特集 2012年8月27日

いろんなものを体育座り

缶詰にだってせつない時くらいある
缶詰にだってせつない時くらいある
身の回りの無機物の中に、「あ、こいつ、なんか考えてんじゃないかな」と思わされるものがある。 無機物ゆえに、物言いたげでも無言のままのあいつ。そういう彼らに、言葉や表情ではなく、哀愁漂うあのポーズを与えたい。体育座りだ。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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無言のまま何かを語り出す体育座り

「体育座り」という座り方がある。体育の授業で、話を聞いたり順番を待ったりするときのあれだ。

子供の頃は特に疑問を抱くことなく行っていた体育座り。しかし、大人になってこれをすると、妙な味わいがにじみ出てくる。
大人ならではの訳あり感
大人ならではの訳あり感
突き抜ける意味不明
突き抜ける意味不明
上の写真は以前当サイトで書いた「スーツで体育座り」という記事からのもの。言葉にならない物語が、不思議とそこに湧いてくる。

ところで、ごくありふれた生活用品の中に、なぜだか物言いたげに見えてくるものがある。
「…………。」
「…………。」
「…………何?」
「…………何?」
例えばそれは、普段使っている寝ぐせ直しスプレー。その形の特徴からなのか、いつも手に取っては「こいつ、なんかしゃべりたそうだな…」と思っていた。

だからと言って、はっきりした表情や言葉が浮かんでくるわけではない。感じるのは、もっと曖昧な何かなのだ。
石像界にも見られる体育座り(こちらの記事より)</a>
石像界にも見られる体育座り(こちらの記事より)
聞こえてきそうで、決して声にはならない言葉。ならば、体育座り化させることで、そこに湧いてくる物語を味わってみようではないか。
正直、買うの恥ずかしかった
正直、買うの恥ずかしかった
すっかり関節がこわばっている
すっかり関節がこわばっている
そのためにまず買ってきたのは、子供が遊ぶ着せ替え人形。ここから手足を調達して、無機物を体育座り化させたい。

そのつもりだったのだが、思っていたより関節が固い。体育座りさせるためには膝と肘を曲げる必要があるが、この人形は曲がる仕様になっていないのだ。工夫すればなんとかなるかと思って買ったが、いじってみるとやっぱり難しそうに思える。
こういうストレッチならなんとか
こういうストレッチならなんとか
とりあえずミカンに装着してみた。体育は体育でも、ストレッチの準備運動止まりだ。これはこれでシュールであるが、今回にじませたい味ではない。
相変わらずの100均コストパフォーマンス
相変わらずの100均コストパフォーマンス
こねこねして肌色仕様に
こねこねして肌色仕様に
もう一つ用意したのは色つきの油ねんど。これなら手軽に造形できるだろう。

10色入りの品物を買ってきたのだが、さすがに肌色はない。しかし、それっぽい感じになるように色を混ぜ合わせたらいい具合の肌色になった。イメージ通りだ。
手足となる棒を作成
手足となる棒を作成
これらを付けるという単純なプラン
これらを付けるという単純なプラン
腕と脚とすべく、肌色になったねんどを細長く伸ばす。ほどよくベトベトしているので、これらをスプレーボトルにくっつけて体育座りのポーズを取らせようという目論見だ。

ただ、こんな簡単なことでうまくいくだろうか。あの体育座り独特の雰囲気や趣を、かもし出すことができるのだろうか。
結構出たな
結構出たな
実際にくっつけてみた。思ったより体育座りだな、と思う。
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じんわり語り出す体育座りたち

手足が付いたからと言って、急に饒舌になるわけではない。体育座りからにじみ出るものは、決してわかりやすい言葉ではないのだ。
「…………。」
「…………。」
「…………何?」
「…………何?」
言葉をつけるとしても、手足がなかった頃と同じくらいでしかない。基本的に体育座りには寡黙が似合う。

それでも前に出てくるのは、先程まではなかった妙な哀愁。自分の出番をじっと待っているようでもあるし、来る日も来る日もスプレーするしかない自分を諦めているようにも見える。
何もなければただの果物
何もなければただの果物
南香小学校1年2組、ミカンくん
南香小学校1年2組、ミカンくん
素材の特性上、取り外しの自由が利くのもいいところ。人形の手足を付けたミカンに装着すると、また別の雰囲気が広がる。

小さくて丸っこい体型からか、体育の時間にじっと待っている子供のような雰囲気が読み取れる。体育座り本来の味わいと言えばよいだろうか。
背筋を伸ばしてよい姿勢の時計
背筋を伸ばしてよい姿勢の時計
じれったくてひっくり返ってるマウス
じれったくてひっくり返ってるマウス
時計やマウスといったメカ系に装着すると、そのままでは見えなかった性格のようなものがにじみ出てくる。時計は正確に時を刻むという役割にふさわしく、ピッとよい姿勢で座っている。

それに対してマウスは意外とだらしがない。「もう待ってるのやだー」と、体を後ろに反らしている。
そんな深刻にならなくても
そんな深刻にならなくても
悩み始めたのはタマネギ。下部の出っ張りが程よく全体を傾かせ、それが彼を重大な局面に置いているかのようにさせる。大丈夫、今日君を食べるつもりはない。
かわいいヒヨコ
かわいいヒヨコ
でも急にかわいくなくなる
でも急にかわいくなくなる
おかしな雰囲気になったのはヒヨコのおもちゃ。生き物を模して作ったものだからか、無機物とは違う展開を見せる。

これまでは装着すると基本的にかわいくなっていたと思われる手足。しかし、このヒヨコについては元々持っていたかわいさを、体育座りが破綻させる。不気味にも思える存在感が出てきてしまった。
で買ったの、まだ食べてない"
この記事で買ったの、まだ食べてない
「…どうせ俺なんてお飾りなんだよ!」
「…どうせ俺なんてお飾りなんだよ!」
1年以上前に買って置いてあるさくらんぼの缶詰につけると、そういう背景が重なって言葉が見えてくる。デザインが気になって買ったはいいものの、結構大きい缶をわざわざ開けるほど、さくらんぼの缶詰食べようという気が起きないからだ。

すまん、これからも開ける予定、ないかもしれない。ただそうやって体育座りしてると妙にいじらしいから、しばらくそのままにしておこうと思う。

影響力あるな、君
影響力あるな、君
撮影の合間、壁にくっつけただけでも何かをにじませる体育座り。場の空気を意味不明な方向に変える力がある。

簡単な割には思った以上の結果が出た。改めて体育座りが持つ、謎の訴求力に感じ入った次第だ。
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