特集 2012年8月16日

大都会のアリジゴクを見てみたい

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蟻地獄。
もがいても、もがいても、抜け出せない、苦しい状況の比喩では無い。
僕が見つけたいのは、実体のある昆虫としての蟻地獄だ。というわけで東京の都心へと探しに出た。
1978年、東京都出身。漂泊の理科教員。名前の漢字は、正しい行いと書いて『正行』なのだが、「不正行為」という語にも名前が含まれてるのに気付いたので、次からそれで説明しようと思う。

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夏、アリジゴクの季節

アリジゴクを知らない人はいないだろう。
でも実際に見たことがある人は、3割ぐらいじゃないだろうか。
珍しいものではなく、郊外であれば寺の軒下などに普通にいる。
近所の神社、ほこらの軒下。(茨城県つくば市)
近所の神社、ほこらの軒下。(茨城県つくば市)
さっそく発見。
さっそく発見。
すみやかに確保!(やや小さめ)
すみやかに確保!(やや小さめ)
とまあ、探して2分でつかまえた。
夏は乾燥して地面がぱっふぱふになるので、見つけやすい。
このアリジゴクを大都会から見つけ出すのが今日のミッションだ。
東京と言えば東京タワー、まずは東京タワーのある港区・芝公園に向かった。
まさに東京タワーの真下にあります。
まさに東京タワーの真下にあります。
1.東京タワーのお膝下、芝公園
今日は自転車で都会を回ります
今日は自転車で都会を回ります

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割と広い公園。
アリジゴク探しの基本は、雨の当たらない乾いた地面である。乾いてぱふぱふしてそうな地面を、地道に探っていく。
ベンチの下とか。(いなかった)
ベンチの下とか。(いなかった)
自販機の下とか。(いなかった)
自販機の下とか。(いなかった)
この謎の石ベンチの下とか期待できる。(いなかった)
この謎の石ベンチの下とか期待できる。(いなかった)
橋の下とかも。(猫がいた)
橋の下とかも。(猫がいた)
「いねぇな……。アリジゴク」
「いねぇな……。アリジゴク」

こんな時こそ神頼み(寺社の軒下を探す)

やはりそう簡単には見つからない。
しかし、そんな予想も含めて芝公園をセレクトしてある。
芝公園には、増上寺 という、徳川将軍家が祀られた由緒あるお寺があるのだ。
アリジゴク探しの基本は、寺社の軒下 である。郊外であれば、ほぼ百発百中で観察することができる。僕は100%の自信をもって増上寺へ向かった。
これが増上寺。立派なお寺だなー! 全部コンクリだ!
これが増上寺。立派なお寺だなー! 全部コンクリだ!
もうそれは一部の隙もないコンクリートジャングルだった。カッツカツのカッチカチだった。
うっかり忘れていたが、ここは大都会なのだ。寺社だからといって、軒下が土とは限らない。アリジゴクの入り込む余地など、みじんも無かった。
僕は失意のうちに芝公園を後にした。
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2・大都会のオアシス、
日比谷公園
噴水と花壇がきれいなことで有名
噴水と花壇がきれいなことで有名

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これにひるまず、さらなる都心に向かおうと思う。
日比谷公園は霞が関のすぐそば、美しい噴水でよく知られる公園だ。最近はドイツビールのオクトーバーフェストなんかもやっている。木々も豊かで、ハトもかわいい。
そんな公園の、日蔭の隅っこをメインに当たっていく。
こういうところの下とか。(いなかった)
こういうところの下とか。(いなかった)
ここは絶対いるだろう!!(いなかった)
ここは絶対いるだろう!!(いなかった)
猫とオッサンはどこにでもいる。
猫とオッサンはどこにでもいる。
「でもアリジゴクはいねえぇんだよ……」(動物になりすましつつ)
「でもアリジゴクはいねえぇんだよ……」(動物になりすましつつ)
いない!アリジゴクいない!これだけ広ければいるだろうと思ったが、全く見当たらない。
実はこのとき、突然のいわゆるゲリラ豪雨に襲われ、もう帰ろうかと思ったのだが、「逆に考えれば、雨の当たらない場所が分かる!」とひらめき、ずぶ濡れになりながら乾地を探したのだが、それでも見つからなかった。
いない。ここにもアリジゴクはいない。
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このままでは企画が失敗に終わってしまう。
僕は助けを求めるように、確実にアリジゴクが期待できる某公園へと足を向けた。
3・都会っていうか皇居、
北の丸公園
武道館では、少年なぎなた大会やってました。
武道館では、少年なぎなた大会やってました。

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北の丸公園は日本武道館のある公園、ライブで来たことがある人も多いだろう。
ここの公園で探すのはちょっとズルいかもしれない。
というのも僕が小学生の頃、ここでアリジゴクを見たことがあるからだ。
あの発見は、カブトムシやクワガタと同じく、アリジゴクは都会にはいないものと思っていた僕を大きく驚かせた。実はこの企画も、その思い出に端を発している。
とはいえそれも20年以上前。僕を熱狂させたアリジゴクは、まだいるのだろうか。
このへんだったかな……
このへんだったかな……
めっちゃいる。
めっちゃいる。
いる。めっちゃいる。
あまりにいすぎて、驚きが一周して冷静になってしまうぐらいにいる。上の画像だけでも20個以上の「すり鉢」が見つかるだろう。
いや実はこれ以上に、あり得ないぐらいにいたのだ。少し引きの写真で見てみよう。
確認できるだけで50個以上。「吉見の百穴」すら彷彿とさせる。
確認できるだけで50個以上。「吉見の百穴」すら彷彿とさせる。
すごい。あまりにいすぎて、ちょっと不気味に思えてしまう。
壮観たる「アリジゴク天国」だ。(ずっと温めていたネタ)
もうこれで満足してしまいそうな勢いだが、やっぱり実体を見てみたい。
虫には申し訳ないが、さっそく一個掘り返してみよう。
大都会の蟻地獄の実態が、今明らかに!!
大都会の蟻地獄の実態が、今明らかに!!
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これが大都会の蟻地獄だ!!

でたーーー!!
でたーーー!!
大都会のアリジゴク、きたーー!!
大都会のアリジゴク、きたーー!!
砂の色と完全に同化しているアリジゴク、掘り出しても全く抵抗する気配がない。ときおり、ずざ、ずざ、と後ずさりするだけの極めて無抵抗な昆虫だ。
しかし立派な大アゴは、こいつが確実に戦闘性の高い生物であることを誇示しており、事実、穴に落ちたアリを挟んで喰らうのだから侮れない。
アリが生前、最後に見る光景はこんなだろうか。すげえ怖い。
アリが生前、最後に見る光景はこんなだろうか。すげえ怖い。
しかしそんなことが考えられないぐらい、掘り出したアリジゴクは無力だ。ひっくり返すと手足を縮めて死んだふりをする。つぶして死なせてしまったのかと心配になる。
地獄と呼ばれる凶暴性と、死んだふりをする臆病さが、この生物の中に同居して潜んでいると思うと、思わず胸の鼓動が高鳴る。
不思議だなあ、生物って不思議だなあ、とあらためて心の中で深くつぶやいてしまう。
ばいばい、アリジゴク。大都会でこれからも頑張れよ!
ばいばい、アリジゴク。大都会でこれからも頑張れよ!
というわけで北の丸公園では20年の時を経て、無事にアリジゴク発見。
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次は東京都庁のおひざ元、大都会と言えば新宿、新宿中央公園でのアリジゴク探しに挑戦してみよう。
4.いろんな意味での
蟻地獄、新宿中央公園
非の打ちどころない大都会、新宿。
非の打ちどころない大都会、新宿。

より大きな地図で 新宿中央公園 を表示
真夏に汗だくになって自転車を漕ぎ、新宿まで来た。
東京において最も都会にある公園といえば、新宿中央公園だろう。ちなみにデイリーポータル編集部もすぐそばにある。
ここでアリジゴクが見つかれば本物だ。真の都会の蟻地獄を見たと言える。
北の丸公園でのアリジゴク発見で自信をつけた僕は、ここの公園でのアリジゴク探索に乗り出した。
アリジゴクいないかな……
アリジゴクいないかな……
ベンチの下とか……
ベンチの下とか……
橋の下とか……
橋の下とか……
いない。
いないというか、別の意味での蟻地獄かもしれない状況が公園内に広がっていたのだが、それについて詳しく言及するのはやめたい。世の中にはいろんな事情の人がいる。
とりあえず新宿中央公園では、芝公園・日比谷公園同様に、アリジゴクは見つからなかった。
それて雨の当たらないところには昆虫のアリジゴクではない存在が主に確認された、ということも、悲しみの気持ちともに報告したい。
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さて、ここで終わるわけにはいかない。
新宿がダメなら次は渋谷だ。渋谷のあの公園で蟻地獄を見つけ行きたい。
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そもそも、どこにアリジゴクはいるのか?

ちょっと真面目にここまでを振り返ろう。
実は新宿中央公園で、かなり期待できるポイントがあったのだ。
かなり大きなすべり台。下には金網があって、子供は入れない。
かなり大きなすべり台。下には金網があって、子供は入れない。
このすべり台の下は確実だろう!!と意気込んで行ったのだが、残念ながらただの荒れ地で、アリジゴクはいなかった。
相当の残念である。
もうひとつ、いまさらだが芝公園でも惜しい場所があった。
この門の軒下みたいなところ。
この門の軒下みたいなところ。
ここも絶対いるだろう!と思ってかなりしつこく探したのだが、いなかった。田舎なら絶対にいるスポットだ。
なぜだろう、ということでこれまでの4か所とその立地を振り返ってみる。

より大きな地図で アリジゴク探し・復習 を表示
ここまで発見に失敗した3か所の公園が、青色で示してある。
いずれも都心ではかなり大きい公園だが、その広さは、発見に成功した北の丸公園(皇居:紫色で示す)に比較すれば格段に小さい。
ということはアリジゴクの発見には、ある程度巨大な自然を含む公園でなければならないんじゃないか。
とすれば、ここしかない。

より大きな地図で アリジゴク探し・復習 を表示
渋谷の明治神宮。
ここなら広さも自然度も申し分ないし、雨の当たらない場所もかなりあるはずだ。かなりの確率でいるだろう。
西陽の射す真夏の夕方、僕は最後の挑戦を明治神宮に賭けた。
やはりアリジゴク探しの基本は寺社なのか。
やはりアリジゴク探しの基本は寺社なのか。
とりあえず、何かの建物に向かう。
まずは参道から一番近かった、武道場の軒下を見てみることにした。
まー、とりあえずここの軒下でも見てみるか。
まー、とりあえずここの軒下でも見てみるか。
おお、砂地になってていい感じだな……
おお、砂地になってていい感じだな……
ていうか、いるじゃん!!! アリジゴク!!!
ていうか、いるじゃん!!! アリジゴク!!!
あまりにいきなり見つかってしまったので、不意を突かれてしまった。いればラッキーかな―、ぐらいで見てみたので、本当に驚いたのだ。ここの軒下一帯に、アリジゴクのすり鉢が列をなしていたのだ。
これが本物の、大都会・渋谷の蟻地獄だ。
さっそく掘り返してみよう。
都会の蟻地獄さん、失礼します。
都会の蟻地獄さん、失礼します。
これが渋谷の蟻地獄と呼ばれた男!(※性別は不明です)
これが渋谷の蟻地獄と呼ばれた男!(※性別は不明です)
渋谷のアリジゴクは砂がさらさらと体からこぼれ落ち、さっきのアリジゴクよりも優雅に見えた。体も丸々として一回り大きく、生活環境の良さをにじませていた。
そしてやっぱり無抵抗。
そしてやっぱり無抵抗。
一日じゅう自転車を漕いだ汗が、西陽に乾いていく中、僕はじっとアリジゴクを見つめた。
これが今日一日かけて追い求めた昆虫。
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見つめているうちに、その生物として完成された形に思わず気持ちを引き寄せられる。猛々しい大アゴ、ぐにゅっと突き出た首、頼もしい大きいお腹、ぐっと踏んばる中足。
地獄と名付けられたこの昆虫に、思わず人格を見出しそうになる。
興奮のあまり、いっぱい掘り出してしまった。
興奮のあまり、いっぱい掘り出してしまった。

大都会の蟻地獄、実態を暴きました。

というわけで5か所回った都会の公園のうち、2か所でアリジゴクを見つけるのに成功した。
もうちょっと楽勝で見つかると思っていたのだが、その分アリジゴクとの出会いは感動的だった。
ただ、かつて芝公園にいたという観察事例も聞いたので、探し方が甘かったのかもしれない。何とも悔しい。

というわけで、読者の皆さんにもお手伝いしてもらっていいでしょうか。
当サイトのコーナー「見たいわ!」において『都会のアリジゴク』を募集させていただきます!都市部にお住まいの皆さん、ぜひぜひ発見場所とともに、報告をお寄せ下さい!
「すり鉢」の写真だけでもOKです!
お待ちしております!
こんな穴を見かけたらぜひ投稿を!
こんな穴を見かけたらぜひ投稿を!
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