生のレバーとまではいかないまでも、それに近い味わいを、安全に楽しめるかもしれない。
30分後に世界が滅びるのなら食べてもいいかなという刺身盛り合わせ。牛レバーは味付け焼き肉用しか手に入りませんでした。
30分後に世界が滅びるのなら食べてもいいかなという刺身盛り合わせ。牛レバーは味付け焼き肉用しか手に入りませんでした。
カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」のページには、「中心部を75℃以上で1分間以上加熱」で大丈夫と書かれていたが、せっかくなので、時間は掛かっても温度の低い方を採用してみることにした。

大鍋で少量を湯煎する

63℃で中心まで加熱し、その温度をキープする方法だが、牛乳のように液体だったら極弱火で煮ればいいが、牛レバーのように固形の場合はどうすればいいだろう。

いろいろ考えた結果、大きな鍋に63℃のお湯をたっぷりと沸かし、ラップで包んだ少量の食材を湯煎することにした。

イメージとしては、低温殺菌調理器(こういうやつ)のアナログ盤だ。
63℃がどれくらいの殺菌力があるか身をもって知るために指を入れてみる。一瞬ならギリギリ耐えられるくらいの温度。
63℃がどれくらいの殺菌力があるか身をもって知るために指を入れてみる。一瞬ならギリギリ耐えられるくらいの温度。
鍋の底は温度が高くなっているかもと上げ底式のパスタ鍋を使ったのだが、食材が浮いたので意味なし。
鍋の底は温度が高くなっているかもと上げ底式のパスタ鍋を使ったのだが、食材が浮いたので意味なし。
少量とはいえ、食材を入れた途端に当然水温が下がるので、弱火で63℃まで温め直す。上がりすぎたら差し水で調整。

水温にムラができないよう、常に鍋をかき混ぜながら、中心までしっかり温まるのを待ち、そこから63℃で30分間キープ。

トータル45分というところだろうか。なかなか集中力のいる作業だ。
水温が安定したら、火を止めて蓋をして保温。お湯の量が多いので、すぐには冷めない。
水温が安定したら、火を止めて蓋をして保温。お湯の量が多いので、すぐには冷めない。
加熱が終わったら、一応レバ刺の代わりということで、すぐに氷水で冷やした。
加熱が終わったら、一応レバ刺の代わりということで、すぐに氷水で冷やした。

味噌みたいになった

低温殺菌なので、もしかしたらほぼ生の状態がキープできているかなと思ったのだが、低温とはいえ殺菌ができるくらいの温度ということで、残念ながら変わり果てた姿になっていた。
左から時計回りにサバ、マグロ、牛肉、鶏レバー、牛レバー。「日本の五大味噌舐め比べ」をする訳ではない。
左から時計回りにサバ、マグロ、牛肉、鶏レバー、牛レバー。「日本の五大味噌舐め比べ」をする訳ではない。
なかなかのガッカリである。

でもあれだ、あまりに生の状態と同じだと、食べるのに躊躇してしまうだろうから、これでよかったのだと思って試食しよう。

食べてみると、やはり生ではまったくないのだけれど、高温で短時間殺菌した牛乳と、低温で長時間殺菌した牛乳くらいの差はあったようで、食材によってはとてもおいしくなった。
■牛レバー:生ではないが、ねっとりムニュムニュと柔らかい。上手に焼いたレバーの中心だけを食べているような感じ。レバーペーストみたい。
■牛レバー:生ではないが、ねっとりムニュムニュと柔らかい。上手に焼いたレバーの中心だけを食べているような感じ。レバーペーストみたい。
■鶏レバー:牛レバーよりもさらにキメが細かく、滑らかな食感。フワフワでアンキモ以上にクリーミー。びっくりした。
■鶏レバー:牛レバーよりもさらにキメが細かく、滑らかな食感。フワフワでアンキモ以上にクリーミー。びっくりした。
■牛肉:オーストラリア産の安い牛肉にしては柔らかい。しゃぶしゃぶは山頂のように沸点が低いところだとおいしいのかも。
■牛肉:オーストラリア産の安い牛肉にしては柔らかい。しゃぶしゃぶは山頂のように沸点が低いところだとおいしいのかも。
■マグロ:普通に煮たマグロよりは柔らかいが、やはり刺身に比べると全然固いしパサつく。弁当にはいいかもしれないが、朝の忙しい時間にこんなの作れるか。
■マグロ:普通に煮たマグロよりは柔らかいが、やはり刺身に比べると全然固いしパサつく。弁当にはいいかもしれないが、朝の忙しい時間にこんなの作れるか。
■サバ:皮の部分がトロトロでかなりのおいしさ。今まで圧力鍋を使って煮ていたが、低温でダラダラ煮るのもアリかもしれない。ただ骨は固いままだ。
■サバ:皮の部分がトロトロでかなりのおいしさ。今まで圧力鍋を使って煮ていたが、低温でダラダラ煮るのもアリかもしれない。ただ骨は固いままだ。
■タマゴ:鍋の中に生卵を入れておいたら、柔らかめの温泉卵ができあがった。
■タマゴ:鍋の中に生卵を入れておいたら、柔らかめの温泉卵ができあがった。
低温殺菌した牛レバーは、レバーペーストのように柔らかく、生レバーの代わりにはならないけれど、こういうものとしておいしかった。

しかし、なんといっても一番のヒットは、鶏レバーだろう。牛レバーが輸入冷凍物に味付けしたものだったのに対して、鶏レバーが国産で鮮度がよかったというのもあるが、このクリーミーさにはびっくりした。本当に火が通っているのか怪しいほどにフワフワ。
鶏レバーの断面はこんな感じ。
鶏レバーの断面はこんな感じ。
沸騰したお湯に鶏レバーを入れて、すぐ火を止めて保温するという調理方法は前からやっていたのだが、茹でる温度を63℃まで下げることで、別次元の味になった。

これだけでは食べ足りないと、すぐにまた63℃のお湯を用意し、残っていた鶏レバーをラップせずに低温殺菌して食べたが、やはりうまい。本当にプリンみたいな食感なのだ。
ごま油、醤油、ニンニクでレバ刺し気分。これ、レバ刺しより好きだ。
ごま油、醤油、ニンニクでレバ刺し気分。これ、レバ刺しより好きだ。
普通の加熱方法と違って、外側の色と断面の色が同じだ。それだけ均一に火が通っているということだろう。「低温の魅力」というやつだ。

もしかしたら、ちゃんとした牛レバーを使えば、これと同じクオリティが出るのかもしれない。

7月になってレバ刺しが恋しくなったら、こっそり試してみようと思う。

料理に詳しい人にとっては、低温の定温で茹でる料理は当たり前なのかもしれないが、私としては驚きが多い実験だった。

個人的には、牛レバ刺しが食べられなくなっても、家でこの低温殺菌鶏レバーを食べればいいかなと思うくらい気にいってしまった。

63℃の保温ポットが欲しい。
冷蔵庫に63度をキープできる機能があったのでこれも試したのだが、どうも見た目が生のまますぎて試食断念。
冷蔵庫に63度をキープできる機能があったのでこれも試したのだが、どうも見た目が生のまますぎて試食断念。
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