特集 2012年9月27日

高齢者のケータイ待ち受け画面を巣鴨で調べた

なぜか赤まむしドリンクを飲まされることに
なぜか赤まむしドリンクを飲まされることに
私事で恐縮なのだが、先日、父と電話をしたところ、父の携帯待受画像が、ぼくの息子から今年の3月に生まれた弟の子供に替わっていることが判明した。
7年の長きにわたって父と母の携帯待受画像に君臨してきたぼくの息子も、ニューカマーの若さには勝てず、2012年生まれの弟の子供へとその座を譲り渡し、新時代の幕開けとなった。
孫の新旧交代劇である。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

他の高齢者のケータイ待受画像はどうなってるのか?

ぼくの親の携帯待受はふたりとも3月に生まれた新しい孫の写真に切り替わったけれど、妻の両親は他に孫がいないので、いまだにぼくの息子の写真を待受画像に使っている。
最近、携帯電話の待受画像を新しい孫に変えた父
最近、携帯電話の待受画像を新しい孫に変えた父
そんな身近な例を考えると、世の中のほとんどのおじいちゃんおばあちゃんは、自分の携帯電話の待受画面に孫の写真を使っているだろうことは容易に想像できる。

しかし、それだけだろうか?

わしゃ孫よりローリング・ストーンズが好きなんじゃ! というおじいちゃんがいて、待受画面があのベロ出したやつ。というひとも存在するかもしれない。
ミック・ジャガーだって数えでいえばもう古希。そろそろそんな高齢者がいたっていいはずだ。

これは一度調査してみる価値がありそうだ。

巣鴨にやってきた

顔が父親に似てきた
顔が父親に似てきた
高齢者といえば巣鴨である。なんだかベタすぎて、言うのもはばかられるが、巣鴨である。
今回は、とげぬき地蔵尊の前に集う高齢者に所持する携帯を見せてもらい、その待ち受け画面が何なのかを調べていくという寸法だ。
へーここがおばあちゃんの原宿、巣鴨かぁ
へーここがおばあちゃんの原宿、巣鴨かぁ
10人ほど聞けば中には「待受画面が鉄鋲」といったようなロックンロールな高齢者もいるのではないか?

そんなことを目論見ながら意気揚々とインタビューを始めたのだが、開始早々その予想は意外な方向からもろくも崩れ去った。

待受云々ではなく、その前段階から話が違ってた

「インターネットサイトの取材」がなかなか伝わらない……
「インターネットサイトの取材」がなかなか伝わらない……
まず最初に話を聞いた、千葉県から来たというご夫妻。

ぼく「すみません、携帯電話はお持ちですか?」
奥様「私は持ってないんですよ、使い方がわからないから。でも主人が持ってますよ」

で、見せてもらった携帯がこれ。
待受画面は……ない。
待受画面は……ない。
待受画像どころの話ではなかった。
少し前に流行った通話機能だけがある携帯電話だ。そうだよな、高齢者だとこれで十分だよな……と首肯しつつ、巣鴨とげぬき地蔵尊前に集う高齢者のハードコアさに震撼した。さすが巣鴨。

待受画面以前の問題である。

根本的に携帯電話自体を持ってない

そしてさらにぼくを震え上がらせた現実は、ここに集まる高齢者は携帯電話自体を持ってない。ということだ。

この企画の趣旨を根本から覆す重大な事実である。
携帯電話を持ってないご婦人ふたり
携帯電話を持ってないご婦人ふたり
中には「あんなもの、使い方分からないし、必要ない!」と敵愾心をむき出しに携帯電話を否定するひとも何人かいた。

高齢者は一見、椅子にぼんやりと座っているように見えるけれど、実は自分たちを置き去りにする現代文明へ対する激しい反感の情を内に秘めているのだ。

中にはぼくたちの突然の質問に戸惑い、持っていたとしても「持ってない」と答えた人もいるかもしれない。
それにしても現時点で、10人程度に話を聞いて、携帯電話を持っていると答えたのは誰一人としていない。

孫の写真は結局見つからなかった

こちらのおしゃれなご婦人は携帯電話をお持ちだった
こちらのおしゃれなご婦人は携帯電話をお持ちだった
そんな中、やっと携帯電話をお持ちの方に巡りあった。
歩数計機能つきの携帯電話
歩数計機能つきの携帯電話
見せていただいた携帯はこちらだ。

歩数計の機能がついた携帯電話だ。
中の待受画面は一体何なのか?
暦は重要!
暦は重要!
カレンダー。
実用性。という面においては右に出るものはないと思われるカレンダーである。

この携帯をお持ちのご婦人は、待受画面に画像を設定する方法はおろか、撮った写真を閲覧する方法もわからないので、待受画面は購入して以来このままなのだという。
であれば仕方がない。こんなもの、使い方が難しい携帯電話のほうが悪いに決まってる! ぼくはいつだって高齢者の味方だ!

「友達なんかいない」

仲良く談笑中のこのご婦人方……
仲良く談笑中のこのご婦人方……
次から次へと手当たり次第に話を聞いていく中で驚きの事実も判明した。

仲良く長椅子に座り談笑する上記写真のご婦人三名。こちらのご婦人方も御多分にもれず、携帯電話はお持ちではなかった。

ぼく「ご友人などとご連絡を取る場合はどうしてらっしゃるんですか?」
ご婦人右「ここにいるひとはみんな友達なんかいないわよ」
ぼく「え? でもこうして三人でいらっしゃって……?」
ご婦人右「いやいや、ここに座ってるひとみんな知らない人よ、今日こうやって同じ椅子に座って初めて会ったの」
ぼく「えっ! 知らない人同士なんですか?」
ご婦人左「そう、知らない人同士」

長椅子で仲良さそうに談笑しているご婦人たち、実はまったくの赤の他人で知らない人同士だったのだ。
出会い系地蔵尊
出会い系地蔵尊
どうやらこのとげぬき地蔵尊前の広場は、高齢者が知らない人とコミュニケーションを取るための場所になっているらしい。

まさにリアルSNS……いや、出会い系といったほうが近いかもしれない。出会い系地蔵尊。

ただの休憩広場だと思っていた場所が、高齢者の出会い系サイト(サイトじゃないけど)になっているとは……巣鴨、侮れない。

「そこでカセットテープ買った」

こちらの男性二人組も携帯電話はお持ちでない
こちらの男性二人組も携帯電話はお持ちでない
こちらの男性二人組も、携帯電話はお持ちでなかった。今まで一度も携帯は持ったことがないという。
おしゃれなボーダーのシャツを着た男性は、目の前のカセットテープ屋で、カセットテープを買ったところだという。
そのカセットテープを見せてもらった。
昭和の大スター
昭和の大スター
三橋美智也。
ミック・ジャガーの夢、敗れたりの瞬間だ。

ぼくは三橋美智也が昭和の大スターだったことは知識として知ってはいるけれど、テレビでみたことがないのでよくわからない。

たしか、藁にまみれるやつだったよな……と、その場でiPhoneで検索してみたら、確かにそうだった。→「達者でナ」

あと、ぼくらにもなじみ深いのはカールのCMソングぐらいのものだろうか。
三橋美智也ってこれですよね、とYouTubeを見せたら、そう、これこれ、懐かしいなあーと懐かしんでくれた
三橋美智也ってこれですよね、とYouTubeを見せたら、そう、これこれ、懐かしいなあーと懐かしんでくれた
一緒に同行してくれた地主くんは「ぼく、まったく知らないですわー」と言っていたけど、しょうがない。彼は1985年生まれ、巣鴨の高齢者から見るとひ孫のレベルなのだ。

インタビューは順調に脱線し続ける

思てたんと違う……
思てたんと違う……
しかし、とげぬき地蔵尊前に集まる高齢者は「携帯電話自体を持ってない」という現実が次第に重くなってくる。

当初の「高齢者の携帯待受画像を見せてもらう」という企画の趣旨からどんどん脱線し続けている。

ここは一旦、とげぬき地蔵尊前から場所を移してみることにした。
地蔵通り商店街を庚申塚駅方面に少し歩くと巣鴨郵便局があり、その郵便局前の広場も高齢者の休憩所になっている。そこにいる高齢者に話を聞いてみよう。
巣鴨はゆるキャラに支配されつつある
巣鴨はゆるキャラに支配されつつある
郵便局前で休憩をする高齢者たちの中に、明らかに周囲の高齢者とは色味が違う、目立つおじさんがいたのでちょっと話を聞いてみた。
おばちゃんかと思った
おばちゃんかと思った
ぼく「すみません……あの、携帯電話はお持ちですか?」
おじさん「あ゛ー、携帯電話は持ってない」
ぼく「そうですか、でもポケットにあるのは……デジカメですか?」
おじさん「あー、これね、全部カメラかビデオカメラ」
おじさんはジャケットのありとあらゆるポケットにデジカメやビデオカメラを入れているのだ。
ありとあらゆる場所にデジカメとビデオカメラが入ってる
ありとあらゆる場所にデジカメとビデオカメラが入ってる
話を聞いてみると相当なカメラ好きで、自宅には古いフイルムカメラから最近のデジカメまで100台以上はあるらしい。

ぼく「デジカメで撮った写真はパソコンで取り込んで見るんですよね? パソコンもお使いになるんですか」
おじさん「パソコンなんかないよ」
ぼく「え? じゃあ、どうやって撮った写真見るんですか?」
おじさん「こうやって、うしろの画面から見ればいい、パソコンなんかいらない」
ぼく「そうなんですね……メモリがいっぱいになったらSDカード買い足す?」
おじさん「そう」

このおじさん、デジカメこれだけ持ってるにもかかわらず、パソコンを一切使わないという。

カレーをご飯にかけずに食う、くらいのワイルドな使い方である。
見たこと無いデジカメだ……
見たこと無いデジカメだ……
お願いして一つ見せてもらったデジカメは薄くて軽くて、ちょっと見たことない機種であった。
プレビューで撮った写真を見せてもらえるか聞いたところ、叶姉妹のエッチな写真が入っているので見せられない、とのこと。
無理に見せて欲しいというわけではないので、わかりましたとデジカメを返したら「叶恭子はあそこの毛全部そってんだよ、テレビで言ってた」と、妄想たくましい中学生みたいなことを言い出して驚いた。

石川県から上京し、様々な職を転々とした

このおじさんは、石川県から上京し、美容師や電話工事技師などの職を転々としたという。
電話工事技師をしてた頃は、仕事のミスでヤクザに追いかけられたりして、本当に怖かったというような話を延々としてくれた。
79歳とは思えない奔放なファッションセンス
79歳とは思えない奔放なファッションセンス
おじさんの話を聞いていると、急に赤まむしドリンクをぼくと地主くんにくれた。赤まむしドリンクは見かけたら必ず買っているらしい。
なぜ買ってるのか理由を聞くのはちょっとこわくてできなかった。
地主くんにくれた赤まむしドリンクとぼくにくれた赤まむしドリンクで銘柄が違うという手の込みよう
地主くんにくれた赤まむしドリンクとぼくにくれた赤まむしドリンクで銘柄が違うという手の込みよう
せっかくなので、ありがたく頂いて飲むことに。
人生初の赤まむしドリンク!
人生初の赤まむしドリンク!
うーん、味はいたってふつうだな
うーん、味はいたってふつうだな
えーと、何しに巣鴨来たんだっけ……。

巣鴨の高齢者、御しがたし

地主くん渾身の一枚「巣鴨の猫」
地主くん渾身の一枚「巣鴨の猫」
結局、話を聞いた20人中、携帯電話を持っていたのはたったの4人。約2割という低所持率。しかも、独自の待受画像を設定していたのは「孫が撮った写真」を設定していた方一人だけで、他はカレンダー。デフォルトの画像そのまま。待受画像が無い。であった。

世の中、なかなか予想通りに行かないものである。

そもそも孫の写真を携帯電話に……なんてことができるのは50代~60代といった、高齢者の中でも比較的若い世代の高齢者であって、巣鴨に集う高齢者は70代~80代といったハードコア高齢者ばかりだった。

平安時代、京都に比べて関東地方の人々はまだ竪穴式住居に住んでいて、文化が伝播するのに時間がかかったように、渋谷に比べ、巣鴨にIT革命が及ぶのはあともう数年かかるのかもしれない。

あと、赤まむしドリンクは味が普通すぎで拍子抜けした。
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