特集 2012年10月8日

全日本ハシビロコウ動かな選手権

…動いたら負けだ
…動いたら負けだ
動かないという特徴で知られる鳥、ハシビロコウ。かわいく愛嬌を振りまく動物たちと比べて、逆の方向性で人気になっているのがかっこいい。

日本では4つの動物園でハシビロコウに会うことができる。その動かなさが気になる私としては、全て回ってどこのが最も動かないかを調べてみたい。

「全日本ハシビロコウ動かな選手権」、勝手に開催である。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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根比べの要素もあるハシビロコウ鑑賞

まず紹介するのは、千葉県千葉市にある千葉市動物公園。直立するレッサーパンダとして話題になった「風太」がいる動物園だ。
レッサーパンダに負けずに立つハシビロコウ
レッサーパンダに負けずに立つハシビロコウ
門上部の「千葉市動物公園」の表示右側にはレッサーパンダが立ちポーズをとっている絵があるのがわかる。よく見ると、反対の左側にはハシビロコウが描かれているではないか。

結構な好ポジションを与えられているハシビロコウ。人気者なのかもしれない。
おどけたポーズもとりつつ
おどけたポーズもとりつつ
シルエットだけでもわかる存在感
シルエットだけでもわかる存在感
エントランスそばの掲示には、他の動物たちと楽しげに描かれている姿もあった。クールなイメージの動物なのだが、知名度が上がってこうした役割を当てられるようになったのだろうか。

しかし園内の案内表示では、あくまでシンプルな立ち姿。シルエットだけなのにハシビロコウ感がしっかり漂っている。
「飛行も得意です」と鳥本来の説明も
「飛行も得意です」と鳥本来の説明も
奥の方でじっとしてる
奥の方でじっとしてる
緑豊かな園内を進むと、奥の方にハシビロコウのケージがあった。ここでは2羽飼育されているが、まずは飼育員さんたちが「おばあちゃん」と呼んでいるという個体から見ていこう。
確かにおばあちゃんっぽい
確かにおばあちゃんっぽい
グレーの羽は言われてみればおばあちゃん風。表情もシャンとした高齢のご婦人っぽい。

飼育開始から22年経っているとのことで、それ以前の年齢も含めると結構なお年寄りだ。高齢ということは、今回のテーマである「動かな選手権」には有利に働くのではないだろうか。
さすがに老練
さすがに老練
なかなかの動かな度
なかなかの動かな度
しばらく観察してみる。…確かにじっとしている。脚を動かして移動する場面は見られなかった。ただ、体の向きを変えるくらいのことはするので、石像のように固まっているわけではない、とも言えるだろうか。
こちらもケージの奥にたたずむ
こちらもケージの奥にたたずむ
いい具合にじっとしてるこの選手
いい具合にじっとしてるこの選手
もう1羽は2005年に園にやってきたという個体。園の方によると、年齢は正確には不明だがおそらく10歳くらいではないかとのことだった。

おばあちゃんと比べると若者であるこのハシビロコウ。今回は若さが裏目に出て動き出すかと思ったが、なかなかの動かな度。しばらく見ているのだが、全く動かないのだ。
あー!
あー!
しかし10分ほど経ったところで、急に動き出してきた。何があったわけではないのに、競技としてはここで失格である。
でもこっちに来てくれてうれしい
でもこっちに来てくれてうれしい
表情はあくまでクール
表情はあくまでクール
競技としては負けかもしれないが、柵の方にぐっと近づいてきてくれたので、よく観察できるのはオーディエンスにとって喜ばしいことではある。勝負にこだわらないその姿勢をうれしく受け止めることにしよう。
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ハシビロコウ最接近パーク

続いては静岡県伊東市にある「伊豆シャボテン公園」を見てみよう。
名前だけでは全貌がわからない施設
名前だけでは全貌がわからない施設
施設名がサボテン推しなので、動物を見に行く施設としては今ひとつピンとこないかもしれないが、結構な種類の生き物を飼育しているのがこの公園。名前から誤解されているかもしれないが、サボテンファン以外も十分楽しめるのだ。
散歩するだけでも楽しい雰囲気
散歩するだけでも楽しい雰囲気
案内図ではかわいらしい姿が
案内図ではかわいらしい姿が
「動かないけど愛嬌たっぷり」とのこと
「動かないけど愛嬌たっぷり」とのこと
パラダイス系アピール
パラダイス系アピール
広大な園内はかなり見応えがあって楽しいが、今回メインの目的はハシビロコウ。案内では丸っこくデフォルメされているが、写真ではやはり独特のたたずまいを放つ。

ポスターに書かれた「動かないけど愛嬌たっぷり」というキャッチフレーズはハシビロコウの特徴をよく表していると思う。矛盾しているようで、それを成し遂げているのがハシビロコウなのだ。
ここがパラダイスかー
ここがパラダイスかー
結構本気でそうかもしれない
結構本気でそうかもしれない
この施設の展示の特徴は、生き物にかなり近づけるということ。鳥類はバードパラダイスというゾーンに放し飼いにされている。いろんな鳥がヒョコヒョコしているすぐそばを歩けて楽しい。

さて目的はハシビロコウ。パンフレットには「ハシビロコウは自由に過ごしていて、場合によっては部屋の中にいる場合もあるけど許してね(その時はモニター越しで見られるようにしてるから)」といった説明があった。直接見られるか心配なのだが、どうだろうか。
おお、いたいた!
おお、いたいた!
パラダイスを奥に進んでいくと、ちょっとした人だかりが。その手前にいるのはハシビロコウではないか。ちょうどお食事タイムに来られたようで、係員が彼の前に魚の入ったバケツを置いて説明しているところだ。
やっぱりじっとしてる…
やっぱりじっとしてる…
…と思ったらすぐ歩き出した
…と思ったらすぐ歩き出した
一通り魚を食べ終わったところのようで、独特の立ち姿でたたずむハシビロコウ。さあ、ここから動かな選手権の競技開始だ、と思ったところで歩き出した。

失格である。競技開始のタイミングが悪かっただろうか。
人がいようとお構いなし
人がいようとお構いなし
気さくに記念写真にも応じる
気さくに記念写真にも応じる
歩いてくる方向も、オーディエンスがいる方という大胆さ。人々の間に割って入るように進んでくる。動かな度を試されているなんて知ったことではない風だ。まあそれはそうだろう。
しばらくてくてく歩いて
しばらくてくてく歩いて
納得のポジションか
納得のポジションか
数メートル歩いたら満足したのか、再びじっとしはじめた。そこからはハシビロコウらしく動かない様子も続いたので、今回の選手権ではタイミングが悪く、実力を全て出し切れなかったという運のなさがあったのだろう。
どこまで近づけるのかドキドキしながら撮影
どこまで近づけるのかドキドキしながら撮影
競技は終わったと言え、ここのうれしいところはタイミングがよければ本当に間近でハシビロコウを見られるところ。かなり近づいてみても、ハシビロコウ側には特に警戒したり、逃げたりする様子はない。

そういうわけで、自分撮りで記念撮影。選手権としての好成績は残らなかったが、接近度としては随一の施設だ。
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ハシビロコウ最多所属パーク

続いては東京都台東区の上野動物園。都会の動物園にもハシビロコウはエントリーされているのだ。
パンダはスルーしてハシビロコウへ
パンダはスルーしてハシビロコウへ
イラストはリアル系
イラストはリアル系
ここの特徴は、5羽ものハシビロコウが飼育されていること。他の施設は多くて2羽なので、国内では飛び抜けて最多となる。たくさんの個体を見たいならば上野動物園が最も適していることになるだろう。
近くのペンギンは大人気
近くのペンギンは大人気
おっ、こちらも意外と負けてないかも
おっ、こちらも意外と負けてないかも
すぐそばにあるペンギンコーナーには、たくさんの人が並んで見ている。地味なハシビロコウはあまり人気がないかとも思ったが、決してそんなことはなかった。

ただ、通りかかる人が「何これ~」「なんか全然動かないよ…」などとつぶやいているのを聞くと、やはりまだまだメジャーな生き物ではないのかもしれない。
網近くの好ポジションを取るアサンテ選手(メス)
網近くの好ポジションを取るアサンテ選手(メス)
いわゆる「かわいい」ではないのがかわいい
いわゆる「かわいい」ではないのがかわいい
来訪時の立ち位置は少し見上げるようにして鑑賞する場所だったこともあって、より堂々として見えるのが凛々しい。風格を感じられるたたずまいだ。

ケージ近くの掲示によると、脚につけた輪で名前が識別できることがわかる。写真の彼女はアサンテ選手。よし、ここから「動かな選手権」の競技開始だ。観察してみよう。
あー!
あー!
競技開始から1分ほどだろうか、羽をばたばたとやって観客に愛想を振りまき始めたアサンテ選手。見ていて楽しい気分になるが、競技としては失格である。
こちらはシュシュ・ルタンガ選手(オス)
こちらはシュシュ・ルタンガ選手(オス)
徒歩により失格
徒歩により失格
ミリー選手(メス)
ミリー選手(メス)
羽バタバタにより失格
羽バタバタにより失格
上野動物園は選手が5羽いるので層が厚いのが特徴だが、いずれもしばらく見ていると何かしらの動きを見せた。審判としては厳しいジャッジをしなくてはならないが、見ている分には動いてくれた方が楽しくはある。
園側の困惑が読み取れる掲示
園側の困惑が読み取れる掲示
動かない理由をしっかり解説
動かない理由をしっかり解説
ケージ近くには園が設置した解説掲示があった。「動かない鳥として有名になってしまいましたが」といった書き方には、この特徴ばかりが強調されることに対する園の当惑があるように読める。解説を読むと、それは野生で生きていく戦術であるとわかる。
サーナ選手(メス)「動かないとばかり思わないでよね」
サーナ選手(メス)「動かないとばかり思わないでよね」
ネットで調べると、一般的に飼育個体は野生のものより活発という記述もあった。今回は勝手に「動かな選手権」と題しているが、動く彼らを「動かないって聞いたのに!」と責めることはしないようにしよう。
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悲しいつがいが見せた実力

今回の「動かな選手権」で主審を務める私が見たところ、ここまで登場した選手の中では千葉市動物公園のおばあちゃんハシビロコウの動かな度がトップ。しかし、彼女も全く動かないわけではなかったので、まだ他の選手が逆転する余地はあるだろう。
舞台は四国へと移る
舞台は四国へと移る
山の中にある自然豊かなロケーション
山の中にある自然豊かなロケーション
最後に見ていくのは、高知県香南市にある「のいち動物公園」。本州以外では唯一の飼育施設となる。
緑がモリモリで気持ちいい
緑がモリモリで気持ちいい
ゆったりとした展示
ゆったりとした展示
でもこういう変化球も投げてくる
でもこういう変化球も投げてくる
ハイエナの絵が「ザ・ハイエナ」のリアル
ハイエナの絵が「ザ・ハイエナ」のリアル
もともと緑に囲まれた山だったようで、その環境に囲まれているためか園内はジャングルのような雰囲気。動物たちものんびり過ごしているように見える。

それでいて、案内表示の動物の絵はやけにリアル。ハイエナは手加減なく劇画調なまでにハイエナだ。
過剰なまでの描線
過剰なまでの描線
独立ケージで過ごす優雅さ
独立ケージで過ごす優雅さ
ハシビロコウの案内絵も、ハイエナ同様の画風。案内表示の絵の特徴には施設それぞれのスタンスが読み取れるが、ここは徹底的にリアルさで勝負するという方針らしい。

ケージは園の奥にある。他の動物たちと同様、とても広々としていて快適そうだ。ここでは2羽が飼育されているが、掲示を読むと悲しい過去があることがわかった。
とと&ささのコンビ
とと&ささのコンビ
なんて切ないお知らせ
なんて切ないお知らせ
「とと」と「ささ」という名の2羽はつがいとしてやってきたそうなのだが、メスだったはずの「ささ」は、後になってオスだとわかったのだ。

ハシビロコウにとっても人間にとっても悲しい事実が発覚。当のささも「俺ってオスだと思うだけど…」と思っていたのだろうか。ととだって「お前、オスじゃね?」といぶかしんでいただろう。

悲しみを乗り越えて、競技開始としよう。まずは「とと」から見てみる。
ハシビロコウ鑑賞者も動き止まりがち
ハシビロコウ鑑賞者も動き止まりがち
とと、なかなかやるかも
とと、なかなかやるかも
来訪時は室内の方に展示されていた「とと」。これは雌雄が判明してから2羽がぎくしゃくするようになって離したわけではない。そもそもハシビロコウは野生でも単体行動をする生態で、他の個体と一緒にいるのを好まないそうだ。
緊張感のある沈黙
緊張感のある沈黙
そういうわけで、1羽たたずむ「とと」。しばらく見ていたが、全くと言っていいほど動きを見せない。これは千葉のおばあちゃんハシビロコウを超える記録になりそうだ。
するどい眼光
するどい眼光
と思ったら、ウインクしてくれた
と思ったら、ウインクしてくれた
体の動きはなくとも、目はさすがに時折まばたきしている。よく見るとウインクしているように見えるタイミングもあるではないか。動じないながらに小技を効かせて来るのが憎い。芸があるのだ。
ささ選手「あいつには負けねえ」
ささ選手「あいつには負けねえ」
「まあじっくり見ていきなよ」
「まあじっくり見ていきなよ」
続いては屋外ケージにいる「ささ」。「とと」が室内の奥まったところにいたのに対して、「ささ」は広いケージの中、わざわざ金網からかなり近いところに立ってくれている。おかげでじっくりと観察しやすい。
子供も固まるハシビロコウ前
子供も固まるハシビロコウ前
我慢比べみたいになってる人もいた
我慢比べみたいになってる人もいた
それでいて、「ささ」に負けない動かなさっぷりがすごい。お客さんが入れ替わり見に来るので、環境としては変化があるのだが、全く動じることがない。

中にはハシビロコウ同様に固まって、しばらくしたあと根負けしたかのように無言で去っていくお客さんもいた。このあたり、他の動物にはない気持ちにさせられるハシビロコウの本領発揮といったところだろう。
野生を勝ち抜くうつろさ
野生を勝ち抜くうつろさ

ちょっと似た表情になった1枚
ちょっと似た表情になった1枚

今回勝手に開催した「全日本ハシビロコウ動かな選手権」。結果としては、のいち動物公園所属の「ささ」と「とと」を同着の1位としたい。どちらも甲乙付けがたい固まり具合だった。それに続くのが千葉のおばあちゃん。もちろんどの選手も、体調などによって動かな度には毎日差があるだろう。

他の動物は普通いろいろと動いて来場者を楽しませることを期待されているのに対し、ハシビロコウは「動かなさ」も期待される珍しい存在。これからもマイペースでいてほしいと思う。
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