特集 2012年7月31日

むしろ酢豚のパインを食べよう

酢豚のパイナップルだけ
酢豚のパイナップルだけ
酢豚におけるパイナップル問題について熱く語られ始めたのはいつ頃からなのだろう。

概ねの意見は「苦手」というものではないだろうか。

話題としてはいまやもう完全に語りつくされた感があり、もはや「酢豚のパイナップル」といえば、転じて「不要なもの」を指す故事成語のようにすらなりつつある。

熱烈に酢豚のパイナップルを支持する人がいるのも確かだが、旗色は明らかに悪い。

私は酢豚のパイナップルが近頃なんだか気の毒になってきた。

それで、パインだけの酢豚を作って食べてみることにした。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

前の記事:10、12チャンネルにさよならを

> 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes

酢豚のパインは絶滅寸前?

と、改めて考えてはっと気がついたのだが、最近パイナップルの入っている酢豚を食べただろうか。

レストランのメニューや最近のレシピなどを調べてみると、酢豚のパイナップルは消滅傾向のようだ。

横浜中華街など本気の中華料理屋や、昔からあるような街の中華屋さんなどには現存するようだが、家庭で作るためのレシピなどを見るとことごとく酢豚にはパイナップルが入っていない。
料理べた(私)が中華のときについ頼る「クックドゥ」のパッケージにも、パインはいない
料理べた(私)が中華のときについ頼る「クックドゥ」のパッケージにも、パインはいない

酢豚はデフォルトでパイナップル抜きの現在

ネットではどうだろう。クックパッドを見てみると、やはりパイナップルを使ったものは少ない。ざっと確認しただけだが、5%もないようだ。

むしろ「酢豚 パイナップル」で検索すると、「本格レシピですがパイナップルは入っていません!」とパイナップル不使用をアピールポイントにしたレシピがあるくらいだ。

逆に「酢豚のパイナップルが大好き! という人のためのレシピです」と、酢豚のパイナップルはデフォルト抜きの世の中にアゲインストするようなレシピもあった。

デフォルト酢豚はパイナップル抜き、パイナップルが入っているとすれば先ほどのような「パイナップルが好きな方のための!」とか「お子さんに食べやすく」といった注釈が付いているのが現状のようだ。
しかし昭和46年発行のレシピ本にはきっちりパイン入りレシピが!
しかし昭和46年発行のレシピ本にはきっちりパイン入りレシピが!
日本人に刻まれた記憶、人によってはトラウマということなのか
日本人に刻まれた記憶、人によってはトラウマということなのか

つい目が探す、パイナップル

しかしどうだろう、私などは酢豚を見かけるとついその中にパイナップルを探してしまう。「あ、この酢豚はパイナップル入っていないのね」「ここの店は酢豚にパイナップル入れないのか」といった具合だ。

これは一体どういうことなのだろうか。酢豚といえばどうしてもパイナップルが思い出される。いまやパイナップル入りの酢豚は絶滅寸前だというのに、だ。

そもそも私は酢豚にパイナップルについて支持派でも不支持派でもない。こういった「どっちでもない、しかしつい気にしてしまう」という方は多いのではないか。

かつて当サイトに掲載された酢豚の食べ歩き記事でも、食べたどの酢豚にもパイナップルは入っていなかったにもかかわらずライターT・斎藤さんは最後までパイナップルについて言及していた。

酢豚のパイナップルは日本人の意識そのものなのだ。
そういったわけで、パイナップルを炒めていきます
そういったわけで、パイナップルを炒めていきます

こうなったら思いっきり酢豚のパインを食べよう

もはや概念ともいえる酢豚のパイナップル。実態があるのにない、というこのギリギリの状態に一石を投じてみたい。そう思ったのが今回の企画のきっかけだ。

前段がやけに長くなっているが、こういうことである。
作りました。パイナップルだけの酢豚です
作りました。パイナップルだけの酢豚です
これほどの荒療治がかつてあっただろうかというビジュアルになってしまった。

どうしようか考えた結果、いちどしっかり過剰なまでに酢豚のパイナップルの実態を再確認しておくことにしたのだ。

本気で酢豚のパイナップルを苦手にしている方が見たら真後ろに倒れてしまったのではないでしょうか。

苦手な方はこの先は顔を両手で目を隠した指の隙間から記事をのぞいていただくことにして、肯定派の方、どっちでもいい派の方は一緒に食べいこうじゃないですか。
酢豚ですから(豚は入っていないけど)、おともはご飯です
酢豚ですから(豚は入っていないけど)、おともはご飯です

甘い、そして、あったか~い

おどろいたことに、具はパイナップルだけにも関わらず、においは完全に酢豚であった。今回は私の料理の力量のなさが影響するといけないので冒頭に写真にも出した「クックドゥ」を使ったのだが、さすがのクオリティである。

そして正直、ぱっと見はおいしそうでもあると思うのだ。

食べたら酢豚の、あのパイナップルであった。甘い、そしてあったか~い、あの酢豚のパイナップルだ。

やはり懐かしい、というのが印象であった。しかしだからといって「支持」「不支持」を声高に訴える力は沸いてこない。
あり! とも、なし! とも、なんともかんとも…
あり! とも、なし! とも、なんともかんとも…

パイナップルだけの酢豚は「おかず」でした

ただ、酢豚のパイナップルは意地も見せた。

酢豚のパイナップルを問題視する要因は、「おかずなのに(1)南国の(2)甘い(3)果物が(4)入っている。お前は本来デザートでは(5)なかったか」という(1)~(5)にかけて畳み掛けてくる不自然さと異文化性だろう。

そういった意味では、不自然さと異文化性をぶっとばして、具がパイナップルだけの酢豚は絶妙に「おかず」であったのだ。
では、と流行の塩麹を塗って焼いたパイナップルグリルというのが美味しいと聞いたので、それはおかずなのかおやつなのか確かめてみた
では、と流行の塩麹を塗って焼いたパイナップルグリルというのが美味しいと聞いたので、それはおかずなのかおやつなのか確かめてみた
これは完全に「(おいしい)おやつ」であった。バーベキューでマシュマロを焼くのが好きな人はこれもやった方がいい
これは完全に「(おいしい)おやつ」であった。バーベキューでマシュマロを焼くのが好きな人はこれもやった方がいい
塩麹を塗っただけではおかずにならずにおやつになってしまった(そりゃそうか)。

やはり酢豚ペーストの力なのだろうか。

鳥の煮物のパイナップル

料理にパイナップルを使うメニューといえば、酢豚のほかに鳥の煮物がある。

パイナップルの力で骨付き肉が柔らかく煮あがる、というレシピだ。酢豚のパイナップルに比べるとシレっと世の中に受け入れられているレシピのように思うが、同様にパイナップルだけを甘辛く煮てみた。

こちらはどうだろう。
パイナップルを甘辛く煮絡める。見たことのない景色
パイナップルを甘辛く煮絡める。見たことのない景色
いよいよ不明瞭なビジュアルにお盆の塗装もはげた(右上)
いよいよ不明瞭なビジュアルにお盆の塗装もはげた(右上)

調理が早い、しかしとんでもなく意味が無い

まず、これ、いいわ~と思ったのは調理の早さだった。

鳥と一緒にパイナップルを煮る場合は柔らかくするためにある程度の時間煮る必要があるが、今日は鶏肉が入っていないので軽く煮ればいい。

早い!

しかし、柔らかくするためにパイナップルだけ入れて柔らかくすべき対象が入っていないというこの料理の意味のなさたるやなかなかのものだ。
まるで意味のない料理、しかし意外においしいし、これは結構おかずだ
まるで意味のない料理、しかし意外においしいし、これは結構おかずだ
意味のない料理にもかかわらずビジュアルには妙な迫力と自信のようなものを感じずにはいられない。

味もやはり思った以上におかずである。なんなの、パイナップル。

食材としてのパイナップルのゆるがなさ

何よりも食べてみて分かったのは、缶詰のパイナップルの根源的な美味しさであった。

缶詰のパイナップル、おいしい。生来のおいしさが、酢豚化、煮物化に負けずに発揮されている。

そうだったのだ。パイナップルってとってもおいしいものだったのだ。

だから今後はまたみんな酢豚にパイナップルを入れようと、そう言うつもりはない。

ただそんな腫れ物みたいに扱わず、酢豚の一員としてに自然に接してもいいかもしれないよね、そう、ピーマンやたけのこと同じ食材として……という、パイナップルに対して優しい気持ちにはなった。
ちなみに、久しぶりに買ったパイナップル缶は昔よりシロップがあっさりした気がしました。これなら楽に飲めちゃうけどいいのかな
ちなみに、久しぶりに買ったパイナップル缶は昔よりシロップがあっさりした気がしました。これなら楽に飲めちゃうけどいいのかな

酢の物のみかん、というのもあった

さて、おかずに紛れ込むフルーツ問題といえば、もうひとつ一部で根深いのは酢の物の中のみかんではないか。

給食で出たという方も多いと思う。きゅうりとわかめの酢の物の中になぜかミカンの缶詰が投入されるあの料理だ。

当サイトではT・斎藤さん(酢豚に続いて登場だ)が記事にしていた。記事のタイトルはずばり「パン丼と、給食でまずかったやつ」である(酢の物のくだりはこちら)。
ちょっと新しい風情のみかんの缶詰があったので買ってきた
ちょっと新しい風情のみかんの缶詰があったので買ってきた
この酢の物も、みかんだけにしてみてはどうか。缶詰のみかんだけを三杯酢で合えるのだ。

何か見えてくるものがあるのではないか。
三杯酢と合えました。今のところ見えるものは一切ない。
三杯酢と合えました。今のところ見えるものは一切ない。

これは完全にみかんだ!

食べてみたら、びっくりするほど、みかんであった。

酢豚や煮物のパイナップルが、おやつの殻を脱ぎ捨てて料理として立ち上がろうとしていたのに比べると、どうだろうこの完全なるデザートぶりは。

三杯酢と合わせて冷蔵庫で寝かせて味をなじませたつもりだったが、みかんは限りなくみかんであった。みかんはみかんのまま、ただ偶然酢の物に入った、それぐらいシレっとしている。

プライドが、高い。

「缶詰」=「いいもの」だった時代のプライドは2012年にも通じていた。
圧倒的なご飯との合わなさ……
圧倒的なご飯との合わなさ……

生のオレンジはおかずになるか

では、缶詰ではなく生のみかんだったらどうだろう。

酢豚のパイナップルからずいぶん遠い地平にやってきたが、せっかくなのでお付き合いいただきたい。

以前デパ地下のおしゃれな惣菜のお店で買った南蛮漬けには堂々たるオレンジが入っていた。
オレンジとキビナゴのエスカベッシュ。料理名で「オレンジ」が「キビナゴ」の前にきているというところからして大胆
オレンジとキビナゴのエスカベッシュ。料理名で「オレンジ」が「キビナゴ」の前にきているというところからして大胆
堂々とした異国料理である場合、フルーツが入っていても文句は言えないのが料理におけるフルーツをとりまく環境である(ex.ハワイのハンバーガーやロコモコ、ピザのパイナップル)。

がちんこのフランス料理ということなので(「エスカベッシュ」はフランス料理でいうところの「南蛮漬け」だそう)、この料理に文句が出ることもないとは思う。

だが、ここでキビナゴを抜いたときにオレンジはなお料理でいられるのだろうか、というのは疑問だ。

その様子はデザートに変わってしまうのか。
酢、塩、コショウに絞ったオレンジを入れた漬け汁でスライスたまねぎを漬けて、生のオレンジを合えてみよう
酢、塩、コショウに絞ったオレンジを入れた漬け汁でスライスたまねぎを漬けて、生のオレンジを合えてみよう
ありそうで、残念ながらなさそうな見た目に!
ありそうで、残念ながらなさそうな見た目に!
キビナゴだけ食べてオレンジとたまねぎは食べ残した、そんな様子である。

やはりみかんの缶詰同様かんきつ類はおかずにはなれないのか。
で、食べてみたら、これ、おかずだ!
で、食べてみたら、これ、おかずだ!

おかずになる果物、ならない果物

なんと、オレンジは完全におかずであった。

たまねぎとのマッチングが絶妙である。えらいおいしい。これはパーティーなんかにももってこいだ。行きがかり上こんなおしゃれな料理が作れるようになってしまったよ。超ラッキーである。

酢豚のパイナップルはおかず。そしてオレンジのマリネもおかず。しかし酢の物のみかんはおかずではない。

結果はあくまでも私の舌で得た私の中での決着である。気になる方はパイナップルだけの酢豚を一度食べてみると、おかずかデザートかが判定しやすいかと思います。
余ったクックドゥの酢豚ペーストで野菜をいためた。これにもしパイナップルが入っていたら、肉は入っていなくても酢豚っぽく見えるかと思うと皮肉だ
余ったクックドゥの酢豚ペーストで野菜をいためた。これにもしパイナップルが入っていたら、肉は入っていなくても酢豚っぽく見えるかと思うと皮肉だ

酢豚のパイナップルの未来、そして衝撃のラスト

最後のオレンジとたまねぎのマリネが美味しかったのは衝撃的だった。

あれがありなら酢豚のパイナップルにもまだ未来はあるのではと思ってしまうのだが、現状を考えるとそうはいかないのかなとも思う。

そしてひとつ最後に衝撃の事実をお伝えすると、「おかずである」と決着付けた酢豚のパイナップルは、冷めたら「おやつ」になっていたのだった。

冷えてデザートっぽくなったのだ。

こんなのありか。
冷蔵庫できっちり冷やしたら完全にデザートだった
冷蔵庫できっちり冷やしたら完全にデザートだった
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