フェティッシュの火曜日 2012年7月24日
 

白ヤギさんにお手紙を食べてもらいたい

読まずに食べた
読まずに食べた
童謡「やぎさんゆうびん」のユニークな歌詞は、誰もが知るところだと思う。
登場人物は白ヤギさんと黒ヤギさん。相手から届いた手紙を、ヤギであるがゆえに読む前に食べてしまって、仕方がないので「ご用事はなあに?」という手紙をまた書いて……という微笑ましい情景が描かれている。

そんな童謡の世界を、本物のヤギで再現してみたい。手紙を読まずに食べてもらいたい。
石川県出身。以前は普通の会社員。現在は透明樹脂を用いたアクセサリーを作る人。好きな色は青。好きな石はサファイア。好きな犬はウェルシュ・コーギー。

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渋谷にヤギがいた

さて早速協力してくれそうなヤギの捜索を行なったところ、意外な場所に暮らしているヤギの存在を知ることとなる。渋谷駅からほど近い、一軒のカフェだ。
見たところ普通のお洒落なカフェだが
見たところ普通のお洒落なカフェだが
視線をずらすとヤギ
視線をずらすとヤギ
ヤギだ。ヤギがいる。

渋谷の街中に、唐突にヤギ。「メエー」と実にヤギらしい声が辺りに響いている。都会のBGMとしてはかなり特異といえそうだが、特に周囲の人が騒ぎ立てる様子もない。完全に馴染んでいるのだ。ヤギが。渋谷に。
カフェの一角に併設されたヤギ小屋、その中には真っ白な「さくら」と
カフェの一角に併設されたヤギ小屋、その中には真っ白な「さくら」と
黒っぽい「ショコラ」の2匹が仲良く暮らしている
黒っぽい「ショコラ」の2匹が仲良く暮らしている
このヤギたち、しぶやぎと呼ばれているそうで、過去多くのメディアで取りあげられたり、先日写真集も発売されたばかりなのだとか。有名ヤギだ。

ともあれ白ヤギと黒ヤギだ。例の童謡を再現するのにこれ以上の適役はいない。
しかしそのためには、お店の方に「すみませんがヤギで童謡を再現させてください」という突飛な依頼をしなくてはならない。かなりの確率で「変な奴が来ちゃった…」と思われるだろう。不審者扱いは勘弁願いたい。

結果的に普通に客として店内に入り、話を切り出すタイミングをもじもじと30分程探り続け、ようやくスタッフのお姉さんを捕まえてしどろもどろに事情を説明したところで「それならこちらに」と本社の連絡先を教えてもらい、後日改めて電話とメールで取材を申し込む、という手順を踏んだ。
お店の広報プレス担当様。この度は珍妙なお願いを聞いてくださってありがとうございました。
お店の広報プレス担当様。この度は珍妙なお願いを聞いてくださってありがとうございました。
そして快く了承。話の分かる方々で本当によかった。取材OKが出た時点でもう9割方記事が書けたような気さえした。はしゃぎすぎである。

ヤギの個性を探る

無事に取材許可が出たヤギたち。改めてまじまじ観察してみると、2匹の性格の差異に気付く。
白ヤギさくらは元気がよくてやんちゃ。メエメエとよく鳴いている。
白ヤギさくらは元気がよくてやんちゃ。メエメエとよく鳴いている。
檻の隙間から器用に顔を出し入れ。いつか角が引っかかりそうで心配。
檻の隙間から器用に顔を出し入れ。いつか角が引っかかりそうで心配。
黒ヤギショコラはマイペース。うろうろ歩きっぱなしのさくらに比べ、動かないし鳴き声も少ない。
黒ヤギショコラはマイペース。うろうろ歩きっぱなしのさくらに比べ、動かないし鳴き声も少ない。
散歩用のリードを付けて小屋から出してもらうと、更にその違いが顕著に分かる。行動パターンが全然違うのだ。
ヤギの散歩は人生初。見た目以上に力が強い。
ヤギの散歩は人生初。見た目以上に力が強い。
ショコラはマイペースながら好奇心旺盛。ちょっと噛み癖があるそうで、リード紐をもぐもぐと齧る
ショコラはマイペースながら好奇心旺盛。ちょっと噛み癖があるそうで、リード紐をもぐもぐと齧る
スカートの裾も齧る
スカートの裾も齧る
スニーカーの紐も齧る
スニーカーの紐も齧る
基本的に大人しい性格のショコラだが、好奇心は人一倍(ヤギ一倍)旺盛らしい。目についたものをなんでも齧ろうとするアグレッシブさを発揮している。

対するさくらはというと、すぐに小屋に引っ込んでしまって出てこない。
なぜなら彼女はお腹が空いているのだ
なぜなら彼女はお腹が空いているのだ
エサ箱を前に、「散歩なんかいいから早くご飯持ってきてよ」と無言のアピール。いや、メエメエ言っていたので無言でもない。さくらはとにかく食いしん坊。ショコラのご飯まで横から食べてしまうこともしばしばらしい。

2匹の性格はよく分かった。ではこれを踏まえて、肝心の手紙を用意するとしよう。
ヤギとのふれあいが楽しくて忘れそうになるが、今日の目的は手紙を食べてもらうことである。ヤギに齧られて満足している場合ではない。

ヤギへの手紙をどうやって作るか

童謡に習い、片方のヤギからもう片方のヤギに向けたお手紙を用意しよう。

ここで問題になるのはどうやって手紙を作るかである。紙を食べるイメージのあるヤギだが、本物の紙を食べさせてはいけない、というのは有名な話だ。(ヤギがお腹を壊します)

草っぽい紙ならいいのか。パピルスか。古代エジプトの知恵を借りればいいのか。
しかし迂闊なものを食べさせて、万が一にもヤギたちに不調が出てはいけない。できるだけ普段から口にしているものを使った方が安全だろう。そこでいつも、彼女たちが何を食べているかというと。
干し草のようなもの
干し草のようなもの
この他、乾燥した野菜くずなども。基本的に水分のあるものは好ましくないそうだ。
こちらの干し草は、これで2匹の食事一回分。見た目はごく普通の干し草だが、カフェという場所の特性上、ヤギの臭いを抑えるための特別な薬品なども配合されているらしい。

そうだ、この干し草を上手く並べて文字を作れないだろうか。
2匹のエサ箱を拝借してきた
2匹のエサ箱を拝借してきた
ちょうどよい大きさの箱があることだし、この中に草を並べて文字を作ろうという魂胆である。
干し草の中からできるだけ真っ直ぐなものをより分けて
干し草の中からできるだけ真っ直ぐなものをより分けて
並べて文字を形作っていく
並べて文字を形作っていく
ショコラ(黒ヤギ)からさくら(白ヤギ)への気持ちを代弁したメッセージを製作中だ。
現実社会のやぎ用お手紙が干し草だとすると、郵便配達員は干し草運搬員ということになりはしないか。「手紙」の定義がぐらりと揺らぎそうになるが仕方がない。

と、ここで一連の流れを撮影してくれていた編集部の石川さんが予想外の行動に出る。
「どんな味なのか気になりません?」との言葉を残して
「どんな味なのか気になりません?」との言葉を残して
食べた。ヤギより先に石川さんが食べた。読まずに食べた。(干し草を)

臭いを消す薬品が使われているとの説明を一緒に聞いていたはずなのに、この豪気な行動。「あんまり味はしないけど噛めば噛むほど草っぽい」という感想を述べている場合ではないです。石川さんはヤギではない。大丈夫なのだろうか。干し草の味を読者に伝えて臨場感を高めんとする編集部魂だろうか。でも、良い子は真似しないでください。
それを見守るヤギたち。高まる場の期待感。
それを見守るヤギたち。高まる場の期待感。

黒ヤギさんから白ヤギさんへ

とにもかくにも、手紙(のようなもの)が完成した。これだ。
犯行声明っぽいが違う。心のこもったお手紙である。
犯行声明っぽいが違う。心のこもったお手紙である。
メッセージは「エサヲトラナイデ(エサを盗らないで)」、普段からさくらにエサを奪われがちだという、ショコラの切実な心境を形にしたつもりだ。
しかし油断した隙に風で文字が崩れた。実写版やぎさんゆうびんは風に弱いという豆知識。
しかし油断した隙に風で文字が崩れた。実写版やぎさんゆうびんは風に弱いという豆知識。
気を取り直して、早速白ヤギさんの元へお届けしよう。
こんにちは。お手紙です。
差し出した瞬間、ものすごい勢いで食べだす白ヤギさん
差し出した瞬間、ものすごい勢いで食べだす白ヤギさん
これは読んでいない。確実に、読んでいない。
これは読んでいない。確実に、読んでいない。
ものの十数秒で手紙を食べ尽くした。白ヤギさんたら!
ものの十数秒で手紙を食べ尽くした。白ヤギさんたら!
読まずに食べました
読まずに食べました
よほど空腹だったのだろう。あっという間に手紙(という名の干し草)を食べつくした白ヤギさん。その表情がどこか不満気なのは黒ヤギさんからのお手紙を読まずに食べてしまったことへの後悔から……ではなく、単純に食べ足りないのだろうと思われる。

でももうちょっと待ってね。ここで白ヤギさんから黒ヤギさんへのお返事を書かなくてはならない。現在の心境を正直に書くなら「もっとエサ持って来い」だろうが、ここはやはり歌詞に従おう。
白ヤギさんからのお返事です
白ヤギさんからのお返事です
歌詞をなぞるならこれが正しい。「何?」という問いかけ。ご用事なあに? である。

尚この後、こちらのお手紙も一瞬で黒ヤギさんに食べつくされました。
そして以降は延々このやりとりが続くはずである
そして以降は延々このやりとりが続くはずである

ヤギと手紙と深まるミステリー

やぎさんゆうびんの歌詞。子どもごころに、その状況が今ひとつ納得できていなかった。届いた手紙は食べちゃうのに、書いている最中の手紙は食べたくならないの?という素朴な疑問である。

例えば、今回のさくら同様、手紙を受け取った時の白ヤギさんはとても空腹だったと考えればどうだろう。死にものぐるいで目の前の手紙を食べてしまい、空腹が満たされたところでハッと我に返る。しまった、黒ヤギさんからのお手紙を食べてしまったぞ。そして改めて要件を問いなおす手紙を書き……。いやダメだ、そんなに空腹なら、手元にあるその便箋を食べたら良かったんじゃないのか。どうなんだ。

考えれば考えるほど謎は深まる一方だが、何はさておき、渋谷のヤギはとても可愛いので皆会いに行ったらいいと思います。
撮影終了後、やっと普通にご飯タイム。お待たせしました。
撮影終了後、やっと普通にご飯タイム。お待たせしました。

桜丘カフェ
渋谷区桜丘町23-3 篠田ビル1F
TEL:03-5728-3242
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